近年、社会問題として挙げられるものに、物流拠点の業務ひっ迫があります。
特にトラックドライバーの負担軽減のために荷積み業務など業務分別による人手不足、またECサイトなどの普及による物流の需要拡大などにより人手不足の深刻化が懸念されているようです。
そんな状況の中、技術の進歩や企業の工夫により課題解決に向けて取組を行っている企業が増加しています。
本ブログでは、市場の環境からフォークリフト業界の現状と課題を踏まえ、今後の動向を予測するとともに、実際に分析を行う際の注意点や分析手順に関して併せてまとめましたので、関係各所の皆様にご一読いただけたら、嬉しいです。
先ずフォークリフト業界について説明していきます。
フォークリフトと聞くと、主に運送業などの荷詰めに使われるフォークリフトの製造を思い浮かべると思います。しかし、フォークリフト業界という観点で見た際には、フォークリフトの修理・メンテナンスサービスの提供を行っている企業や、リース・レンタルを提供する企業など多岐に渡っているのが実際です。
具体的に、どのような住み分けがされているのかを見ていきましょう。
まず、フォークリフトの製造企業に関して。主にフォークリフトの製造や、直販店・専売店などを通しての販売を行っています。直販店や専売店などを通した販売の中で、リース・レンタルといったサービスや、修理・点検といったサービスを行っているのも特徴です。
次に、フォークリフトのリース・レンタルを専業として提供する企業は、運送業や物流の繁忙期などに長期的・短期的な利用を問わずレンタルを行っている企業です。
その一環で修理・メンテナンスサービスを提供している場合が多く、長期的な利用の場合は別途リース・レンタル期間中に修理・メンテナンスを行っています。
フォークリフト業界の市場の動向を鑑みるにあたり、フォークリフトの海外需要の高さを考慮しグローバル需要を踏まえて検証していきます。
グローバル市場は2022年には622億ドル以降2032年には1,294億ドルとなり年平均成長率7.6%の成長が見込まれており、その主要因としてECサイトの発展が挙げられ、今後さらに拡大をしていくと予想されているようです。
さらに市場動向をより明確にとらえるため、PEST分析を用いて俯瞰して分析をしてみます。PEST分析とは、自社を取り巻く外部環境が現在/将来的にどのような影響を与えるかを把握・予測するためのフレームワークであり、「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の4つを分析対象として、様々な情報を収集しつつこれらに当てはめていく手法です。
実際にフォークリフト業界に影響を与える要素を、具体的に把握していきましょう。
分析に際して、まず「Politics(政治)」においては、法律の改正や政府が掲げている取組に関して検証をしていきます。また、今回のフォークリフト業界においては、海外の需要も高く、海外の法規制を製造・販売においては受けるため海外の情報に関しても把握していく必要がありそうです。
次に「Economy(経済)」においては、景気やインフレ・デフレの進行、為替などから、経済の動向を検証していきます。今回は前述のとおり海外需要も高いため、為替に注視して分析をすることも念頭に。
3つ目の「Society(社会)」においては、消費者のライフスタイルなどを分析の対象とするため、消費行動に関しての近年の傾向や変化といった点に関して検証していきます。今回は特に、購買意識に関しての部分にフォーカスを当てて分析を行うとよさそうです。
最後に「Technology(技術)」においては、時代の流れにつれて登場する新しい技術を対象として検証をしていきます。今回は物流のDX化においてフォークリフト分野ではどのような技術が対象となるかを分析していきます。
Politics(政治)の観点では、今回は法規制という要素が挙げられます。2024年に5年間の猶予期間が終了した「労働基準法」により、トラック運転手の時間外労働時間を年間960時間までとする規制がついに適用されました。
また、「物資の流通の効率化に関する法律」の改正により、積載効率の向上・荷待ち荷役時間の短縮が努力義務となり、各物流・倉庫事業者は荷積み作業効率の向上を図る必要があります。
これにより、フォークリフトによる荷積み業務の無人化などを行うことで業務の効率化や、人手不足の解消に向けた取組を各社が行っていく必要があり、無人フォークリフトの需要が増加しそうです。
Economy(経済)の観点では、国内のフォークリフトの製造企業は海外の売上比率が大きいため、現在の為替の変動を大きく受けることを念頭に入れる必要があります。直近一年間は140円台から160円台まで、幅広く変動しており、今後も注意が必要といえそうです。また、中国をはじめとしたアジア圏の経済成長により、ECサイトでの買い物の増加などから物流の需要増加が要素として考えられ、フォークリフトの需要は高いと推察されます。
Society(社会)の観点では、EC販売などの拡大により、物流倉庫における需要の拡大という要素が挙げられるでしょう。
コロナ禍以降、実店舗を利用せずに自宅で買い物をすることに対しての忌避感の減少、物価上昇による実店舗での買い物の減少といった影響からECサイトの利用が増加傾向にあります。
それに伴い、取引量が増加するものの、個人に提供するBtoCビジネスが主流となり、BtoBビジネスと比べると物量が少なくなるでしょう。
しかし、配送先は多岐わたるため輸送回数、輸送能力の需要が増えていくと考えられます。
またBtoCビジネスの場合、購入後消費者の即時配送の要求が高い一方で、商品を迅速に保管・出荷するためのスペースが足りなくなるはずです。
そんな中、都市部の土地が高騰しているため倉庫のスペース確保も困難となっており、配送の遅延やコストが発生することが予想されます。
そのため、スペースの効率的な活用や、自動化技術の導入を求められる物流業界の需要がフォークリフト市場の拡大にも大きく寄与しそうです。
最後に、Technology(技術)の観点では、「無人フォークリフトの普及」や、「フォークリフトの遠隔操作」といった要素が考えられます。
フォークリフト業界においてもAIやIT技術を利用し、現地にいなくても業務を行うことで生産性を高める動きが進みつつあります。
ここでは、フォークリフト業界にどんなプレイヤーがいるのか紹介していきます。
まず製造・販売における主要プレイヤーの洗い出しを行っていきましょう。
フォークリフト製造・販売において売上高・生産台数・販売拠点といった企業情報の観点と、外部情報である市場調査レポートなどの外部資料の主要プレイヤーに記載されている企業を主に主要プレイヤーに置いていきます。その際に注意点としては、外部情報においてはフォークリフト製造企業の親会社がプレイヤーとして記載されている場合などがあるため、実際の企業HPなどから主要業務として行っている企業はどこであるのかの確認を忘れずに。
今回は、売上高・生産台数・販売拠点といった企業情報と市場調査レポートより、製造・販売の主要プレイヤーは、豊田自動織機・三菱ロジスネクスト・コマツ・住友ナコの4社とします。
各社それぞれ、製造している製品・販売手法に特色がありますが、今回は共通している取組に関して紹介していこうと思います。
まず、製品において、現在鉛蓄電池の製品とリチウムイオン電池の製品を製造しており、近年の商品においてはリチウムイオン電池をバッテリーとした製品が各社ラインナップの中で増えつつあります。
リチウムイオン電池が増えている背景としては、カーボンニュートラルに向けた取組の影響と、鉛蓄電池に比べバッテリーの充電時間が短く稼働時間が長いなどといった機能面も含め増加していると推察されます。
次に販売手法としては各社直販店や、専売店が非常に多く全国に店舗を有しており、特に直販店においてはサービスの内容が充実している点が特徴です。
また、国内のフォークリフトの販売実績は直近5年間で約8万台の売上で推移しており、特にバッテリー式のフォークリフトにおいては売上台数の割合が増加傾向に対して、ガソリン式のフォークリフトは販売台数が減少傾向です。
この傾向は、ガソリン式のフォークリフトが今まで選ばれていた、1tから2.5tの中型フォークリフトの市場において、カーボンニュートラルへの取組などにより、環境にやさしいバッテリー式のフォークリフトが選ばれるようになったことが要因といえるでしょう。
リース・レンタルを提供する企業は各地域に存在しており建機等と一緒にリース・レンタルを提供する企業と、フォークリフトを専業とし、リース・レンタルを提供する企業に分類できるでしょう。
製造・販売企業との住み分けはされており、リース・レンタルを提供する企業は新車のつなぎとしての利用や、車輌管理、繁忙期といった際に利用されることを主な利用方法としているようです。
また、主な顧客を考えた際、倉庫業務などにおいては、バッテリー式のフォークリフトが主要になるため、需要は増加しており製造・販売企業との顧客の奪い合いは起こりにくいと考えられるでしょう。
ここからはフォークリフト業界の課題を考えていきましょう。
まず課題として挙げられるのは、人材不足。フォークリフトの免許は比較的簡単に取得できるものの、求人等においては実務経験を要求されることが多く、免許を取得しても就職できないといった状況があるとのことです。
また、免許取得者は2008年からコロナ禍前の2019年にかけて33%減少しています。そのため、実際のフォークリフトを利用する現場は、比較的に簡単に免許を取得できるものの、取得者が減少、取得したとしても実務経験が要求されるため、人材不足につながっている点が課題と考えられそうです。
次に課題として挙げられるのは安全性の問題があります。
フォークリフトによる死傷事故は2022年に約2000件発生しており、今後トラックドライバーの時間外労働の削減により、今までトラックドライバーが行っていた荷積み作業をトラックドライバーではなく、フォークリフトオペレーターへ移行すると考えられます。
それにより、今までフォークリフトオペレーター業務を行っていなかった、非熟練者のフォークリフトオペレーターが増える中で死傷事故の増加が懸念されるでしょう。
上記に挙げた2つの課題に対して物流のDX化という観点と、企業による工夫といった観点からの取組が進みつつあります。
まず物流のDX化という観点からは、フォークリフトの「無人化技術」と「遠隔操作技術」を取り上げたいと思います。
フォークリフト製造・販売企業は、無人のフォークリフトの製造に力を入れています。その結果、海外企業を含め倉庫作業現場では無人化フォークリフトの採用がされつつあります。
また、無人化フォークリフトの採用ではなく、既存のフォークリフトに遠隔操作用のシステムを組み込むことにより、一人の操縦者が複数の拠点のフォークリフトを操縦できるような研究をNECと日本通運が共同で進めているようです。
次に企業の工夫という観点では2つ実例を紹介していきます。
1つ目の取組は、ライフサポート・エガワという配送業の企業の実例です。この企業では毎年大卒女性や外国人を、オペレーターとして定期採用を行うことにより、会社の戦力として定着しているようです。
採用されたオペレーター候補はフォークリフト業務の、実践研修を先輩社員と行っていくことにより、実務経験による技術の向上を促し、人材の新規発掘を行っています。
2つ目は、タイミーとロジテックによる取組実例です。タイミーではフォークリフトの免許取得後の運転技術向上研修を開催することにより、技術の向上を図っています。また、研修終了後にはタイミーからロジテックのフォークリフト求人を紹介することにより、研修によって習得した経験を活かしスポットworkを行うことができるという取組を実施。
これにより実務経験を積むことができ、求職者と人手不足の物流業界の人材確保・育成といった課題解決につなげている例があります。
フォークリフト業界の今後の動向を考えるうえで、市場の需要に関しては日本国内を含め、ECサイトによる販売の需要拡大などよる、引き続きの拡大が予想されそうです。
そのことを念頭に置いたうえで、考えなくてはいけないのは法規制の問題についてです。
前述した課題の中でも挙げているようにトラックドライバーの時間外労働時間を年間960時間までとする規制の適用、積載効率の向上・荷待ち荷役時間の短縮を努力義務とする法律の制定により、トラックへの荷積み作業の効率化や、トラックドライバー以外のフォークリフトオペレーターの確保という点が必要となってきそうです。
その中で、注目されるのは物流のDX化による無人フォークリフトの導入が非常に注目されてくるでしょう。
世界市場においては中国企業のロボット製造企業などが、他社の無人フォークリフトに比べて低廉な価格による販売を行っています。国内においても、フォークリフトのハードウェアの提供を受け、フォークリフト業界へ参入するロボティクス企業もあるようです。
しかし市場への流通に向けては課題もまだあり、「有人のフォークリフトに比べ作業スピードが遅い」、「倉庫のレイアウトなどによっては無人フォークリフトの利用ができない」、「そもそも自動運搬に向いていない製品・業種が多い」、「導入にお金がかかる」といった課題も。
そのため無人フォークリフトの流通までのつなぎとして、自動運搬に向いていない製品、業種に関してはタイミーが取り組んでいるような運転技術向上の研修から短期求人の提供といった取組や、外国人労働者の採用といった人材発掘の必要性が引き続きありそうです。
外国人労働者の採用においては、全国にある教育機関において外国語講習を行っている機関もあり、厚生労働省からも実際に外国語講習を提供している機関のリストが提示されるなど情報開示を行っています。
今後も、ECサイトによる販売の拡大や物流の人材不足に対しての課題解決に向けたソリューションが生まれてくるフォークリフト業界に注目していきたいと思います。
最後に本記事ではフォークリフト業界という、特定業界についての例を取り上げさせていただきましたが、実際は今回の分析を他業界に変えることで市場環境分析を行いたい業界の分析ができます。
以上を踏まえて、今後コンサルに挑戦したいと考えている方や自社の市場環境を分析したいと考えている方にとって有益な情報となれば幸いです。
【参考】
Spherical Insights「世界のフォークリフト市場」
日本産業車両協会「フォークリフト生産、国内販売、輸出実績…」
Logistics Today「無人化と人材確保、問われる物流現場の過渡期対応」
Timee「タイミー、ロジテック協力のもと、フォークリフト運転…」
BUSINESS INSIDER「NECとNXHDがフォークリフトの自動化…」
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト