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今さら聞けない再生医療とは?(再生医療の定義と最近のトレンドについて)

再生医療の定義と主な製品

再生医療とは、広い意味では自分の身体から特殊な細胞(幹細胞など)を取り出して増やし、傷ついた臓器や体の部位などの自己再生能力を活性化することで、失われた機能を回復させる医療を指します。生きた細胞を組み込んだ機器を患者の体内に移植することで同様に体の機能を回復させることもあります。近年では、再生医療による技術を利用することで従来の治療法で発生するリスクを回避できることなどが注目されており、その実用化が期待されております。
2021年5月現在で厚生労働省から承認を得ており、なおかつ上市されている主な再生医療の製品についてみてみましょう。
上市年が2007年と早いものもありますが、厚生労働省が新再生医療等製品の登録が始まった2015年から上市されています。
適用できる疾患はやけどや心不全、白血病など様々な分野で再生医療の技術を用いた製品が使われています。一回の治療で使われる金額は100万円以上で、なかには1億円に上るものもある(1患者あたりなので、複数回に渡る治療による費用と思われます)ことから、非常に高額であることが分かります。


主な再生医療等製品
https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/000780127.pdf

 

商品化されている主な治療法について

ここまで取り上げてきた商品化されている製品について、いくつか取り上げてみましょう。

ジェイス

ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)のヒト(自己)表皮由来細胞シートのジェイスをとりあげてみましょう。患者から正常な皮膚細胞を採取して目的の細胞を分離し、細胞を培養する際に増殖を補助する特殊な細胞(ここでは3TS-12細胞)を適用することで細胞を十分に増殖させることができ、シート状の培養皮膚を作製することができます。
このシートは、重篤なやけどを負った患者に対する治療などに利用されています。


表皮の作製法の概略図
https://www.jpte.co.jp/business/regenerative/cultured-epidermis/index.html

J-TECの「ジェイス」(※実際の処置ではやけどの患部に直接乗せる)
https://mainichi.jp/articles/20200326/ddl/k26/040/364000c

ハートシート

テルモが製造・販売するハートシートについても取り上げてみましょう。
テルモはハートシートに関して「条件及び期限付き承認」(再生医療製品を条件・期限付きで早期に承認する制度)を得て、20165月に世界初の心不全治療用の再生医療等製品として発売されました。
患者の大腿部(太もも)から採取した細胞を培養してからシート状にして、患者の心臓表面に移植することで、心疾患の治療することができるとされています。
心不全は従来移植による治療法が一般的であり、ドナーを探すだけでなく移植の手術自体でも大きなリスクがあります。ハートシートによる治療は非常に高額ではありますが、完治されるのであればお金には代えられないでしょう。


ハートシートの利用イメージ
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/news/16/053102350/

 

再生医療における開発中の技術

再生医療の技術として現在実用化されているものは非常に限られていますが、一方で開発中の技術としてどのような技術があるのか見ていきましょう。

Heartseed

再生医療として注目されている技術として、iPS細胞の技術が挙げられます。
Heartseed
は、そんなiPS細胞を利用した技術です。同社の技術は患者自身の少量の血液からiPS細胞を作り、それを心筋細胞と呼ばれる心臓の治療に利用される細胞を作製していくというものです。
iPS
細胞を利用した技術の場合、目的外の細胞を除去する純化が課題であることがあります。目的外の細胞も含めて患者の細胞に移植してしまうと、細胞ががん化する(がん細胞になる)リスクがあります。同社は純化のため培地に対してブドウ糖やグルタミンを除去したうえで乳酸を加えることで、心筋細胞だけが生き残るようにできることを発見しました。
また、心臓という部位であるため心筋細胞を移植する際に通常の注射針を使用すると血管を傷つけてしまうといった課題もありました。これに対して同社は5mmの鍼灸用針の横に穴をあけることができる微細金属加工業者を探し出し、当該器具を利用して注入する手法を確立したようです。
現在この治療法は2024年をめどに「条件及び期限付き承認」を得て、2025年には実際の医療現場での移植を実施するだけでなく、2027年には海外での実用化に向けて治験を開始することを目指しているようです。


Heartseedによる細胞の培養イメージ
https://j-net21.smrj.go.jp/special/social/20210430.html

メトセラ

メトセラが開発している再生医療による心不全の治療法です。VCFと呼ばれる心臓の細胞を増やす性質を持つ細胞を患者の心臓から採取して、傷ついた心臓を治療するものです。同社はVCFの細胞を増やす性質に着目して特許を取得しました。
再生医療といえばHeartseedのようなiPS細胞を用いた技術の研究などを耳にするものですが、先ほどのように培養のための特殊な培地が必要であることだけでなく、培養そのものにも時間がかかり、不要な細胞が多く発生してしまうといった課題があります。
その一方でVCFは増やしやすい細胞であり、培養も簡単であるとされています。それだけでなく、iPS細胞のように不要な細胞が発生するといったことがないため、シンプルで効率のよいプロセスでがん化の危険性のない細胞を作ることができます。このような点から、同社の細胞を培養する技術は低コストで治療効果の高い手法であるとして注目されています。
さらに同社は培養した細胞を移植する際に、カテーテルを利用した手法を開発しました(※特許取得済み)。患者の右足の付け根辺りからカテーテルを血管内に挿入し、そのまま心臓の内側までカテーテルを送って直接VCFを投与します。カテーテルと心臓の状態は、モニターで確認しながら手術を行うため、内部の状態を確認しながら投与することができます。これにより開胸手術による患者の負担を避けつつ、高い治療効果が期待できます
当該治療法は20216月から治験が始められ、実用化を目指した取り組みが進められています。


VCFによる再生医療技術を用いた心不全治療
https://www.ksp.co.jp/media/category_04/a10

セレイドセラピューティクス

セレイドセラピューティクスは、造血幹細胞を利用した再生医療分野などで利用する医薬品開発の研究開発を行っています。
同社の技術は、筑波大学の山崎聡教授と東京大学医科学研究所中内啓光特任教授(Stanford大学教授を兼務)のチームが開発した、ポリビニルアルコール(PVA)によるマウスの造血幹細胞の増殖技術を利用しています。同チームは人間の造血幹細胞向けに検討した増殖試薬の開発にも成功しており、骨髄、さい帯血、末梢血のいずれの細胞種でも増殖可能であることを確認しています。
造血幹細胞は、血液がん(白血病などを指す)の治療に利用されるものです。これは患者自身の骨髄や末梢血、ドナーの骨髄などから入手できますが、全ての患者が最適かつ十分な量を得られるわけではありませんでした。さらに末梢血やさい帯血では、採取可能な細胞が少なく、生着率が低い(患者の骨髄の中で血液を作り始める効果が発現しにくい)といった課題がありました。こういったドナーから造血幹細胞を得る方法では、採取にあたっての負担が大きく、マッチングが難しい(骨髄バンクの場合、登録から移植までに一般的に5カ月程度かかる)、他にも副作用が起こりうるといった課題があります。
血清アルブミンやサイトカインといった生物由来物質を使わないため、試薬成分のばらつきを極力抑えることができ、造血幹細胞を安定して高品質かつ大量に増殖することができます。このことから、同社の技術は高品質・低コスト・品質管理が容易な製造方法として期待されています。
同社は造血幹細胞を培養する技術を利用して、遺伝子治療や抗がん剤の補助治療などの技術を開発することも目指しているようです。


ヒト造血幹細胞の増幅技術
https://www.ncc.go.jp/jp/topics/2021/0701/NCCVIP2021_01.pdf

まとめ

このように様々な分野に適用できる製品が商品化されているだけでなく、開発中の再生医療の技術にはこれまでの医療分野において課題としている点を解決する画期的な技術も開発されています。
これらの技術の多くは、現在開発中の技術ではありますが、今後検討が進んでいくことにより、治療法として確立されて医療の現場で活用されていくだけでなく、新たな技術が開発されていくことが期待されます。

【参考】
多能性幹細胞安全情報サイト
厚生労働省「革新的医薬品創出のための官民対話(第4回)」
J-TEC「自家培養表皮」
J-TEC「自家培養表皮ジェイス」
重症熱傷、治療の力 自家培養表皮移植、京アニ事件で注目 /京都
世界初「ハートシート」、テルモが発売
重症心不全用「ハートシート」、1476万円
平成30年度 再生・細胞医療産業化連携プロジェクト採択企業<メトセラ>
慢性虚血性心不全患者に対するVCAM-1陽性心臓線維芽細胞(VCF1)の医師主導第I相試験の開始について
国立がん研究センター「ヒト造血幹細胞増幅技術を用いた再生医療等製品の開発」
液体のりで造血幹細胞の増幅に成功―細胞治療のコスト削減や次世代幹細胞治療に期待―
国立がん研究センター「造血幹細胞移植」

藤本光佑

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。得意分野は決済事業、IoT、エネルギーなどの事業戦略の提案や、それに伴う調査


5F, 1-3-18 Hiroo, Shibuya-ku, Tokyo
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