目次
デービッド・アーカーの「ブランド論」を基にして、ブランド構築のための前提条件とブランド構築のために必要な考え方を2つの項目に分けて紹介していきます。
ブランド構築のための前提条件では、ブランドは資産でありそれを高めるためのポイントと評価方法について紹介しています。
またブランド構築のための必要な考え方では、自社にふさわしいブランドビジョンの重要性や、その構築においてのフレームワーク、組織の価値観とブランドパーソナリティの密接な関係、ブランド戦略において重要なマストハブについて触れました。これらはブランド構築において不可欠な要素であり、進化し続ける市場での存在感を確立するのに役立ちます。
1980年代後半にブランドは資産であり、事業戦略および業績を左右するものだという発想が生まれ、単なる商標やロゴだけでなく、企業のアイデンティティや顧客との信頼関係においても重要な役割を果たしています。それまでブランド・マネジメントとは、戦術であり広告担当マネジャーや広告代理店に委ねることが可能と思われていました。なぜならば業務の大半は会社のイメージ操作や広告キャンペーンの企画、販売促進案の考案などであったからです。しかしブランドが資産としてみなされるようになってからブランド・マネジメントは戦略的かつビジョンを描くものへと変わりました。ブランドが成功すれば、その資産価値は企業全体の価値に大きな影響を与え、市場での競争において優位性を築くことができます。
ブランドの資産価値はブランドエクイティといい、企業はブラントエクイティを築き、高め、活用することが必要です。またブランドエクイティは将来に向けた競争優位と長期的収益性の基盤にとなります。ブランドエクイティを高めるためには、以下の3つのポイントに焦点を当てる必要がります。
ブランドには資産価値があると言ってきましたが、その資産価値の推計方法を紹介します。ブランド資産価値は下記3つのステップで算出することが可能です。
この推計方法には、主観的パラメーターが使用されることから不確実性と先入観があるとデービッド・アーカーは述べています。現代においてもブランド資産の算出方法について様々な議論がされています。そのため推計値はブランドやブランド構築のマネジメントに使用することはできません。しかしブランド構築のプログラムと予算を決める際の参考とすることが可能です。
ブランドを構築するには、方向性や着想、根拠を与えてくれるブランドビジョンが不可欠です。ブランドビジョンとは、ブランドがこうなって欲しいと願うイメージを言葉で説明したものです。自社にあったブランドビジョンを生み出せると、事業戦略の助けとなり、競合との差別化、社内外との関係に刺激を与えマーケティングに大きく影響を与えます。逆にブランドビジョンが不在または定まっていない場合、マーケティングに一貫性を失い効果を発揮できない可能性があります。
ブランドビジョンを生み出すためのフレームワークとして、ブランドビジョンモデルがあります。ブランドビジョンモデルはコアビジョンエレメントと拡張ビジョンエレメントを持ち、ブランドごとの独自環境にカスタマイズでき、高い理想を抱き、製品市場ごとの違いに応じた修正もできるモデルのことです。
コアビジョンエレメントとは、ブランドビジョンの中心となる要素のことであり、ブランド構築を行うための計画や構想に必要となります。コアビジョンエレメントを選出する方法は、まずブランドの基盤となる要素をいくつか上げ、その中で最も顧客に影響を与え、他社との差別化を可能とする要素を選ぶことです。
拡張ビジョンエレメントとは、コアビジョンエレメント以外の要素のことです。つまりブランドの基盤となる重要な要素ではあるが、他社との差別化を可能としない要素のことです。
ブランドビジョン構築プロセスの中で重要となるのは、高い理想を揚げたブランド連想をすべて書き出し、グループ分けを行い、それぞれのイメージに名前を付ける作業です。ブランド連想は顧客の心に響き、顧客にとって真に大切であり、今後の事業戦略を反映し後押しするものです。
組織の価値観とブランドパーソナリティは、ブランドの持つ個性や特徴、そして組織の核となる信念や行動規範を表現します。これらの要素がしっかりと統合され、一貫性を持って表現されることで、ブランドは顧客との強い結びつきを築くことができます。
ブランドパーソナリティとは、ブランドが持つ人間的な特性や性格を指します。例えば、若々しさ、信頼性、革新性、友好性、冒険心などがその一例です。これらのパーソナリティは、消費者に対してブランドとの親近感や共感を生み出し、ブランドに対するロイヤルティや好意を高めるのに役立ちます。
組織の価値観は、企業が大切にする信念や行動規範、そしてビジネス活動における基本的な原則を示します。これは組織全体が共有し、実践するべき価値観であり、従業員や顧客に対する責任や義務を規定します。価値観は企業の文化や行動に反映され、企業の取り組む社会的責任や倫理観、およびビジネス上の優先事項を示します。例えば、透明性、誠実さ、社会貢献、品質へのコミットメントなどです。
組織の価値観とブランドパーソナリティは密接に関連しています。組織の価値観がブランドの根幹にあると考えることが多く、ブランドパーソナリティはその価値観を表現する手段の一つとして機能しています。
組織の価値観がブランドパーソナリティと一致している場合、ブランドはより強力な印象を消費者に与えることができます。また従業員は組織の価値観に共感し、それをブランドパーソナリティに通して外部に伝えることができます。この一貫性は、消費者に対してブランドの信頼性や誠実さを伝える効果的な手段となるのです。
逆に、組織の価値観とブランドパーソナリティが一致しない場合、ブランドは消費者に対して信頼性を失う可能性があります。当たり前のことですが、組織の行動とブランドのメッセージが一致しない場合、消費者はブランドを信頼しづらくなり、忠誠心を失う可能性があるため注意が必要です。
そのため、ブランドパーソナリティと組織の価値観は、ブランドの強さや信頼性を構築する上で重要な要素となります。組織はこれらの要素を適切に統合し、一貫性を持って表現することで、消費者との深い関係を築くことができるのです。
顧客がブランドを選択する基本的な要因として、機能、情緒、自己表現、社会的の4つの便益があります。これらの便益の中で機能以外は感情的な要因であり、顧客は無意識のうちに感情的な要因を意識しているといわれています。そのため機能的便益のみに重視するのではなく情緒や自己表現、社会的便益も重視する必要があります。さらに前述したブランドパーソナリティ、組織の価値観を含め、情緒、自己表現、社会的便益は顧客との関係とロイヤルティを推進する強力なドライバーとなります。
マストハブとは、顧客にとってブランドが必須要件になることを指し、差別化ポイントの中でも特に重要な要素です。マストハブを生み出したら競合がレレバント(関係性)になるのを防ぐ参入障壁を築かなければ意味がありません。マストハブは戦略的に選ばれた特定の要素や特長であり、ブランドが他社と差別化され、市場での存在感を高めることが期待されます。例えば、製品の特許技術、独自のデザイン、または業界でのリーダーシップなどがマストハブになり得ます。これにより、顧客はブランドの独自性を認識し、競合他社との比較においてブランドを選好する要因となるためです。また特許技術や著作権などは究極の参入障壁となります。
マストハブを生み出し参入障壁を築くことは、ブランドの強みを最大限に引き立て、競争激化する市場において差別化を果たす重要な鍵となります。そのため、ブランド戦略においてはこの要素に注力し、市場での差別化を図ることが成功の鍵と言われています。
本記事では、ブランディングの父として知られるデービッド・アーカーの「ブランド論」を基にブランド構築のための前提条件と考え方を紹介しました。インターネットで情報を集めることが当たり前となった現代において競合との差別化が難しくなり、どのように自社をブランディングしていけば良いのかわからない経営企画担当者の方は多いのではないでしょうか?
ブランドを構築するためにはブランドビジョンが不可欠です。そしてブランドビジョンが明確に定まっていればブランディング戦略の助けとなります。一度自社のブランドについて見直してみるのもいいかもしれません。
また、弊社では企業様の経営企画をご支援するサービスを提供しておりますので、ご興味がある方はこちらのページからお問い合わせください。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト