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【コンサル流】理想的な在庫管理メソッドとは

在庫管理における考え方

有形商品を扱う企業において、「在庫管理」とは常につきまとう課題であり、人気商品(売れ筋商品)の欠品を必ず防いで売り場への供給を絶やさないことや、不人気商品(死に筋商品)の在庫を最低限に抑えて過剰在庫を可能な限り抑えること、つまり「理想的な在庫管理」が必要となってきます。そんな「理想的な在庫管理」を行うためには主に4つのポイントが重要となってきます。
1つ目は「商品カテゴリ分類」です。後述する重要なポイント3つを考えるにあたって「どの商品の優先度が高く、逆にどの商品の優先度が低いのか」を明確に決定することが必要不可欠です。
2つ目は「需要予測」です。抱えるべき理想的な商品在庫のあり方というものは、季節的な要因などの要因に影響を受けて常に変化するものであり、それらを考慮した上で需要予測を行うことが重要となります。「需要予測」は、カテゴリ分類によって分類された各商品群の特徴に基づいて手法を使い分けることが理想的です。
3つ目は「安全在庫」です。「安全在庫」は、欠品リスクを最低限に抑えるべく通常在庫に加えて予備として保持しておく在庫を指します。これは人気商品に用いられる考え方ですが、何の根拠もなく欠品を恐れるが故に過剰な安全在庫を抱えてしまうと、それが過剰在庫を招く可能性があるため工夫が必要です。
4つめは「在庫保管」でです。倉庫内における「在庫保管」の方法に関しても工夫を凝らすべきであり、保管場所と保管スペースを最適化することが理想ですが、もし闇雲に倉庫配置を行ってしまうと出荷時の無駄なコスト発生や理想的な在庫数確保の妨げになりかねません。
当記事では先述の各ポイントの詳細を説明し、理想的な在庫管理の在り方を紹介します。

抑えるべき4つのポイント:①商品カテゴリ分類

在庫管理における商品カテゴリ分類の手法には様々な種類が存在していますが、今回は考え方・やり方がシンプルである「ABC分析」を前提として考えていきます。「ABC分析」の概要と活用例を以下に記します。

定義

  • 在庫金額・売上などの指標の中から重視する評価軸を決め、商品を累積構成比の多い順にA・B・Cなどの3つ以上のグループに分類する分析手法です
  • 分類にあたっての基準数値は、一般的に「カテゴリA:累計構成比1~80%まで、カテゴリB:累計構成比81~90%まで、カテゴリC:累計構成比91%~100%まで」です
    • 上記数値はあくまで参考値であり、商品特性に応じて異なります

活用例(アパレル業界)

 

  • サブブランドやアイテム種別といったカテゴリ分類に向けてABC分析を実施
    • 「売れ筋のサブブランドはどれか」「人気のアイテムはどれか」について把握し、該当商品の在庫を多くすることで売上向上を実現

ABC分析の手順(添付画像参照)

抑えるべき4つのポイント:②-1需要予測

需要予測にも複数手法が存在しており、先述の「ABC分析」の結果に基づいて手法を使い分ける必要があります。需要予測によく利用される4つの手法をピックアップしましたが、各手法の違いとして予測精度と実行コストが挙げられます。各需要予測手法の概要を下記にまとめました。

移動平均法

定義

  •  過去の実績値を平均して需要予測を行う、最もシンプルな需要予測手法

具体例

  • 7月予測需要=(4月販売実績+5月販売実績+6月販売実績)/3ヶ月
  • 上記の計算により、過去販売実績に基づいて、来月の需要を粗い粒度で予測

指数平滑法

定義

移動平均法により計算した「過去の予測値」と「実績値」を算出し、両方を使って需要予測を行う手法「移動平均法」と比べて「実績値」による補正があるため、より精度が高い

具体例

  • 平滑指数=7月販売実績/7月予測需要(移動平均法より算出)
  • 8月予測需要=平滑指数×前回実績値+(1-平滑指数)×前回予測値
  • 上記の平滑指数を加味することにより、予測精度を補正する

ホルトウィンタース法

定義

  • 「指数平滑法」に、トレンドと一定周期(季節など)を加味して需要予測を行う手法

⮚ 具体例

  • 「指数平滑法」により算出した予測結果に、市場全体の成長率、及び季節による影響を加味して、より精確な予測結果を算出
  • 市場トレンドが明確で、一定周期に需要が増減するものに特に有効

多変量解析

定義

  • 上記手法よりも、更に様々な情報(消費者アンケート結果、既存店舗の売上、商圏人口など)を元に、各データの関係性及び販売量との関係性を解析して、需要をより精確に予測する手法

具体例

  • 新店舗の出店にあたり、既存店舗の売上、来客数、客単価、商圏人口などのデータから、「将来的な売上がいくらになるのか」を解析

抑えるべき4つのポイント:②-2変動要素

また、需要予測を行うためには「変動要素」の存在も忘れてはなりません。より高精度な需要予測を行うためには複数の変動要素を考慮する必要があり、各変動要素に対応した需要予測手法を利用することが求められます。変動要素の中でもメジャーな4つの例を下記にまとめております。

傾向変動

定義

  • 時系列データの変動のなかで長期的な時間の経過とともに増減する変化を示す

具体例

  • 人口の推移、GDPの推移 など

対応手法例

  • 移動平均法、指数平滑法、ホルトウィンタース法、多変量解析

循環変動

定義

  • 一定の周期ではないが、3~15年のスパンで周期的に繰り返される変化を示す

具体例

  •  景気変動 など

対応手法例

  • 指数平滑法、ホルトウィンタース法、多変量解析

季節変動

定義

  • 1年間を通じた需要の好不調を示すもので、主に3つの要因が含まれている

具体例

  • 自然条件 : 気温・天候・湿度 など
  • 暦 : 月による日数や休日数の違い、大型連休 など
  • 制度・習慣 : 中元やお歳暮時期、ボーナス支給時期 など

対応手法例

  • ホルトウィンタース法、多変量解析

不規則変動

定義

  • 明確に予測することが困難な変動で、循環変動や季節変動のように特性がなく偶発的に発生する変動を指す

具体例

  • 地震や津波などの天災、感染症の大流行、株価の変動 など

対応手法例

  • 正確な予測は困難

最後に、「ABC分析」で分類した各カテゴリに対して、どのような需要予測手法を用いるべきかをまとめました。


最も需要が高く売上への貢献度が高い「カテゴリA」には、コスト・予測精度ともに高い「ホルトウィンタース法」や「多変量解析」を用います。

「カテゴリA」に次いで売上への貢献度が高い「カテゴリB」にはシンプルかつコストを抑えた「移動平均法」や「指数平滑法」を用いて需要予測を行います。

最後に、各カテゴリの中で最も売上貢献度と重要度が低い「カテゴリC」に関しては需要予測を行いません。リソースをカテゴリA・Bに配分することが目的です。

抑えるべき4つのポイント:③安全在庫

安全在庫とは、突発的な需要などによる欠品を防ぐために通常在庫に加えて予備として保持しておく在庫を指します。安全在庫数に関しても、「ABC分析」でのカテゴリ分類に基づいて設定を行うことが良いかと考えます。また、あくまでも参考程度ですが、安全在庫数の計算方法も存在しているためカテゴリ毎の安全在庫設定や計算式を紹介します。

カテゴリ毎の安全在庫設定例

カテゴリA

  • 欠品リスクを最小化するため多く設定
  • 安全係数を高く(=欠品許容率を低く)設定し、余裕を持った安全在庫数を確保する

カテゴリB

  • カテゴリAよりも少なく設定
  • カテゴリAよりも欠品リスク、需要は低いと想定されるため、カテゴリAよりも安全在庫数を低く設定する

カテゴリC

  • 安全在庫の設定無し
  • 需要は低く、欠品が発生しても売上への影響は軽微であることが想定されるため
  • また、安全在庫の保有には管理コストや保管スペースが発生するため、その分をカテゴリAに回す

計算式

構成要素

  • 安全係数
    • どの程度の欠品確率なら許容できるかという「欠品許容率」を係数化したもの
    • 算出には、欠品許容率を「NORMSINV関数」で計算
  • 標準偏差
    • 需要(在庫使用量)のばらつきを示す
    • 算出には、特定期間の在庫使用量を「STDEV関数」で計算
  • 調達リードタイム(調達LT)
    • 「計画LT・発注LT・納品LT」の合計期間
    • 算出には、合計期間を「SQRT関数」で計算

計算式

  • 安全在庫数=「安全係数」×「標準偏差」×「√調達リードタイム」

計算例

  • 「1.645」×「27.386」×「5.292」=約238個
    •  安全係数:「1.645」=欠品許容率5%
      • 欠品許容率5%に関して、統計学で有意的な数値である「5%」を適用
    • 標準偏差:「27.386」
    • √調達LT:「5.292」=調達LT28日

抑えるべき4つのポイント:④在庫保管

「ABC分析」によるカテゴリ分類を行うことで、倉庫や店舗内における商品の保管場所や保管スペースを最適化することも可能となります。優先すべき商品群を把握することで倉庫マネジメントを効率化し、結果的に無駄なコストを省くことに繋がります。

まとめ

当記事では理想的な在庫管理の例として、商品群のカテゴリ分類~倉庫配置までをまとめました。「在庫管理を適切に行いたいが、どこから手を付ければ良いのか分からない」、「どのカテゴリ分類やどの需要予測手法を用いれば良いのか分からない」などのお悩みを抱えている各ご担当者の手助けに少しでもなれば幸いです。

髙木義万

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト