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近年、企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化し、事業の複雑化、技術革新の加速、グローバル競争の激化など、様々な要因がビジネスの変革を後押ししています。
このような時代において、企業が持続的な成長を遂げるためには、既存の事業領域にとらわれない多角的な視点や、複雑な課題を抽出し、解決へと導く「コンサルティング能力」が不可欠となりつつあります。
しかし、そのコンサルティング能力を組織内に育成することは容易ではありません。
特に、IT企業やSIer、あるいは事業会社において、自社の事業に深く精通しつつも、客観的な視点で課題を特定し、論理的かつ実践的に解決策を導き出す「社内コンサルタント」の育成、とりわけその能力をどうやってクライアントワークで生かすかは、多くの企業にとって喫緊の課題となっています。
私たちアーツアンドクラフツは、中規模のコンサルファームとしてこの課題に対し、独自の育成メソッドと深い信念をもって取り組んでいます。
私たちの最大の特徴は、「未経験者採用を主軸としたコンサルファーム」である点にあります。公務員、教諭、営業職、専門職、飲食店、介護職など、多種多様なバックグラウンドを持つ人材を積極的に採用し、彼らを「真なるプロフェッショナル」へと育てるための、徹底的な伴走型育成基盤を構築しています。
このコラムでは、アーツアンドクラフツがどのようにして未経験者をコンサルタントとして育成しているのか、その根底にある育成哲学、そしてそれが企業向けのリスキリングサービスへとどう繋がっているのかを詳述いたします。
アーツアンドクラフツの育成メソッドは、未経験者からコンサルタントを育成するために、入社から評価までを一貫した画一的な基盤を持ちながらも、メンバー一人ひとりの習熟度や課題意識に応じたパーソナルなアプローチを徹底している点にあります。
採用:多様な未経験者を迎え入れる土壌
当社の採用活動においては、ほぼ100%コンサルティング未経験者を採用しています。これは、特定の業界知識やコンサルティング経験に囚われず、多様な視点やバックグラウンドを持つ人材こそが、複雑なクライアント課題に対して新しい解を導き出す可能性を秘めていると信じているからです。
公務員として培った論理的思考力、教諭としての育成経験、営業職で鍛えられたコミュニケーション能力、専門職の深い知見、飲食店や介護職で培われた現場感覚など、一見するとコンサルティングとは直接関係ないような経験も、視点を変えれば強みとなることを私たちは知っています。
研修:コンサルタントの「必須スキル」を体系的に習得
入社後は、約2週間の「基礎研修」からスタート。この基礎研修では、コンサルタントとして必須となるスキルを体系的に定義し、座学と実践を交えてインプットします。
(例として論理的思考、課題設定、情報収集・分析、ドキュメンテーション、プレゼンテーションなど)
基礎研修後、プロジェクトにアサインされたメンバーは、以降実際のプロジェクトで研鑽を積みつつ、自分で時間を作って任意のタイミングで「応用研修」を受講。
これは、実務で直面するであろう、より実践的で専門性の高いスキル習得を目的としており、特定の分析手法や業界知識など、必要に応じた学びを深めることができます。
育成:OJTと1on1による徹底的な伴走
研修で得た知識を実務で定着させるために、当社ではOJTと1on1を育成の核としています。
①OJT(On-the-Job Training):
プロジェクトにアサインされたメンバーは、まず議事録作成やフレームワークに基づいた調査・資料作成といった基本的なタスクから従事。
これらはコンサルタントの仕事の基礎であり、実務を通じてその重要性を体感することができるのです。
OJTの場としては、特に「Internal Meeting」を重視。プロジェクトの進捗報告や戦略討議など、実務に近い状況で行われる社内会議に参加することで、
メンバーは汎用的なスキル(例:論理的な発言、議論の構造化、資料の改善点抽出など)がどのように実際の業務と連関しているかを肌で感じることができます。
会議後には、メンターやリーダーから具体的なフィードバックが与えられ、習熟度を確認しながらスキル定着を促しているのです。
②1on1(One-on-One Meeting):
1on1は、メンバー一人ひとりの成長に合わせたきめ細やかな育成を実現する重要な場です。最低でも月に1回、ユニット長やチームリーダーとの間で実施されますが、各人の課題意識や職位に応じてその回数や実施者が変わることもあります。
1on1の主な内容は、プロジェクトでの成果確認と、個人の目標設定、そしてキャリアデザインについての討議です。
専用の「目標振り返りシート」を使用することで、メンバーは目標達成に向けた自身の成功体験を具体的に振り返り、次なる目標設定とその達成に向けた計画立案(Planning)の訓練を積むことができます。このシートは、自律的な成長を促すためのツールとして機能しています。
③フィードバック:「処方箋」を与えて伴走する
OJTや1on1を通じてメンバーへ与えられるフィードバックは、育成基盤と異なり画一的なものではありません。
当人の習熟度、弱み、そして抱える課題意識に基づき、適切な「処方箋」を授けるイメージで実施されます。
コンサルタントとしての心構えといったマインドセットから、実践的な必須スキルまで、多角的な観点から具体的なアドバイスまで。
このフィードバックは、メンバーにとっての学びであると同時に、フィードバックを行う評価者自身にとっても、自身のパフォーマンスやスキルを再認識し、指導力を高める機会となり、この双方向性が、組織全体の学習能力を高めています。
これが実現できるのも、評価者自身が未経験からステップアップしてきた背景を持つからでしょう。
評価:実力・成果主義とスキル習得の可視化
当社の評価制度は、徹底した実力・成果主義を掲げつつも、単に売上などの定量的な成果だけでなく、コンサルタントとしてのスキル習得状況も定性的に評価するハイブリッド型です。
評価軸として個人の獲得粗利という定量的な指標に加え、独自の「スキルシート」の取得状況が評価に採用されています。
スキルシートとはコンサルタントにとって必須となる6つのスキル(例:論理的思考、仮説構築、分析、ドキュメンテーション、コミュニケーション、プロジェクトマネジメントなど)について、その要件を段階別に詳細に定義しています。
プロジェクトでのパフォーマンスに応じて、スキルシートでメンバーを評価するのは、プロジェクトマネージャー(PM)。
半期末には、各マネージャーが集まり、メンバーのスキル取得状況を確認し、最終承認を議論によって行います。これにより、定性的な評価軸の目線合わせが行われ、評価の公平性と客観性を保とうとしているのです。
各コンサルタントは、このスキルシートを通じて自身の習得スキルレベルを客観的に認識し、次なるキャリアアップのために何を学ぶべきか、どのスキルを強化すべきかを明確にすることができます。
このように、アーツアンドクラフツでは、メンバー一人あたり月60時間以上もの時間をかけて、徹底的な伴走型育成を行っています。
未経験者採用による低コスト化で生み出せる圧倒的な工数を、メンバー一人ひとりの成長とクライアントワーク双方に惜しみなく投入。
繰り返し壁打ちを行い、プロジェクトのアウトプットの磨き上げと個人のキャリアビジョンに伴走する育成基盤が、当社のコンサルティング品質と組織成長の根底にあります。
アーツアンドクラフツの育成は、単に「スキルを教え込む」ことに留まりません。未経験者が「真なる成果」に到達するまでのプロセスを連続的な要素として分解・定義し、各段階で本質的な意義付けをすることで、育成の取り組みに深みを与えています。
①マインドとスタンス:成果創出の基盤
まず、育成の最も根底に置かれるのが、「マインド」と「スタンス」です。
マインド: 成果創出の源泉となる価値観や、コンサルタントとしてのあるべき姿を形成し、そうあろうとする心意気です。スタンス: チャンスを掴むための基本的な姿勢であり、他者が自身を認識・理解するために起点となる評価項目です。
これらがベースであることを、当社では徹底的にインプットします。ボードメンバーを始めとする各マネージャーが、メンバーとの1on1やOJTを通じて、具体的な経験や振る舞いを通じて解説し、自らも体現していくことで、浸透を図ります。
また、個別でマインドセットに至るためのオープンセッションも定期的に設け、深い議論の機会を提供しています。
②スキル:アウトプット実現のためのツール
マインドとスタンスが確立された次に学ぶのが「スキル」です。これは、アウトプットや具体的なアクションを実現するためのツールであり、単体では機能しないモジュールであると定義しています。
スキルは、前述の基礎研修と実案件でのOJTを通じて身につけます。当社が扱う業務範囲は広いため、特定のプロジェクト単体でしか機能しないスキルとしてではなく、
より汎用性の高い形で定着させることを目指しています。
そのため、関連する過去のプロジェクト実績を基にした具体的な取り組み事例を解説することで、スキルがどのように実務で応用されるかを理解させます。
③ナレッジ:効率的なアウトプットを生み出す財産
スキルが身についた次の段階が「ナレッジ」です。これは、アウトプットを効率的に生み出すための前提や基本的な仕組みであり、蓄積したスキルや経験則を体系化することで確定する「財産」です。
マインド、スタンス、スキルといったインプットを基に、実務レベルで(宛ら引き出しからものを取り出すような形で)、必要な知識をスムーズに活用できる状態を目指します。
個別ナレッジ活用の取り組みとして、当社は数多くの過去プロジェクト実績を抽象化した「アプローチのテンプレート」や「アウトプット集」を集約したインフラを有しています。これを用いてメンバーへの解説を行ったり、メンバー自身が自己研鑽のために常時参照したりできるようになっています。これにより、属人的なノウハウではなく、組織としてのナレッジとして活用できる環境を構築しているのです。
④アウトプットとアクション:真なる成果への着実な歩み
これらのマインド、スタンス、スキル、ナレッジが積み重なることで、初めて「アウトプット」が形成されます。アウトプットは、コストをかけて形成する有形・無形の成果物であり、ステークホルダーにとっての「指針・旗印」となるものです。
同時に計画を実行に移す「アクション」へと繋がります。アクションとは、真なる成果に向けた着実な歩みであり、他者を巻き込むために示すべき「度胸」が顕在化した行動であると定義しています。
⑤真なる成果:実利への貢献と対価
最終的に、このアウトプットとアクションが「真なる成果」へと至ります。
真なる成果とは、単なる自己満足に終わらず、ステークホルダーの実利への貢献を意味します。
そして、その貢献に対する対価として、報酬やレコグニション(社会的評価)が得られる、という連続したプロセスが、アーツアンドクラフツの育成哲学の根底にある考え方です。
この多層的な育成アプローチにより、私たちは未経験者を、単なるタスク実行者ではなく、自らの使命と顧客への貢献を追求する「真なるプロフェッショナル」へと育て上げています。
アーツアンドクラフツが未経験者育成で培った独自のメソッドは、現代の企業が直面する人材育成の課題に対しても、強力なソリューションを提供できると確信しています。
私たちは、この育成メソッドを基に、企業向けにオーダーメイド型のリスキリングサービスを提供しています。
主なサービス領域は以下の通りです。
①育成基盤の設計・研修の構築/研修実施・講師支援
コンサルティングファームで一般的に求められる汎用スキルと、貴社業務上で求められる専門スキルを明確に定義し、それぞれに最適な習得方法を選択し、実践的な研修カリキュラムを構築します。
I コンサルタントとして求められるベーススキルの整理:
貴社が目指す人物像や現行の人材育成における課題に応じて、具備すべきスキルを具体的に定義します。必要に応じて、主要コンサルティングファームのベンチマークや、リーダーシップ能力開発で用いられるカッツモデル(概念化能力、対人関係能力、テクニカルスキル)からも要素を抽出し、貴社独自のスキルセットを策定します。
II 現行の研修/コンテンツの内容精査:
現在実施されているベーススキルの研修や関連コンテンツの内容を詳細に精査します。スキル定着に向けてアップデートすべき箇所や、時代に即した内容への改訂ポイントを特定します。
III ベーススキルの合意:
抽出したスキルの細目を、貴社の実務に近いイメージで具体的に定義し、関係者間で合意形成を図ります。さらに、職位に紐づけてスキルマップを策定することで、各職位で求められるスキルレベルを明確にします。
IV 習得方法の検討:
定義されたベーススキルに合わせて、最も効率的かつ経済的な習得方法を検討します。自社研修(既存の見直し/新規開発)、eラーニングソリューションの導入、外部研修の活用、課題図書の選定など、多角的なアプローチを組み合わせます。
V 研修資料の作成・整備:
研修骨子に基づき、貴社現行資料の修正、および当社が新規で作成する研修資料を整備します。外部研修を含めた研修カリキュラム全体を体系化し、シームレスな学習体験を提供します。
②プロジェクト伴走型育成支援
机上の学習に留まらず、実際のプロジェクトを通じて実践力を高めるための伴走型支援を提供します。特に、特定のスキル転換を目的としたプログラムで効果を発揮します。
「提案型営業への転換」型の場合:
I 顧客の経営課題の特定/優先順位付けのプロセスを伴走し、実践的な課題発見能力を養います
II 特定された課題に対する提案シナリオの作成を支援し、論理的かつ説得力のある提案構成力を高めます
III 実際の提案活動への帯同から受注までを伴走し、実践的な提案力とクロージングスキルを育成します
「新規事業立案スキーム構築」型の場合:
I 市場調査・分析、有望機会の探索といった初期フェーズを伴走し、市場把握能力と発想力を育成します
II 事業計画/実行計画の策定を支援し、実現可能性の高いビジネスプラン作成能力を養います
III 実行フェーズ(WBS管理、パートナー折衝など)を伴走し、プロジェクト推進力と関係者巻き込み力を高めます
クライアントの状況により、特定のプロジェクトに入り込んでの伴走が難しい場合は、
アウトプットの添削支援と定期的なセッション開催といったメニューも提供可能です。
これらにより、実践的な学びの機会を確保します。
③育成関連コンテンツ作成支援
貴社内で継続的に活用できる、実践的な育成コンテンツの作成を支援します。
「キーチャートのフォーマット作成」の例:
I キーチャートの洗い出し: 貴社の主要なコンサルティングメニューに基づき、過去の作成物や研修で用いられるアウトプットを収集します。プロジェクト種類、調査・分析・討議内容ごとにアウトプットの全体像をマッピングし、貴社独自のナレッジを可視化します。
II フォーマット化対象の選定: マッピングされたアウトプットの中から、貴社のPMやTL層との討議を通じて、フォーマットとして取り扱うべきアウトプットを選定します。この際、作成頻度、プロジェクト全体における重要度、現行のスキル充足度といった要素を加味します。このプロセス自体が、PM/TL層での育成方針や注力ポイントの認識合わせにも繋がります。
III フォーマット作成/納品: 選定されたアウトプットを貴社デザインに準拠してフォーマット化します。ビジュアライズイメージのみならず、PJ推進のポイントやアプローチ手順、Tipsなどを整理し、実践で役立つ内容とします。貴社のナレッジシェア方針に基づきフォーマットを格納し、ジュニア相当のコンサルタントが常時参照できる「ナレッジインフラ」として整備することで、自律的な学習と生産性向上を支援します。
近年、事業会社、とりわけSIerや多数のエンジニアを抱えるIT企業において「社内コンサルタント育成」のニーズが飛躍的に高まっています。
これは、外部コンサルタントに依存するだけでなく、自社のビジネスモデルや技術に深く精通した人材が、社内から新たな価値創造を推進することの重要性が認識されてきたためです。
社内コンサルタントに求められるスキルは多岐にわたります。多角的なものの見方、自社/顧客の課題抽出能力、調査・分析の手法とそこからインサイトを導き出す力、そしてそれを具体的に「アウトプット」し、実行フェーズを力強く「推進」する力、
さらには進捗管理とプロジェクト推進のリプランニング、取り組みの評価軸・目標値の作成、そして最終的な「目的の達成」へのコミットメント。
これらはどんな業界、どんな職種においても不可欠なメソッドであり、一朝一夕では身につかないものです。
この状況を示すように、最近のトレンドとして、経済産業省が推進する「リスキリング」の重要性が挙げられます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、企業には従業員のスキルを再構築し、新しい技術やビジネスモデルに適応させる能力が強く求められています。特に、既存事業の変革や新規事業創出には、コンサルティング的な思考を持つ人材が不可欠です。
例えば、『人材版伊藤レポート2.0』では、企業価値向上に向けた人的資本経営の重要性が強調されており、その中で、従業員の「学び直し」や「スキルアップ」が組織の持続的成長の鍵であるとされています。
企業が従業員のリスキリングに投資することは、単なるコストではなく、将来の競争力を高めるための戦略的投資と位置付けられています。
また、『DX白書2023』でも、日本企業のDX推進の課題として「人材の不足」が挙げられており、社内人材の育成が喫緊の課題であることが示されています。
アーツアンドクラフツは、まさにこのリスキリングの潮流と、企業内のコンサルティング能力育成ニーズに応えるべく、独自の育成メソッドをサービスとして提供しています。未経験者をプロへと育てる過程で培った、徹底的な伴走と実践重視のノウハウは、貴社の社員が「社内コンサルタント」として覚醒し、事業成長の原動力となるための確かな道筋を示すことができると確信しております。
まずは、貴社の育成に関する現状と課題について、ぜひ弊社にご相談ください。
貴社に最適なオーダーメイドの育成プランを共に描かせていただきます。
【参考】
アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/マネージャー
新卒で大手飲食チェーンに入社。2018年当社に入社し、C&S事業部に参画。主に、M&Aサポートやビジネスデューデリジェンス、新規事業の事業性検証や事業モデル策定といった戦略コンサルティング案件、BPRをはじめとする業務コンサルティング案件においてセクターを問わず多数実績を有する。クライアントへの価値創出に全身全霊をかけて取り組み、最大のパフォーマンスを発揮することをモットーとしている。