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テクノロジーの起源となる化合物半導体業界とは-VC別の主要企業動向からみる戦略トレンド

化合物半導体業界が注目されている背景

近年メタバース、5G/6G、自動運転といった言葉が飛び交うようになりました。これらのテクノロジーは現段階で一部製品としてリリースされているものの、一般的に普及するにはまだまだ課題が多く残っています。低消費電力化、小型化、容量・高速情報処理、高品位表示機能等の課題がありますが、これらを解決する鍵となるのが化合物半導体業界になります。その理由は化合物半導体はこれらのテクノロジーを製造するにあたっての大元の物質となるからです。実際に世界の化合物半導体市場は、2020ー2026年の予測期間中に6.1%のCAGRで成長すると予想されており、その需要はテクノロジーの進化に比例して増加すると思われます。

そこで今回はテクノロジー進化の鍵となる化合物半導体業界について見ていきたいと思います。

化合物半導体とは

化合物半導体はシリコンよりも電子の移動速度がはるかに速い性質であり、高速信号処理に優れ、低電圧で動作したり、光に反応したり、マイクロ波を出したりと優れた特性を備えている為、今後のテクノロジー進化を促す為には重要な素材になります。今後社会が求める機能や特性が、低消費電力化、小型化、容量・高速情報処理、高品位表示機能であるとするならば、化合物半導体はそうしたニーズにマッチした素材と言えます。

しかし、化合物半導体はシリコンに比べて基板の結晶欠陥が多く割れやすい為、結晶にする時のウエハの大口径化や大量生産が課題になります。また、材料がシリコンに比べて高価な為、原材料の入手過程や結晶精製過程のコストのことを考えると実用向きではないことなどを背景に、半導体の材料はシリコンが一般的に使用されています。

今後「ウェハの大口径化」「半導体不足に対する大量生産」「新テクノロジーへの対応」という現在見えている課題が解消されれば化合物半導体が一般的に使用される日も近いのかもしれません。

化合物半導体のバリューチェーン

次に化合物半導体がどのような製造工程を経ていくのか見ていきます。バリューチェーンを見ていくことで最新のデバイスやシステムがどのような過程を経て製品化されているのかのイメージが出来るかと思います。化合物半導体のバリューチェーンは下記の通り、

①ウェハ(Substrate)

②エピタキシャルウェハ(Epitaxy)

③チップ(Chip Processing)

④センサ(Transceiver)

⑤デバイス(Equipment)

となっています。イメージしやすいように、少し嚙み砕くと①InP等の化合物からウェハを生成、②不純物の除去、③チップ基盤を生成、④レーザー等のセンサを生成、⑤デバイスとして出荷という流れになります。デバイスが出来上がったら自動車や電気機器などのオペレーションに組み込まれ、最終的に消費者に利用されるという流れになります。新テクノロジーを製造する為にはどの工程も必要不可欠になります。

化合物半導体業界をリードする企業動向

次にVCの各領域の主要企業が現在どのような取り組みを行っているかを追っていきたいと思います。取り組みを知ることで今後の業界トレンドを掴むことができるでしょう。

【取り組み事例①:AXT】

【対応領域】

・ウェハ

【注力戦略】

・新技術開発(サイズ:大口径化、低コスト)

・M&A

【概要】

5G等のデータコムのテクノロジーの進歩、ヘルスケアおよびコンシューマーデバイスに登場する新しいアプリケーションの台頭より、AXTはエンド製品の要求に対応するために大口径化に取り組んでいます(ウェハ一枚の上におけるダイ数の増加によりエンド製品へのコスト削減、エンド製品の高機能化を可能にします)。化合物半導体大口径化の製造は難しく、破損などの欠品を多く生んでしまうデメリットがありますが、2インチ、3インチ、および4インチのInP基板を導入した最初の企業として、業界で長い間活躍してきたCrystacommを2015年に買収し、大口径化に本腰を入れました。買収後、Crystacommの創設者兼CEOであるGeorgeAntypasは、AXTのコンサルタントとして継続して事業に携わり、InP結晶成長および合成樹脂プロセスの立ち上げを支援し、2021年に、8インチのGaAsと6インチのInPを市場に投入しました。21年1~9月期の累計業績は、売上高が前年同期比46%増の9,966万$、営業利益は同3.7倍の747万$となり、売上構成はInPが同46%増加しました。

5年程先の市場予測をし事前に下準備を行った先見の明のある戦略と言えます。

【取り組み事例②:IQE】

【対応領域】

・エピタキシャルウェハ

【注力戦略】

・大量生産

・M&A

【概要】

近年半導体不足と言われている中で、IQEはウェハ大量生産という課題に着目し、戦略を講じています。IQEは2021年に新しい生産設備に2,500万ポンドをかけて、ドイツのAixtron製の原子炉を導入し、ウェハを製造する能力を拡大しております。3基の新しいAixtronG4原子炉と3基の改装されたAixtronG3原子炉が発注され、2021年下半期にIQE台湾の容量が20%以上増加したことにより大量生産を可能にし、2022年以降にさらに売上成長に繋がると見込まれています。

また、IQEは2015年3月にCSDCを設立しました。IQEのシンガポール子会社であるMBE Technology Pte Limited(51%)、WIN Semiconductors Corp(25%)、南洋理工大学(18%)、および南洋理工大学の個人(6%)が合弁事業としてCSDCを設立しました。アジア市場における5G市場成長予測の下、アジアの分子線エピタキシー(MBE)技術に基づいて、学術および産業の顧客向けに化合物半導体技術を開発および商品化を目的としています。5G受話器およびWiFi6/6Eルーターのパワーアンプに使用されるエピウェーハの強い需要により、2021年上半期のGaAs収益は前年比で30%増加しました。こちらもAXT同様、5年程先の市場予測をし事前に下準備を行った先見の明のあるM&A戦略と言えます。

【取り組み事例③:Lumentum】

【対応領域】

・チップ

【注力戦略】

・用途拡大

・M&A

【概要】

こちらの事例は他VC(バリューチェーン)に進出せず、既存VCでの製品強化を行っている例になります。

Lumentumは2018年会計年度第4四半期決算で売上高3億100万ドルの好決算を発表しました。特に、拡張現実、3Dセンシング分野の成長が売上を牽引し同分野において別VCでの拡大をLumentumは推察しました。そこで2018年12月に製品ポートフォリオが強化されることで、収益構成を拡大し、顧客の将来のニーズに対応することを目的とし、InPレーザー、フォトニック集積回路、コヒーレントコンポーネント、モジュールのリーディングカンパニーとしての能力をもたらすOclaroを買収しました。しかし、同分野において予測よりも市場成長がなされなかったことから、2019年05月に、データコムトランシーバ製品ラインのCIGへの売却完了を発表しました。市場状況や製品シェア状況の把握が不足したことから買収後半年足らずで売却する結果となりました。

上記結果を踏まえ、Lumentumは垂直統合(他VCに進出すること)を行わず、既存事業領域のチップ生産の強化を図り、今後市場成長が見込まれるデータコム分野への参入を行う為に、戦略転換としてフォトニックチップへ注力しました。高速で信頼性の高いVCSEL(半導体レーザーの一種)を、データコム市場におけるセンサ、高出力CWレーザー、および検出器向けに大量生産することに戦略をシフトしたことで売上UPに成功しております 。

また、Lumentumは今後のテクノロジーに満遍なく対応するために同VC領域企業の買収などを通じて用途の拡大を行いました。現在ではチップの領域で主要テクノロジー全てに対応できる技術を有しています。

他VCに進出するよりも既存VCでの地固めを行う方針を取ったことでLumentumはチップ分野においてのリーディングカンパニーとして今後も業界を牽引すると言えるでしょう。

 

【取り組み事例④:Ⅱ-Ⅵ】

【対応領域】

・センサ

【注力戦略】

・リードタイム短縮

・大量生産

・M&A

【概要】

こちらは半導体不足の課題に応える形で、製品リリースのリードタイム短縮に成功した事例になります。

Ⅱ-Ⅵは光トランシーバーを構成する主要部品、パッケージング、最終組立からテストまで一貫した自社技術・設備を採用、加えて最先端技術を用いた製品を安定した品質・供給体制で提供する垂直統合戦略を立てています。

そこで2018年9月Ⅱ-Ⅵは液晶プラットフォームと波長選択スイッチ(WSS)の世界的リーダーであるCoadnaを買収しました。製造規模拡大、垂直統合、製品ポートフォリオの拡充により、WSSビジネス関連での需要の拡大に対応できる体制を整える目的としています。

CoAdnaとII-VIは元々、光増幅器、光チャネルモニタ、およびその他のII-VIコンポーネントで共同事業を行ってきました。この買収で共同で行っていた事業を1つの企業で行うことにより、新製品リリースまでのリードタイム短縮、情報共有の円滑さ向上、経営層の統一による目的の共有が、2社の強力な販売チャネルを通じてWSS事業を成長させ、生産能力、市場におけるシェア率の向上に繋がりました。

こうしたエンドユーザーのニーズを満たす製品のリリース提供の速さを提供することがセンサ領域のリーディングカンパニーとしての所以だと言えるでしょう。

化合物半導体主要企業動向総括

主要企業動向を見てきましたが、リーディングカンパニーとして業界を牽引するにはいくつか理由がありそうです。

最後に企業動向の例に基づき各社の戦略を分類しました。化合物半導体領域においてどのような戦略を取っているのかをパターン別で見ることで企業のなりたい姿や成功へのポイントが見えてきます。

【パターンA:M&A、大口径化】

企業名:AXT(ウェハ)

半導体製品の価格高騰化、新テクノロジーへの対応の課題に対応する為、大口径化を戦略として講じるパターンです。下流バリューチェーンの各企業がメタバース等の新テクノロジーに取り組む中、その技術に対応できるだけの製品を製造することが出来れば、新製品は市場の中で、高いシェアをキープすることが出来るようになるでしょう。ウェハの領域では大口径化という部分で強みを持つ企業のM&Aを行い、企業のケイパビリティの向上が売上UPのヒントになりそうです。M&Aにおいては5年先の需要をリサーチし、下準備を行った上でPMIの在り方を考えることが成功へのポイントとなります。

【パターンB:M&A、大量生産】

企業名:IQE(エピタキシャルウェハ)

半導体不足の課題に対応する為、既存VC製品の大量生産を戦略として講じるパターンです。(AXTもウェハの大量生産に注力しているが成功事例は今のところありません。化合物半導体は単元素のSiに比べ破損しやすく欠品を生じやすい性質の為、大量生産を行う為にはまだまだ研究が必要ではありますが今後成功事例として見受けられる可能性もあります。)下流VCになる程多用途になり、プレーヤーが増える為、上流において生産能力が高い企業は市場における主要企業になりやすいです。上流のエピタキシャルウェハ領域においてはいかにエピタキシャルウェハの原子炉数を揃え、製品の絶対数を増加させるかが生産能力拡充になりそうです。M&Aでノウハウ蓄積の下準備を行った上で原子炉を導入するといったストーリー観を持った対策がポイントとなります。

また、M&AにおいてはAXTの事例同様で、5年程先の市場需要を分析し準備することが成功へのポイントとなります。

【パターンC:M&A、用途拡大】

企業名:Lumentum(チップ)

新テクノロジーへの対応の課題に対応する為、用途拡大を戦略として講じるパターンです。下流バリューチェーンの用途拡大に伴い、現領域でのケイパビリティの強化を図っています。目的としてはパターンAと類似していますが、どの分野にも対応できるという点では、柔軟にエンドユーザーの要望に応えることが出来ます。一方用途拡大するためには多種多様なノウハウが必要になりますので、多数のM&Aが必要にな為、多大な資金が必要になる点がネックとなりそうです。

【パターンD:M&A、大量生産、リードタイム短縮】

企業名:Ⅱ-Ⅵ(センサ)

半導体不足の課題に対応する為、大量生産及び製品リリースまでのリードタイム短縮を戦略として講じるパターンです。他VCにおいて共同事業を行っている企業をM&Aすることによって、製品リリースまでのリードタイム短縮、情報共有の円滑さ、経営陣の意思統一が図らることが出来ます。通常別VCへの進出は用途拡大よりも明確な目的、入念な下準備、ノウハウ等必要事項が多い為、リスキー(Lumentumの事例でも他VCの進出で1度失敗している)ではありますが、他VCで共同事業を行っている企業であれば、互いのことを理解した状態で統合する為、M&A後もスムーズに経営することが出来ます。結果として、生産力が向上や製品の早いリリースが可能になり、エンドユーザーの要望に応えることが出来ます。

化合物半導体領域において各パターン別に戦略を見てきましたが、共通としている部分にM&Aが挙げられます。いずれも化合物半導体業界の課題に対応する為のM&Aによりノウハウの蓄積と生産能力を拡充させており、各企業がなりたい姿を定義した上で戦略をパターン化しM&Aを行うことが成功への近道に思えます。このようなパターン別で戦略を見ていく観点はコンサルティングを行う上でも多用されており、化合物半導体領域に限らず別業界でも有効的に使用することが出来る為、戦略を講じる際は是非参考にして頂ければと思います。

西原雄亮

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト