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リファラル採用の実例と展望

概要

 昨今、日本では少子高齢化などの影響から労働人口の減少が進む中、企業では労働者の中でも優秀な人材の採用に力を入れることが求められてきます。さらに、労働生産性や従業員のエンゲージメントの向上も大きな課題となっています。そんな中、自社に所属する従業員の人脈から優秀であり、自社とのミスマッチが少ない人材を紹介してもらうことのできる「リファラル採用」」に注目が高まっています。

 リファラル採用はアメリカではすでに一般的な採用方法として普及しています。日本でも2015年ころから注目が高まってきており、ベンチャー企業を中心に制度が採用されてきています。

 本稿では、従来のリクルートを示したうえで、リファラル採用の詳細と実例から今後の展望について述べてまいります。現在、人材の確保にお悩みの企業の方や、今後リファラル採用の導入をご検討されている方々にとって、一助となる情報をご提供できればと考えております。

リファラル採用とは

 採用活動の種類は大きく新卒採用と中途採用に分けられます。その中でも今回は中途採用向けのリファラル採用について言及していきます。

採用活動(リクルート)の種類

 採用については主に、採用活動方法や役割による分類、雇用期間や雇用形態で分類することができます。以下は、中途採用における採用活動を分類したものになります。

 今回ご紹介するリファラル採用は採用活動に分類の内、中途採用の1つに該当する採用活動となります。

リファラル採用について

 リファラル採用は、自社の従業員から友人や知人を紹介してもらう採用手法のことを言います。人事部の採用担当や外部の採用エージェントがリクルーターとなるのではなく、自社の企業理念や文化・風習を理解している社員がリクルーターとなり、人柄をよく知る知人や、友人を紹介するため、企業と被採用者との間で起こる採用のミスマッチが他の採用活動と比べ起こりにくく、採用後の定着率向上が期待できます。

 リファラル採用に類似したものとして縁故採用というものがあります。縁故採用も社員からの紹介を受け手採用する点ではリファラル採用と同じです。しかし、知人や友人を紹介するリファラル採用に対して、縁故採用は「血縁関係や特別なつながりのある人物」を紹介するという意味で定着しています。縁故採用では、能力やスキルの有無に関係なく、血縁的なつながりやコネでの採用というイメージもあることから、比較的ネガティブな印象が少なからずあります。一方、リファラル採用での被採用者は自社の社員からの紹介ではあるものの、採用には一定の採用基準を満たす必要があります。採用試験や明確な採用基準が存在するため、縁故採用に比べネガティブなイメージはありません。この採用方法に対する受け手のイメージが、リファラル採用と縁故採用の違いといえます。

メリット、懸念点

 リファラル採用のメリット大きく直接採用に関わるものと、間接的に会社に関わるものの2つに分けられ、以下の4つです

(直接採用に関わるもの)

 1採用のミスマッチが少なく、採用後の定着率が高い

 リファラル採用では、事前に企業理念を理解している社員の知人や友人が対象となるため、紹介される人は社員と同様の価値観を持っている可能性が高く、企業理念や文化への共感度合いなどのミスマッチが少なく採用後の定着度合いが高いことが期待できます。あるデータではリファラル採用経由の応募者における採用決定率は求人広告の20倍、人材紹介の4倍ほどとなります。また、採用される人は、既に社内に友人がいるということによる不安の払しょくと、職場へなじむことにも影響することから、早期退職を防ぐ効果も期待できます。その結果から、採用後の離職率が他採用チャンネルの入社者と比較して20%低下したというデータがあります。

 2採用コストの抑制

 リファラル採用では、リクルーターは自社の社員であり、求人広告や人材紹介サービスの利用が不要となります。そのため、広告宣伝費や紹介手数料の外部コストをかけることなく採用活動を行えるため、従来の採用活動よりもコストを抑えられる可能性があります。

 3転職活動を行っていない潜在層へのアプローチが可能

 実際に転職活動を行っていない人の中には、現在働いている会社よりもいい会社がある場合転職したいと考えている人は少なからずいます。転職サイトには載っていなくとも知人からの話を聞くことが動機となり、転職活動をしていない潜在層の人へのアプローチにつながるのと、本人と直接アプローチできることで他社と競合することなく人材を確保することが可能となります。

(間接的に会社に関わるもの)

 4社員のエンゲージメントを高められる

 リファラル採用では、社員がリクルーターとなることで人事の役割を一部担うこととなります。友人・知人へ自社を紹介する際に、自社の企業理念だけではなく、自分自身の入社理由や現在行っていること、会社内で実現したいことなど自分を振り返ることもできるため、自分自身の会社に対する考えを見つめなおすきかっけとなり、結果的にエンゲージメントを高めることにつながります。

 

懸念点は主に以下となります

 1人間関係の配慮

 社員からの紹介という仕組上、紹介した社員・紹介された候補者両名の人間関係を配慮する必要があります。候補者が不採用となった場合に友人関係が破綻する可能性、採用となっても紹介者が退職した際の候補者のモチベーション低下・退職が最悪発生してしまうため、企業側は採用後の人間関係性維持のためにも人員配置を注意する必要があります。

 2公私混同の発生

 紹介者と候補者はもとより友人・知人であり、採用後職場内でのコミュニケーションが私的なやり取りに見られてしまう可能性があります。これは、周囲の社員のモチベーションを下げることにつながる可能性もあるため、紹介者と入社者の間で入社前にコミュニケーションの取り方を決めておく必要があります。

 3内定から入社までの期間が長くなる

 紹介される候補者は、もとより転職活動を行っていない人もいます。その場合現時点で勤めている会社との退社時期に関する調整も発生してきます。転職活動を初めからしている人の場合、勤めている会社の退職時期をある程度決めていたり、既に退職している場合があるため内定から入社までの期間が比較的短くなるが、内定受諾後に退職時期を決める場合は数カ月かかる可能性が出てきます。

 

リファラル採用実例

いくつかの業界における事例についてご紹介していきます

 

事例①:IT業界

企業名:株式会社セールスフォース・ドットコム

概要

 顧客管理関係(CRM)ソリューションを中心としたクラウドコンピューティング・サービスを提供する株式会社セールスフォース・ドットコムでは、現在年間の採用人数の約半数をリファラル採用経由で採用しています。

 2012年頃にはリファラル採用の精度はありましたが、エージェント経由での採用がメインでした。しかし、会社が成長を遂げる過程において①必要な採用人数、②社員の定着の2点を図るために、リファラル採用へ力を入れました。

推進方法

 「こういうポジションが空いているので力を貸してほしい」というメッセージを採用部門から社内コミュニケーションツールで配信することで、社内に対して募集している「ポジション告知」を行いました。さらに、採用部門からの周知のみではなく、経営層から社内への周知を行うことで、社内全体の取組だということを社員に伝えました。

 紹介した社員へは、社員が進んで紹介をしたくなるように、旅行券のプレゼントなどインセンティブ制度を導入しました。

結果

 以上の取組より、リファラル採用による採用が増え、離職率が減少しました。さら、社員それぞれが自分の経験を元にそれぞれのポジションに必要なスキルや環境を理解したうえでの紹介を行うため、社員一人のプロダクティビティの向上にもつながりました。

 

事例②:人材業界

企業名:株式会社ビズリーチ

概要

 創業当時からリファラル採用を実施していたため、改めて注力しようとしたわけではない。株式会社ビズリーチにて展開する事業領域が広がってきている中、世の中に対して「待ちの採用ではなく、攻めの採用をしていこう」と謳っています。そこで、自分たち自身がそれをやり続けたい、体現したいという思いの元リファラル採用を制度として採用し続けています。

推進方法

 2013年頃、会社が大きくなりはじめリファラル採用が鈍化した時期に、リファラル採用の重要性を認識したメンバーを主導に「リクルーティングプロジェクト」を立ち上げました。

 社員をチームに分け、3ヶ月でチームにつき1人の方に入社の意思決定をしてもらえるように、ノウハウを共有しながら採用を行っていく施策です。その後2019年頃より当プロジェクトは原則、立候補制のプロジェクトであり、現在社内の約4割がリクルーターとしてプロジェクトに参画しています。

結果

 株式会社ビズリーチではいくつかの採用経路によって人材の確保を行っているが、その中でもリファラル採用で入社した社員は全体の4割を占めるほど最も多い割合となります。

 

展開予測

 (予測)リファラル採用は今後、ベンチャー企業などを中心に普及していくと考えられる

根拠としては以下の通りとなります

  • 入社後のミスマッチが少ない為、ベンチャーの事業拡大のスピードに対して、定着率の高い人材を確保できる
  • 採用担当以外の社員にも会社の問題意識を持たせることでエンゲージメント向上につながり、社内全体一丸となり会社の成長に携われる

といった2点は他の採用活動との優位点であり、社員も巻き込み社内の問題と周知することもできるため間接的に会社の成長につながる採用活動として採用されていくと推察されます。

 しかし、紹介者と入社者が「近しい間柄」という特性があるため、不採用時やどちらかの退職時の人間関係の維持や、入社後の公私混同について企業側が注意をする必要があるのと、制度の導入から人材の取得まですぐに成果が出る採用手法ではないことを留意する必要があります。制度導入の成功に向けては、経営層・人事・社員の間で採用方針を一致させることがポイントとなります。

 

おわりに

 企業の成長には人材の確保が必要となるが、会社にあった人や能力の高い人材を確保することは今後さらに必要といえます。より、低コストで確実に人材を確保していくためにリファラル採用は有効な手段と考えられます。本稿が皆様の今後の採用活動の参考になれば幸いでございます。

 

【参考】

福田 裕基

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト