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今さら聞けないオープンイノベーションとは? (定義や市場規模、成功事例、プラットフォームなど)

オープンイノベーションの定義とはじまり

オープンイノベーションとは、組織内のイノベーションを促進するうえで、大学、地方自治体、社会起業家など組織内外を問わずあらゆるリソース(技術やアイデア、サービス、ノウハウ、データ、知識など)を駆使し、さらに組織内で創出されたイノベーションを組織外へと展開する一連のモデルを指します。
「オープンイノベーション」は、2003年に経営学者のヘンリー・チェスブロウ氏が発表した概念が始まり、今では様々な業界でオープンイノベーションに取り組まれるようになりました。
同氏は大学で講義を行っていた際に、様々な世界的な企業の事例を研究し、自前主義で研究開発に最も投資した企業が必ず勝てるわけではないという点を発見しました。
さらに、研究開発を全て自社内で行う企業は、製品の市場投入までに時間がかかるのに対して、研究開発に多くの投資をせず、自社と外部の知識を組み合わせて活用できる企業は、製品をより早く市場投入でき、結果を出していたことを発見しました。
この「規則性」を発表するにあたり、その概念を説明するための名称として考えられたのが「オープンイノベーション」でした。

オープンイノベーションの市場規模

ここでオープンイノベーションに関する市場規模の指標として、イノベーションマネジメントの市場規模を見てみましょう。
イノベーションマネジメントには、組織の革新プロセスを概念から実装まで、最初から最後まで組織化することが含まれます。イノベーションのために戦略を開発して実装するためには、膨大な意思決定プロセスと検証が必要です。さらに、デジタルトランスフォーメーションによりこれまで以上により早く、より多くのイノベーションが求められています。
イノベーションマネジメントは、めまぐるしく変化する市場のニーズに対応するための新しいビジネスモデル、製品、サービス、新技術の開発における有効な手段であり、これによりビジネスの成長や組織の競争力向上につながります。
Panorama Data Insights202232日に発表したレポートによると、世界市場規模は、2021年に10USD2022年から2030年までの予測期間において年平均成長率(CAGR14%で成長し,2030年には32.5USDに達すると予測されています。
イノベーションマネジメントの市場で大幅な成長が見込まれる点から、企業や研究機関などで今後もオープンイノベーションが求められる可能性が高いと考えられます。


イノベーションマネジメントの市場規模と予測
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000093.000091008.html

オープンイノベーションの成功事例

ここでオープンイノベーションに関する成功事例を見てみましょう。

Xerox PARC

ヘンリー・チェスブロウ氏が発表した当時のオープンイノベーションの事例としてXerox PARCが挙げられます。
Xerox PARC
は親会社のXeroxがコピー機やプリンターメーカーであったため、既存のビジネスモデルに活用できていない技術が多くあったことをうけ、これらの技術を製品化し市場に投入しました。
それにより、AppleMacintoshAdobeのポストスクリプト、イーサネットなどで使われている技術の一部に同社の技術が組み込まれて世に出ることになりました。

P&G

P&Gの最も有名なオープンイノベーションとしては、Pringlesとの協業が挙げられます。
商品企画者が新製品のアイデアを考えていた際、表面にキャラクターデザインを印刷するという発想に至ったものの、社内リソースのみでは開発費用や技術者の採用などで課題がありました。そこで社外からのアイデアを募集したところ、食用インクジェット技術の発明者が参画したことで実現することができました。
最近では、探索している開発テーマを公開し、広くアイデアを募集しています。
それだけでなく、自社技術を他社にライセンスするための社外ネットワーク構築に力を入れており、味の素株式への骨粗鬆症治療剤に関する特許・商標ライセンスの提供などを行っております。

オープンイノベーションの失敗事例

さきほど挙げたような成功事例から、オープンイノベーションを進める企業が多くありますが、その一方で過去にはNASAやゴー・コンピューターのような失敗事例もあります。

NASA

NASAでは、自前で解決できていない課題をWebサイトに掲載し、それらに対する解決策を募りました。
集まった解決策の中で太陽フレアの予測に関わる非常に良い提案が、1人の気象予報士から出されました。彼が地上で見ていた雨や風などの予報パターンと太陽フレアの噴出に類似点を見つけ、課題を解決することにつながりました。
しかし、NASAが提案者に賞を贈り貢献に感謝の意を表した時から、全く違う分野出身の気象予報士から解決策を得たことに対して、NASAの専門家たちが自信を失いアイデンティティークライシスに陥ってしまいました。
この事例からイノベーションにつながるメリットもある一方で、組織内のアイデンティティーを育み、強化するように心がける必要もあることが言えます。 

ゴー・コンピューター

オープンイノベーションでは自社が管理できない要素が増加するため、他社技術の妥当性を正しく評価できる人材の育成など、社内体制を整備する必要があります。
ゴー・コンピューターはマイクロソフトから技術的な支援を受ける際に、自社の技術情報を大幅に提供しましたが、マイクロソフトはその情報から同様の製品を自社開発してしまいました。ゴー・コンピューターのもつ著作権だけでは訴訟に勝つだけの材料にはならず、同社は競争に破れ、倒産に追い込まれました。
ゴー・コンピューターのような状況を避けるために、交渉材料となる特許の取得や、パートナー企業の選択肢を複数持つことなど、自社に有利な立場で交渉できる準備を進めておくことを忘れてはならないでしょう。

オープンイノベーションプラットフォーム

近年ではオープンイノベーションを推進するにあたって、プラットフォーマーとなる企業や機関などが出てきています。ここではそんなオープンイノベーションに役立つプラットフォームを見てみましょう。

agorize

agorizeとは、「世界500万人のイノベイター」と「アイデア・技術・人財を求める企業」を結びつける、オープンイノベーションSaaSです。
世界300社以上のリーディングカンパニーやフランス政府、シンガポール政府も活用する、最先端のオープンイノベーション手法を提供しています。
学生の柔軟な発想力や若い感性を活用し、企業の直面している課題解決に取り組んでもらう”Student チャレンジ、 社内で足りない技術の発掘、または社内で眠っている技術の活用について、世界各国のスタートアップ企業から技術やビジネスプランを募集する”Startup チャレンジ、 オンラインでチームを組成し、数週間にわたってプロトタイプ製作に取り組むオンラインハッカソン、 社内/社外を対象に製品やサービスのアイデアあるいは課題を発掘するためのプログラムであるアイディアコンテスト Agorizeプラットフォームを活用し、社員チームによる課題解決に取り組む社内施策/IDEA BOX”といった5つのチャレンジやサービスにより課題解決につなげていきます。

AUBA

AUBAは累計登録者数20,000社以上の実績をもち、スタートアップから大手企業までの一次産業からAIIoTDXといった先端領域から航空宇宙まで、多様な業種の企業が登録されているプラットフォームです。
同プラットフォームでは共創目的の商談につながるように、営業行為はNGとしていることが特徴です。
それだけでなく、利用者層は、決裁権を持つ代表取締役執行役員が過半数を占め、部長~課長等、役職者が80%以上を占めていることからキーマンにつながることが可能です。


AUBAの操作イメージ
https://auba.eiicon.net/

NineSigma

同社では、顧客企業のメンバーの一員として求められる目的を深く理解した上で、多様なオープンイノベーションの手法を使いこなして成功体験を築き、その成功の型を顧客企業に移転する伴走型プログラムを提供します。
契約期間が始まる前に数回、同社のマネージャーと顧客企業の担当者で、オープンイノベーションで達成したい目的や抱えている課題について議論します。議論をもとに、目的をオープンイノベーション活動に翻訳した計画や期待成果を明確にした企画提案を提示することで、検討を進めるにあたっての新たな「気付き」が得られ、担当するマネージャーの理解力や力量をスタートする前に把握することができます。
プログラム開始後は定期的に打ち合わせを行って進捗を確認しながら進めていきます。
同社はこれまでICTや電気機器、製薬、食品、化学などの業界の顧客に対して目指すべき姿の提案や市場動向の分析、特許活用のパートナーのマッチングなど様々な実績があります。

Japan Innovation Bridge(J-Bridge)

J-Bridgeは、経済産業省が運営する日本企業とスタートアップ等の海外企業の国際的なオープンイノベーション創出のためのビジネスプラットフォームです。
当該プラットフォームに会員登録すると、海外有望企業情報、会員間の交流の場となる会員専用フォーラムや面談、専門家による相談対応、協業先候補の発掘から事業化に向けたメンタリングまでの一貫支援などのサービスを受けることができます。
その他にも関連プログラムとして、実証実験に関する補助を受けることができます。


J-Bridgeのサービス概要
https://www.jetro.go.jp/ext_images/dxportal/j-bridge/pdf/j-bridge_introduction.pdf

まとめ

2003年に提唱されて以来、多くの企業がオープンイノベーションに取り組み、様々な失敗がありながらも、これまで考えもつかないような大きなイノベーションにつなげたものも多くあります。
市場のニーズがめまぐるしく変わる現代では、様々な手段を通じてイノベーションを作りあげないと競争に勝ち残れないことは間違いありません。
過去の成功や失敗の要因を見極めて、近年開発されているプラットフォームなどを有効活用することができれば、オープンイノベーションは市場で生き残るための強力な手段になると言えるのではないでしょうか。

 【参考】
オープンイノベーションとは?定義や重要性について解説
【オープンイノベーションの提唱者】世界的な経営学者が語る、日本のオープンイノベーション
世界的な革新管理市場の規模は2030年までに32.5億米ドルに達すると予想|年平均成長率(CAGR): 14%
注目のオープンイノベーション!海外の事例をご紹介
P&Gのオープンイノベーション ~戦略の概要と成功事例~
オープンイノベーションとは? ~海外企業の成功事例と課題を簡単に解説
agorize Japan HP
AUBA HP
NineSigma HP
J-Bridge HP

藤本光佑

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。得意分野は決済事業、IoT、エネルギーなどの事業戦略の提案や、それに伴う調査