近年、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、様々な業界でDXへの注目が集まっております。特に、コロナの影響を多大に受けたイベント業界においてもDXへの取り組みが盛んにおこなわれています。その背景には、コロナ禍による感染拡大防止や三密回避の観点から多くのイベントが中止を余儀なくされ、結果2019~2020年にかけ市場規模が51.5%も縮小してしまったことにあります。この様な状況の中、オンラインイベントなどの、DXを用いたコロナ禍でも開催できるイベントに注目が集まっております。
本記事では、イベント業界で行われているDXについて、実際に運用されているサービスの事例等を交えながら紹介し、今後イベント業界のDXがどの様に発展していくかについて分析します。
皆さんにとって身近にあるイベントのDXとはどの様なものがあるでしょうか?
分かりやすい例を挙げると、Zoomなどのオンライン会議ツールを用いたセミナーや、YouTubeなどの動画配信サイトで行われるオンラインライブなどになるかと思います。
この様に、皆さんが実際にイベントを体験する上でも様々な形でDXが関わっていますが、実はその前段階のイベントを開催するまでの準備段階においてもDXが大きく関わっております。
では、イベントが開催されるまでにはどの様な工程があるのでしょうか。
イベント開催における工程は大きく分けて3つ存在します。
イベントのDXは上記におけるコンテンツ以外にも、これら全ての工程において活用されております。
ここからは、各工程でどの様にDXが用いられているか事例を交えて紹介しますが、DX導入の前後比較をしやすい様に、コロナ禍以前でのイベント開催における作業内容を「企画」「集客」「開催」の手順に沿って説明します。
企画工程では、担当者が経験を基に考えたアイディアが、ディスカッションを経て改良されることで、イベントのターゲットやコンテンツが決定されます。
集客工程では、業者から購入したリストや、過去の自社イベントの参加者に向けてDMやチラシの発送、電話営業が行われます。
開催工程では、運営面においては、チケットのもぎりや会場案内が人力で行われ、コンテンツ面においては、ゲストと客が対面で相対するプログラムが実施されます。
では、上記の作業内容がDXを導入することでどの様に変化したのか、実際に展開されているサービスの事例と併せて紹介いたします。
企画工程においては、過去行われたイベントの集客データなどを活用し、効果的なイベント施策を打つことが可能となっています。例えば、NECとフロンティアインターナショナルが共同展開している「FORESTIS」のサービスでは、顧客の年齢・性別などのデモグラフィック情報と行動データを紐づけて分析することで、イベント参加者の趣向や行動傾向を詳細に把握することができ、イベントの企画時により集客が見込めるコンテンツやターゲット決めができるようになりました。
https://jpn.nec.com/FORESTIS/index.html
集客工程においては、ユーザーのデータを利活用することで、狙っているターゲット層の集客が可能となっています。unerryと博展が提供している「イベシル」では、過去イベントの来場データと位置情報ビッグデータを重ね合わせることで、実際に関連テーマのイベントに来場したことのあるユーザーに広告を出稿することができます。あるオンライン展示会の集客においては、一部セグメントにおいて広告クリック率が最大50%を超えるなど、高い効果が得られています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000039931.html
開催工程の内、運営においては、手作業で行っていた作業をオンライン化することで人件費の削減が可能となっています。コンテンツにおいては、ゲストと客が画面越しに接する様な非対面でのイベントを開けるようになり、非接触が望まれるコロナ禍においても開催が出来る様になっています。
bravesoftが提供している「eventos」は、チケットの購入、発行からQRコードを用いた無人チェックインまで全てをオンラインで済ますことができます。また、従来オフラインで行われていたイベントをオンラインイベントに移行する支援も行っており、モビルス株式会社のカンファレンスイベントにおいては、オフラインでの開催と比較して265%のユーザーが来場しました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000054681.html
DX以前と以後を比較すると、データとIT技術を活用することで、工程ごと以下の様な改善がなされました。
次に、イベント業界のDXが今後どのように発展していくかについて分析を行います。
先ず、イベントは大きく2種類のコンテンツに分類されます。1つは、スポーツや音楽、演劇等のエンタメ系イベントと、もう一つはセミナーや展示会、企業の新商品PR等のビジネス系イベントです。
これら2種類のイベントにおいてDXがどの様に活用されているか、事例を用いて紹介します。
サッカークラブである鹿島アントラーズは、直接スタジアムに足を運んでもらう従来のイベントをオンライン向けにアレンジした「鹿ライブ」イベントを開催しました。
スタジアムでの試合観戦が従来のイベントでのコンテンツでしたが、「鹿ライブ」は、選手・OBとの画面越しの試合観戦をコンテンツとしています。コロナによる観客の入場制限を受け、入場料に代わって「投げ銭」による収入を意図したものです。
https://twitter.com/atlrs_official/status/1261546060083630082?ref_src=twsrc%5Etfw
株式会社ボーンデジタルは、CG・映像に特化したスキルアップ&就職フェス「CG WORLD JAM」をオンラインで開催しました。
従来は、対面で企業説明会や面談が行われていましたが、コロナの影響を受け、オンライン上で説明会や面談が行われました。
各企業のブースをお試しで覗けるシステムを活用したり、オンラインブースごとに入場者制限を設けることで、従来の「気軽に興味のある企業を覗く」「説明会の後に企業と参加者が面談する」といったコンテンツをオンライン上でも実現することが出来ています。
https://cgworld.jp/special/jam/vol3/about/
上記で紹介したサービス以外にも、多くの企業がイベント関連のDXを提供しています。
以下の図では、現在提供されている主要なイベントDXサービスがエンタメ・ビジネスイベントごとに、企画、集客、開催の内どの工程に対応しているかの関係性を表しております。
この図から、開催段階におけるサービスが充実していることが分かります。そのため、開催工程を支援するDXサービスの導入を考える際は、実施するイベントの特徴に適したサービスを選ぶことが大事になってきます。
一方、企画、集客段階におけるサービスは、開催段階と比較すると数が少ないことが分かります。原因としては、データの活用が進んでいないことが考えられます。データ分析・活用自体の需要が高まったのはコロナ禍以後であり、参入している企業が少ないからだと思われます。
ただ、各サービスにおいて参加者のデータを取得できるものは多いため、今後は来場者情報等のデータベース化が進み、それらを基にした企画・集客サービスは増えてくることが推測されます。
これからはDXを活用したイベントが益々増え、それらから得られる膨大なデータを活用することで目的に合った企画立案が進み、狙っているターゲット層のアプローチが効率的に出来るようになるといった良い循環が創造されるでしょう。
【参考】
一般社団法人日本イベント産業振興協会「2020年 イベント産業規模推計」
博展「博展とunerry、イベントDX を加速する新サービス『イベシル』を提供開始」
Sportsnavi「アントラーズならではのDX事業とは。「新たなマネタイズ施策導入から見えたクラブカラー」【未来へのキセキ-EPISODE 24】」
V-CUBE「オンラインでの会社説明会・個別面談に「EventIn」を導入 参加者が気軽に各社ブースに立ち寄れる会場を実現」
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アシスタント