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中小企業における財務戦略の立案方法

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財務戦略とは

 財務とは、資金調達、企業の利益と損失、つまり企業の収支を管理する業務です。例えば、銀行などの金融機関から融資を受けたり、株式を発行して株式を買った人から資金を調達したりすることです。その他にも企業が持っている在庫を調整したり、企業が持っている資産を運用したり、人件費·投資費を削減することも財務のうちの一つです。

 その中、財務戦略とは、経営戦略で定めた経営目標を達成するために資金調達や運用を戦略的に行うための具体的な計画を意味します。財務目標は企業の規模、事業領域、経営環境などによって多様に設定でき、一般的に財務目標は収益性、成長性、安定性、流動性、キャッシュフローの効率性などと関連があります。例えば、事業に必要な資源に投資し、収益を得る過程を繰り返す「投資⇒回収⇒再投資⇒再回収」の好循環を作り、安定した資金運用を求めて計画を立てることが財務戦略です。

 財務戦略は、企業の目標達成に不可欠な要素です。財務戦略により、企業は長期的な財務目標を設定し、それを達成するための具体的な方向性を提示できます。また、財務戦略は企業の財務健全性を維持し、資本調達と投資を効率的に管理するのに役立ち、企業の競争力を強化します。したがって、財務戦略は企業の量的、質的な成長に不可欠であると言えます。

 

財務戦略と経営戦略の関係性

 財務戦略と経営戦略は、企業の目標達成に向けた二つの軸といえます。財務戦略は企業の財務目標を設定し、それを達成するための具体的な計画を立てることで、経営戦略は企業の全般的な運営に関連した目標を設定し、これを達成するための方向性を提示することです。

 企業は自らの経営目的·目標を達成するために、「どう動くか」という方針と計画を決定します。企業が保有する資源(職員、資金、不動産など)は限られているため、企業自らが考えているビジョンと目標に従って合理的に選択し、効率的に分配する必要があるからです。そこで企業のビジョンと目標を達成するため、優先順位をつけて明確な方向性と効率的な実行を求めることが、経営戦略を定める目的です。したがって、経営戦略は経営陣の意向が表現されています。企業を安定的に運営するか、それとも攻撃的に企業を大きく成長させるかという経営陣の考えが表れています。したがって、財務戦略を立てる際には経営陣の意向をきちんと把握し、考慮することが必須であるため、経営戦略を参考にして財務戦略を立てることが重要です。例えば、経営陣が安定を重視する経営戦略を持っていれば、経済環境の変化に順応しながら収益を安定的に維持できる資金運用の安定性、財務コストの削減などを中心に財務戦略を立てることができます。もちろん積極的に企業を大きく成長させる経営戦略であれば、リスクを甘受する資本調達、投資、収益性増大などを中心に財務戦略を立てることができます。このように経営陣の意向を確認できる経営戦略をもとに財務戦略が樹立されますので、経営戦略の実行可能性と成功可能性が高くなります。

 

財務戦略作成前の確認要素と詳細戦略

 財務戦略を立てる前に考えなければならないのが企業の現状です。企業の現状を3つの要素を中心に確認できます 。

  1. 企業のビジョンと目標

 財務戦略は企業のビジョンと目標を達成するための手段であるため、まず企業のビジョンと目標を明確に設定することが重要です。企業のビジョンと目標は財務戦略の方向性を提示し、財務戦略が成功するかどうかを判断する基準になります。

 企業のビジョンと目標を設定する際には、次のような事項を考慮しなければなりません。

  • 企業の長期的な目標は何か?
  • 企業はどの産業で競争しているのか?
  • 企業はどのような競争優位を持っているのか?
  • 企業はどのような危険にさらされているのか?

 企業のビジョンと目標は経営戦略においても必ず必要な要素であるため、経営戦略を参考にして樹立するのも良いでしょう。

  1. 経営環境

 経営環境は、企業の財務戦略に影響を与える重要な要素です。したがって、企業は経営環境を分析して財務戦略を策定する必要があります。経営環境を分析する際には、次のような要素を考慮する必要があります。

  • 経済環境:経済成長率、物価上昇率、失業率、為替レートなどの経済環境は、企業の財務パフォーマンスに影響を及ぼします。
  • 産業環境:産業の競争水準、技術発展速度、規制環境などの産業環境は、企業の財務戦略に影響を及ぼします。
  • 競争環境:競合他社の財務状況、戦略、製品およびサービスなどの競争環境は、企業の財務戦略に影響を及ぼします。
  1. 企業の資源

 企業の資源、つまり資本、人材、技術などは、財務戦略の範囲を決定する上で重要な要素です。したがって、企業は企業のリソースを考慮して財務戦略を策定する必要があります。企業の資源を分析する際には、次のような要素を考慮する必要があります。

  • 資本規模:企業の資本規模は、資本調達、投資、キャッシュフロー管理などの財務戦略の範囲を決定します。
  • 人材規模:企業の人材規模は、企業の財務目標を達成するための力量を決定します。
  • スキルレベル:企業のスキルレベルは企業の競争力を決定し、これは財務戦略に影響を及ぼします。
  1. リスク

 企業は財務戦略を策定する際に様々なリスクを考慮し、リスクを管理するための戦略を策定する必要があります。 財務戦略を策定する際に考慮すべきリスクは次のとおりです。

  • 景気変動のリスク: 景気変動は企業の売上と利益に影響を与えるため、景気変動のリスクを管理するための戦略を立てる必要があります。
  • 為替レート変動のリスク: 為替レート変動は企業の売上とコストに影響を与えるため、為替レート変動のリスクを管理するための戦略を策定する必要があります。
  • 競争圧力のリスク: 競争圧力は企業の収益性に影響を与えるため、競争圧力のリスクを管理するための戦略を策定する必要があります。

 その他にも企業の文化、伝統、人事政策などの要素も財務戦略を樹立する際に考慮しなければならない要素です。企業の特性に合った財務戦略を立てるためには、企業の内部環境を綿密に分析することが重要です。

 企業の状況を把握できたのち、財務戦略を立ててみましょう。まず、財務戦略は4つの詳細戦略で策定できます。

  • 調達戦略:事業に必要な資金を確保するためにはどのような調達方法が必要か?

 Ex) 投資誘致、借入、IPOなど

  • キャッシュフロー戦略:キャッシュフロー構造をどのように構築するか?

 Ex) 不要な設備投資の制限、資金統合管理システムの導入など

  • 管理戦略:適切な意思決定を行うためには、どのような管理体制が適切か?

 Ex) 経理システム、営業管理ツール等の管理システム導入など

  • 組織戦略:円滑に事業運営を行うためには、どのような組織になるべきか?

 Ex) CFO(最高財務責任者)職の設置など

 わが社の問題は何か、その問題の原因は何か、その原因を解決するためにどのような戦略を立てるべきかを考えて判断してください。

 

財務戦略の作り方

 次に、財務戦略を作成するプロセスをご紹介します。財務戦略を作成するプロセスには、企業の財務目標を達成するための具体的なロードマップの開発が含まれます。財務戦略を策定するための主なステップと方法は次のとおりです。

  1. 財務比率分析

 財務比率分析は、企業の財務健全性とパフォーマンスを評価するために使用されます。これにより、企業の収益性、流動性、負債管理などを理解し、今後の財務状態を予測できます。主な財務比率には、純利益率、自己資本比率、流動比率、負債費用率などが含まれます。これらの比率を分析して、現在の財務状態を把握し、改善点を確認するのに役立ちます。

  1. 資本構造最適化

 資本構造の最適化は、企業の資金調達と負債管理を扱う重要な部分です。企業は資本と負債をどのように組み合わせるかを決定する必要があります。資本構造最適化とは、自己資本と外部資金を最適に混合して資金コストを最小限に抑え、収益を最大化することを意味します。そのためには、金融レバレッジを活用したり、自己資本の割合を調整したりするなどの戦略を考慮する必要があります。

  1. 投資および資金調達戦略

 財務戦略は、投資と資金調達に関する計画を策定する必要があります。投資決定は、企業の成長と競争力を決定する上で重要な役割を果たします。投資対象、投資時期、資金調達方法を決定し、投資プロジェクトの収益性を評価する必要があります。また、資金調達戦略は資金を確保するための方法を取り上げ、内部資金、外部借入、資本市場活用などを考慮する必要があります。

  1. パフォーマンス測定およびモニタリング

 最後に、財務戦略のパフォーマンスを測定し、継続的に監視する必要があります。目標が達成されるかどうかを追跡し、異常な財務動向を識別する上で重要な役割を果たします。必要な措置を取り、戦略を調整して経営目標を達成し、財務健全性を維持することが必要です。

 財務戦略の策定は複雑なプロセスであり、企業の特定の状況と目標に応じて、さまざまな戦略と方法を考慮する必要があります。これらのステップと方法に従えば、効果的な財務戦略を開発し、経営の成功を支援することができます。

 

財務戦略の考え方:事例

事例1:W社のケース

  1. 背景

 W社は、不動産を買収した後に価値を向上させて売却するというプロセスの循環型ビジネスモデルを構築すると決めました。そのため、不動産を取得するための資金が必要でした。

  1. そのための対応

 W社は、財務レバレッジを最大活用することで、省資金で最大利益を得る戦略を立てました。土地、建物、ホテルを買収する際に不動産ファンドを作り、借入金と集団投資スキームから集めた投資金を投入して、当社の投資費用を最小化しました。

  1. 結果

 以前と同一な投資費用でより多くのプロジェクトに投入ができるということで、収益性が高い複数の不動産に同時に投資し、高い値段で売却する循環型ビジネスを構築することができました。

 

事例2T社のケース

  1. 背景

 T社は、新型コロナウィルス感染症と半導体供給不足による供給体制の混乱のため、顧客社から減産を要求されました。減産による実績悪化のため、安定的な資金管理の必要性が高くなると同時に、ポストコロナ時期に対応するため、研究開発と設備に投資する成長戦略を定めました。

  1. そのための対応

 経費などの不必要な支出を抑えることで連結自己資本比率を維持することができました。また、各地域、国、拠点で行う可能性があるリスクに対応するため、「安全資金ガイドライン」を制定しました。

  1. 結果

 連結自己資本比率を高く維持したことと「安全資金ガイドライン」を制定したことにより、常に保有すべき資金に加え、同様の機動的な資金調達を可能とする資金管理体制を構築することができました。

 

終わりに

 本校では、財務管理に悩んでいる中小企業の皆様に、財務戦略の重要性や立てる手順、そして財務戦略の具体的な事例を紹介してきました。財務戦略は、企業の経営目標の達成や円滑な運用、リスク管理に重要な戦略です。しかし、まだ多くの中小企業が財務戦略に対する専門的な知識がなく、具体的な財務戦略なしで運営されています。財務戦略は計画的な資金運営を通じて企業資金の効率的な使用を可能にする利点があるため、財務戦略の活用を検討してください。

 また、このブログでは財務戦略だけでなく、経営企画室が担当する中期経営計画や海外進出に関する情報も提供しています。ぜひ一度読んでいただき、お役に立てば幸いです。 皆様の成功のために適切な情報とサポートを提供することを心から願っています。

 

<参考>

SonarTimes「財務戦略とは?基本的な立て方や意識すべき3つのポイントを紹介!」

船井総研「財務戦略とは?策定のポイントや知っておきたい分析手法について解説!」

大和総研「企業の財務戦略の目的は最適資本構成の実現」

GLOBIS知見緑「経営理念と戦略レベル~『グロービスMBAマネジメント・ブック』」

船井総研「100億企業に向けて財務戦略の立て方と成長した企業の事例」

顧問バンク「財務状況の指標となるROE(自己資本利益率)を向上させるには?」

 

林 映学

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アシスタント