AC社長ブログ「ともに、つくる」vol.11

ブランドのものづくり

今月は三週に渡って生産部の研修を行いました。「良いものづくりとは?」を皆んなでディスカッションする中で、ithのものづくりが見えてきました。

当社がものづくりへの憧れからスタートしたのは以前にも触れましたが、縁あってジュエリー業界に新規参入させていただいて以来、この業界からものづくりについて様々なことを学んできました。

実際に身を投じて知ったのは、日頃テレビ等で称賛される日本のものづくりとのギャップです。

例えばジュエリーの製造現場では、工場の海外移転や低賃金に抑えられた外国人労働者の帰国により、国内における技術の伝承が上手くいかなくなっています。実際に集積地の山梨を訪ねると外見は立派でも職人は数える程しかいない工場が多いことに驚きます。

それは長らく「売れるものをつくれ」という販売優位の中で国内産業が作られてきた結果だと、私は思います。

例えば、欧州ブランドであれば、どのブランドにも必ず起源としてのものづくりを感じます。
しかし、日本のジュエリーでものづくりを感じさせるブランドはとても少ないのが実状です。もちろん、それらブランドもスタートはものづくりだったはずです。しかし流行を追うことに執心した結果、自らのオリジンを語ることを辞めてしまったのでしょう。

また想像力の欠如もあります。例えば日本の御家芸である真珠産業。以前私が養殖場の視察に行った時のこと。アコヤ真珠は養殖し毎年出荷されますが、食べたら消える農産品と違い、その方法ではいつか商品が溢れ価格が下落することになる。門外漢ながらそう疑問を抱きました。しかし現場では皆マジメに毎年浜揚げしては出荷を繰り返します。厳格な需要調整で価格を維持するダイヤモンド産業と比べると大きな違いです。

自らの根を忘れてしまったブランドは語るべきストーリーを失い何の付加価値も纏わないモノを売るしかなくなります。
その上、自らの未来を描かず横並びで同じことを繰り返せば、付加価値のないモノは必ず安きへ流れる。

そして今、国内のジュエリー業界はものづくりの現場に安さばかりを追求するようになり、技術の伝承が途絶える危機に瀕しています。

研修では皆んなでこのジュエリー業界の現状を確認した上で、他の誰のものでもない、私たちのものづくりとは何かを話し合いました。

結果、私たちが目指す「ブランドのものづくり」という答えに辿り着きました。

それは工場のものづくりとは異なります。
工場はモノをつくりますが、私たちのものづくりの現場はブランドという付加価値を纏ったモノをつくります。

工場のモノは単に原価+工賃で値付けされるものですが、私たちのモノは原価+工賃+ブランド料で値付けされます。その価格差はとても大きなものです。

ブランド料とは何か、それは具体的に最高の顧客体験を実現するアトリエという舞台(家賃、減価償却費)であったり、ブランドを体現するつくり手という人(人件費)であったり、メディアを通して語られる数々のストーリー(広告費)であったりしますが、その根底を共通して流れる最も大切なのは私たちメンバーの「たくさんよりも、ひとつをたいせつに」という思いです。

ブランド料とは単なるロゴ代ではありません。
それは、ひとつひとつに思いを込める行為。情緒的な比喩でなく、本当にその思い(体験、舞台、人、ストーリー)の総額なのです。

そう理解出来た時、職人も生産管理も始めて自分たちの仕事は単なるものづくりではなく、ブランドのものづくりなのだと気付きました。

最後に研修に参加したメンバーからこんな言葉をもらいました。「日常の作業は単調になりがちですし、自分の持ち場しか見えなくなりがちで、いつの間にか自分は単にモノをつくっているという気分になり、そういう仕事振りや発言をしてしまう時もありました。でも今日改めて自分たちがブランドのものづくりをしていると理解出来たことで明日からの仕事への向き合い方が変わった気がします。」

工場のものづくりとブランドのものづくり。皆んなもその違いについて思いを馳せてみてください。姿勢が少し整うかもしれません。

宮﨑

「ともに、つくる」は主にインナーコミュニケーションを目的とした社長ブログです。

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宮﨑晋之介

アーツアンドクラフツ代表取締役社長。考えるよりも動く現場主義。創業以来一貫して事業の最前線に立ち様々なパートナーと価値をつくりあげる。