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この記事では、事業拡大や新規事業開拓などにおいてマーケティング戦略を立案する際、どのような情報源、調査方法が存在し、どのように活用できるのか、また実際に調査の一部分を行い、ご紹介していきます。
コンサルティング会社も、デジタルマーケティングを含め、マーケティング戦略のご支援を行っており、「調査」はファーストステップとして欠かすことのできない工程です。コンサルティング会社によるデジタルマーケティングのご支援についてはこちらの記事(デジタルマーケティングってコンサルファームでもできるの?)をご覧ください。
本記事では、まず調査の方法をご紹介する前に、調査の結果から何を得るべきかという話から始めたいと思います。
調査は「こういう結果が得られた」でおしまい、ではありません。そういった調査は知的好奇心を満たすという意味はあるかもしれませんが、実際のビジネスには結びつかないものとなってしまいます。実際にビジネスとして次のステップにつなげていくには、調査から得られた情報・ファクト(事実)をもとに、どのような傾向がみられるか、今後どのような変化が予想されるのか、情報・事実から考えられることをプラスアルファで出していくことが必要になります。
これを“示唆出し”と呼んでいます。
少し抽象的な内容ですので、例えをお話ししましょう、
仮に、朝、外で人が走っていたとします。
「人が走っている」のは事実で、そこに「焦っているようだった」、「髪もセットされていなかった」などの分析が加われば「電車に遅れそうで急いでいるのでは」ということが考えられます。
もし「スポーツウェア」を着ていたというファクト(事実)があった場合は、「朝のランニングをしている」、「運動不足なのかな」ということも言えるでしょう。
このファクト(事実)から導き出されたものこそが、“示唆”です。
調査を調査で終わらせるのではなく、この“示唆”を出すことによって、マーケティング戦略の根拠となる調査の価値も変わってくるのです。
“示唆出し”をするためには、どのような調査/分析が行われているか、この記事がご理解の一助となれば幸いです。
まず目的の設定が最も重要です。単なる業界・市場への理解のためなのか、商品・サービスの売上拡大の戦略立案のためなのか、新規開拓・新規事業を視野に入れた調査なのか、企業買収のための前提知識として必要なのか、仮に調査すべき対象が同じであったとしても、目的によって調査方法も分析軸も、当然調査結果も変わってきます。
そういう意味で「何のための調査なのか?」、そのために「何を明らかにしたいのか?」という目的は必ず設定しておく必要があります。
また目的に応じて、以下の進め方を使い分ける必要があります。
まず調査すべき「問い」を「論点」、それに対する答えを「仮説」(初期仮説)として設定して調査を進める方法があります。これを「トップダウン方式」などと呼んでいます。調査では「初期仮説」が正しいかどうか調査を進め、正しくない部分は修正を加え、仮説をアップデートしていきます。
トップダウン方式の利点は、より正確な結論を導き出せることです。
それは解消すべき問いを論点として設計しているため、解消すべき論点が漏れていなければ、論点を解消するファクトをつなぎ合わせて検証することで、初期仮説を結論へとアップデートすることができるからです。
また調査対象について、国の政策や市場の動向など、より大きな視点から調査を始めることがありますが、これも広い意味でトップダウン、と呼ぶこともあります。
一方、分析軸を設定し、ファクトを集めて論理展開していくのがボトムアップ方式、帰納法です。
まず調査対象で、分析する軸・指標を決めます。軸は、国の人口や経済指標、企業の売上でも、サービス内容、ニーズも、どの要素も軸になり得ます。そして分析軸に基づき、調査で関連するファクトを集めていきます。例えば「このサービスの利用者は毎年増加している」とか、「この国・地域では、○○について課題を抱えている/いない」など、比較できる内容で調べていきます。
全体・概況を踏まえた上で方針策定や戦略立案を行う場合はトップダウン方式が有効でしょうし、マーケティングにおいてファクトから傾向を掴みたい場合はボトムアップ方式が必要になってくると思います。どの方法を採用するかは、目的に応じて、使い分ける必要があります。
調査を実施し、分析を行っていきます。必要に応じて資料などにアウトプット化します。実際の調査では、スピードは勿論ですが、調査すべき対象・内容に漏れがないか「網羅性」、内容の正確さや信頼性など「精度」が求められます。
具体的な調査方法についてはこの後ご紹介します。
まず消費者の行動やニーズを掴むために行われるのが、消費者調査です。
消費者調査は、知りたい情報に合わせて質問を設計し、対象とする地域や年代などの属性も
「誰に何を聞くか」カスタマイズできることが大きなメリットです。
消費者調査を専門とする会社に依頼すれば、調査の対象や質問項目をこちらで設定したうえで、消費者に向けて広く、動向を探ることができます。
しかし、ネックとなってくるのが費用面です。いざ消費者調査を行おうとすると百万円単位の費用がかかります。
そのため消費者調査は目的に沿った調査が行いやすい反面、気軽に何度も行えるものではありません。そこで次は費用面でもハードルの低い調査方法をご紹介します。
業界動向や消費者行動を調べる上で、最も一般的な調査方法がデスクリサーチです。ここでは私たちがどのような情報源から情報を得ているのかをご紹介します。
「消費者の行動やニーズを知りたいが、消費者調査は高くてできない」という場合、
「○○に関するアンケート」などという名前で、インターネット上で結果が公開されているものもあります。
必ずしもピンポイントで知りたい情報にマッチするわけではありませんが、大まかな傾向は掴むことができるでしょう。
上場している企業であれば、HPで「有価証券報告書」が公表されています。
業績や株式などの詳細な財務情報や事業ごとの展開状況について記載されており、定量的な情報と定性的な情報の双方を得ることができます。そこから企業の成長性や抱えている経営課題を読み取ることも可能です。
有価証券報告書それ自体は非常に情報量が多いので、目的に合わせて必要な情報をピックアップする必要がありますが、
また「中期経営計画」も重要な情報源です。
その企業の現状から将来に向けた方向性・目標、事業戦略などが整理されています。
国の機関や自治体、具体的には経済産業省や農林水産省などでは、特定の産業や業界に関する政策や動向について、実施された会議の資料を公表していることが多いです。業界の関連企業やシンクタンクが作成したものも含まれており、その業界についての「調査結果」を効率的に知ることができます。また資料では海外市場の把握の必要性から、海外動向についても触れられていることがあり、日本語で海外動向を大まかに知ることもできます。
多くのコンサルティング/リサーチ企業は、いくつかの企業が提供するデータベースを利用しています。
データベースは有料ではありますが、メディア記事や市場レポート、企業の財務情報など多岐にわたる情報ソースを利用できます。
コンサルティング・リサーチ会社やシンクタンク、業界団体などが特定の業界の動向についてレポートを発表している場合があり、これを「市場レポート」と呼んでいます。この「市場レポート」には、市場の規模や企業の動き、課題や展望などがまとめられており、その業界への理解や、調査を行う上でとても便利です。
しかしこの市場レポートですが、業界理解に有用な分、1つのレポートで数十万円の費用が必要な場合が多く、余裕がなければ毎年、各業界ごとに購入することは難しいでしょう。
ですが無料でインターネット上に公開されているレポートも多くありますので、そこから得られる情報を活用しつつ、最新の動向を掴んでいくことが重要になります。
市場レポートは調査に基づいた専門的な内容、細かい情報も多く含まれていますので、調査において重要な情報源となっています。
実際、消費者行動を理解していないと見出すことのできない“示唆”があります。
消費者行動を肌で感じる、というと大げさかもしれませんが、消費者の目線により近づくための調査がフィールド調査です。
マーケティングの実地調査というとなかなかイメージが沸きにくいかもしれませんが、実際に現場に行って、消費者の視点に立ちつつ、分析を加えるのが実地調査です。
例えば、とある商品の売上を伸ばそうとするとします。
その場合、実店舗での実地調査では商品棚に着目できると思います。
店舗の商品棚における商品を企業別に分類、実際の売上を調べることで、陳列場所と売上の関連性を掴むことができます。もし関連性があった場合、ブランドの知名度だけでなく、陳列方法の工夫だけでも、売上を伸ばすことができるかもしれません。
実地調査というと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、特別なツールや関係者へのコンタクトを要せずとも、実施可能な調査はあるのです。目的に応じて、必要な情報のレベルに合わせた調査を行うことが重要になってきます。
インターネットや文献の調査では得られない、より細かい、専門的な内容については専門家へのインタビュー調査(エキスパートインタビュー)が有効です。
弊社コンサルタントもインターネットや文献から得られる情報を大いに活用していますが、調査を進める上でネットや文献では明らかにできないことがあります。その際は関連業界の企業や団体、管轄省庁への問い合わせも行っていますが、それでも解消できない問いが残ります。
エキスパートインタビューは、その名の通り対象の業界について知見を持つ専門家・従事者へのインタビューですが、明らかにしたいことを、その場で追加で質問することでより細かく掘り下げていくことができるのが利点です。
当然、事前に質問事項やその順序も含め、限られた時間を活用するために綿密な準備が必要になりますが、その場で臨機応変に、より柔軟な調査が可能な方法です。
これまで調査の進め方、方法についてご紹介してきましたが、本記事でも実際に簡易的な調査をやってみましょう。
今回は「派遣ビジネスはどのように変わっていくか?」というテーマで、派遣ビジネスへの進出も視野に入れた市場理解を目的とし、調査を行うこととします。
まず、今回は市場の理解、事業方針にかかわる調査ですので、トップダウン方式の調査を採用します。
目的と進め方を設定しましたので、論点は初期仮説を設定します。
・論点1:派遣ビジネス市場は成長傾向にあるか?
・論点2:派遣ビジネスにおける課題は何か?
・論点3:少子高齢化は派遣ビジネスにどのような影響があるか?
・論点4:AIの普及は派遣ビジネスにどのような影響があるか?
本来であれば上記に加え、「拡大しているなら、その要因は何か?」など実際には追加すべき論点は多くあるのですが、ここでは割愛させていただきます。
上記の論点への対応として初期仮説は「派遣ビジネス市場は拡大傾向にあり、少子高齢化の進行を背景に人手不足が予想されることからニーズは高まるが、AIの普及もあり単純作業への派遣は減少すると推察」とします。
では論点を順々に解消していきましょう。
これについては複数のリサーチ企業・シンクタンクが市場規模を発表しています。こちら今回参考にするレポート(矢野経済研究所:人材ビジネス市場に関する調査を実施(2023年) )は有料ですが、市場規模や将来展望など概況的な内容は無料で見ることができます。
これによると2022年の派遣ビジネスの市場規模は約8.9兆円で、前年比で7.6%増加しており、人材紹介や再就職支援を含めた人材関連ビジネス全体でも成長傾向にあることから、派遣ビジネス市場も成長傾向にあると言えます。
将来展望には「多くの企業で人手不足は続き」、「人材関連サービスに対する需要は高まっていく」とあることから人手不足を背景とするニーズはありそうです。
論点2:派遣ビジネスの実態・課題は何か?
次に派遣ビジネスにおける実態・課題を見ていきましょう。
トップダウンの調査ですので、業界的な実態・課題を掴むため、政府機関などの公的資料から当たっていくこととします。
人材派遣など労働について管轄しているのは厚生労働省です。ですので、ネットリサーチで「人材派遣 課題 厚生労働省」などと検索すると活用できそうな資料が多く出てきます。
今回は厚生労働省の実施する「労働者派遣制度等の今後のあり方についての調査・研究事業」において、既にコンサルティング会社が調査した資料(PwCコンサルティング(2023) 「令和4年度 労働者派遣制度等の今後の あり方についての調査・研究事業」 )がありましたので、こちらを活用します。
こちらの調査は、調査対象として約1万の事業所、2,600人の労働者への調査を行ったとあり、厚生労働省の事業、専門家の議論の材料でもあることから、情報ソースとしての網羅性、信頼性などに問題はないと判断できます。
この調査によると、実態として「サービス業」や「事務」、「運搬・包装」などの職種で「未経験でもすぐにできるレベル」の業務への派遣が多いようです。
このファクトは、直接的ではないですが論点4の「AIの普及」の影響を受ける「単純労働」が含まれており、次の調査にも論理的につなげることができそうです。
また課題ついて、派遣に関する法・制度についての企業アンケートから見出すことができます。法・制度について企業は「年収は自己申告制で、要件を満たした派遣ができているか不安」、「年収要件によって就労機会が減少している」などの評価をしているとあり、これららのアンケートからは年収要件による日雇いの原則禁止が、労働者の就労機会のを減らしているファクトが得られ、人材派遣のニーズを満たすためには制度の緩和が求められていることが言えます。
初期仮説では、少子高齢化により労働人口が減少することから、「人手不足が予想され、ニーズは高まる」と推測しました。確かに労働人口の減少と人手不足は関連しているとするソースは複数ありますが、少子高齢化がイコール労働人口の減少とは必ずしも言えない情報も出てきました。
少子高齢化の進行や、平均寿命の伸長、企業の定年延長などから想像がつくように、高齢者の就労意欲は高まっています。そのことを考えると、「少子高齢化⇒労働人口減少⇒派遣ニーズ高まり」という構図自体は間違いではありませんが、高齢者の就労意欲の高まりから、高齢者の人材派遣サービスの登場が予期され、「労働人口の減少」と一面的には言えなくなってきました。この場合、初期仮説には修正が必要になります。
「AIに奪われる仕事」が話題になるなど、労働現場におけるAIやロボットの普及により、単純労働の自動化など人の手で行われていた作業が代替されていくことは容易に想像できます。また、AIの進化により、専門的知識の学習も可能となることから、知的労働も代替されていくという話もあります。
しかしまだ人間によって担われる必要がある領域も存在します。
例えば医療においては、データの蓄積により疾患の解析は進んでいくでしょうが、診察などで最後は医師による判断が必要になるわけです。
「AIを導入してもなくならない仕事」と調べますと、医師や看護師、介護士などは簡単にはなくならないとされています。
そのことからも派遣ビジネスはAIやロボットの影響を受けつつも、求められる領域はまだまだ残っていくと考えます。
結論として、派遣ビジネス市場は、基本的に拡大傾向にあり、高齢化や人手不足を背景に、AIの普及による単純労働の自動化が進んでも、専門的職種など一定のニーズはあると見込まれる。そのため今後、専門人材の流動性が高まっていくとも予想できる。
AIやロボットによる代替の可能性は大いにあるが、高齢化でニーズの高い医療や介護など人の手を必要とする職種や、IT系や研究開発など専門性が求められる職種など、一定の需要が今後も予想される専門的職種は、育成に時間やリソースが必要である一方人材の確保が急務であり、派遣する人材の確保や信頼性などの参入における課題はあるものの、参入余地はあると考えられます。
「示唆」は解が複数ある方程式のようなものです。
同じ情報や調査結果を持って積み上げたとしても、コンサルタントによって、導き出される示唆は必ずしも同じではないからです。
しかしどのような示唆であっても、根拠をもって、論理的な思考をもとに、お客様が納得できる説明ができ、次のステップに繋げることができるのがコンサルタントの価値です。
この記事では代表的な調査の方法をいくつかご紹介しましたが、実際に業務として行う姿は、かなり地道です。弊社も、地道な調査と分析を丁寧に積み重ね、事業の次のステップに繋がるよう努めています。
弊社はジュエリーという事業を持つコンサルティングファームであり、大手企業や官公庁、中小企業も含め、調査・分析についても幅広い知見と実績があり、抱えておられる課題の整理から、実際の調査、結果のご報告まで、丁寧に伴走いたします。
新規事業の開始などに際し、リサーチにお困りごとを抱えておられる企業のご担当者様、また未開拓の業界・市場へのリサーチにご興味をお持ちの企業ご担当者様は、下記のフォームよりお問合せいただければ幸いです。ご連絡をお待ちしております。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト