市場規模は年々拡大し、需要も増加している物流業界。近年では新型コロナウイルスの影響もあり、物流業界に対する需要はさらに増加の一途をたどっています。
物流業界では現状多くの課題を有しており、事業継続が厳しい状況にある事業者も少なくありません。しかし、昨今の多様化するインターネットショッピング、配送需要の高まりによる物流に対するニーズは今後さらに加速すると考えられています。
そこで、本記事では物流業界に焦点を当て、市場動向及び業界のプレイヤーについて市場分析を行います。また、物流業界の課題解決のために国土交通省が推進している物流DXがあります。今回は企業がどのようなDXに対する取り組みを行っているのか事例を挙げ、俯瞰的に業界の現状や動向、課題を提示していきます。
この記事を通じて、物流業界に関連する若手の方や、興味のある方たちが、コンサルティング的観点で業界俯瞰する助けになれば幸いです。
それでははじめに、物流の定義について整理していきます。
物流とは単にモノを運ぶことではなく、製品の材料の調達から製品をエンドユーザーへ届けるまでのモノの流れを指します。日本工業規格(JIS)によると「物資を供給者から需要者へ、時間的、空間的に移動する過程の活動」と定義されています。エンドユーザーへ届けるまでの過程にはそれぞれの企業の活動や実態に応じた各物流領域が存在しており、6つの機能によって構成されています。
[5つの物流領域]
①調達物流:商品を製造する際必要となる原材料や部品を、各仕入先から製造工場まで運ぶための物流
生産物流:調達物流と販売物流の間に発生する製造工場内での物流
販売物流:製品を工場から卸業者などを仲介してエンドユーザーまで運ぶまでの物流
回収物流:古新聞や家電などの資源を回収・再資源化する工程の中で発生する物流
消費者物流:引っ越しや宅配といった一般消費者を対象とした物流
[6つの機能]
以上のように物流業界は幅広い機能、領域に跨っており横断的に事業が成り立っいるため、通常の業界よりも複数の関係者が存在しています。そのため業務の効率化を行う際も、1事業者のみで行うことは難しく、複数の関係者から協力を得る必要があります。
こういった環境の中、物流事業者は事業を行っているのか、次の市場分析からみていきます。
ではここから具体的に、市場分析を行っていきたいと思います。
市場分析には1つの決まったフレームワークがあるわけではなく、その手法は多種多様に存在します。ここでいくつかのフレームワークの例を以下に示します。
今回は2つの要素と1つのフレームワークにより市場分析を行っていきます。
下図は、2020年までの物流市場規模及び2021年の市場規模見込と2022年の市場規模予測です。
2016年から2021年見込みまでのCAGR(年平均成長率)は+0.5%と、上がり下がりしている年があるものの若干の成長傾向にあります。2022年の市場規模予測は前年比+4.1%と大幅に拡大すると予想されています。拡大要素として、新型コロナウイルスの影響により、一般消費者の購買様式がECや通販へと変化、ステイホームによる巣ごもり需要などの新しい生活様式による個別配送の需要が高まったことが挙げられます。
新型コロナウイルスの影響もありますが、ECや通販といった購買様式に消費者がシフトしていっていることは今後の物流業界の市場拡大にとって大きなインパクトを与えているのではないでしょうか。多様化したインターネットショッピングは消費者に対して利便性を与えるとともに、物流業界に対するニーズを与えます。しかし、物流事業者は増加する配送件数への対応が求められます。こういった状況下において現在、物流業界がおかれている環境の流れを検証するため、次ではPEST分析を行っていきます。
PEST分析の結果を基に、市場におけるプラス/マイナスのインパクトを与え得る要因を整理し、外部環境による影響を受けやすいのか、また、成長性がある市場なのかを判断します。
物流市場のPEST分析結果は以下に示しています。
PEST分析より、現在、物流業界は購買チャネルの多様化によりECを活用した販売の増加、今まで取り扱いのなかった日用品や食品といった生活必需品などの取り扱いが進んでいます。さらに、新型コロナウイルスの影響による巣ごもり需要の高まりもあり、消費者のインターネットを通じた購買は増え、配送・宅配回数は増加しています。今後も多様化した購買チャネルにより物流需要は増加し、市場は成長していく傾向にあります。しかし、需要に対して輸送能力は足りていない状態にあることが分かります。労働環境の悪化によりドライバーが不足、小口多頻度化によるトラック積載率低下など、人手不足の解消や作業効率化といった課題があります。そこで政府は労働環境改善のために働き方改革を提言し、その中で残業時間の削減を挙げています。しかし、現状、残業代を含めた収入で生活を成り立たせているドライバーも少なくなく、残業時間を削減されたことにより収入が減ることに不安を感じている人もいます。
このことから、物流業界における課題として、ドライバーの不足、労働環境の悪化、小口多頻度化といった3つが挙げられるのではないでしょうか。
この3つの課題に対して各事業者はどのような取り組みをしているのかを見ていきたいと思います。次の項目では、どのようなプレイヤーが市場をけん引しているのかを見たうえで、どのような課題解決に向けた取り組みを行っているのか見ていきます。
続いて市場を構成するプレイヤーを把握します。プレイヤーを把握することで他社の市場カバー範囲や、自社の将来的な競合ベンチマークを確認することができます。今回は、国土交通省の調査より国内の物流事業社の中で最も事業社数の多い「トラック運送事業」にフォーカスし、2020年の物流市場における主要プレイヤーとシェアを示します。
約62,000の国内のトラック運送事業社がいる中で主要物流プレイヤー上位5社だけで約6割以上のシェアを持っています。さらに、上位4社は宅配便取扱個数のシェアでも上位に入っているという特徴があります。近年のECやネットショッピングの需要の高まりもあるため、今後も宅配便需要は伸びると予想されています。しかし、人口の減少により就業人口が減少している近年、拡大していく市場の中にいるプレイヤーの課題はさらに顕著となってきます。こういった中、物流業界ではどのようなDX施策を行ってきたのかを次で挙げます。
人口減少やインターネットショッピングの需要増加などに伴い、ドライバーの人手不足など様々な課題を抱える物流業界おいて業務効率化と課題解決のために物流DXに取り組む企業は増えてきています。
国土交通省ではDXを実現させるために現在様々な計画の策定や実証実験を行っており、現在進行している取り組みは以下になります。
さらに各事業者でもDXに対する取り組みを行っており、事例をいくつか紹介していきます。
事例①
【企業】
リコーロジスティクス
【目的】
物流業務の強化
【概要】
リコーが子会社であるリコーロジスティクスの物流業務の強化を図っていました。そこで、リコーロジスティクスの株式の一部をSBSホールディングスへ売却し連携を図ることで、事業モデルの拡大のみならず、SBSホールディングスがもつ作業の自動化・機械化への対応やサプライチェーンマネジメントの強化といったDXを促進させました。
事例②
【企業】
パナソニックロジスティクス
【目的】
物流業務の効率化
【概要】
パナソニックは自社グループにおける物流事業の効率化を図っていました。日本通運では物流業務においてロボットやRPAの導入により作業効率を大幅に上げている実績があります。パナソニックは自社の物流事業子会社であるパナソニックロジスティクスと日本通運とのM&Aを行うことにより、日本通運の物流ノウハウの取得に成功しました。
事例③
【企業】
SGホールディングス
【目的】
業務の効率化、顧客の利便性の向上
【概要】
SGホールディングスは手書き文字を読み取るAIシステムを用いてデジタル化した伝票や在不在・再配達情報を基に、最適な配送ルートを計算を行い、業務の効率化のみに限らず顧客の利便性を向上させる取り組みを行っています。
このAI技術はSGホールディングス内のSGシステムが開発を行い、自社だけでなく顧客向けにもサービスの提供をしています。また、協力会社との連携を図りながら、TMS(輸配送管理システム)の強化に努め、安定した車両の提供と、輸送における積載率の向上を目指しています。
先に示した3つの課題を解決するためには、単一での解決は難しく、複数の関係者との協力が必要となります。そこで各企業ではDXによる作業効率化や、作業の自動化・機械化をすすめるにあたって、一企業単体では行うのではなく、M&Aを行い他社のノウハウや技術を吸収したうえでの施策実施や、他社からの協力を得たうえで、自社内や業界全体でのDXを進める傾向にあるのが分かります。
今後もECやネットでの購買の普及や、小口・個別での配送など多種多様なサービスが増加することにより物流業界は拡大を続けていくと推察されます。しかし、現状の物流業界ではドライバーの人手不足、労働環境の悪化、小口多頻度化への対応と様々な課題を抱えており、需要に対応しきれていないのが問題となっています。実際、ドライバーの人手不足により小口多頻度配送に対応できていない事業社がいることも事実です。物流業界の課題解決のためにもDXは効果的なものでありますが、先の事例のように単一での課題解決は難しいと言えます。多くの関係者が存在し、バリューチェーン全体において他業界にも跨る物流業界だからこそ、これからの物流業界の拡大に対応するためには他業界に対しても意識を広げていく必要があるのではないでしょうか。
今回は「市場規模」、「PEST分析」、「主要プレイヤー」を基に市場の現状と課題を分析しましたが、先にも記載した通り、市場分析に用いられるフレームワークは多種多様です。目的に応じた様々なフレームワークを用いて多角的に分析することで、より明確な市場動向を把握することが可能となります。
本稿の情報から皆様に得るものがあれば幸いです。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト