これまでビジネスデューデリジェンスの目的やその観点についてまとめてまいりましたが、今回からより実務面をフィーチャーしつつ、各ステップにおける留意ポイントをさらにブレークダウンしていきます。
M&A取引における投資可否判断に直結するビジネスデューデリジェンスは、言うまでもなく買い手側にとって非常に大きな意義を持っていますが、同時に売り手も高い関心示すポイントです。
企業価値の査定によって取得するエクイティは大きく変動しますし、手塩にかけて育ててきた自社の将来性は、買い手の舵取り次第で如何様にでも変化します。
いくら高値で買ってくれても、譲渡後に会社の成長が停滞したり、これまでの理念を異にするような事業活動を展開したりすることは得てして売り手も望みません。
当該取引が売り手、買い手双方にとってどのような目的で行われるか、どのようなスキームで株式譲渡が行われるかによっても、その性質は大きく変容するものです。
いずれにおいても、買い手は売り手(≒対象会社)のこれまでの実績を正当に評価しつつ、伴走感をもって売り手に寄り添うこと、売り手は買い手が正当な評価を下せるよう、誠実な対応をすることが求められます。
いうなれば、互いに敬意をもって交渉を進められるような「空気感」を共に作っていくことが、取引を成就させるためのキーポイントです。
ビジネスデューデリジェンスは、無闇矢鱈に進めても有意義な成果は得られません。
これから文字通り「運命共同体」になろうとしているわけですから、まず相手の性格や求める条件を入口でおさえておかなければ、「うまくやっていけるかどうか」なんて確認しようがありません。
そして相手があっての交渉ですから、こちらの都合だけで延々と拘束するわけにもいきません。
何をいつまでに検証しなければならないのかあたりをつけること―即ち、綿密な実行計画と論点抽出をもって臨まなければなりません。
ビジネスデューデリジェンスは、大きく分けて3つのステップで構成されます。
デューデリジェンス全体のスコープを予め定義し、各論点へのアプローチ方法と検証の実施体制(社内/外のリソース)、検証期間を策定します。
この段階で、対象会社と当該業界・市場への一定の理解と、それらから導き出される仮説を構築することで、前述の通り効率よく検証を進めることが可能です。
仮説は種々様々な視点から構築しますが、以下は代表的な論点であり、初期段階で検討あるいは理解を進めるべきポイントです。
事業環境分析(外部環境と事業基盤/事業構造)と業績構造分析を大項目とし上記論点を対象会社にあわせてさらに分解、その検証方法(外部有識者/対象会社のインタビュー、開示資料分析、デスクリサーチ等)、検証期間を検討していきます。
Excel等にまとめるなどして論点一覧を作成するとよいでしょう。
論点一覧は、検証を進める中で論点に対応した検出事項を書き加え、さらに新しく持ち上がった論点を加筆・更新することで、一連のデューデリジェンスを終えた段階で論点⇒検出事項を一目で確認できるアウトプットとして機能させることができるのです。
この論点一覧は、ビジネスデューデリジェンスを進める上でのいわば「検証のロードマップ」になり、効率的にプロセスを進めていくためのみならず、最終的にはビジネスデューデリジェンスのレポートの設計図となるなど大きな役割を果たします。
対象会社本来の実力と経営課題を分析する、ビジネスデューデリジェンスのコアとなるステップです。
ここでは、対象会社が現状の体制・経営基盤を基に純粋に事業を継続していった場合のスタンドアローンでの将来価値を前述した論点一覧で設計したロードマップに従い見極めていきます。
具体的な作業として、以下の3つを進めていきます。
①事業基盤・構造
顧客基盤/事業部・リソース/商品・サービスのマネタイズモデル/市場環境を把握し、どのように収益が成り立っているかを精査します。
いわば収益を生み出す仕組み=事業を紐解く部分です。
企業の価値を生み出すのは、いうまでもなくその企業が営む「事業」です。それらがどのように生み出されているのか、シンプルに言えば「単価×数量=売上」のロジックを明らかにしていくということに他なりません。
加えて、市場分析を踏まえてその競争優位・劣位性から将来性を測るのも、このステップでおさえておくべき観点です。
よく使われる分析手法としてマクロ環境分析、市場動向分析、競争環境分析、ビジネスプロセス分析、ビジネスインフラ分析が挙げられます。
②過去実績からの業績構造分析
顧客別/事業別/商品・サービス別の収益推移と主要費目の推移、連動性を精査します。
先の事業基盤・構造分析により仕組みを理解したのちに、このステップにおいてこれまでの事業活動の実績を検めるのです。
これまでの収益推移を少なくとも顧客別/事業別の観点で分解し、対象会社の経営課題と強み、買い手がテコ入れする余地を把握することが目的です。
過去の増減収・増減益のポイントを財務諸表・管理会計資料から目星をつけ、どのような要因で収益の増減が発生したか(リソースの問題なのか、顧客からの受注・失注なのか、コスト増等)、マネジメントインタビュー等を通して検証してきます。
収益増減の要因分析の検出事項は、「裏表」であり、また自ずとこの企業の平常収益力とキャパシティを明らかにするこの観点は、株式譲受後に投資計画を策定する上でキーとなる分析です。
③分析結果の整理と修正事業計画の策定
このステップでは、前段の2つの分析を通じ検出された発見事項を整理、対象会社作成の事業計画の見直しをしたり、場合によっては買い手が一から財務モデリングを実施したりして修正事業計画を作成します。
対象会社のスタンドアローンでの将来価値は、この段階である程度見極められるでしょう。
最後の大きなステップとして、「バリューアップ施策の検討」があります。
ここでは、対象会社の経営課題・強みを加味した上で、どのような成長戦略が描けるか、そのためにどのような経営体制を敷いていくかを吟味していくフェーズです。
買い手がオーナメントを持った場合新体制に移行(PMI= M&Aの効果を最大化するための統合プロセス)していきますが、その準備としての役割を担います。
具体的には「シナジーの創出」、「ガバナンス体制の構築」、「アクションプランの策定」というプロセスを経ていきますが、まさにM&A取引における肝心要の部分であり、その成否を占うポイントです。
このステップは、次号にて詳述させていただきます。
アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/マネージャー
新卒で大手飲食チェーンに入社。2018年当社に入社し、C&S事業部に参画。主に、M&Aサポートやビジネスデューデリジェンス、新規事業の事業性検証や事業モデル策定といった戦略コンサルティング案件、BPRをはじめとする業務コンサルティング案件においてセクターを問わず多数実績を有する。クライアントへの価値創出に全身全霊をかけて取り組み、最大のパフォーマンスを発揮することをモットーとしている。