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【コンサル入門】ネット銀行を例にした競合分析

コンサルタントの分析アプローチを学ぶ

近年、企業内での課題解決や戦略立案を担う「社内コンサルタント」のニーズが高まっています。外部のコンサルタントに依頼するよりもコストを抑えながら、組織内の知見を活かした提案や分析を行うことが可能な社内コンサルタントの役割はますます重要になるでしょう。

社内コンサルタントが行う客観的な調査・分析は、競合分析や自社の改善点の発見に活かすことが可能です。例えば、業界主要プレイヤのサービス内容を比較することで、自社のサービスの位置づけや、他社に比べた強み・弱みを客観的に把握できます。また、競合各社の財務諸表を比較・分析することで、成長性・収益性・コスト構造などの違いを浮き彫りにし、自社の改善余地を具体的に議論する材料を得ることができます。これらの分析により、感覚的な判断に頼らない、データに基づいた戦略立案が可能となるのです。

今回は皆さんの生活に身近な「ネット銀行サービス」を例に、業界の主要プレイヤのサービスや財務状況の比較・分析の手法を見ていきましょう。

 

ネット銀行とは

ネット銀行とは、物理的な支店を持たずに営業している銀行を指します。口座数、預金残高はともに年々伸長しているうえ、ネット銀行の口座をメインバンクとして利用する法人の数も中小企業を中心に増加しており、その成長性は高く維持されています。

また近年では、みんなの銀行ふくおかフィナンシャルグループ)やUI銀行東京きらぼしフィナンシャルグループ)のように、地方銀行グループの傘下に、本体の銀行とは別のブランドとしてネット銀行が設立される例も。

ネット銀行に共通する特徴

ネット銀行に共通する特徴として、その顧客層を見ていきましょう。

① 個人

楽天銀行住信SBIネット銀行の個人顧客は、年代別では40代の割合が最も高く、20代~50代が利用者全体の8割以上を占めています。地域別の顧客層分布では、楽天銀行、住信SBIネット銀行ともに関東地方の割合が相対的に高いものの、全国の人口分布とほぼ同様の分布となっており、実店舗をもたないことから特定の地域に偏らずに顧客を獲得しているといえます。この傾向はとくに地方銀行が別ブランドとして立ち上げたネット銀行の顧客分布において顕著に確認することができます。ふくおかフィナンシャルグループ傘下であるみんなの銀行の地域別の顧客分布は、関東34%、関西18%、九州・沖縄14%となっており、親会社の地域基盤によらずに顧客を獲得しています。

ネット銀行を主な口座として利用している割合は全体の11.4%と、都市銀行や地方銀行と比較すると高くはありません。一方で、ネット銀行を主な口座として利用している個人は、手数料や金利が有利であることやウェブサイトでの取引の利便性などに魅力を感じているようです。

 

② 法人

ネット銀行と取引のある法人の特徴として、企業規模が小さい、従業員が少ない、企業年齢が若いといった要素が挙げられます。

また、ネット銀行と取引のある割合と、従来の金融機関の融資姿勢DIの相関関係を見てみると、小売業や人材派遣業、飲食店といった、従来の金融機関から融資を受けづらい(=融資姿勢DIが低い)業種の企業が、ネット銀行と取引を行っている割合が高い傾向を読み取ることができます。

 

 

各行の差別化要素

競合比較では、単に他社をざっくりと見るのではなく、戦略・サービス・財務の3つの軸で整理して分析することで、より具体的な示唆を得ることができます。本記事では、ネット銀行の主要プレイヤとして、楽天銀行、住信SBIネット銀行、GMOあおぞらネット銀行の3行を取り上げ、戦略・サービス・財務の3つの軸で比較・分析を行っていきます。

戦略の比較

戦略の比較・分析では、中期経営計画や中長期ビジョンをもとに、SWOT分析のフレームワークにもとづいて、各行がどの領域に注力しているかを比較することで、各社の共通点・相違点を明確化することができます。

① 楽天銀行

楽天銀行は、楽天グループサービスとのクロスセル、口座振替または給与受取に利用される口座の獲得を成長戦略として掲げています。楽天銀行の新規顧客の64.6%が楽天グループチャネルから流入しており、決済、EC、カード、証券、通信といったグループの他サービスと銀行サービスを併用することで金利・ポイント優遇のインセンティブを付与する方法で、効率的な顧客獲得に成功しています。

また、法人向け営業においては、ネット銀行でありながら対面営業を実施しており、他のネット銀行と比較するとやや規模の大きい企業をターゲットにしているものと見受けられます。

 

② 住信SBIネット銀行

住信SBIネット銀行の事業は、デジタルバンク事業とBaaS事業に大別されます。

デジタルバンク事業では、主力商品である住宅ローンについて、ネット銀行でありながら、専属の代理店「ローンプラザ」や提携先銀行などにおいて対面での相談や申し込み受け付けを実施しています。また、法人向けには、口座開設の推進、トランザクションレンディング(取引履歴データを基にした融資形態)の残高増加を企図しているようです。

BaaS事業では、口座あたりの収益を意識した稼働口座の獲得を推進し、提携先の拡大を図っています。加えて、BaaS事業から得られる決済や提携先等のデータを生かし、従来の銀行とは異なるビジネスモデルの確立を目指していることも特徴です。その一例として、顧客に個人情報の利用の同意を得ることを前提とし、IDデータを活用する広告配信ビジネスを担う子会社としてテミクス・データを設立し、広告事業に参入しています。

 

③ GMOあおぞらネット銀行

GMOあおぞらネット銀行は、法人向けサービスが充実した銀行です。中長期戦略の3つの柱として、「スモール&スタートアップ向け銀行No.1」「組込型金融サービスNo.1」「テックファーストな銀行No.1」を掲げ、法人向けサービスを提供しています。「スモール&スタートアップ向け銀行No.1」に資する取り組みとして、ビジネスローンや、安価な振込手数料・法人向けデビットカードといった決済関連のサービスなど、零細企業・スタートアップ企業向けのサービスが豊富です。また、「組込型金融サービスNo.1」に資する取り組みとして、組込型金融「BaaS by GMOあおぞら」を提供しています。銀行APIを法人顧客のサービスに組み込むことで、事務処理の効率化、サービスの利便性向上などを実現するとともに、法人顧客の銀行に対する粘着性を高めています。

 

このように、ネット銀行各行は、それぞれの注力領域に特化した商品・サービスを提供することで、シェア拡大を図っているものと思われます。

 

サービスの比較

サービス比較では、主要プレイヤのサービス内容を一覧化して比較することで、各行の強み・弱み・差別化ポイントを洗い出すことが可能です。以下、ネット銀行に特徴的なサービスについて、3行の取り組み状況や強みをピックアップして記載します。

① 手数料優遇プログラム

物理的な店舗を持たないことにより削減した経費を、安価な手数料として顧客に還元しています。個人向けでは、楽天銀行の「ハッピープログラム」、住信SBIネット銀行の「スマートプログラム」にて、預金残高や取引件数に応じて振込手数料を回数限定で無料とする優遇サービスを展開しています。法人向けでは、住信SBIネット銀行とGMOあおぞらネット銀行が優遇サービスを取扱っています。住信SBIネット銀行の「振込優遇プログラム」では、他行宛振込件数が多いほど振込手数料が割り引かれ、最安130/件で他行あて振込が可能となっています。GMOあおぞらネット銀行では、500/月の「振込料金とくとく会員」に加入することで、他行宛振込手数料が一律129/件となる優遇サービスを提供しています。このようなサービスにより、振込取引を自行に集約してもらうことで、非金利収益の増加を図っているものと思われます。

  

② グループ会社のサービス併用による優遇【楽天銀行・住信SBIネット銀行】

楽天銀行は楽天証券、住信SBIネット銀行はSBI証券の口座と普通預金口座を連携し、証券口座への自動振替を設定することで、普通預金口座の金利を優遇するサービスを提供しています。

また、楽天銀行では、楽天市場にて、楽天カード決済にて購入した分の代金を楽天銀行の口座から引き落とした場合、ポイントを+0.5倍にする優遇も実施しており、グループ会社の他サービス併用により金利やポイントを優遇することで、顧客の囲い込みを図っているといえます。

 

③ BaaSBanking as a Service

BaaSとは、銀行が提供する機能やサービスを、APIを介してクラウドサービスとして銀行以外の事業者に提供する仕組みのことです。BaaSにより、銀行業免許を持たない事業会社であっても、決済や送金、融資といった金融サービスを自社のサービスに組み込むことができます。現在、ネット銀行が提供するBaaSは、「フルバンキング型」と「エンベデッドファイナンス型」の2つに大別することができます。

-1 フルバンキング型: 住信SBIネット銀行、楽天銀行

フルバンキング型BaaSは、事業会社と提携し、提携事業者のサービスとして銀行サービスを提供することを指します。本取り組みにおいて先行しているのは住信SBIネット銀行であり、2020年からフルバンキング型BaaSNEOBANK」事業を展開しています。現在までに、航空、流通、鉄道、住宅、電力など、幅広い業種の計22社と提携し、BaaS事業の口座数は220万口座を突破しています。提携先の特色を生かした様々なサービスを展開しており、例えば、高島屋NEOBANKアプリから利用できる「スゴ積み」は、1年または半年積立を行い、満期を迎えると、積立金にボーナスを付与した金額を高島屋での商品購入に利用できるサービスです。「スゴ積み」はいわば、友の会制度をデジタル化したサービスであり、このようなサービスを提供することでロイヤリティの高い顧客に対して銀行サービスの利用を訴求しています。銀行としては、提携事業会社からのアカウント手数料と、銀行サービスの利用料を収益として得られるビジネスモデルとなっており、2024年度のアカウント手数料の収益は25億円、振込手数料など銀行サービスの利用料は100億円を突破しています。

楽天銀行は、20245月にJR東日本と提携し「JRE BANK」の提供を開始しました。グリーン車無料券や片道料金が4割引になる「JRE BANK優待割引券」といった魅力的な特典を提供することで、サービス開始から4か月時点での申込数が約39万件に上る人気を博しています。 楽天銀行は、住信SBIネット銀行とは異なり、JR東日本からのアカウント手数料の徴収は行っていません。提携先のノウハウやアセットと銀行サービスを組み合わせることによって、新たな顧客体験を提供することをBaaSの拡大方針としています。

-2 エンベデッドファイナンス型: GMOあおぞらネット銀行

エンベデッドファイナンスとは、事業会社のサービスに金融機能を組み込んで提供することを指します。GMOあおぞらネット銀行では、API連携により銀行機能をエンドユーザーには見えない形で組み込むことで、顧客体験向上や業務効率化を実現する「BaaS by GMOあおぞら」を提供しています。例えば、人材派遣会社の給与振込システムに振込依頼APIを組み込むことで、給与振込の完全自動化を実現し、派遣される労働者には人材派遣会社の営業時間外の給与受取、人材派遣会社の従業員にはミス防止のためのダブルチェック・承認作業の廃止といった価値を提供しています。「BaaS by GMOあおぞら」の累計契約数は年々増加し、20253月時点で774件となっています。

 

④ トランザクションレンディング【住信SBIネット銀行・GMOあおぞらネット銀行】

住信SBIネット銀行・GMOあおぞらネット銀行は、決算書不要・オンラインで手続きが完結する法人融資商品を提供し、創業から日が浅い企業の資金調達ニーズに応えています。決算書の代わりに、銀行の入出金明細をもとに貸付の審査を行っており、従来の銀行融資と比較して、借入までの期間が短いことも特徴です。

住信SBIネット銀行では、法人向け融資商品として「事業性融資dayta」を提供しています。口座入出金データをもとに、借入可能額・借入利率といった借入条件を月次で顧客に通知する形式をとっており、最短当日の借入が可能に。また、子会社のDayta Consultingでは、口座入出金データの審査に活用しているトランザクションレンディング向けAI審査サービスの販売を行っており、琉球銀行愛媛銀行で採用されています。

GMOあおぞらネット銀行では、法人向け融資商品として「融資(利用)枠型ビジネスローン「あんしんワイド」」を提供しています。会計ソフト「freee入出金管理」と連携することで、GMOあおぞらネット銀行の口座入出金データだけではなく、他行の入出金データを審査に活用可能な点が特徴です。契約までは最短2営業日で、当座貸越型の融資であるため一度契約すれば契約期間(1年)内は融資枠の範囲でくり返し借入・返済が可能となっています。

 

ここまで見てきたように、ネット銀行は、 利便性の高いサービスや、グルーブ会社・他社を通したサービスの提供により、物理的な支店を持たないがゆえの顧客接点の不足を補っていると考えられます。

 

財務状況の比較

財務諸表分析を行うには、各行の有価証券報告書や統合報告書、決算短信などから情報を収集し、成長性や収益性、効率性といった観点に関わる数値を比較します。

① 貸出金ポートフォリオ

貸出金ポートフォリオを比較することで、各行の取引の多い顧客の属性を知ることが可能です。楽天銀行は、貸出金残高の6割以上を中小企業・個人向けが占めています。また、総貸出先数に占める中小企業・個人の割合は99.98%にのぼり、中小企業・個人との取引が中心であることが分かります。住信SBIネット銀行は、貸出金残高の98.4%を個人向けが占めており、住宅ローンが主力商品であることが反映されているといえるでしょう。メガバンク3グループ、地銀上位10グループの貸出金ポートフォリオと、ネット銀行2行の貸出金ポートフォリオを比較すると、個人・中小企業向け貸出の割合が高いという特徴が表れています。

 

② 役務取引等収益

役務取引等収益を比較することで、各行が非金利収益をどの業務から主に得ているのか、注力しているビジネスは何かを推し量ることが可能です。楽天銀行では、為替業務による収益の占める割合が高くなっており、口座振替に利用される口座の獲得に注力していることが見受けられます。住信SBIネット銀行では、住宅ローン取扱業務による収益の占める割合が6割を超え、住宅ローンが主力商品であることがうかがえます。GMOあおぞらネット銀行では、為替業務による収益が役務取引等収益の半分以上を占め、戦略に掲げる決済関連のビジネスによる収益が占める割合が高いことが分かります。

 

 

③ 経費率

ネット銀行3行ともに、事業の拡大に伴い営業経費の金額自体は増加しているものの、業務粗利益が経費の増加率以上の伸び率で増加しているため、経費率は減少傾向にあります。なお、GMOあおぞらネット銀行は、創業以来赤字が続いていましたが、20253月期には単体業務純益ベースで黒字化を達成し、利用者数が増加していると見受けられます。

 

以上、各行の財務諸表分析を行うことで、ネット銀行が個人・中小企業向けに、戦略に掲げた注力ビジネスを遂行し、経費の増加率を上回る伸び率で収益を上げ、成長フェーズにあることが分かりました。

 

ネット銀行の今後

ネット銀行は、有利な金利・手数料や利便性の高さを武器に、業績を伸ばしており、今後も利用者規模の拡大や、新規プレイヤの参入が予想されます。

新規プレイヤとしては例えば、池田泉州ホールディングスが、新たにネット銀行として設立する01銀行(銀行業の営業免許取得済、サービス提供開始日は未定)が挙げられます。01銀行は、中小企業向けの銀行として、中小企業が利用するMakuakeやfreee入出金管理といったクラウドサービスのデータを起点に、銀行の入出金データなどと掛け合わせて融資判断を行うことを特徴とする銀行です。また、NTTドコモが住信SBIネット銀行を買収する方針を固めるなど、異業種からの銀行業への参入が今後も見込まれるのではないかと考えられます。

ここまで、ネット銀行サービスを例に、業界の主要プレイヤのサービスや財務状況の比較・分析の手法を俯瞰してきました。

本記事の内容が、今後コンサルタントのキャリアに挑戦したいと考えている方や、自社の市場環境を分析したいと考えている方にとって有益な情報となれば幸いです。

 

【参考】

 

土谷 香穂

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト