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CSR活動推進のために必要な要点とは

はじめに:日本におけるCSR活動の現状

こんにちは、アーツアンドクラフツ C&S事業部アナリスト笹俣 凱と申します。現在、SDGsを始めとし、環境活動や社会的に意義がある活動を行う潮流が高まっていると感じられます。そのうちの一つとしてCSRが存在し、この記事を読まれている皆様も大きな関心を寄せているのではないでしょうか。他方、現状、日本企業で約368万社存在している中で1614社(2021年現在)であり大手企業のみでしか広まっていない状況です。本記事はCSR活動推進のために必要な要点とはという論点で、混同されやすい概念を紹介しつつ筆者の示唆を記載しております。

このブログを通じて少しでもCSR活動に興味を持っていただき、CSR活動が広まる一翼を担えましたら有難いです。

 

CSRとは

CSRCorporate Social Responsibility)は、企業の社会的責任を指す用語です。CSRは、企業が経済的な利益だけでなく、社会や環境に対して責任があることを意味し、アピールする方法の一つです。CSRは以下の要素で構成されております。

・社会への貢献:企業は、地域社会や国際社会に対して積極的に貢献し、慈善活動や社会的プロジェクトを支援することが推奨されております。例えば教育機関、健康経営、貧困削減に対する貢献、文化振興等が含まれております。

・環境への配慮:企業は、環境への負荷を最大限に配慮するために、環境に優しく持続可能なビジネスモデルへの転換が推奨されております。例えば、廃棄物の削減、化石燃料の使用量削減、再生可能エネルギーの利用等が包含されます。

・ステークホルダーへの配慮:企業は、顧客、従業員、株主、サプライヤー、地域社会など、すべての関係者(ステークホルダー)の利益を考慮し、公正で責任ある経営を行うことが推奨されます。

・倫理的な経営:企業は、倫理的な経営を原則とし、不正行為や損失を防ぎ、透明性の確保を行うことが推奨されます。

 

CSRは企業が持続可能な社会を構築するために重要視されており、消費者、投資家、政府、NGOなど様々な利害関係者からの圧力を受けている企業がCSR活動に取り組むことにより、長期的な成功と信頼性の向上につながる可能性があります。

 

CSRISO26000の違いについて

ISO 26000は、Corporate Social ResponsibilityCSR)に関する国際ガイドラインであり、企業がCSR活動を計画し、実施し、評価するための指針として作成されました。

ISO 26000は、ステークホルダーの関与を特に重要視しています。よって、CSR活動を実施する際、ステークホルダーとの協力が必要不可欠です。下請け会社に対する理不尽な搾取等が無いように常に対話を重ねていく姿勢を見せていくことが重要ではないかと思います。

 

CSRCSVの違いについて

CSVCreating Shared Value)とCSRCorporate Social Responsibility)は、両方とも企業が社会的な影響を持つ手段となりますが、アプローチ方法は異なります。CSVCSRの違いを以下にて説明しております。

・アプローチ観点から見た違い

CSRは、企業が経済的な利益追求の責任として、社会的責任を担うためにあらゆる社会的・環境的活動を実施するアプローチ方法です。CSRは、環境保護、社会貢献、倫理的な経営など、さまざまな活動を含めてカバーしております。

他方、CSVは、企業が社会的な課題を解決し、同時に経済的な成果を上げるために、ビジネス戦略を再定義するアプローチ方法です。企業の成長と社会的課題の解決を同時に実現しようとするものであり、一般にはCSRよりも対象範囲は狭いと言われております。

 

・価値創造の観点から見た違い

CSRは、社会的価値を創造することに焦点を当てています。しかしながら、時として企業の経済関連の価値創造とは直接的には存在していないことがあります。企業の収益性の確保と切り離されております。

CSVは、社会的価値と経済的価値を紐づけている事がほとんどです。企業は社会的課題をビジネスモデルに統合することで、経済的成果と社会的課題の解決を同時に追求することを目指しています。

 

総括すると、CSRは社会的な活動を企業の責任として捉え、CSVはビジネス戦略の一部として社会的課題を取り組む方法として位置付けられています。どちらのアプローチも社会的責任の追求を行いますが、そのアプローチと価値創造の違いがあります。

SDGsとの関りについて

異なる点を挙げるとすれば、SDGsは国連において採択された「世界中にある環境問題・差別・貧困・人権問題といった課題を、世界のみんなで2030年までに解決していこう」という計画・目標のことを指し、CSRでは、企業が社会的責任の遂行を対外的にアピールする手段です。

他方、SDGsでの各種目標と企業のCSR活動において類似点は多岐に渡ります。 例えば、SDG 1(勇気撲滅)やSDG 8(働きがいのある仕事と経済成長)、SDG 12(持続可能な消費と生産)など、企業が社会的責任を果たし、持続可能な経済成長をサポートすることに関連する目標があります。

企業は、SDGsをビジネス戦略に統合することで、新たな市場機会を発見し、社会的価値と経済的価値の両方を創造できるというCSVの原則を適用することがあります。一部の企業は、自社のCSR報告を行うことで、自社の活動がSDGsにどのように貢献しているかを提示しております。

 

総括すると、SDGsCSRは、企業が持続可能な開発目標に貢献し、同時に社会的責任のための重要なツールとして注目しています。 企業は、自らの活動と戦略をSDGsに統合させ、社会価値と経済的価値を共に追求するために、SDGsCSRを組み合わせて活用することができます。

 

CSRが広まった背景

CSRが日本で普及した背景として、以下が指摘されております。

・国際的な影響:国際社会でCSRの重要性が察知したことが、日本でもCSRの広がりに影響を与えました。国際連合が提唱した持続可能な開発目標(SDGs)や国際的なガイドライン(例) : ISO 26000)が、CSRに関する国際的な標準となり、日本企業に国際的な基準に従う必要性を意識させる契機となりました。

・環境への関心:日本は自然災害が多い国であり、環境への配慮を行う意識が企業全体に広がっていきました。環境への悪影響を考慮するためのCSR活動、環境への投資、エコロジカルなビジネス実践が重要視されました。

・消費者の意識向上:製品やサービスの企業に対して、社会的責任を担うことに対する期待が日本全体の消費者に広がってきたことも背景とされております。

・企業の自己認識:日本企業の一部において、CSRを組織文化の一部として受け入れ、社会的責任を果たすことが結果として企業ブランドを認知させるという意識の高まりが広がりました。これも一つの背景とされております。

・ステークホルダーの期待:株主、従業員、消費者、サプライヤーなど、企業のステークホルダーがCSR活動を実施することを求めるようになりました。大企業や、上場企業ではほぼ全ての企業で実施しておりますが、今後は中小企業においてもCSR活動の実施を求められる可能性があります。

これらにより、日本でCSRが広がる土壌が形成されていきました。現在、多くの日本企業はCSR活動を積極的に展開し、社会的責任のための戦略として捉えています。

 

米国と日本でのCSRの違いについて

米国と日本におけるCSRCorporate Social Responsibility)のアプローチにはいくつかの違いがあります。以下に、両国間での主なCSRの違いについて説明します。

・文化と価値観

日本文化は共同体重視の傾向があり、企業は地域社会への貢献を強調します。日本企業は、従業員の安定性や長期的なビジョンを重視することが一般的です。倫理的な経営や品質重視の伝統がCSR活動に影響を与えております。

他方、米国文化は個人主義的で競争的な側面が強く、CSR報告書には市場での競争優位性を強調して記載されている場合が多々ございます。米国企業は、株主価値の最大化と収益性の追求を重視するのが一般的で、CSR活動は頻繁にブランド価値向上や消費者獲得に重点を置いた記載となっております。

・規制環境

日本では、企業法や環境法、労働法などの法の規制がCSR活動を規制し、企業に一定の社会的責任を課しています。また、日本政府はCSRに関するガイドラインを定めており、企業の透明性を高める取り組みを行っています。

他方、米国では、CSR活動は法的に必須ではありませんが、SEC(米国証券取引委員会)の規制により、企業は環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する情報を開示する必要があります。また、非営利団体やNGOCSR活動を監視し、企業に対して圧力をかけることがございます。

・ビジネスモデル

一部の日本企業は、CSRをビジネス戦略に統合し、社会的課題の解決と経済的な成果の両方を追求する「CSVCreating Shared Value)」の記載方法と混同している場合が多々見受けられます。そして、特筆して言えるのが、CSR活動を社会奉仕活動の一環としてみなしている点です。

他方、米国企業の中には、CSRをビジネス成果とつなげ、新たな市場機会を見つけるために積極的なアプローチ的なものも多くあります。経営管理上は、CSRの課題ごとに担当部門に落とし込み、例えば、リスク対応はリスク管理部門に位置付けるほか、従業員のモチベーションマネジメントへの活用など企業活動と明確な形でリンクさせております。特に、CSR上のリスクとして、消費者によるボイコット運動、従業員によるストライキ、訴訟対応の3つに重点をおき、リスク管理活動の一環として対策を強化しているようです。

 

余談:CSR検定とは

CSR検定(CSR Certification)は、CSRCorporate Social Responsibility)に関連する知識とスキルを評価し、証明するための資格試験や認定プログラムを指します。CSR検定は、CSRに関心を持つビジネスパーソンや専門家に対し、CSRの原則、ベストプラクティス、戦略の方針、組織内でCSR活動推進時に対するテストを提供しております。 また、CSR検定は、初級から上級まで様々なレベルで提供されています。初心者向けの基本的なコースから、戦略的なCSRプランニングや組織内の実装に関連する高度なコースまでがあります。

主要部署での活躍や昇進につながる可能性がある他、就職/転職活動にて有利に働く可能性があります。皆様も検定受験を検討されてみてはいかがでしょうか。

 

主要企業でのCSR活動例

日本国内では、大企業を中心としてCSR活動を行っている例が多々存在します。

以下がその例です。

・ユニクロ(FAST RETAILING

服を通じた社会貢献を行っております。不要になった服を回収し、世界中の難民・国内避難民のほか、店舗を展開する地域の社会的に弱い立場にある人々に寄贈しています。また、災害時には、「服のチカラ」を通じた被災地の支援活動にも取り組んでいます。

アジア/アフリカ地域を中心として、80の国と地域に5,050万点(2022年8月末までの累計)以上の寄贈を行ってきました。また、被災地に対する支援としては、東日本大震災を始めとして、国内/国外問わず被災地に服の寄贈を行ってきました。

 

・任天堂

任天堂は、「任天堂に関わるすべての人を笑顔にする」ことをCSR活動の目標に掲げています。特に、ステークホルダーに対する配慮を掲げており、「お客様」「サプライチェーン」「社員」「環境」の4つの項目を、重点項目として設けております。

また、CSR活動を推進するための専門チーム「CSR推進プロジェクトチーム」を設置しております。これは、CSR活動をグローバルで進めていくために、主要な海外子会社にCSR推進チームやCSR推進担当者を設置して、各国の活動状況をグループ会社間で共有しているほか、経営層に活動状況の報告を行う体制を整えているものです。

 

任天堂での活動を見ると、重点項目においてユニクロ(FAST RETAILING)での例よりは自社サプライチェーンに向いていることが分かります。当然、業界が違うので一概に比較できるものでは無いですが、日本を代表する企業を例にとってもCSR活動での重点項目は異なると思われます。

ただ、社会貢献に努める点はどちらも共通点として言えるかと思われます。それぞれの企業ができる範囲でできる社会貢献を行うことが翻って企業自身のブランドイメージ向上に役立てていると考えられます。

まとめ

CSRでの紹介から始まり、多々混同されているCSV、CSRの背景として規定されたISO26000、国連の目標として規定されたSDGs、等様々紹介してきました。また、地域による違いも明確に見られます。ただ、これらに共通しているのは、社会に対する貢献する姿勢を定義していることです。

 

このブログを読まれているということは、CSR活動を検討する最中にいる方々が多いのではないでしょうか。

このブログを通じて、CSR活動による社会貢献が行われ、翻って読者の方々が勤められている企業のブランド価値向上に寄与することを願ってやみません。

長々と、お読みいただきありがとうございました!

 

【参考】

KEIYAKU-WATCH「CSR(企業の社会的責任)とは?コンプライアンスとの違い・取り組むべき事項・事例などを簡単に解説!

アスエネメディア「CARとCSVの違いとは?サステナブル担当の方必見!カンタン解説」

厚生労働省「労働に関するCSR推進研究会報告書」

SDGsACTION!「CSV経営とは?CSRとの違いや実践方法とポイント、企業事例を紹介」

笹俣 凱

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト