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ソーシャルスタイル理論による離職防止 & 組織活性

コロナ禍による転職率向上

マイナビ社が20223月に発表した「転職者動向調査2022年版」の情報によると、「2021年の正社員の転職率は、対前年比2.1ポイント増の7.0%だった。2016年以来増加傾向にあった転職率は、2020年に減少に転じていたが、2021年は過去6年間で最も高い結果」となりました。

簡単に言い換えると「既存社員が流出する可能性が高まっている」ということです。その要因には「大手企業へ転職して安泰な生活を手に入れたい」など、対策を講じにくいものなどがありますが、複数ある要因の中でも比較的対策を行いやすいものとして挙げられるのが「コミュニケーション頻度の低下による帰属意識の低下」ではないかと考えています。昨今のコロナ禍でリモートワークが推奨されて社内におけるコミュニケーション頻度が低下してしまった結果、自身が所属する企業(≒組織・チーム)への愛着が薄れてしまい他企業への転職を希望する社員が発生する、というイメージです。

今回紹介する「ソーシャルスタイル理論」は、各社員の特性を4つのカテゴリーで分類して適切な対応を行うことでスムーズなコミュニケーションを図ることを可能とし、結果的に離職率の低下に貢献する理論です。また、離職率の低下への貢献に留まらず、コミュニケーションの円滑化による組織・社員の生産性向上が期待できる点も同理論のメリットです。

もし既存社員の離職に頭を抱えている採用担当の方がいらっしゃいましたら、本記事を是非ご一読の上で実践いただければと思います。

参照元:ITmedia:転職率増加の要因は「コロナ禍で転職活動する時間が増えた」ため マイナビが転職動向の調査結果を発表

ソーシャルスタイル理論とは?

ソーシャルスタイル理論とは、産業心理学者が提唱したコミュニケーションの理論です。経営や営業などビジネスの場面で、相手と円滑にコミュニケーションを取るために作られました。ソーシャルスタイル理論では、人間の思考や行動は4つのパターンに分けられるとされており、感情や自己主張の大小でタイプが分類されます。

 

また、ソーシャルスタイルは相手のタイプを把握することもできるため、苦手な人とコミュニケーションを取ることが難しくなくなるでしょう。身近な人であれば行動を観察していると、4つのタイプの中から当てはまるものを見つけられます。相手のソーシャルスタイルが分かると、今まで気づけなかった言動の意図や考え方が理解できて、苦手意識が薄れることもあるでしょう。相手のタイプごとに接し方を変えると、対応力が身につきビジネスでも応用できます。

 

4つのソーシャルスタイルと特徴

ソーシャルスタイル理論では、「ドライバー」「エクスプレッシブ」「エミアブル」「アナリティカル」のタイプに分類されます。ソーシャルスタイルを分類する基準は、感情が表に出やすいかと自己主張の強弱です。自分や身近な人がどのタイプに当てはまるか、チェックしてみましょう。

参照元:CREDENCE「ソーシャルスタイル理論とは?相手の心をつかむコミュニケーションを!」

 

ドライバータイプの特徴

ソーシャルスタイルのなかでも、自己主張が強く感情も表に出にくいドライバーは、物事を合理的に進めていく職人タイプです。過程よりも結果を求める傾向なため、決断力がありスピード感をもって仕事をこなしていきます。戦略を立てることや勝負ごとを好み、負けず嫌いな一面も。物事は自分で決めたいと考えているため、人からの指示を嫌うことが多いでしょう。意見は率直にいうことが多く、責任のある仕事を任されている人が多い傾向にあります。

ドライバータイプと接するポイント

ドライバータイプと会話するときは、遠回しに話さず結論から伝えます。結論の後に根拠や理由を述べて、会話に無駄がないように接するのがポイントです。他人に物事を決められたくないため、提案する際は選択肢を提示して、ドライバータイプ自身に決めてもらいましょう。また、ドライバータイプは、一生懸命な人や負けず嫌いな人を評価する傾向にあります。

 

エクスプレッシブタイプの特徴

自己主張が強く感情も表に出やすいエクスプレッシブは、周囲から注目されたい楽観的なタイプです。小さいことは気にならず、雰囲気を明るくできるムードメーカーが多い傾向にあります。流行に敏感で、話題性のあることや新しいことを取り入れるのが得意です。注目されることを好むため、話を大げさにすることも。周囲の意見に耳を傾けられる特性から、リーダーとして活躍している人も多いでしょう。

エクスプレッシブタイプと接するポイント

エクスプレッシブタイプとは、調子を合わせて接するのがポイントです。共感を示しながら相手の話を聞きましょう。話すのが好きなエクスプレッシブタイプは、ビジネスの場面でも話が本筋から外れることがあるため、重要な話は確認しながら聞かなければなりません。自分の話は簡潔にして、根拠やデータは参考程度に提示しましょう。

エミアブルタイプの特徴

自己主張が弱く感情も表に出やすいエミアブルは、周りの意見を尊重する協調性の高いタイプです。日本人はソーシャルスタイルのなかでも、エミアブルタイプの割合が多いとされています。相手に思いやり持って接するため、話し上手より聞き上手な人が多いでしょう。親しみやすさがあり頼られることも多いエミアブルは、断ることが苦手で優柔不断な傾向もあります。自分より周囲全体のバランスを重視するタイプです。危機管理能力に長けており、事前準備は入念に行う一面も持ち合わせています。

エミアブルタイプと接するポイント

エミアブルタイプと会話する際は、共感しながら落ち着いて接します。共通の話題で盛り上がり、同調することがポイントです。相手を思いやることが得意な反面、問題を抱えていても話さない人が多い傾向にあります。悩んでいる様子なら、たまに話を聞いてあげると良いでしょう。また、エミアブルタイプに助けてもらった場合は、感謝の気持ちを言葉で伝えると喜ばれます。

 

アナリティカルタイプの特徴

自己主張が弱く感情も表に出にくいアナリティカルは、冷静に状況を分析することが得意なタイプです。自分が話をするというよりは、相手の話に耳を傾ける傾聴力を持っています。冷静沈着でコツコツ継続的に物事をこなすことが得意です。時間管理も徹底しているため、計画的に仕事を進められる人が多いでしょう。周囲に巻き込まれるのが苦手なため、空気を読めないという印象を与えてしまうことも。感情に振り回されず物事の本質を見抜く力があります。

アナリティカルタイプと接するポイント

アナリティカルタイプは、考える時間を与えるのがポイントです。何事にも時間をかけて取り組むため、突発的な出来事への対応が得意ではありません。頼みごとをする際は、時間に余裕がある状態で、期限を設けてお願いすると、モチベーションが上がる傾向にあります。また、話をしている最中に遮られることを嫌うので、最後まで聞いてあげるのが良いでしょう。

 

すべてのタイプに当てはまる場合は?

4つのタイプすべてに当てはまる人は、相手や状況に応じて対応を変えられるバランス型です。4つのタイプのすべてに当てはまらない人も同様にバランス型といえるでしょう。バランス型は、自分の感情に左右されないため、ルーティンワークの処理能力が高いといえます。相手の状況を瞬時に判断して、その場で接し方を変えられるような、優れた対応力を持っている人が多い傾向です。ソーシャルスタイルには、4つのタイプとバランス型があると理解しておきましょう。

ソーシャルスタイルを活用するメリット

ソーシャルスタイルを活用できると、タイプに合わせてコミュニケーションを取れるようになります。相手や状況に応じた臨機応変な対応力が身につくことで、仕事を効率的に進めることも可能です。この項目ではソーシャルスタイルを活用するメリットを4つ紹介します。

  1. 自分や相手を理解できる

ソーシャルスタイルで自分のタイプが分かると、今まで気づかなかったコミュニケーションや思考の癖が分かります。自分のことをより理解できると、仕事で落ち込んだときの対処法やモチベーションを上げる方法が知れることもあるでしょう。ソーシャルスタイルは自分と同じように、周りの人を理解するために活用できます。苦手なタイプを把握しておくと、上手く対応するためのヒントを得られるでしょう。円滑にコミュニケーションが取れるようになると、今まで感じていた苦手意識が薄れ、人間関係のストレス緩和が期待できます。

  1. 自分の当てはまるタイプを探すコツ

自分がどのタイプに当てはまるか考える際は、周りから受けている印象で考えると良いでしょう。人は状況や相手に応じて、コミュニケーションの取り方を変えていることがほとんどです。ソーシャルスタイルを仕事で活用したい場合は、会社の人からどう見られているのか、想像しながらタイプを考えましょう。

  1. 相手と円滑にコミュニケーションが取れる

相手が好む接し方で対応すると、円滑にコミュニケーションを取れるでしょう。チームで仕事をしていると、さまざまなタイプの人と関わらなければなりません。苦手なタイプや何を考えているかいまいち分からない人もいます。ですが、ソーシャルスタイルを活用して、相手が喜ぶ褒め方や頼み方をすると、自然にコミュニケーションを取れるようになるでしょう。また、社外や営業先の人にも活用できます。交渉や提案する際には相手を観察して、タイプごとに対応を変えましょう。

  1. 仕事を効率的に進められる

それぞれ4つのタイプをチームに入れると、仕事を効率的に進められるでしょう。ソーシャルスタイルは、不足している部分をお互いに補える関係性になっています。たとえば、分析力のあるアナリティカルタイプと直感で動くエクスプレッシブタイプは、足りないものを補える関係です。しかし、お互いのタイプを理解していないと、ぶつかり合うこともあるでしょう。アナリティカルタイプとエクスプレッシブタイプの間に、ドライバータイプかエミアブルタイプが入るとバランスが取れます。仕事で得意なことをお互いに理解できていると、バランスの取れたチームを作れて、生産性が向上するでしょう。

ソーシャルスタイルを活用する際の注意点

ソーシャルスタイルは環境によって変化します。プライベートと仕事ではタイプが違う人や状況によりタイプが変化する人もいるでしょう。時間が経てば自分と相手も変化していくため、定期的にタイプの確認するのがおすすめです。把握するのが難しいと感じる方は、4つのタイプの要点だけ覚えておき、その都度どのタイプに当てはまるか相手を観察するのが良いでしょう。

総括

コロナ禍の影響により新たな人材の確保におけるハードルが高くなっている状況であり、既存の社員・組織における生産性の向上は以前にも増して重要性が高まりつつあります。今回紹介した「ソーシャルスタイル理論」を上手く活用することで、社内におけるコミュニケーションを円滑にすることで業務を効率化させるだけでなく、各社員の活性化(≒生産性の向上)にも繋がるものです。是非、読者の皆様でも一度お試しいただければ幸いです。

 

髙木義万

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト