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2019年12月初旬、新型コロナウイルス(COVID-19)の発症が中国の武漢にて確認され、現在まで世界各国に影響を及ぼしています。感染者が急増したことにより、医療機関での対応が逼迫している苦境の中でも、可能な限り多くの人々を診療し命を救うために、医療業界にも変化が起きています。その一例がオンライン診療の急増です。
オンライン診療とはその名の通り、医師がインターネットなどを介して患者を診察する行為で、「遠隔医療(診療)」とも呼ばれています。日本では新型コロナウイルス感染拡大前から実施されていましたが、コロナ禍前と比較すると利用者が約3倍に増加しており、急速に普及していることがわかります。
市場規模についても、国内では2019年には242億円でしたが、コロナ禍での必要性によって2023年には378億円へと成長することが予想されています。2025年には、432億円へと拡大することが予想されており、今後ますます普及していくこととなるでしょう。
本稿では、今後も大きく成長していくことが予想されるオンライン診療について、最新テクノロジーの観点からどのような方向性へと進んでいくのか事例とともに考察していきます。
まずはオンライン診療の定義について、厚生労働省から発行されている「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を改めて確認すると、「遠隔医療のうち、医師―患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」と記されています。
要約すると、以下3つの特徴を持った行為であると言えます。
日本においては、1997年から条件付きで実施が認められていましたが、当時はオンライン診療を進める理由・必要性がなく、オンライン診療について知見のある医師および、医療設備も十分ではなかったため、普及しませんでした。しかし、2020年には新型コロナウイルスの拡大に対応するために、オンライン診療の適用範囲が広がったことや、必要設備も整えやすくなったことを背景に、急速に普及が進んでいます。
新型コロナウイルスをきっかけに普及の進んだオンライン診療 ですが、
今後の活用機会を把握するため、どのようなメリットがあるか見ていきましょう。
急速に拡大しているオンライン診療ですが、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
以下に整理しましたので、順に見ていきましょう。
まず、診療のための通院が不要となることは、オンライン診療を受ける大きなメリットです。
診療場所が医療機関に限定されなくなりますので、インターネット環境のある場所であれば、自宅もしくは外出先からでも自由に診療を受けることができます。
次に、オンライン診療では医療機関に足を運ぶ必要がなくなりますので、二次感染のリスクを減らすことが可能となります。
インターネットを通じた診療であれば、他の患者の方との接触が一切なくなりますので、より安全に診療を受けられる点はメリットと言えるでしょう。
最後に、オンライン診療における診療時間の自由度は大きなメリットと言えるでしょう。
平日に勤めている一般的な就業者の場合、平日は医療機関の営業時間内に赴くことができず対面での診療を受けることは困難です。
しかし、オンライン診療であれば医療機関の営業時間外であっても受診可能な場所が増えてきていますので、診療時間を自由に選択することが可能となります。
上記メリットを確認すると、やはりコロナ禍に限定されたソリューションではなく
今後の医療業界における診療の1つの選択肢になっていくことが予期されます。
では、今後の医療業界におけるオンライン診療がどのような岐路を辿っていくのか、
特に影響力の強い最新テクノロジーの観点からその方向性についての考察を進めたいと思います。
最新テクノロジーとして、2022年のトレンドにもなっている「AI」「5G」の2つの観点から事例を見ていきます。
1つ目はAMI株式会社にて、開発が進められている「超聴診器」と呼ばれるAIを活用した医療機器です。
この医療機器には、心臓の音を捉える心音センサーと、心臓の電気的な活動の様子を記録する心電センサーを搭載しており、センサーから得た情報を基に心疾患の有無、心疾患の種類をAIが自動的に判断することが可能な模様です。
聴診は、医療現場において長きにわたって実施されていますが、その精度は医師によって左右される定性的なものとなっているため、「超聴診器」を用いた定量的なデータに基づく高精度な診断は、大きな価値をもたらすのではないでしょうか。
特に、オンライン診療では、問診と視診が基本となっていますので、高精度な聴診はより効果的な診療を実施する上での大きな価値になると思われます。
「超聴診器」については、心音センサーと心電センサーの2つのセンサーから取得した情報を伝送する技術の開発も進めており、オンライン診療に導入される日もそう遠くはないでしょう。
2つ目は、NTT西日本などによって構築されたローカル5Gを用いた遠隔での内視鏡検査実証実験に関する事例です。
当取り組みは、長崎県の五島中央病院にて実施され、ローカル5Gと光回線を使いリアルタイムに長崎大学病院へとデータを伝送することを実証しました。
結果としては、4K内視鏡カメラから伝達された高精細画像を利用することによって、食道がんを発見することができたとのことです。従来、食道がんは食道炎と区別することが困難であった背景からも、データを遅延なく高精度に伝達できることが確認された一例となりました。
上記事例から、オンライン診療において、より精度の高い診察~診断を実施し、患者に対して正確にアドバイスする上では、「高速大容量通信」「多数同時接続性」「高信頼・低遅延通信」の特徴を持つ5Gの持つ役割は大きなものになっていくと予期されます。
本稿では、最新テクノロジーの観点からオンライン診療の今後の方向性について考察しました。
AIにおいては、オンライン診療の基本機能をより強化する動きが見られ、
5G においては、オンライン診療の枠を超えた遠隔での検査に足を踏み出す動きが見られました。
現在のオンライン診療は、対面診療をサポートする補助的な側面が強いですが、
最新テクノロジー事例から推察すると、今後はオンライン診療と対面診療の垣根がなくなり、
診療もよりシームレスなものになっていくことが予期されます。
そうなれば、診療に対するハードルが下がることで患者の再診率は増加し
国内全体の健康意識向上、ひいては健康寿命の延伸にも繋がる可能性が考えられます。
本稿での考察が、医療業界の一端を把握する一助になれば幸いです。
【参考】
アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/アナリスト
2020年早稲田大学文化構想学部卒業。ITコンサルティング分野において、CRM/SFAシステム導入支援の実績を保有。