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企業経営におけるリスクとは

はじめに

 新型コロナウィルス発生のニュースを見聞きしてから1年半が経とうとしています。大打撃を受けている宿泊業・飲食サービス業の売上は20213月までで14か月連続の減少となりました。多くの企業がこの新型コロナウィルスという大きな『リスク』に現在も対応していることと思います。

 同時に企業経営における『リスク』は新型コロナウィルスのような避けられないものだけではなく、昨今では「地震」・「台風」などの環境・自然災害関連、「製品不良」などの製品関連、「バイトテロ」などの人材・労務関連、「サイバーテロ」などのITシステム関連等々、多種多様なリスクが挙げられます。

企業経営ではこれらの『リスク』について、行き当たりばったりではなく、事前に察知して対応を考慮する必要があります。本日はその『リスク』について、読者の皆様に少しでも意識していただけるようご説明していきます。

 

そもそもリスクとは?

 『リスク』とは、国際的な基準を策定しているISO(国際標準化機構)31000で「目的に対する不確かさの影響」と定義されています。いきなり「不確かさの影響」と言われてもお困りのことと思いますので、ビジネスで例えてみます。

 ビジネスを興した時には損得はありませんが、事業がプラスに転じて利益を得ることもあれば、マイナスに転じて損失を被ることがあります。このように、ビジネスを始めた時点で将来的に何らかの影響を受けることになります。この何らかの影響を受ける可能性があることが『リスク』であり、そしてビジネスを興した時点で『リスク』を保有したことになります。

 つまり『リスク』とは、プラスにもマイナスにも転がりえるがまだ起こっていない事象だといえます。コントロールすることができれば利益を生む可能性もありますし、反対にリスクをコントロールすることが出来ない場合は損失を被ることになります。そもそもビジネスなのでリターンだけではないということです。そのために、企業ではこのリスクを確実に捉えて最小限におさえる必要があります。

 

企業経営の主なリスク

1:企業がマネジメント対象としている主なリスク

 それでは企業経営ではどのようなリスクを意識しているのでしょうか。ある調査によれば企業がマネジメント対象としている主なリスクは、1位「震災」「台風」環境・自然災害関連、2位「サイバーテロ」ITシステム関連となっています。2019年と2020年の両年とも1位と2位は変わりませんでしたが、2020年になって「疫病の蔓延」が17位から3位に順位をあげており、「新型コロナウィルス」をリスクとして意識せざるを得ない状況となりました。

 このほかにも、金融業であれば「金融犯罪」といった不正関連、製造業であれば「サプライチェーン寸断」といった製品関連があります。このように企業経営でのマネジメント対象となるリスクは時代・社会などの様々な影響を受け、更には企業によっても捉え方が異なることがわかります。

 

企業ごとのリスク事例

 実際に個別の企業ではどのようなリスクをコントロールしているのでしょうか。それをみる方法として、有価証券報告書があります。金融庁が「記述情報の開示に関する原則」を策定したことで、有価証券報告書上に【事業等のリスク】が明記されています。これは2019年から始まったものですが、ステークホルダーが必ず読み込む有価証券報告書にリスクが開示されたことで、経営に携わる人々にとってリスクはおさえておかなければならない要所として改めて認識されたといえます。

 この有価証券報告書【事業等のリスク】から企業のリスクについて深読みすることが可能です。ここでは昨年と今年に、実際にリスクと対峙した2社の例を取り上げます。

-事例1株式会社ニトリホールディングス

 家具などを扱うニトリは202012月に一部の珪藻土製品に法令基準を超える石綿(アスベスト)が含まれていたことで商品の自主回収を行いました。この問題は製品に関するリスクですが、2019年度(第48期)有価証券報告書にはそのリスクについての記載はされていませんでした。もちろん、ニトリは品質対策をしていたはずです。ただ自主回収後の2020年度(第49期)有価証券報告書で「④品質に関するリスク」として明示され、対策として工場選定に基準を設けていることが記載されました。さらにこの時点で2019年度にリスク項目が5項目だったところ、11項目に追記されました。ニトリが問題対応後に企業経営のリスクについてより一層の分析をしたことがうかがわれます。

・2019年度(第48期)

有価証券報告書上で【事業等のリスク】に品質に関するリスク記載なし

・2020年度(第49期)

④品質に関するリスク

 -省略-

なお、当社グループ店舗で販売した珪藻土製品の一部に法令基準を超える石綿(アスベスト)が含まれており、自主回収を行っている件については、当該事実を取締役及び従業員等が認識し、法令遵守の重要性、コンプライアンス経営の視点に立ち、再発防止体制の構築に努めております。

-事例2ルネサス エレクトロニクス株式会社

 半導体などを扱うルネサスは20213月に車載用半導体の主力生産拠点である工場で火災が発生しました。ルネサスはリスク項目を24項目設定しており、常時からリスクについてマネジメントをしていることが読み取れます。工場の火事は環境・自然災害関連リスクに該当するものですが、ルネサスでは2019年度(第18期)と2020年度(第19期)どちらの有価証券報告書にもこのリスクについて事前に予測をし、記載してありました。更にBCP(事業継続計画)などを策定していました。このおかげで火災発生時3月に出した復旧目標6月中の完全復旧が現実となりそうです。 

・2019年度(第18期)

(3) 自然災害など

 地震、台風、洪水などの自然災害、事故、テロ、感染症をはじめとした当社グループがコントロールできない事由によって、当社グループの事業活動が悪影響を受ける可能性があります。特に、当社グループは、地震が発生する確率が世界の平均より高いと考えられる地域に重要な施設・設備を保有しており、地震の発生時に、その影響により当社グループの施設・設備が損傷を受け、操業を停止せざるを得ないなど、多くの損害が発生する可能性があります。当社グループでは、こうしたリスクに備えて、各種事前対策、緊急対策などを定めたBCP(事業継続計画)などを策定・運用するとともに、各種保険に加入しておりますが、それにより全ての損害を補填できるという保証はありません。

・2020年度(第19期)

(3) 自然災害など

 -省略-

~多くの損害が発生する可能性があります。

例えば、2021年3月には、当社の生産子会社の半導体製造工場(那珂工場N3棟(300㎜ライン))の一部工程において火災が発生し、同工場における製品の生産・出荷が停止する事態が生じました。提出日現在において、上記工場火災により当社グループに生じる損害額を合理的に見積もることは困難ですが、今後、損傷した工場施設・設備の復旧のための費用負担や工場の稼働率の低下や操業停止に伴う売上・営業利益の減少、売上総利益率の悪化等により、当社グループの事業、業績および財政状態に重大な悪影響が及ぶ可能性があります。当社グループでは、こうしたリスクに備えて、各種事前対策、緊急対策などを定めたBCP(事業継続計画)などを策定・運用するとともに、各種保険に加入しておりますが、それにより全ての損害を補填できるという保証はありません。

 

 以上のように2社ではそれぞれ取り扱うリスクが違うことがわかりますが、もし仮にニトリが2019年時点やその以前で製品に関するリスクについて把握・分析・対策をしていれば、損害を低減する、もしくは起こらない状態にすることが出来たと考えられます。このように、リスクについて把握することが重要であることをおわかりいただけたかと思います。

 

終わりに

上でみてきたように『リスク』はプラスにもマイナスにも揺れる可能性があり、マイナス面をいかにコントロールすることが重要であることがわかりました。企業ごとにリスクは違いますが、対策をするのとしないのでは大きな差があります。今回の事例はほんの一部であり、これ以外にもリスクは多くあります。ピンとこないこともあるかと思いますが、金融庁では事業等のリスクについて「記述情報の開示の好事例集」を公表・更新しており、これらの資料も参考となるので是非ご一読をおすすめします。

 

 

【参考】

 

柏原健太

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト