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22年早々に関東圏において日本経済にダメージを与える「まん延防止」が発令され、私たちの生活は再び昨年の「withコロナ」へと引き戻されることになりました。「withコロナ」の昨年は、リモートワーク、リモート飲み会、リモート就活リモート授業など「ニューノーマル」な体験のオンパレードではなかったでしょうか。
そうした「ニューノーマル」の体験は、消費者のみでなく、企業活動にも影響を与えています。その顕著な例として、外出の自粛によって外食業界・旅行業界の廃退が挙げられます。ただ、コロナの影響で縮小する業界もあれば、伸びる業界もあります。
本稿では、コロナにおいても成長した業界の一つである「ゲーム業界」とその業界におけるM&A事例を取り上げて、今後の業界動向を考察していきます。
ゲーム業界とは、任天堂やソニーのようなゲーム機器(ハード)メーカやカプコン、スクエアエニックスのようなゲームソフトメーカの総称を指します。ゲームソフトメーカは「ゲームハード依存型」、「ゲームハード非依存型」、「混合型」の3つに分類することができます。
「ゲームハード依存型」とは、ソニーのPS5や任天堂のSwitchのような特定のゲーム機器でプレイするゲームを開発するメーカを指します。
「ゲームハード非依存型」とは、スマートフォンやPCでプレイするような、特定のゲーム専用機器に依存しないゲーム開発メーカを指します。
「混合型」とは、「ゲームハード依存型」と「ゲームハード非依存型」の両方向けのゲームソフトを開発するメーカを指します。別名としてマルチプラットフォーム型ゲーム開発と呼ばれることもあります。
ゲーム業界において、大手ゲーム機器メーカであるソニー、任天堂、マイクロソフトなどは、自社でゲーム開発を実施しており、ゲーム機器メーカとゲームソフトメーカが必ずしも分離しているわけではありません。
次にこうしたゲーム業界における特徴を見ていきましょう。
ゲーム業界の特徴として、①市場規模の急成長、②短いプロダクトライフサイクル、③ゲーム媒体の多様化が挙げられます。
それでは一つ一つ見ていきましょう。
ゲーム業界の特徴の1つ目は、コロナによって多くの業界が低迷しているにもかかわらず、市場規模が急成長していることです。
20年度の世界のゲーム市場規模は、コロナの巣ごもり需要も相まって、19年度の1,462億ドルから19.6%成長し、1,749億ドルになりました。
また、ゲーム業界の市場規模は、「モバイルゲーム」、「家庭用ゲーム」、「PCゲーム」に分類することができます。それぞれの市場規模と19年比の成長率を見てみますと、
こうしたゲーム業界の市場規模を見ますと、業界の成長をけん引しているのは、モバイルゲームと家庭用ゲームといえるでしょう。
ゲーム業界の特徴の2つ目は、他サービスや製品と比較してゲームコンテンツのプロダクトライフサイクルが非常に短いことです。
ゲームコンテンツのプロダクトライフサイクルが短いというのは、流行するのは早いが、廃れるのも早いということです。プロダクトライフサイクルを短くしている要因として、「ゲームソフト開発への参入障壁の低下」が挙げられます。大人数かつある程度資金力が必要な時代から個人/小チームでもゲーム制作が可能な時代に突入したことで、市場には多種多様なゲームコンテンツが溢れかえるようになりました。
こうしたことにより、ユーザーは次々に開発・販売されるゲームに目移りしてしまい、ゲームコンテンツのプロダクトライフサイクルが短くなりました。
ゲーム業界の特徴の3つ目は、ゲームの媒体の多様化です。
従来ゲームをプレイするには、PS5のようなゲーム専用機器あるいはPCが必要でしたが、スマホの登場により環境が一変しました。PCやゲーム専用機器よりも圧倒的に普及率が高いスマホがゲーム媒体として活用されることで、既存のゲーム機器メーカが窮地に陥りました。加えて、クラウドゲームの登場により、ゲーム専用機器の優位性であるハイクォリティーゲームもスマホでプレイすることが可能になったことで、ゲーム機器メーカは、一層、焦燥感に駆られているではないでしょうか。
上述したようにゲーム市場の拡大、加えて、短いプロダクトライフサイクルとゲーム媒体の多様化により、各社は自社の競争優位を確保するため、様々な施策を実施しています。その中でも注目すべき施策として、M&A戦略が挙げられます。21年~今日までのゲーム業界におけるM&A件数は、584件以上であり、19年~20年までの269件と比較して、約2倍以上となっています。
こうした状況を踏まえると、M&A事例を見ることをゲーム業界の趨勢を俯瞰できるのではないかでしょうか。
そこで、本稿では、20年から今日に至るまで、特徴的かつ買収金額が大きい事例を3つ紹介していきます。
【譲渡先企業】
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(ソニーの子会社)
【譲渡元企業】
バンジー
【買収金額】
4,100億円
【譲渡時期】
2022年2月1日
【事例概要】
バンジーは、の「Halo」や「Destiny」などゲーム専用機向けオンラインマルチプレイゲームの開発会社です。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、自社の中長期目標の一つである「2025年にPlaySationStudiosタイトル売上を倍増させる」を実現するためにバンジー社を買収したと考えられます。また、自社開発・自社販売を加速させる意向が強く、今後もゲーム開発メーカの買収を積極的に実施していくと予想されます。
【譲渡先企業】
マイクロソフト
【譲渡元企業】
アクティビジョン・ブリザード
【買収金額】
7.8兆円
【譲渡時期】
2022年1月18日
【事例概要】
アクティビジョン・ブリザードは、Call of Duty 、Diablo、Warcraft、Overwatch、Starcraftなどの開発実績を持つゲーム開発会社です。
マイクロソフトは、アクティビジョン・ブリザードを買収することで、自社事業の一つであるXboxの独占配信や特定ゲーム機器に限定したゲーム配信をすることで、ユーザーの囲い込みを狙っている可能性も考えられます。
【譲渡先企業】
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(ソニーの子会社)
【譲渡元企業】
ファイアースプライト
【買収金額】
非公開
【譲渡時期】
2021年9月9日
【事例概要】
ファイアースプライトは、PlaystationVR向けゲームであるザ・パーシステンスなどの開発実績をもつ、VRゲーム開発に強みを持つ開発会社です。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、ファイアースプライトを買収することで、自社のVRゲームコンテンツの充足を目論んでいると考えられます。
ゲーム業界の特徴と直近のM&A事例を踏まえると、今後のゲーム業界の傾向として、「ゲーム機器メーカVSモバイル機器メーカの対決構図の鮮明化」と「ハード依存のゲームコンテンツの開発・販売の激化」が考えられます。
先述した通り、ゲーム市場の急成長は、モバイルゲームと家庭用ゲームがけん引しており、両者が2大勢力といえるでしょう。そこで、M&A事例①と②を振り返ってみますと、両事例ともにゲーム機器メーカの大手であるソニーやマイクロソフトが自社コンテンツの強化することが目的と考えられます。このことは、ゲーム機器メーカは、モバイルゲームへの進出ではなく、対立の道を選んだ証左になるではないでしょうか。
翻って見てみますと、モバイルゲームの主戦場であるandroidやiOSのプラットフォームでは、ゲームの購入/課金に対して10~30%程度の手数料が発生します。このような料金体系もゲームメーカの収益確保を難しくしているのではないでしょうか。
そのため、今後のゲーム業界は、家庭用ゲームを主力とするゲーム機器メーカとモバイルゲームの対立がより一層深まると推察できます。
ゲーム業界の特徴である短いプロダクトライフサイクルやゲーム媒体の多様化のどちらも、ゲーム機器メーカにとって不利な状況になるといえるでしょう。そうした状況下において、ゲーム機器メーカは参入障壁が高くかつ新しいゲーム媒体のゲームコンテンツの開発・販売に乗り出すと考えられます。その例がM&A事例③にありますソニーによるVRゲーム開発メーカの買収ではないでしょうか。ゲーム機器メーカは、VRのように参入障壁が高いゲームコンテンツを開発・販売することで、プロダクトライフサイクルを延長させ、かつVR/AR市場において早期の市場シェアの確立を目論んでいると考えられます。
そのため、今後のゲーム市場は、VR/ARなど新しいゲーム媒体に依存したコンテンツの開発・販売が激化すると推察できます。
今回は、ゲーム市場の特徴や20年から今日にかけてのゲーム市場のおける代表的なM&A事例を通して、ゲーム業界の今後を考察してきました。コロナの影響で影響を受けて成長した業界は、他にも物流業界(宅配)や医療業界などが挙げられます。今後は、こうした業界のM&A事例や業界動向を紹介できればと思います。
《参考》
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。