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時代に合わせたフレームワーク再考―4P分析を例に

フレームワーク再考の契機

 コロナ流行以降、ビジネスの世界でVUCAという言葉が取り上げられることが増えてきました。VCUAとは「Volatility(ボラティリティ:変動性)」「Uncertainty(アンサートゥンティ:不確実性)」「Complexity(コムプレクシティ:複雑性)」「Ambiguity(アムビギュイティ:曖昧性)」の四つの頭文字をとって不確実性が高い時代を表す言葉です。実際、戦略立案において、リスク分析、競合分析などを行う中でも不確実性が高い事象に直面しているビジネスパーソンの方も多いのではないのでしょうか。

(なお、VUCAについての詳細は、別記事でも紹介しておりますので是非「『考える』を磨いて市場価値を高める」を一読いただければと思います。)

 こうした状況において我々コンサルタントが普段から分析の際に活用しているおなじみのフレームワークにも新たな要素を加えることが求められています。そこで、本稿では、4P分析を例にとってこの点について考えていきたいと思います。

 

4P分析の紹介

 分析手法の一つに、マーケティング業界で数十年間にわたって、多用されてきたお馴染みの4Pという手法があります。「製品(Product)」「価格(Price)」「場所(Place)」「宣伝(Product)」の4つをもとに製品・サービスの戦略を考えるというものです。

各要素の例として、下記のようなものが考えられます。

  • 製品(Product);競合にはない機能・オプションの搭載
  • 価格(Price);競合が狙わない高価格、低価格の設定
  • 場所(Place);オフラインの独占、オンライン中心として製品・サービス提供
  • 宣伝(Promotion);顧客認知度を高めるオンライン/オフライン宣伝

 4Pという手法は現在でも製品開発・マーケティング戦略立案において多く使われています。但し、4Pのみの観点で分析していくと、戦略立案を実施して競合との差別化を図るのが難しくなりつつあると思います。

 例えば、私たちが日常でよく使用しますパソコンを例に考えてみましょう。家電製品売場で販売されているパソコンの多くは、製品性能が訴求されており、特定メーカーのデザインや機能を訴求するケースが多くありません。それは、パソコンという製品が価格に比例する性能を除き、特定メーカーのオリジナルデザインや機能によって競争優位を維持することが難しくなったからだと思います。また、同製品の価格を決定する主要因である性能の製造コストも平準化されており、特定メーカーが市場価格から乖離した価格設定をすることも難しい状況にあります。加えて、クラウドコンピューターというサービスを利用すれば、販売店で製品販売する必要性も低くなっています。最後に、宣伝自体もGoogleAmazonの最適化されたレコメンドを通して、どの企業も簡単にターゲティングプロモーションができるようになりました。

 

 こうしてみますと、時代の変化とともに製品開発・マーケティング戦略立案において、4Pの各要素による差別化ポイントを構築するのが難しい場面を多く見かけるようになりました。そこで、4Pに新しい視点を加えた6Pという考え方を紹介していければと思います。

新しいフレームワークとしての6Pとその実例

 6Pとは、4PであるProduct、Price、Place、Promotionに顧客参加(Participation)、プロセス(Process)の要素を追加したフレームワークです。6Pは、4Pに不足していた顧客の関与方法や製品・サービスの製造過程も分析対象にしています。4Pにない視点を加えることで改めて、自社製品・サービスを見直し、4Pの各要素の再考にも繋がります。
顧客参加に関して、顧客を製品の購入者とのみ捉える4Pと違い、顧客を設計・開発者、セールスマン、プロモーションスタッフ等の側面で捉えることで、顧客と製品の関わりを発展させることができます。顧客を設計者・開発者として捉えることで、開発された製品は最も顧客ニーズにマッチしたものになります。また、顧客をプロモーションスタッフと捉えた場合、既存ユーザーが製品・サービスをどのようにして新規ユーザーに宣伝するかを分析することで、より低いコストかつ精度が高いターゲティングを実現できます。
そして、プロセスという分析に関して、製品が提供されるのみではなく、注文、製造、輸送されるまでの過程も分析対象とすることで、新しい価値提供の手法を生み出せると思います。製品の製造過程をコンテンツ化することで、そこから収益を得たりすることも考えられます。

 それでは、ここまで説明してきた6Pをさらに実践方法とその事例を通して深堀していければと思います。

 

6Pの新要素①:顧客参加

 まず、6Pで追加された要素の1つ目の顧客参加について見てみましょう。
顧客参加には、多くの手法がありますが、今回はユーザーイノベーションを紹介していきます。ユーザーイノベーションとは、ユーザーが直面する課題をユーザーとともに解決する製品・サービスを創造/改良(共創)することです。従来、企業は内部で研究開発を行い、製品やサービスをリリースしてきました。このような方法は、期間が長くなる傾向にあり、製品リリースされた時点で市場環境が変化していることがあります。そこで、ユーザーの課題をもとにユーザーとともに開発することで、消費者(≒ユーザー)を事前確保した状態で製品リリースすることができます。

 その実例として、玩具メーカーのレゴを見てみましょう。
レゴは、玩具商品というコモディティ化が進行している市場において、顧客参加(6Pの要素の一つ)を通して成功した企業です。
2000年代のレゴは、売上1.5兆円程度であり、かつ営業赤字の年度もありました。そこで、企業改革を通して2010年代には、売上6~7兆円程度の企業へと成長を遂げました。

 

 従来、レゴの商品は、レゴ内部にて研究開発され、顧客が関わる要素が多くありませんでした。そうしたこともあり、顧客ニーズと合致しない商品がリリースされることもありました。そこで、レゴは、消費者が考案したアイデアをレゴが運営するプラットフォームであるIDEASに発信し、さらにレゴとコアファンがともに商品開発という取り組み(ユーザーイノベーション)を開始しました。こうした取り組みを通して、顧客参加による新しい製品を創り出しと同時に、レゴコミュニティを拡大させるという好循環を生み出すことに成功しました。

 

6Pの新要素②:プロセス

 続いて、6Pで追加されたもう一つの要素であるプロセスの実践方法と実例を見ていきましょう。プロセスでも同じく多くの手法がありますが、本稿では、プロセスエコノミーという考え方を見ていきたいと思います。
「プロセスエコノミー」とは、最終製品・サービスが誕生する過程にも価値があるという考え方です。従来、企業は最終製品のみに価値を置き、製品の販売やサービスの提供をもって、顧客に価値提供できたと考えてきました。しかし、製品がコモディティ化している現在、最終製品・サービスでの競争は、より激化すると考えられます。そこで、プロセスエコノミーという考えを導入することで、製品やサービスが提供されるまでの過程でも競争可能となり、新しい収益を得ることができます。

 続いて、プロセスエコノミーの実例を一つ見ていきましょう。
食事提供(アウトプットエコノミー)が重視されてきた飲食業界において、「BARIMO」は、飲食店が店という空間をライブ配信することで、視聴者がそこに対してコメントすることで場を盛り上げ、かつギフトを店側にプレゼントすることができるサービスを開始しました。このサービスを通して、飲食店は、新しいマネタイズの方法(≒プロセスエコノミー)を確保できます。

 また、こうした動きは飲食業界に限らず多種多様な業界において、今後より盛んになっていくと考えられます。

おわりに

 本稿を通して、変化の激しい時代において、既存フレームワークである4Pに新しい観点を加えた6Pと新しい観点の実践方法と実例を紹介しました。その実践方法である「ユーザーイノベーション」、「プロセスエコノミー」は、モノ消費からコト消費へと変化している今後のビジネス環境において重要な視点になっていくと考えられます。今後も折に触れて、新しいフレームワークや考え方などを紹介していければと思います。

また。本サイトには、本稿以外にも多数の経営/コンサルに関する記事がございます。また、経営において、お悩みをお持ちでしたら、是非一度弊社にお問い合わせください。

《参考》

 

佐藤健

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。