厚生労働省が発表したデータ(2022年6月)によると、同年5月時点での全国の有効求人倍率は1.24倍、新規求人倍率は2.27倍であり、コロナ禍に陥る以前の2018年度の1.62倍と比較するとやや買い手市場に傾いていることが伺えます。
上記の求人倍率の推移から人材の採用は容易くなったと捉えられがちですが、理想人材を採用する難しさに大きな変化はなく依然として難易度が高いことに違いはありません。また、より理想的な人材を採用できたとしても人材がフルパフォーマンスを発揮できる/発揮したいと本人が自発的に思えるような環境や管理手法が整っていなければ、企業・個人における成長チャンスを損う可能性があります。そのため、今回は既存組織・社員の生産性向上を目的としたマネジメント手法「OKRマネジメント」を紹介します。
同手法はGoogleやP&Gなど世界的な企業も導入している手法であり、手軽かつ小規模な組織単位での運用も可能です。是非ご一読の上、読者の皆様で試していただければと思います。
OKRとは「Objectives and Key Results」の略称で、「達成目標(Objectives)」と、目標の達成度を測る「主要指標(Key Results)」を設定することによって企業・チーム・個人が、全力で同じ重要課題に取り組めるようになる目標管理手法です。OKRマネジメントを導入する目的は「企業全体で、大きな共通目標を掲げて、それに向かって全社員が全力で取り組むことで生産性を向上させること」です。
また、OKRマネジメントの特徴としては、企業の上流~下流(経営層~一般社員)に渡って、共通目標が共有されることが挙げられます。
外資系企業ではGoogle、P&G、ディズニーなど、日系企業ではメルカリ、リクルートなどの有名企業が導入したことで注目されています。
1954年にピーター・ドラッカーが提唱した「MBO(Management by Objectives and Self Control、目標による管理)」は、個人の自主性を尊重しながら達成すべき目標を設定し、業績向上を目指すマネジメント手法です。
OKRとの大きな違いを一言で表すと、「人事評価に反映するか否か」です。MBOの場合は、目標に対する達成度を人事評価に反映することに対して、OKRは「人事評価と切り離して」考える。この違いが存在します。
また、MBOは管理職以上の社員に対して用いられる手法ですが、OKRは一般社員も含めた全社を巻き込んで押し進める手法です。
「KPI(Key Performance Indicator)」は、最終目標を達成するために必要なプロセスが適切に実施されているかをチェックするための中間指標のことです。筆者の前職時代(求人媒体の営業)におけるKPIを例に上げると、新規架電数・有効接触(採用担当への接触数)・顧客訪問数がKPIとして週・月・4半期ごとに設定がされており、それらをクリアしつづけることで安定的な業績構築(求人掲載の申込み)を実現するための指標としてKPIが設定されていました。
定量的な目標を定める点でOKRと似ていますが、KPI管理では部署や課、プロジェクト単位で実現可能な数値を設定し、100%達成を目的とするのに対し、OKRは企業全体で高い目標を掲げ、主要な成果では60%~70%の達成率を目指すことが一般的です。
本項ではOKRマネジメントを運用するにあたって、達成目標(Objectives)と主要指標(KeyResults)をどのように設定すべきかを説明します。
OKRマネジメントにおけるObjectivesは、定性的な目標であり「皆がワクワクするような目標」であることが重要です。分かりやすい例を上げると、「全社売上を昨年比150%まで伸ばす」といったつまらないものではなく、「全社の売上を伸ばすことで社員の給与を上げる」など心から達成したい、やってみたいと全員がやる気を鼓舞される目標であることが重要です。
高尚かつ理想的な目標を掲げることは企業として重要であることに違いはありませんが、OKRマネジメントにおいては先述の例のように「誰でも理解ができる分かりやすい目標」を設定すべきです。その背景として、全社員が同じ粒度で理解し、目標を噛み砕いて腹落ちさせることで組織一丸となって目標に取り組むことが重要であるからです。
社員のパフォーマンス・生産性を上げるために、簡単に達成できる目標ではなく達成難易度の高い目標掲げることも重要です。今まで通りのやり方では到底達成が出来ない、言わば工夫・努力が自ずと必要になる目標を掲げることが必要です。
KeyResultsは、1つの目標に対して3つほど設定することが理想とされています。目標に対する達成率を多角的かつ複数の指標に基づいて計測することで、より精緻なスコアを求めることが可能です。
Objectivesが定性的なものであることに対して、達成率を測定するKeyResultsは定量的である必要があるため、目標達成に向けて必要となるキーファクターを具体的な数字と組み合せてKeyResultsに組み込むべきです。
KPIのように上層部が勝手に設定した指標とは異なり、目標を噛み砕いて理解し自らで指標を決定します。筆者の考えとしてこのフローが目標達成において非常に重要であると原経験から考えています。その理由として一番にあがるのが、「責任感」です。自分で設定した指標に対しては上層部から降りてきた指標と比べて比較にならないほど責任感が湧くため、目標達成に向けての行動や工夫を自発的に行うようになった経験があります。
Googleは20年前からOKRを実践しているOKRのパイオニア的存在です。今や誰しもが知る世界的の高い有名企業へと成長した同社ですが、その成長要因としてOKRマネジメントを導入したことが挙げられます。
従業員数は10万人以上、かつ世界各国に拠点を構える同社は一体どのようにして全社を巻き込むようなどのように目標を設定し、管理しているのでしょうか?以下では、Googleが実際に実践している3つの手法を紹介しますので是非ご参考にしていただければと思います。
自身が達成できると考える設定値よりさらに高い目標(ストレッチゴール)を3つ設定するよう推奨しています。100%の確率ではなく、60-70%程度の確率で達成することができる高い目標を設定することで、チーム、個人のパフォーマンスを最大化できると考えています。
また、目標をあえて高く設定することで、達成できなかったとしても社員の成長を促すことが狙いです。
同社は「スコアリングシステム」という手法を取り入れており、定性的なObjectivesを数値化して定量的にジャッジできるようにしています。同システムは「Key Results」の達成率に基づいて点数をつけるもので、同社では0.0〜1.0のスコア幅で表記をしています。(下記例参照)
– 特定プロダクトのシェアを拡大させる
1. 未着手の顧客セグメントに対してサンプルを提供する
2. 1法人あたりの売上をXX%増加させる
3. 新規受注数アップに向けた5つの施策を展開して、受注要因を特定して他サービスにも反映させる。
上記例のようにObjectivesとKeyResultsを設定し、各KeyResultsの達成率に基づいてスコアを算出します。例えば、3の施策展開であれば実際に受注要因を特定できた施策が3/5であった場合のスコアは0.6となります。このようにして各KeyResultsの結果に基づいてスコアリングを行います。
Googleのような巨大企業になると全社員の意見をヒアリング・反映することは難しことが容易に想像できます。そこで同社は、四半期ごとに前期のOKRの結果と次期のOKRを全社員の前で発表する機会を設けており、加えて毎週木曜日にTGIF(Thanks God It’s Friday)ミーティングをリアルタイムで配信し、全社員が漏れなく情報にアクセスできるような運用を行っています。
また、TGIFミーティングでは社員と経営陣が直接会話することが可能であり、ボトムアップを体現しています。
今回は組織・個人の活性化を目的としたOKRマネジメントを説明しました。中途・新卒の採用活動に注力することも然ることながら、同手法を活用することで既存組織・社員の活性化・生産性向上を図り、さらなる企業成長を後押しすることに繋がると考えています。
読者の皆様において、少しでも参考になれば幸いです。
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト