現在、物流を取り巻く環境は「人手不足」「高齢化」「長時間労働」「低賃金」「荷主ニーズ多様化・荷物小口化」「荷待ちにおける長時間待機」「荷卸しや付帯作業の増加」などにより、物流自体のキャパシティが追いつかなくなることから、現在のサービス水準の維持が難しくなる「物流クライシス」が叫ばれています。
また、2024年には運転業務の年間時間外労働時間の上限が設定されます。1日あたりの運べる荷物の量が少なることが予測されるとともに、収入減少が引き起こされ、離職に繋がり、労働力不足に拍車がかかることが懸念されております。
本記事では、そんな課題の根本原因とはいったい何なのか、物流関係の企業はどのような施策・対策が必要なのかを物流の歴史の観点から紐解いていきます。
Merkmal「貨物輸送の輸送機関別分担率の長期推移」によると、1920年以前まで日本の貨物輸送のシェアとしては内航海運、鉄道の割合が100%を占めており、自動車による陸上輸送は行われていませんでした
日本では、江戸時代に、幕府が諸大名の軍事力の移動を困難にするため、主要な河川に架橋を禁じ、また街道の幅を制限し、車両の使用も禁止していました。そのため、人の移動はともかく、貨物の大量輸送用の道路インフラは極めて脆弱であったと言われています。
明治維新後の文明開化の中で鉄道輸送も拡大しつつありましたが、江戸時代から続く船舶輸送のシェアが大きかったとされています。(当時は利根川などの水運が発達し、建築資材である木材や農産物は川の流れに乗って江戸まで運ばれていた)
この頃事業者と荷主の運賃のやり取りとしては船舶・鉄道がメインの輸送手段であったため、1度の輸送でどれだけ運べるか(距離制運賃)といった指標での請求が主であったと推察されます。現在自動車による輸送での取引は距離制での運賃収受がメインとなっていますが、自動車による輸送が存在していなかったこの時代の取引関係を受けて現在も距離制運賃が主流となっている可能性が有ります。
自動車による輸送が広がり始める中で、1951年政府は道路運送法を制定し、運送事業は「認可運賃」の全社一律適用による需給調整を行い管理するようになります。
この頃は、大量生産・大量消費時代とも言われ、どんな商品でも作れば作るだけ売れました。そんな状況だけに生産者はモノづくりに、流通に携わる者は売ることに専念すればそれですべてがうまく行くという時代でした。
その後オリンピックや万博の開催に伴って全国の道路が整備され、陸送に適した環境が充実した高度経済成長の時代になり、陸路での輸送網が形成されていきました。
高度経済成長期を支えるための基盤として1960年代半ばに国土開発幹線自動車道建設法が制定され、全国的な高速自動車交通網を新たに形成させるための基本計画を策定しました。そして1970年代以降の高速道路整備・国道地方道の舗装の進展により輸送地への距離が短縮されていきました。
戦前から続く距離制での運賃設定は、輸送経路の未舗装、ナビ等のICT技術の未発達などの観点から、不確定要素の多い時間制での運賃収受よりも、定額の距離制運賃のほうが荷主・運送事業者双方にとって取引しやすい体制であったのではないかと推察されます。
1990年物流二法制定により、「認可運賃」から「事前届け出制」へと変更になり、各事業者が設定・変更した運賃設定が行えるようになりました。運賃設定の自由化に伴い、運賃値下げによる低運賃事業者が増加し、荷主とのパワーバランスの偏りが発生しました。
また、2003年には物流市場の活性化を狙った物流二法改正による最低車両台数規制緩和、営業区域制廃止がなされ、業界参入障壁が下がったことで運送事業者数が増加し、多重下請け構造が発生したと考えられます。
荷主とのパワーバランス発生により、運送事業者は仕事を確保するために過積載・長時間労働を余儀なくされることとなりました。そうしたドライバー労働環境の悪化により、労働者不足といった課題も露呈するようになりました。
また近年では、食品・製造物流を始めとした、必要なものを、必要なときに、必要なだけ供給するための生産計画である「ジャスト・イン・タイム方式」、ECサイトの普及による個人消費趣向の多様化に伴う「商品ライフサイクルの変化」等による荷主ニーズの多様化、過剰在庫のリスクを減らすために、必要な数だけ商品を発注するため発生する荷物の小口化による輸送量の増加も相まって安定した輸送能力の確保がなされないままでいます。
物流の歴史を紐解いてみると、根本原因にあるのは荷主と運送事業者のパワーバランスの偏りによる運送事業者の輸送能力の逼迫というのが一因として挙げられます。
物流コストは事業会社にとってなるべく削減したい項目のため、パワーバランスの偏りから、到着時間厳守、荷役作業、附帯作業等本来ドライバーの負担でないはずの作業が運送事業者に発生しており、作業量に見合わない運賃収受が発生しています。
現在では国土交通省による「標準的な運賃」が告示されていますが、法的な拘束力は無く、競合が適用しない限りは仕事を失うリスクが高まるため、適用が進んでいません。物流業界改善に向けた荷主の協力を得るために、荷主の改善努力が反映される仕組みづくりが必要です。
国交省を始めとした各省庁が発行している物流ガイドラインの改善事例に目を通すと、「荷主の改善に対するモチベーションが高かった」、「日ごろから意思疎通を図ることが出来ていた」等の文言が記載されていますが、その前段としてどのようにしたら荷主が改善に対する協力をしてくれるかがキーになってくると考えます。荷主に対しても物流改善を行うことでメリットを訴求できるポイントを探すことが必要となってきます。
ドライバーの労働時間に制限がかかる2024年問題を目前にして、ドライバーの輸送能力を最大限活用するためにも、荷主基点の改善努力が物流コストに反映されるような取引関係を構築することが今後の物流業界にとって必要な変革となっていくことでしょう。
前段に挙げた荷主に改善努力をしてもらうために必要な検討として、主に担当者間での契約見直しが挙げられます。
各事業会社と運送事業者の輸送契約の見直しを担当者レベルで話し合い、双方の折り合いをつけるための輸送条件見直しが主な検討内容になると考えます。
各事業会社としては、「輸送便数」、「到着時間指定」、「混載便の使用」等を検討し、現状の物流コストからの削減効果を検討する必要があります。運送事業者としては、削減される分の輸送便・時間を新規輸送にあてがうことで、ドライバー輸送能力の活用を今以上に行なわなければいけないことも考慮すべきポイントであります。
事業者ごとに契約形態は異なるため、それぞれどの輸送条件を緩和し、どの程度の効果が見込めるかは十分に検討していく必要があります。運送費を削減すると、運送事業者の人手不足に拍車をかける可能性があるほか、燃料費の変動による影響を受ける可能性があるため、簡単に削減できるものではありません。そのため、コスト削減にあたっては、まず現状のコストを把握し、削減できそうな部分を見つけることが大切です。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト