先週、今週と暑い日が続いてますが、私はithの協力工房の定期訪問で、遠くは新潟まで足を伸ばし各工房に日頃の感謝を伝えて歩いています。
協力工房は、ithの独自のものづくりの体制を支える重要なパートナーです。ithでは、複数の協力工房と、吉祥寺の自社工房をネットワークし、それらを自社開発の基幹システムでつなぐことで、従来になり全く新たなものづくりの体制を作り上げてきました。
そもそも、ジュエリーの世界でのものづくりは大きく二つに区分されます。
一つ目はオートクチュール(一点物)の世界。少人数ながらレベルの高い職人を揃えた工房による高価な一点物のオーダーメイドジュエリーを製作しています。例えば、パリのヴァンドーム広場に本店を構えるジュエリーメゾンは必ずハイジュエリーを手掛けるアトリエを併設していますし、日本にも多くの少数精鋭の優れたアトリエ集団があります。
一方で、プレタポルテ(既製品)の世界も存在します。大きな工場で主にファッションジュエリーを大量生産する。日本に流通するジュエリーであれば、タイなどアジアの大規模な拠点で生産されることが多いようです。
欧米のラグジュアリージュエリーブランドであれば、ハイジュエリーは自社工房で、ファッションジュエリーは大規模な工場を持つメーカーへ外注するというように商品毎にものづくりの手法を変えています。
日本ではファッションジュエリーブランドでハイジュエリーを手がけるところが多くありませんので、小売に徹して生産はメーカーに委託することが主流となっています。逆に一点物をつくる工房は自らお店を構えず、例えば百貨店を通じて上顧客からの受注をもらうような商流が一般的です。
そして、従来ブライダルリングは、日本でも欧米でも大量生産の方式でつくられることが主流でした。
ithの独自性とは、端的に言うと、従来は量産品として工場で生産されていたブライダルリングを、一点物として工房で職人がつくることを実現したことです。
その為に何をやってきたのか?
まず一点物は手間がかかります。また職人のレベルも上げていかなければなりませんので、もちろんアジアの工場と日本の職人ではコストも違います。その為、従来は高額な一点物のハイジュエリーは工房、それ以外は工場といった区分けがなされていた訳です。
もちろん、ithも全てを自社で揃えようとすれば無理が生じます。そこで考えられたのが、複数の小規模な工房をネットワークすることで仮想工房をつくるというアイデアです。そうすることで、無理に全部を抱えることなく、少数精鋭の職人が集う工房のメリットを活かしています。
ただ、複数の工房をネットワークすることで作業上の大問題が発生します。
それは情報伝達です。普通の工房であれば同じ空間の中に親方がいて職人がいる。技術の伝達は目の前のやり取りです。ですが離れた場所ではそうはいきません。
そして、それ以上に難しいのは、お客様の要望が詰まっている一点物の細かい仕様やニュアンスをithの生産管理から遠隔の職人へ正確に伝えることです。実際に、この小規模工房のネットワーク化の初期においては、遠隔の協力工房に生産管理から依頼した品が生産管理に納品されるまでブラックボックス化されており、納品されたらミスが判明し間に合わないので自社工房の職人がギリギリで手直ししてお客様へお届けするようなことが頻発していました。
そういった問題を解決するのがIT技術です。
まずは自社で構築する基幹システム。このシステムのお陰で、アトリエからの受注情報を生産管理、そして各工房の職人の手元まで明確な指示書として伝えることが出来ます。
そして職人は一点毎に生じた疑問や不明点をクラウドにアップし、それを司令塔である吉祥寺の自社工房でリアルタイムに確認します。オンラインで実施されるデイリーの共有会で自社工房の工房長と各工房は、これらの問題を共有し、逐次解決していくことで、滞りなく作業が進みます。もともとITは大の苦手と言う職人たちに、それを克服しDXしてもらうことで、この方式が実現しました。
ものづくりの技術とITの技術を結合することで、ithは吉祥寺の自社工房を中心に複数の小規模工房をつないでブライダルリングを一点物として制作する仮想工房ネットワークという新しいものづくりの仕組みを作り上げたのです。
最後に、なんでithはそんな仕組みを作ったのか?
もちろん一番の根っこにあるのは、高橋亜結という職人の小さなアトリエから始まったというルーツです。ただ、私たちが業界の常識を何も知らなかったというバックグラウンドも大きいと思います。常識的に考えればメーカーに全て外注すれば済むところを、その伝手も知恵もない上にルーツを大切にした結果、大変な苦労はしたが他にはない独自の仕組みが出来上がった。
それはカッコよく言えば、理想を掲げ、常識に流されず、地道な努力を積み重ねたと言うことなんでしょうが、もし予め楽な常識を知ってたら、もしかしたら私は易きに流されたかもしれないな。。。だったら、これは偶然だったのか、無知で夢中がゆえの産物か、、、
まあ難しいことは置いといて、大切なのは独自の仕組みが出来上がったってことですね。これからも理想を忘れず、常識に流されず、みんなで地道な努力を積み重ねていきましょう!
宮﨑
「ともに、つくる」は主にインナーコミュニケーションを目的とした社長ブログです。
アーツアンドクラフツ代表取締役社長。考えるよりも動く現場主義。創業以来一貫して事業の最前線に立ち様々なパートナーと価値をつくりあげる。