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M&A事例から見る繊維/アパレル業界の動向(繊維専門商社起点で紐解く)

繊維/アパレル業界動向の概要

 2020年11月にはW&Dインベストメントデザインと八木通商が共同スポンサーとなりリデアの事業譲渡、2022年2月には三井物産の繊維/ファッション事業の中核を担う三井物産アイ・ファッションと日鉄物産の繊維部門の統合と、繊維専門商社の蝶理による繊維専門商社スミテックス・インターナショナルの買収という繊維専門商社の再編が2つ明らかになるなど、近年では繊維/アパレル業界における繊維専門商社のM&A事例が増加しています。(詳細はM&A事例に記載)

 これらの事例は、そもそもの繊維/アパレル業界の現状や、そこに追い打ちをかけるように訪れた新型コロナウイルス蔓延に伴う消費行動の変化などが背景にある動向であり、今後もこのような動きが起こると推察されています。それゆえ、本稿では、①繊維/アパレル業界の構造と、②繊維専門商社の機能、③彼らが実施したM&A事例に焦点を当てることで、今後の繊維業界の動向を考察していきます。

 本稿が、繊維/アパレル業界に関連する若手の方や、興味のある方たちが、コンサルティング的観点で業界を俯瞰する助けになれば幸いです。

 

繊維業界の定義と繊維商社の役割

 そもそも繊維業界とは、主に紡糸/紡績/製糸/縫製/染色などで使用される天然繊維(自然に繊維として存在する綿、麻、絹、羊毛など)や化学繊維(金属や石油、植物性の原料などを化学的に加工して作り出すポリエステル、レーヨンなど)を扱う産業のことを指し、これらは私たちが普段着ている洋服やスーツの材料などの衣料品に使われています。

まさに、衣食住の「衣」であり、生活に密着した産業と言えるでしょう。(繊維には航空機などの産業用途もありますが、本稿では衣料品に限定します)

 また、繊維業界は、繊維開発/紡糸/製糸/紡績/製織を行う素材産業(川上)、衣料品開発/縫製/編立を行うアパレル産業(川中)、百貨店/専門店などのアパレル小売産業(川下)に大別されており、繊維メーカー/アパレルメーカー/アパレル小売などを含めた様々な分野を手掛けている業界と言えます。

 そんな日本国の繊維産業では、各工程が細分化しているかつ各々の業界構造が異なりサプライチェーンが長いという構造を持ち合わせているため、川上から川下に渡る各工程やVC(商品企画/素材開発・生産/縫製加工/物流/販売)における商取引や流通を担う「繊維商社」は重要な役割を果たしています。

繊維/アパレル業界の現状と繊維商社(繊維専門商社)の方針

 また、繊維業界/アパレル業界の現状ですが、新型コロナウイルスが蔓延する以前から国内アパレル市場規模はバブル期の15兆円をピークに2010年頃までに10兆円程度へと減少する一方、供給量は20億点から40億点程度へと倍増しており、その後はほぼ横ばいとなり伸び悩みが続いている状況でありました。

 これは、需要が伸び悩むなかでの過剰出店・過剰供給/不採算店舗の増加/バーゲン販売比率の上昇(正価販売比率の低下)などがあり、これらが原価率や品質の低下/正価への不信感などを招き収益性・集客力をさらに低下させるという負のスパイラルを生んでいるということが背景にあります。そして、この傾向は従来の主要販売ルートであった百貨店・量販店でとくに顕著である模様です。

 それゆえ、上記のような繊維/アパレル業界が抱える課題に伴って、繊維商社(繊維専門商社)は「縮小傾向にある国内のアパレル向け繊維市場における競争力を強化し、企業価値向上を目指していきたい」という方針を持っている模様です。

 

繊維専門商社の定義と事業内容

 ここでは、本稿で対象とする「繊維専門商社」について整理します

 そもそも、「商社」には「総合商社」と「専門商社」の2種類があり、あらゆる資源や商材を扱う企業を総合商社、特定の商材に特化している企業を専門商社があります。

 中でも、綿やウールと言った原料の輸入や生地の輸出入などに特化している企業を「繊維専門商社」と言い、蝶理/タキヒヨー/モリリン/豊島/ヤギなどのプレイヤーがいます(繊維業界の総合商社には、伊藤忠商事/丸紅/三井物産/三菱商事などがあります)

 このような繊維専門商社は、

  • 国内外からの衣料品の原材料/テキスタイル/アパレル製品の仕入れや販売などの貿易/流通事業
    • 国内外限らず、原材料の加工メーカー/生産メーカーから繊維を調達する
    • 調達した天然繊維や化学繊維を国内外問わず、アパレルメーカー/縫製メーカー/アパレル小売(量販店/自動車業界/医療分野)などの幅広い分野へ流通させる
  • 海外ブランドの使用権を取得して商品をつくるライセンス事業
  • 自社アパレルブランド事業

など幅広い事業を扱っています。

 具体的には、マーケティング/流通企画/イベント展開を行い販売までのプロセス構築、海外に出向き生地や商品の買い付け、OEMを行っています。アパレルメーカー(企画)に対して、仕入れた繊維や生地を元に企画提案を行うODMも行っています。

近年の繊維業界におけるM&A事例

 それでは、実際に繊維/アパレル業界で起こった近年の代表的なM&A事例(統合事例)をいくつか紹介します。各企業がどのような目的を持ちM&Aを行ったかを分析することで、各社の今後の動向または市場全体の傾向を読み取ることもできます。

 以下、2022年までに行われた近年のM&A事例です。

 

事例①:繊維商社×繊維商社(川上と川中の強化)

【買収企業名】

蝶理株式会社

【譲渡企業名】

株式会社スミテックス・インターナショナル

【譲渡日】

2021年61

【買収金額】

非公開

【事例概要】

 2021年6月、繊維専門商社の蝶理は、M&Aにより住友商事傘下の繊維専門商社スミテックス・インターナショナルの全株式を取得し連結子会社化。スミテックス・インターナショナルは、綿原料から様々な最終製品までオールラウンドに取り扱っている繊維商社であり、国内外に事業を展開していた。

 本買収を行うことで、蝶理は綿から化合繊まで主要な繊維原料を総合的に取り扱うことが可能となり、商材や販路の拡大による繊維製品事業の強化が期待できると判断した模様です。

 また、環境商材から高機能商材までを幅広く取り扱う蝶理のオリジナル商材をスミテックス・インターナショナルの取引先に提案できるようになるなど、シナジー効果の創出を見込んでいる模様です。

 

事例②:アパレルSPA×繊維商社(川中の連携×川下の拡大)

【買収企業名】

夢展望株式会社

【譲渡企業名】

住商ブランドマネジメント株式会社

【譲渡日】

2018年830

【買収金額】

49,500万円

【事例概要】

 夢展望はRIZAPグループの子会社で、10代後半~30代の女性を主なターゲットにSPA方式で衣料品・靴・雑貨のオリジナルブランドを展開している企業であり、住商ブランドマネジメントはイタリアのシャツ・ブラウスブランド「ナラカミーチェ」などの輸入・企画・販売を行っていた企業です。

 本買収により、夢展望は既存事業とは顧客層・価格帯が異なる「ナラカミーチェ」事業の取り込むことで、対象顧客の拡大や企業規模の拡大を目指した。

 また、顧客層等は異なるがアパレル小売業という共通項を持つため、バリューチェーンの共通化や情報共有によるシナジー創出も見込んでいる模様です。

 

事例③:アパレルメーカー・ファンド・繊維商社×アパレルメーカー(川下の拡大)

【買収企業名】

株式会社W&Dインベストメントデザイン・八木通商株式会社

【譲渡企業名】

リデア株式会社

【譲渡日】

2020年1117日(事業譲渡を目的としたスポンサー契約を締結)

【買収金額】

非公開

【事例概要】

 202011月、アパレルメーカーのワールドと日本政策投資銀行が出資するW&Dインベストメントデザインは、繊維商社の八木通商と共同で、民事再生手続きの開始を申し立てたアパレルメーカーのリデア(セレクトショップ「STRASBURGO」の運営や海外ブランドの小売/卸売業を行う)と事業譲渡を目的としたスポンサー契約を締結した。

リデアの事業は、スポンサー両社により新設される新会社に事業譲受された。

 本譲渡では、八木通商が持つアパレル事業でのマネジメントノウハウの注入/店舗展開や商品企画・開発のサポートが、リデア社の事業において極めて高いシナジー効果を発揮すると見越している模様です。

 

 また、M&A事例ではありませんが、昨年発表された繊維商社同士の統合事例を一つご紹介します。

事例④:繊維商社×繊維商社(商社機能の統合)

【対象企業】

三井物産アイ・ファッション株式会社/日鉄物産株式会社の繊維事業

【統合時期】

2021年825日(事業提携の締結)

2022年11日(新会社を発足)

【事例概要】

 20218月、三井物産のファッション/繊維事業の中核事業会社である三井物産アイ・ファッション株式会と日鉄物産株式会社の繊維事業を統合し、翌年1月に新会社「MNインターファッション」を設立することを決定した。

  日鉄物産の繊維部門は、現在はアパレルOEM/ODMが売上高の大半を占めており、特に百貨店やセレクトショップなどウイメンズの中高級ゾーンに強く、同分野の供給で高いシェアを占めています。

一方で、同社の得意とする中高級ゾーンはアパレル製品の二極化が進み、市場の縮小が続いていました。

 ゆえに、川上から川下まで事業を展開する三井物産と統合することで、両社コア事業であるOEM事業の競争力向上と事業基盤の構築や海外市場向けの事業拡大におけるシナジーを見越している模様です。

 

今後の業界動向

 今回紹介したM&A/統合事例を踏まえると、

  • 繊維商社は、商社機能のみならず、アパレルの商流全体を強化する(サプライチェーンの垂直統合(製造・メーカー・小売・商社間の統合))を目的としたM&Aや提携が増えている
  • ブランドポートフォリオやターゲットセグメントの拡充や転換を目的としたM&Aが増えている(例:フォーマル系アパレル企業がカジュアルブランドを取り込むなど)

というような動向が見受けられました。

 さらに、日本国の繊維/アパレル業界の現状を加味すると、紹介事例のような「縮小傾向にある国内のアパレル向け繊維市場における競争力を強化し、企業価値向上を目指していきたい」という繊維商社の方針はさらに高まるものと思われます。

 また、専門家の視点では、今後は繊維専門商社が総合商社の繊維部門を買収するだけでなく、繊維専門商社同士の統合や合併も起こり得るとの意見もあり、これからの繊維/アパレル業界の動向に関心が集まっています。

 

おわりに

 今回は、①繊維/アパレル業界の構造繊維専門商社の機能彼らが実施したM&A事例に焦点をあて、繊維/アパレル業界の動向について考察していきました。

他にも、そもそも業界が抱えている現状や課題に対して、新型コロナによる影響が追い打ちをかけている業界は多々あります。ゆえに、今後もこのような業界のM&A事例や業界動向を紹介できればとおもいます。

 本稿の情報から皆様に得るものがあれば幸いです。

【参考】

増田森一

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト