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DXとは、単にレガシーなシステムを刷新したり高度化したりすることに留まらず、事業環境の変化に迅速に対応する能力を身に着けること、そして、その中で企業文化(固定観念)を変革(レガシー企業文化からの脱却)することです。
経営トップが自ら変革を主導する必要があるにもかかわらず、多くの企業は、現場の「紙ドキュメントの電子化」「手作業で行っていた単純作業の自動化」に注力してしまい、単なる「自動化」の領域に留まっています。
経済産業省発行の「DXレポート2」にて提示されている、DXの目指すべき方向性は、下記3点であり、デジタル技術を活用するには、情報をデジタル化することが不可欠です。
デジタル化は「Digitization(デジタイゼーション)」「Digitalization(デジタライゼーション)」の2つの単語があり、Digitization(デジタイゼーション)は、「単なるデジタル化」を、Digitalization(デジタライゼーション)は「デジタルを活用することでビジネスモデルを変革すること」を表しています。
Digitalization(デジタライゼーション)を達成するには、自社業務のデジタル化だけに留まらず、顧客の立場になってニーズ・シーズを理解したうえで、自社のビジネスモデルを変革することです。
Digitization (デジタイゼーション) |
Digitalization (デジタライゼーション) |
|
意味 |
単なるデジタル化 |
デジタルを活用することで ビジネスモデルを変革すること |
目的 |
業務効率化 |
新たな事業価値や顧客体験を生み出すこと |
主語 |
自社業務 |
顧客 |
キーワード |
|
|
実現 |
Digital Optimization (最適化) |
Digital Transformation (変革) |
表-1 デジタイゼーションとデジタライゼーションの違い
DX化での「顧客中心指向」とは、「コトの提供」を主体として、顧客体験価値を重視し、モノやサービスを継続的に利用していただくことで対価を得ることです。
スマートフォンの普及以降、世の中の情報はリアルタイムでデータに変換され、保存/伝達が可能となり、個人が気軽に情報発信できるようになりました。このため、DX以前と異なり、現場の生データを収集し、ビジネスへの活用ができるようになりました。
データ駆動型経営とは、データに基づいて現実世界を把握し、インサイト(顧客の要望や不満・顧客自身がまだ気づいていない隠れた気持ち)を発見し、意思決定を行うビジネスモデルのことです。
DX以前は、自社業務の経験や勘で「顧客が求めているだろう」と想定されるものを開発し販売していましたが、DX以降は、「顧客自身が発するデータ」を分析することで、インサイトを発見し、顧客自身が真によくするサービスを開発・提供し、利用してもらうビジネスへと変化しました。
DXの本質は、「データ駆動型経営の実践」であり、その実践のためには、下記3点を推進する組織文化の醸成が不可欠です。
ビジネスで扱うデータは「写像」「集計」「推測」の3種類を指します。
写像:事実、もしくは実際に起こったこと。
ヒト:名前・身長・体重・居住地・趣味・見た目・職業
モノ:名称・分類・大きさ・重さ・機能・価格・製造元
コト:販売元・販売先・納入先・実行日・実行場所・提供物
集計:現在までの傾向
この特徴の人が、ほかに比べて多くサービスを利用している
このサービスがとあるマーケットで多く利用されている
推測:将来の予測
これまでの傾向から、たぶんこうなるだろう
厳密には現実世界の実態を写像したものがデータ、データを加工したものは情報として区別します。
また、データと情報の違いについて、情報システム方法論の提唱者であるMilt Bryce氏が「情報=データ+プロセス」と述べております。
プロセスとは集計・四則演算・統計予測などの何らかの処理のことを指し、情報はデータを加工処理して出力したものを指しています。
ビジネスにおいて情報は、「ビジネス施策を実現するため」と「事実の記録」に生成されます。ビジネス施策の妥当性について経営判断を行うために根拠が必要、その根拠を示すために情報は活用されるからです。ゆえに、ビジネス施策がなく、記録としても必要なくなったデータは、廃棄してよいと判断できます。
データは企業にとって、「ヒト・モノ・カネ」と同様に扱うべき、「資産」であり、社内のどこに、どんなデータがあるのか把握しておくことが必要となります。
腐るデータとは、「ダークデータ」のことです。
ダークデータとは、何らかのビジネス施策を実現する上で必要だから存在するものの、「誰が」「どのような目的で」使っているかわからない状態となり、廃棄してよいかわからず残しているデータのことで、「目的を持たずに収集したデータ」も含まれます。
このようなダークデータは、ストレージを圧迫し、無駄なコストを発生させているにもかかわらず、多くの企業では「廃棄した後にどこかの業務で使っていることが判明したら大変なことになる」というリスクを恐れ、廃棄できずにいます。
近年の企業は、このダークデータの増加により、「データ活用で欲しいデータを入手しようと思っても探すのが大変になり、データ活用促進の足枷になってしまう」といった事象が多発しています。そうなる前にデータマネジメントが必要となるのです。
宝のデータは、データ活用者全員がノウハウを共有できる「ナレッジがあるデータ」です。
ナレッジがあるデータとは、ダーグデータの対応として「廃棄するかの判断材料をあらかじめ決めておく」ことに加え、データ活用者がビジネス貢献した成功モデルを標準プロセスにし、データ活用者全員がノウハウを共有できるデータです。
アウトプットをイメージしたうえで収集したデータであれば、「どこの資料のどの部分に対して誰が使用したデータか」を明確にできるため、「このデータは、このアウトプットが不要となったときに廃棄すればよい」との判断ができ、ダークデータを生み出さずに済みます。
コニカミノルタ株式会社は、世界約150カ国にセールス/サービス体制を整え、世界中に約200万社の顧客企業を抱えるグローバル企業で、複合機関連製品・デジタル印刷・ヘルスケア・インダストリー関係と幅広い事業を手掛けています。そのため、データは「過去の財務・内訳を要因関係書類・プリントボリューム・機器のメインテナンスにより発生する資材・部品コスト・カスタマーエンジニアの活動に関わるコスト」と多岐にわたり、手元にあるデータが、「必要なデータ」なのか、「廃棄可能なデータ」なのかの分別がつかないまま、徐々にデータは膨大に膨れ上がっていました。また、管理方法も、各担当者の裁量に任せきりの属人化状態となっており、業務領域の拡大を考えたときの管理と活用に頭を悩ませていました。
そこで、サービス運用の「管理ルール」策定を行い、手間がかかることよりも「抑えるポイント」に注力し、管理の簡略化を実施しました。
また、これに加え、報告内容が類似するレポートは標準化された形式に「基本要約」として準備しておくこととしました。
その結果、データ収集に17.6時間かかっていたレポートの作成時間を8.1時間へと、半分以下に減らすことに成功しました。また、分析に必要なデータがあらかじめ用意されたことで特定の担当者に頼ることなく分析依頼ができるようになり、属人化も解消しました。
データマネジメントとは、データを適切に管理する仕組みのことです。
データマネジメントの主要業務としては、データを登録・更新・活用することです。それに加え、データを蓄積しておく仕組みの構築や維持・データ構造の可視化・データの意味管理・データに関する責任体制の確立を行うことが挙げられます。
企業活動においては、正しいデータを使いたいタイミングで使えることが必要不可欠であり、データマネジメントはそのサポートを行います。
データマネジメントの定義は、データとインフォメーションという資産の価値を提供し、管理し、守り、高めるために、それらのライフサイクルを通して計画・方針・スケジュール・手順などを開発・実施・監督することです。
データマネジメントの対象は、もちろん「データ」です。データは下記の表のように分類でき、それぞれに対して「データマネジメントの活動」を行う必要があります。
データ |
内容 |
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ビジネスデータ |
一般の業務で使うデータ |
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構造化データ |
関係データベース(RDB)に格納できるような構造を持っているデータ |
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マスタデータ |
企業や組織が保有する資源を表すデータ (例:社員データ・顧客データ・商品データ等) |
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トランザクションデータ |
業務遂行における出来事を表すデータ (例:販売データ等) |
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情報系データ |
出来事の結果を集計・分析するデータ (例:販売実績データ等) |
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非構造化データ |
一般書類に記述されている文章・ブログなどのテキスト・音声・画像・動画・機械やセンサーが作り出すデータなどRDBに格納することが困難なデータ |
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メタデータ |
データの意味や型・桁等データそのものを管理するデータ |
表–2 データマネジメントの対象と分類
データマネジメントの活動は4つあります。
ただマネジメントをすればよいのではなく、この4つの活動に沿ってのガバナンスも行うことで、さらに業務のハードルが下がり、長期的にデータマネジメントを行えるようになります。
データマネジメントにおけるガバナンス活動とは、データマネジメントにかかわる立法(ルールを決める)・行政(ルールに従って活動)・司法(ルール違反の取り締まり)の活動のことです。
ルールを決めるところまでは良いのですが、ルールに従って活動しているうちに、「例外」が出てくることに気づきます。このデータが溜まっていくにもかかわらず、通常業務に追われ、ルール違反の取り締まりが行われず、管理しきれないダークデータ化してしまうケースが散見されます。定期的な「ルールの取り締まり」とそれに応じた「ルールの再設定」を行うことで、データを適切に管理しましょう。
データマネジメント知識領域は、データマネジメントの概念を11領域に分類したものです
名称 |
内容 |
データガバナンス |
データマネジメントを統制するための活動 |
データアーキテクチャ |
戦略策定・計画 |
データモデリングとデザイン |
データを蓄積する仕組みの構築 |
データストレージとオペレーション |
データを蓄積する仕組みの維持 |
データセキュリティ |
データの信頼性担保と権限管理 |
データ統合と相互運用性 |
各種データを統合するための基盤 |
ドキュメントとコンテンツ管理 |
非構造データ |
参照データとマスタデータ |
マスタデータ |
データシェアハウス |
情報系データ |
メタデータ |
メタデータ |
データ品質 |
データ品質の測定と改善 |
表–3 データマネジメント知識領域
データマネジメント組織を作り上げるための原則が8つあります
それぞれについて解説します。
資産は、価値を生み出す潜在的な能力を持っている経営資源と定義し、価値とは、経営資源を活用することで得られる利益と定義します。
これにより、ある経営資源を活用した施策の結果、キャッシュフローを生み出すコストを抑える、売上を伸ばす新商品を生み出す顧客のニーズに答えるといったことを実現でき、それを通じて利益が生まれれば、「その経営資源は価値がある」と言えます。
資産を持っているだけで価値は生まれません。ヒトは「仕事」をすることで、モノは「使われる」ことで、カネは「投資」されて初めて価値を出すように、データは「ヒトが分析」してはじめてインサイト(洞察、潜在ニーズ)を得ることができます。
また、何においても、資産として維持するためには、ガバナンスとマネジメントが必要です。
データにおいては、データを生み出した責任者でもある所有者を明らかにして、データの価値を保ち、向上させるように、責任を持ってマネジメントしてもらう必要があります。
このマネジメントができていなければ、データは価値の保証がされていない値の羅列に過ぎず、単なる資源なのか、資産なのか分かりません。もしかしたらダークデータに代表されるような負債ということもあり得ます。
データを資産として扱っていくためには遠回りと感じても、データガバナンスを聞かせてデータマネジメントに取り組むしかないのです。
データガバナンスは、データマネジメントの実行を監督・サポートするものであり、データマネジメントそのものではありません。
データガバナンスの役割は、「統治するためのフレームワークを定めること」で、データマネジメントの役割は「現場で日々発生するデータを管理すること」です。
データガバナンス活動とは、「EDM」を経営視点で循環させることであり、データマネジメント活動とは、「PDCA」を現場教育の視点で循環させることです。
EDMとは、E:Evaluate(評価)、D:Direction(方向付け)、M:Monitor(モニタリング)を表します。
PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(チェック)、Act(改善)を表します。
それぞれに目的を持って独立し、循環させることにより組織全体が循環し、文化が醸成され、データ駆動型経営の実現に近づいていきます。
データマネジメント施策の優先順位は、「全体最適」に関する施策を最優先に実施します。
全体最適とは、企業全体の視点に立ってデータを適切な場所に配置し、類似データをなくし、データ連携が整流・清流化させるようにデータアーキテクチャをデザインすることです。
全体最適に関する施策は経営戦略や事業戦略に書かれているので、ここからデータアーキテクチャをデザインします。
データマネジメント活動の初期段階で、データアーキテクチャのデザインができれば全社レベルでの守るべき事項とルールが策定できるため、その後のデータマネジメント活動をスムーズに実施できるようになります。
データベース設計を行うためには、データベースに格納するデータは何か、データをどのように配置するか、データ項目のネーミングはどうするかなど、データに関する業務要件を決める必要があります。
データに関する業務要件を整理し、データベースに実行するように構造化するタスクを、データモニタリングと呼びます。
データ活用とデータマネジメントはワンセットです。
データマネジメントは、経営を左右する重要なケイパビリティデータである、財務人事、商品開発、営業、マーケティング、ITと同じように経営活動で滞りなく使わなければなりません。
データマネジメントにおいては、ビジネス施策に使えそうなデータを発掘し、各部門のケイパビリティにデータをスムーズに提供できるように高品質なデータを配置し、仮説構築を繰り返し、繰り返しながらビジネス施策に役立つようにデータを育んでいく必要があります。
リーダーシップとは指導力、統率力を意味し、データガバナンスの文脈ではチーフデータオフィサーCDOに相当する権限を持っている人が担います。
データガバナンスは業務横断的な活動になるため、企業全体に影響を与えることができる役員クラスをアサインすることが望ましいです。
ビヘイビアとは態度行動のことを指しますが、こちらも重要な要素であり、メンバーはリーダーのビヘイビアを見て育つため、リーダーはビジョンやミッションゴールなど、未来のイメージを大いに語り、行動で示す必要があります。
データマネジメントは一定期間で終了するプロジェクトではなく、永続的に行われる活動です。
従来は、最適なデータ設計やデータ項目名の標準化の一環としてプロジェクト内で行われてきました。このやり方ではプロジェクトが終了するとデータマネジメントチームも解散し、その後の維持はシステム保守チームの裁量に任されていたため、もともとどのような目的で設計・標準したのかが浸透しづらく、永続的なデータマネジメントが行われづらかったのです。
データマネジメントはプロジェクトとは独立させて、プログラムとして永続的に活動していく必要があります。
スモールスタートで戦略的に広げるデータマネジメントを始めると、意外とやることが多いことに気づきます。そうなってしまう理由は、データマネジメントの経験がない中で、DMBOK2をベースに一通りやろうと考えているからです。
現場としてはどのデータマネジメント施策を最優先に行っていけば良いかの判断が難しいのです。
まずは短期的に効果を得やすい「マーケティング」関連に絞って、顧客データの結合、商品データの統合法規制の対応から着手し、企業全体に成功体験を作るところから始めるのが良いとされます。
成功体験が得られることで、ビジネスサイドに必要性が理解され、横展開がしやすくなります。
スモールスタートの狙いは仕組みを作ることです。
施策は何でもいいので、まずは一通りガバナンスマネジメントのプロセスを回していく中で、足りない施策を拡充させるという考え方に持っていくのがベストです。最低限の体制プロセスルール基盤を作ってプロセスを回しましょう。
ビジネスサイドに良質なデータを提供するのがサービスです。
全ての企業がサービスプロバイダーの方向に進むということは、企業に所属する全ての構成員がサービス指向になるということであり、下記がサービス提供の4つの視点です。
以上の8つの原則をもとに、データマネジメントができる組織を目指すところから始めましょう。
組織の中の1人で推し進めるだけではデータマネジメントは行えません。組織全体で文化を醸成し、浸透して初めてデータマネジメントを行うことができます。
本稿では、DX化を成功させるための土台である「データマネジメント」についてご紹介してきました。
データを持っているにもかかわらず使いこなせない等の悩みがある場合は、まず、「アウトプットイメージ」を持ってからデータの収集に取り掛かることの重要性をお伝え出来たかと思います。
これからデータマネジメントを実施する企業の方々にとって有意義な情報となっていれば幸いです。
また、弊社では業界・業種問わずデータマネジメントのご支援をさせていただいておりますので、経営上の課題やお悩み等がございましたら、是非とも下記のフォームからお問い合わせください。
【参考】
・DXを成功に導くデータマネジメント 著:株式会社データ総研小川康二・伊藤洋一
・「データ分析サービス」の運用最適化により、経営判断や戦略構築を支援するレポート作成時間が6割弱も短縮! 株式会社データ総研
・DAMA DMBOKとは 一般社団法人 データマネジメント協会 日本支部
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト