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コロナ禍のリモート普及をきっかけとした働き方の変化

はじめに(ポストコロナへ)

 普通の生活に

 新型コロナウイルス感染症の流行から3年が経とうという頃ですが、このパンデミックによって様々な影響がありました。感染者の死亡はもちろん、飲食店をはじめとした多くの事業者の倒産や、自粛によって青春を謳歌できなかった学生の声など、テレビのニュースからは毎日のようにその状況が伝えられていました。

 しかし最近はその状況が比較的落ち着きはじめており、海外渡航やイベントの開催などもできるようになるなど、コロナ流行前の生活に戻りつつあると言えます。

 

コロナでのリモートワーク普及

 コロナによる生活様式の変化の代表例として、かつては一部の企業でしか見られなかったリモートワークが普及したことが挙げられます。

 緊急事態宣言の発令など、世間の外出自粛の中で出社人数を減らすことを目的に各社導入を始めたものですが、今では時間を効率に使えるなどの理由から新たな働き方の一つとして、出社の制限に関係なくリモートワークが中心となった会社も多くあります。

 しかしながら、コロナ以前の生活に戻りつつある中で、以前のように出社が増えているのも事実です。今年2022年の8月には日本生産本部の調査により、リモートワーク実施率が20205月の調査開始以来、過去最低となったことが明らかになっています。

 

出社へのより戻し、完全出社のところも

 出社に戻す企業も多くなり、一例として、Teslaのイーロン・マスクCEOが「テレワークを希望する者は最低週40時間オフィスで働くか、さもなければ会社を去らなければならない」としたことで注目を浴びました。

 人によってはリモートワークが生産性を下げると考える人もおり、コロナ以前の生活が戻りつつある今、コロナ禍でなくてもリモートワークの方が良いのかなど、改めてリモートワークという働き方を見直す段階にあると言えます。

 

リモートワークと出社の両論

 リモートワークが生産性を下げると考える人もいると上述しましたが、出社かリモートワークのどっちの方がいいかに関しては、多くの研究がされていますが、データとして決まったものはなく断言できないのが事実です。業種や人によっても違いますし、各会社の状況を考慮せずに単純比較することはできません。

 出社とテレワーク、以下のようにそれぞれメリット・デメリットがあり、効果的に使い分けることが重要であると言えます。

出社

 出社のメリットは、新しい考えやアイデアを生み出しやすい環境である点が挙げられます。これは、皆と同じ空間にいることにより、意図しないコミュニケーションが発生し、そこから刺激を受けて新しい考えやアイデアを生み出しやすい環境であるからです。

 一方デメリットは、毎日の通勤により時間や体力が奪われることや人間関係のなやみなどからストレスが発生しやすいことがあります。また出社により家庭のことや緊急の用事などへの柔軟な対応がしにくくなります

 

リモートワーク

 リモートワークのメリットとしては、自分の業務に集中しやすい点が挙げられます。家庭の状況にもよりますが、始業時間から就業時間まで自分のタスクと向き合うことができます。この環境は、書類や資料作り、データ作成、などの業務に向いており、論理的思考を必要とする作業の際に優位です。

 また出社時より疲労が蓄積しにくいというメリットもあります。出社・退社に伴う通勤時間や満員電車等のストレスがないので、その分疲労感は減ります。

 企業側の観点で言えば、出社の必要がないので全国各地から人材を採用でき、雇用の幅が広がるということもあるでしょう。

 デメリットとしてはON/OFFの切り替えが難しいことが挙げられます。在宅で仕事を行う場合、自宅のプライベートな空間であったり家族やペットがいたりするため、仕事モードとプライベートモードを分けることが難しくなります。

 そして最大のデメリットが、同じスペースに同僚や上司がいないのでコミュニケーションが取り辛いということです。上司からの指示もチャットやメールなどテキストベースで受けることになるので、より緻密なやり取りが要求されます。

 

企業ごとの様々な考え方

 各会社の状況を考慮し、テレワークと出社それぞれのメリット・デメリットを比較して効果的に使い分けることが重要であると上述しましたが、実際企業によって対応の仕方はそれぞれ異なり、働き方も様々です。その例をいくつか紹介します。

 

「完全出社」派

 イーロン・マスクが原則出社を決めたように、テレワークを基本とする働き方が増える中でも、かつてのように出社をするべきとする企業も一定数存在します。こうした企業は、対面のコミュニケーションを活性化することで、イノベーションの創出を促すことできると考える企業が多い印象です。例としてはイーロンマスクのTeslaのほかに国内ではHONDAなどが挙げられます。

 事例:HONDA

 「Hondaとして本来目指していた働き方を通じて変革期を勝ち抜くために、『三現主義で物事の本質を考え、更なる進化をうみ出すための出社/対面(リアル)を基本にした働き方』にシフトしていきます」という、出社を前提とした働き方へと転換する意義を強調する内容のメールを社員に送付した。ホンダの三現主義とは「現場、現実、現物」からなり、創業者の本田宗一郎氏の時代から受け継がれてきた、いわば企業理念。対面でのコミュニケーションを重視した働き方で、社員にホンダらしさを発揮してほしいという意図がある

 

「リモート標準」派

 従業員が業務内容に応じて柔軟に勤務場所を選択できるようにするいわゆるリモートワークで、昨今多くの企業が採用し始めている働き方です。押印業務の廃止など、業務プロセスの見直しが行われたり、社員の自由な働き方を認めたりすることで業務パフォーマンスを上げることを目的としています。

 事例:日立製作所

仕事や生活のニーズに合わせて効率的な働き方を促進するために、在宅/サテライト勤務制度(リモートワーク)を積極的に活用。サテライトオフィスは年々拡充し、日立や外部契約の施設利用によって、首都圏で数十箇所の拠点で勤務可能。在宅勤務の活用を標準として、「働き方の多様化」を推し進め、在宅業務の正当な評価のため、業務や役割、期待成果を明確にする「ジョブ型人財マネジメント」への転換を加速させる

 

リモートスタンダード

 コロナによるリモートをきっかけに働き方そのものを考える企業も少なくありません。

 在宅やリモート標準を含め、社会の変化に柔軟に適応する必要があることからポストコロナに向けた新たな働き方を考える風潮は高まっており、政府も以下のように目標を定めています。

兼業・副業やフリーランスなど、新しい働き方を定着させ、リモートワークにより地方創生を推進し、DXを進めることで、分散型居住を可能とする社会を実現します。また、Society 5.0時代に活躍できる人材=技術革新に対応し、新たな価値を創出できる人材を育成します。

 

 そんな新たな働き方の例として、昨今大手企業が採用し始めてことで注目を浴びているのがリモートスタンダードという働き方です

 リモートワークと出社のハイブリッドワークを前提としたもので、勤務場所が「自宅」となるため出社は「出張」扱いになり、また、テレワークの手続きは申し出などが不要で居住地は現行の勤務する事業所の周辺から、居住範囲の制限がなくなるといったものです。

 これは自社の制度にはリモートと出社のどちらが合っているかではなく、働き方に合わせて制度を変更してしまおうというものです。

 事例:NTT

日本電信電話株式会社は6月24日、NTTグループが日本全国どこからでもリモートワークで働くことができる制度「リモートスタンダード」を7月1日から導入すると発表。これまでリモートワーク制度・リモートワーク手当・スーパーフレックスタイム・分断勤務・サテライトオフィスの拡充等により、社員の「働く時間」や「働く場所」の自由度を高めてきていたが、『住む場所』の自由度を高め、転勤や単身赴任を伴わない働き方のさらなる拡大を目指す

                      

まとめ

 コロナによりリモートワークが注目されましたが、これはきっかけに過ぎず、今後も働き方について考える流れは続くと思われます。

 日本型雇用を象徴する制度である転勤や単身赴任を不要にしたり、組織や人材の地域分散を進め、社員を職務内容に応じて処遇する「ジョブ型」も拡大したりなど、働き方改革の一環としてのリモートワークと出社の使い分けが進んでいる。

 昭和のカルチャーを脱し、あくまでも仕事の成果を上げるために社員がしっかりと働ける環境を会社が用意するということ、また社員もそれに応じ、自らのライフスタイルに合わせた環境を選択していけるようになる、こうした新たな働き方が求められているのではないだろうか。

 

 

【参考】

「強制出社」イーロン・マスクの闇――TeslaとAirbnbの比較からテレワーク論争を考える

SOMPOホールディングス「出社とテレワーク、効果的な使い分けとは」

首相官邸HP「新しい働き方の定着」

Yahoo HP 『ヤフー、通勤手段の制限を緩和し、居住地を全国に拡大できるなど、 社員一人ひとりのニーズにあわせて働く場所や環境を選択できる 人事制度「どこでもオフィス」を拡充』

HRpro『「ハイブリッドワーク」を実施する企業が増加。テレワークと出社の“良いとこ取り”する働き方のために』

東洋経済オンライン「ホンダがテレワークやめ原則出社に踏み切る真意」

日立製作所 HP『[日立が推進する新しい働き方]「在宅勤務やジョブ型を推進」 人財担当役員が語る日立の「新しい働き方」とは』

櫻井直緩

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト