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2023.09.27

PMI(プロセス、100日プラン、営業/採用/ガバナンスそれぞれのPMI手法など)

PMIの進め方

PMIとはPost Merger Integrationの略で、買収後の経営統合作業のことを指します。

買収前に期待していた経営効果を実現するためには、PMIをうまく推進することで、経営効果の発現する範囲が変わってきます。

本記事では、PMIにおける進め方やビジネスデューデリジェンスにおける論点との関連性、100日プランなどについて説明していきます。

 

PMIのプロセスは大きく以下の4つのステップで進めていくのがメインです。

  1. 統合方針の策定と関連施策の検討
  2. ランディング・プランの作成
  3. 100日プランの作成
  4. 統合の実施・効果検証・フォローアップ(FUP)

 

「統合方針の決定」では、買収された会社において期待される統合効果を実現するために、どのような手順・方法で進めていくかという統合方針を検討することです。

単に統合というシンプルな言葉でまとめられていますが、その実、経営資源全般に及ぶ広範囲な領域で、すり合わせを図っていく必要があります。

大まかには以下のような観点が挙げられますが、企業により重視点は濃淡が出ますし、その方針・実施時期・実施主体も様々です。

  • 経営体制・組織・拠点
  • 組織の制度・規定・その他細目のルール
  • 業務システム・各種ツール
  • 業績評価・報酬体系
  • 事業内容や取引先

「ランディング・プラン」は、通常統合後3ヶ月から6ヶ月の間に優先的に実行すべき課題について計画したもの。

買収元・買収先それぞれで計画を立案し、主に事業面・管理面の見直しについて、必要となる作業を計画に落とし込んでいきます。

先に挙げた項目のうち、組織・規定類系、人事・労務系、経営管理系、財務・経理・庶務系などの領域が優先度高く取り組まれることが多いでしょう。いわば、組織運営上のインフラ部分を早期に固めることで、素早く統合後の整理された環境で、円滑な業務を遂行することを目的としています。

 

100日プラン」とは、統合後100日間で実施される課題に対しての解決策がスケジューリングされた計画を指します。

100日プランの策定による、中期的な課題を整理することで、中長期的な経営効果の創出を促すことができるのです。

具体的な目標(KGI)やKPIの設定、アクションレベルに落とし込んだプランの設計もこのタイミングで行うとよいとされます(企業全体⇒部署⇒チームとこれらがリンク連関することを意識する)。

 

「統合の実施・効果の検証」の段階では、計画を進めていくにつれて、進捗に遅れがないか、効果はちゃんと出ているのかなど、計画とのズレなど適切に把握するために行います。

全体の進捗確認(前段のKGIKPIなど)は月次にし、施策ごとの担当者が集まる分科会などは週次にするなどして、これを検証。

計画は進めていくにつれて、進捗に遅れがないか、効果はちゃんと出ているのかなど、計画とのズレなど適切に把握していきます。

経営者自身がこれらを管理・監督することもありますが、進捗や管理は部門横断的に判断できる役職者がこれを遂行し、経営者は必要な経営判断に集中する体制も考えられるでしょう(これは企業の規模にもよりますが)。

 

ビジネスデューデリジェンスで論点を探る

ビジネスデューデリジェンス(BDD)における論点は、以下のようなものがあります。

これらをもとに精緻に検証することは、PMIを機能させるためにも重要なことでしょう。BDDが不十分であれば、M&Aにあたって必要な情報が不足。それによってPMIが十全に機能しなくなります。

 

一般論として、BDDは経営体制や事業規模の調査が求められると捉えられることが多いですが、より詳細に検討することも必要でしょう。例えば、人事や法務といった制度・運用面に関しても詳細に調査して、課題を抽出。そうすることで将来的な障壁になる要素を認識し、対策を立て、回避することができます。

 

BDDは、単なる投資可否の事業性検証のみならず、PMIでの論点設計・施策検討のベースとなります。

PMIの効果を最大限に高めるためにも、BDDはできるだけコストと時間をかけて、徹底した調査は必要でしょう。それによってPMIが機能して、M&Aが成功に近づいていくのです。

 

M&A実施後の総合的な満足度について「期待より悪い」と回答した企業の理由は以下のようなものが挙げられます。

  • 相乗効果があまりなかった
  • 相手先の経営や組織体制に課題がある
  • 相手先の従業員に対して不満がある

PMIの取組を成功させることは、M&Aの最初期にあった期待を充足させ、成功するかどうかに影響するのです。

 

PMIのプロセスと100日プラン

一般的に一つの区切りとして100日(3ヶ月程度)で実施する経営改革プランや中期経営計画を策定していきます。

100日プランは、プロジェクトチームを組成し現場レベルも巻き込んで実施されます。

なぜ100日に区切っているのかというと、統合初期に短期的な成果が非常に重要とされており、真の意味で経営統合が成る原動力になるためです。

 

マネジメントの観点では、1つの区切りとしての4半期(3カ月)の間に何らかの成功をおさめ、従業員に新マネジメントのリーダーシップを示す必要があります。

従業員の観点では、変化を受容できる期間が約3カ月といわれており、3カ月を超えてしまうと変化への寛容度・需要度が徐々に低くなりやすく、大きな変化に対して抵抗勢力が出てくることも想定されます。

 

前段の通り、現場レベルでの施策実行は必要不可欠。この経営統合による変化が彼らにとって、有益なもの(定量的なもので言えばセールスアップ/コストダウンや報酬など、定性的なもので言えば業務効率性の向上、より高度なスキルの取得、新しい人材との交流など)であると認識されれば、スムーズかつ確度高く、当初の目的を達成することができるでしょう。

これから、組織においてある成果のために必要な期間が3カ月(≒100日)とされており、そういったことから100日プランと名付けられています。

 

100日プランの一般的な流れに則って、それぞれフェーズを紹介していきましょう。

  • プロジェクトチームの組成

    100日プランを進めるためにプロジェクトチームを作る必要があります。

    プロジェクトチームは買収側/被買収側双方の企業の人材の混成チームで編成することが望ましいと言われており、プロジェクトチームに偏りがあると、両者いずれかの都合が優先される可能性があるため、それだけM&Aの成否に影響するのです。

    100日プランは、検討する内容が多岐に渡り、そこに関与するチームも複数組織にまたがるなど推進が煩雑かつ混乱を来しやすい面があります。取りまとめるPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)を設置するなどして、全体を俯瞰して遅滞なく検討を進められるよう、これに備えるのも一案です。

    PMI計画策定はデューデリジェンスと並行して進め、MA全体のクロージングまでに完了させる必要があります。PMI計画策定がクロージングに間に合わないことがあっては、MAの成果を見込むうえで、スケジュール上に大きな制約がかかってしまいますので、留意することです。

    また、これらの推進に関与するメンバーは、他の従業員より早くM&A関連の機密情報を知ることになります。当然、これを理解したうえで口外したりしない、信頼できるメンバーを選ぶこと。誤って口外した場合、インサイダー取引などのリスクを孕んでいることは自明の理でしょう。

  • 現状分析・課題の洗い出し

    プランを実行するにあたって課題を適切に把握して、それに対してどのような対策を取る必要があるかについて、論点別に検討していきます。
    課題を把握するには、これまでのデューデリジェンスやその他検討フェーズであがっている要素の他に、改めてマクロ観点での会社分析をすることも手段のひとつ。
    100
    日という期間で達成できないものは、個々にマイルストーンを設定していくとよいでしょう。

    100日では達成できない計画であっても、課題とすべきものは当然もれなく洗い出しておきます。
    例えば、日本の上場会社が東南アジアにある企業を買収した時、内部統制の論点はJ-SOXを満たす内部統制の構築を行う必要があると考えられます。売り手側がもしワンマン企業である場合は、統制が図れていないこともある場合は特に重視されやすいです。
    「誰が、いつまでに、どのようにし、日本企業と同等の内部統制の体制を作っていくか?」といった課題を抽出し、体制構築に向けて計画立案を行います。

    参考の一例として、下図は一般的に検討が必要になる論点を明記しております。目指す方向性に応じて、作っていく論点や計画は変わります。
    このため、現場で検討を行う際は買収側、被買収側の論点を精緻に検証する必要があります。


https://fas.hl.com/jp/wp-content/uploads/2015/04/20131001.pdf

  • アクションプランの策定

    課題に対する対応策と、具体的に進める方法をアクションプランにまとめます。進め方や担当者、各論点の検証やアクション実行の期日を詳細に設定。ここが抜かりないようにしておかないと、実際に着手し始めた際に検討が遅れることや、思わぬ課題に直面することもあるため、できるだけ精緻に設定することが肝要です。また、突発的な事項に対応するために、一定程度柔軟性を持たせた設計をするとよいでしょう。

    アクションとタイムラインを設計の際はタイミング、担当者、そして目標・目的をもとにして進めることの3点が重要とされています。
    タイミングは早ければ早い方がそれだけ良いですが、状況により多少の調整は必要でしょう。検討自体も早期から始めた方が、余裕をもって検討を進めることができます。

    よくあるM&Aの失敗例は、計画の作成者と実行者が異なることです。実行する側での観点で作ったものと、誰かに任せるという観点で作ったものでは、策定したもの実現可能性が異なるのです。 一方で実行者だけで作られると、低い目標設定になることも。買収側のメンバーも関与し、優先度や取り組み範囲、適切な実現可能性を踏まえた目標設計まで闊達な議論を行うことで、成功確度の高い計画の策定ができるでしょう。

  • 100日プラン実行

    ここまでで説明した通り、課題を出してそれに対するアクションプランを作成することで、ようやく100日プランの実行段階に移ります。
    抽出した課題やアクションプランを正しく検討することで、それだけプランの実行も円滑に進んで、M&Aを成功させることにつながるでしょう。

要素別PMI時の留意点(営業/採用/ガバナンス)

PMIでは、対象となる企業のありとあらゆる要素について検討・改善・統合することが求められます。見落としがあるとM&Aの成果として万全に機能させることは不可能になるだけでなく、事業運営の損失を招き、破綻させてしまうことにもなりかねないのです。ここでは、さらに細かい要素別のPMIとして営業、採用、ガバナンスについて紹介していきましょう。

  • 営業

    販売におけるシナジーを期待しているのであれば、買収する企業から営業社員を投入するなど、十分なシナジーを発揮するための具体的な内容を議論しておくことが重要でしょう。
    ここで具体的なシナジーについて精査することで、ミスマッチを減らし、より大きな営業成績をあげることも不可能ではありません。
    相互が有する顧客基盤の共通化であったり、クロスセル・アップセルを企図したりする場合は、相互の商品・サービス理解を深めあうことも、同時に取り組みます。

  • 採用

    M&A後に組織再編も定まって、業績を拡大させることを目指すために、中途採用/新卒採用いずれでも、人材を補充していくことが求められる場面があります。

    例え同業同士の統合であれ、実際は業務内容や職責、求められるスキルも異なるもの。

    重要なのは、統合後のシナリオを想定以上の形で描けるかに尽きます。

    不足人員はどの部署でどれくらいの採用を見込むのかその業務について必要なスキルと求められる人物像は何か。最低限の選考基準は設けておくのが定石です。

    PMIにおいて、組織や業務を統合するだけではなく、会社のイメージ・ブランディングを統一、または親和性のある状態にすることも検討する必要があります。

    統合直後から社内イベントや社員研修の中で経営方針を共有し、社員の理解向上に努め、受け入れるベースを作っておくことで、従業員のモチベーションアップに、優秀な人材の獲得に、その一助となり得ます。

  • 企業文化

    企業文化は、挨拶などコミュニケーションなど細かい要素はありますが、社員のモチベーションアップにも繋がるため、十分配慮しなければなりません。とりわけM&A直後は、被買収側の社員はどのように経営が変化してしまうのかに対する不安が募っているだけでなく、重要な経営資源である人材が経営の変化に対する不安から退職することも考えられます。シナジーも含めて、人材が十分に活躍する企業になるために、企業文化も検討する必要があるのです。

  • ガバナンス

    どのようなガバナンスで運営するか、買収する側との統合に向け、どのような組織体制で運営していくかは非常に重要な決定事項です。これが全領域に影響するため、最優先で検討する必要があるでしょう。その観点からすると、M&A直後までに決めるべき要素であるとも言えます。ただし多くのM&Aでは、ガバナンスはそれまでに決定されているのです。それだけ、ガバナンスの決定は非常に重要な要素であるのでしょう。

    組織の全体像はM&A形態により決まってしまうのですが、逆に契約の前段階でPMIや統合効果も見据えて、M&Aの形態を選択すると解釈すべきです。また、事後的な組織再編によって変更することもできるのです。例えば、同業との合併という場合には、コーポレートや現場などで多くの機能が直接的に統合することもあります。したがって、組織構造やガバナンスは1つの合併新会社になり、それに向けたPMIの検討を行うのです。その意味で言うならば、組織構造やガバナンスという観点からは最もわかりやすいとも言えるかもしれません。

    一方で、共同持株会社としてそこに並列にぶら下がるケース、株式買収で子会社となるケースなどは、どの程度事業や機能を統合していくか、又はどのようなガバナンスを設定していくかという問題が発生。その方針がきちんと定まらない場合、分科会は混乱しますので、統合基本方針に明記しておかなくてはなりません。

まとめ

M&AではPMIを正しく整備することで、買収後のミスマッチ回避やシナジーの発揮し、円滑に業績の向上させるための起爆剤と言えます。

PMIが間違って作成されてしまうと、事業が機能せず、ともすれば破綻させてしまうことにもなりかねません。
PMI
には様々なプロセスや検討事項が存在しますが、ここまでのことが正しく進められると、それだけ業績を向上させることができるのです。

 

【参考】

サクシード「PMI(買収後の経営統合作業)とは?手法や重要性、事例を解説」

中小企業庁「中小PMIガイドライン」

M&A CAPITAL PARTNERS「PMIとは?~企業統合における目的や効果をわかりやすく解説~」

DCo News「PMIにおける100日プラン」

M&a statioin「100日プランとは?M&Aの成否を決めるのはPMI」

CREGIO Partners「PMIとは?中小M&AにおけるPMIの議論」

M&a statioin「【買収後のPMI】新たな社風に合う社員の採用」

renew「PMIとは|M&Aとの関係、成功に導くプロセス内容についてわかりやすく解説!」

日経文庫(知野雅彦、岡田光著)「M&Aがわかる」

M&A CAPITAL PARTNERS「PMIとは?~企業統合における目的や効果をわかりやすく解説~」

 

藤本光佑

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/コンサルタント。得意分野はサステナビリティ、決済事業、エネルギーなどの事業戦略の提案や、それに伴う調査