世間では、レジ袋の有料化や「プラスチック資源循環促進法」によるプラスチック分別促進等という形で、エコ促進やCO2排出量削減を目的としたプラスチック利用に対する規制強化がなされています。これらは日本政府が掲げる2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた取組の一環となっております。
ではなぜ、プラスチックの消費量を減らしたり、分別を促進することでカーボンニュートラルの達成がなされるのでしょうか?これらの疑問は、プラスチックの製造及び廃棄の過程を見る中で理解できるかと思います。
プラスチックは、主に以下のような工程で製造されます。
上記の図で示した通り、プラスチックの原料となる「ナフサ」を熱分解する際に大量のCO2を発生させてしまいます(2019年時点では6,018万トン)。
つまり、プラスチックを製造すること自体がカーボンニュートラルの妨げになっているのです。それに対し、現状ではなるべくプラスチック消費量を減らすためにレジ袋有料化等の施策が行われています。
では、廃棄されたプラスチックはどの様に処理されるのでしょうか?
以下が、2018年度時点での廃プラスチックの処理方法内訳になります。
図の通り、2018年時点では、約65%のプラスチックが「サーマルリサイクル」または「単純焼却」という、CO2を発生させてしまう方法で処理されております(2018年時点での廃プラスチックからの排出量は1,600万トン)。
これほど多くのプラスチックが燃焼によって処理されている理由こそ、プラスチックの分別ができていないことに起因します。
実はプラスチックには様々な種類が存在し、リサイクルするためにはそれらを適切に抽出しなくてはならない上に、汚れや水等を含んだ状態のプラスチックは適切に洗浄・乾燥しなくてはなりません。ただ、現時点でのごみ分別や収集方法ではリサイクルが十分に行える程の分別・洗浄された状態での回収が難しく、結果焼却処分されるプラスチックが多くを占めてしまっております。
つまり、プラスチック業界がカーボンニュートラルを達成するには、
の2つを達成する必要があります。
では、上記2つの達成に向け、現在どの様な取り組みが行われているのでしょうか?
先ずは、日本がどのような形でカーボンニュートラル達成を試みているのかを、「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」が行っている「グリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」の取り組みを基にご紹介します。
現在、三菱ケミカル社や双日マシナリー社などが協業し、アンモニアを燃料としてナフサ熱分解を行うプラントの開発を行っております。
アンモニアを燃料としたナフサ熱分解炉は2030年を目途に商用化される予定となっております。
なんと今では、CO2自体をプラスチックの原料とすることでカーボンニュートラルを達成しようという研究が行われています。現在ではNEDOの支援の基、日本製鉄や大阪市立大学等が共同でこれらの技術開発を行っています。
こちらの技術は、2024年度を目途に技術開発を完了させ、2030年を目途に大規模化を計画しております。
実は、アルコールからのプラスチック製造はおよそ25年前から世界的に行われており、「MTO」または「ETO」と呼ばれております。ただ、その原料となるアルコールを水素から生成することが今回の技術開発のポイントとなります。
アルコールの元素記号はメタノールの場合「CH4O」、エタノールの場合は「C2H5OH」となります。つまりアルコールを構成する元素は、
の3種類になり、水素が元素に含まれることが分かるかと思います。
また残りの二つの元素ですが、まさにCとOは「二酸化炭素」を構成する元素となるため、水素及び二酸化炭素を分解・結合することによってメタノール及びエタノールを生成することができます。
ただ、CO2は大気や燃焼活動を行った場所から供給することができますが、水素は大気にあふれているわけではなく別途生成する必要があります。この水素を生成する方法こそがまさに現在研究開発が行われている対象になります。
従来水素は、「水電解」と呼ばれる、水に電気を通して水素と酸素に分離させる方法で生成されております。ただ、この方法では大量の電気を必要とするため、カーボンニュートラルを達成するにはこれらのエネルギーを全て再生可能エネルギーで賄わなくてはなりません。
しかし現在日本が開発を進めいている「人工光合成」という方法であれば、再生可能エネルギーを必要とせず水素を生成することができます。
人工光合成は水と太陽光を原料とし、光触媒を用いて水素を生成する技術で、東京大学柿岡教育研究施設にて水素生成技術は既に実証されており、現在規模化に向けた開発を行っております。
NEDO資料抜粋
廃プラスチック処理の分野においては、現在ケミカルリサイクル技術の開発が最も注力されています。
なぜなら、ケミカルリサイクルであれば現在の課題であるプラスチックの種類ごとの分別をある程度無視して行うことができるからです。
下記の通り、ケミカルリサイクルは廃プラスチックを基礎化学品というプラスチック樹脂の前段階まで分解し、それらを再度原料として活用する方法です。
この方法にて基礎化学品まで分解した段階で選別を行えば、ある程度廃プラスチックの種類が混合していてもリサイクルが可能になります。
ただ、現時点では同一プロセス内で混合しても良い樹脂の種類が限られてしまうため、日本国内での普及率は4.4%に留まっております。そのため、今後どれほど樹脂の混合を許容できるようになるかが技術開発の要点になります。
今回は、プラスチック業界がカーボンニュートラルに向けて抱えている課題及び日本がどのようにカーボンニュートラル達成を目指しているのかを紹介いたしました。
ただ、プラスチックのカーボンニュートラル達成を目指しているのは日本だけではなく、日本よりも技術開発が進んだ国もあります。
そのため、後編では世界ではどの様な技術開発が行われているのか、及び日本が開発している技術はその他競合国と比べどの様な優位性があり、どの様に戦っていくべきかをご紹介させていただきます。
単にカーボンニュートラルといえども、業界ごと達成に向けて取り組まなくてはならない課題は様々です。弊社はこれまで幅広い分野でカーボンニュートラル戦略に関する調査や戦略検討を行ってまいりましたので、それらの知見を基に貴社の抱えるカーボンニュートラル戦略に向けた課題解決のご支援ができればと存じます。
参照
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/コンサルタント。
CO2排出量可視化PJを始め、カーボンニュートラル関連の調査・実行支援PJに従事。
その他事業戦略立案支援や業界動向調査に参画。