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【初心者向け】デジタルマーケティングにも影響を及ぼす「情報銀行」とは

パーソナルデータの価値の高まり

 「データは21世紀の石油」と言われるほど、その利活用が国・企業にとって影響を与えることは広く知られています。データの中でも、消費者一人一人に関わる「パーソナルデータ」が特に注目を集めています。パーソナルデータには、個人の属性情報、移動・行動・購買履歴、位置情報、ヘルスケア情報、家計収支などが含まれ、これらが大きな経済的価値を生むと信じられています。実際、ビッグデータを積極的に取集・活用しているGAFAといったメガプラットフォーマーは、パーソナルデータの利活用を通して利益を上げてきました。個々のユーザーの検索履歴やWebの閲覧履歴、視聴した動画などの大量のパーソナルデータを収集し、分析することでユーザーの特性や関心を把握することが可能になります。その分析結果に基づき、パーソナライズ化された広告を表示することで広告効果を高め、莫大な広告収入を得ているのです。

 今後、IoTAIがさらに進化していけば、パーソナルデータの有効活用がビジネスに与える影響はさらに拡大していくでしょう。もちろん、デジタルマーケティングを考える上でも、データの適切な利活用やデータを取り巻く環境への理解が不可欠です。こうした状況の中で、高度なパーソナルデータの積極的な活用のためのインフラとして、「情報銀行」への期待が高まっていることをご存じでしょうか。

 

情報銀行とは

 総務省の定義によれば情報銀行とは、「個人との契約等に基づき個人のデータを管理し、個人の指示又は予め指定した条件に基づき第三者に提供する事業」のことを言います。情報銀行の運営事業者は個人情報をまさに「銀行」のように預かり、個人の許諾を得て第三者に提供することで手数料を得ます。データの取り扱いに当たって情報銀行には金融機関並みの信頼性が求められるほか、情報提供先の企業が個人情報を適切に管理・運用出来るか審査を行った上で取引を始めるという点も「銀行」と同様の仕組みだと言えます。情報銀行の運営事業者となるためには、(一社)日本IT団体連盟の認定を受ける必要があり、202110月時点で7社が認定されています。

 なお、欧州ではGAFAなどのメガプラットフォーマーからパーソナルデータを取り戻し、個人が自らデータを管理しようとする取組が主流であるのに対して、個人が第三者機関にデータを預ける情報銀行という仕組みは、日本独自の形態として世界的に注目されています。

 

情報銀行を利用するメリット(利用者側)

 情報銀行を活用することで、個人には大きく三つのメリットがあります。第一に、情報に関する「安全・安心」が保証されることです。情報銀行の運営事業者は、認定を受けるにあたり厳しい基準をクリアしているため、個人がパーソナルデータを個別に管理するよりも安全だと言えるでしょう。また、提供する情報の範囲や提供先企業はいつでも確認・変更することが可能であり、個人情報への本人関与(コントローラビリティ)が高まるという安心感もあります。

 第二に、直接的・間接的な便益の享受が挙げられます。直接的な便益としては、パーソナルデータを提供した企業からのポイントや割引クーポン付与などのインセンティブが想定されます。フィットネスジムに自身のヘルスケア情報を提供することで、入会金が無料になるといったサービスも考えられるでしょう。パーソナルデータが活用されることによって交通渋滞などの社会課題が解決し、個人の生活の利便性が向上することも考えられています。こうした、企業から個人への直接的なインセンティブではない、社会への還元を通じた間接的な便益の享受もメリットと言えるでしょう。

 第三に、自身が望む企業からのみ、よりパーソナライズ化された情報を得ることが可能になるというメリットがあります。現在でも生活の中で、購入履歴・閲覧履歴等をもとにしたレコメンデーションに触れることがありますが、より詳細なパーソナルデータを提供することで、過去の旅行データの分析から考案された詳細な観光プラン、保有するキッチン家電で調理可能なレシピなど、今よりもさらに自身の趣味・生活に合致した情報・サービスが得られるようになるはずです。

 

情報銀行を利用するメリット(企業側)

 情報銀行を活用することによる企業側にもメリットは、守りと攻めの二面があります。守りのメリットとしては、法令遵守とパーソナルデータ収集・管理の効率化・コスト削減が挙げられます。個人情報保護法等の関連法順守、安全管理措置、セキュリティ体制の整備などが求められる情報銀行を利用することで、間接的に時代の要請に合わせた法令遵守が可能となるという構造です。また、20224月に施行される改正個人情報保護法により、企業に預けた個人情報に関して本人からの利用停止・消去・第三者提供停止の範囲が拡大するなど、データの適正な取り扱いについては、今後ますますコストと手間がかかるようになることが予想されます。自社でデータを収集・管理する場合に比べ、情報銀行を利用することでシステムをスリム化・コストを削減することも可能になります。なお、情報銀行から提供される情報は、匿名加工されたデータ(匿名加工情報)であるため、この情報が万が一漏洩した場合でも、個人情報の流出には当たりません。

 攻めのメリットとしては、情報銀行が保有する膨大な個人情報をマーケティングに活かすことで、見込み客や顧客との接点を一気に増やせることです。また、自社では獲得できない希少性の高いデータを入手することで、顧客の詳細なニーズに合わせた活動も可能になります。よりパーソナライズ化されたマーケティングを実施することで、他社よりも訴求力をあげることが可能になるでしょう。マーケティングに限らず、新商品の開発やサービスの改善に役立てることも考えられます。

 

今から押さえておくべきこと

 これまで述べてきたように、情報銀行の普及によってデータ流通が促進されれば、自社でデータ収集を行うよりも簡易に希少性の高いデータを取得することが可能になるでしょう。一方で、情報銀行に関する情報を収集し、適切に対応することが求められるとも言えます。

 情報銀行から提供を受けることのできる第三者の選定にあたり、PマークまたはISMS認証を取得していること、あるいはデータの安全性を確保するための具体的な対策を講じていることが必要になります。「具体的な対策」を講じているかどうかの判断は情報銀行によって基準が異なるため、情報銀行からのデータ提供を検討している事業者は、PマークまたはISMS認証を取得しておくことで、スムーズに審査を通過することができるでしょう。

 また、自社が保有するデータに、情報銀行から提供されるどのようなデータを組み合わせることで効果的なマーケティングが可能になるのかを検討しておくことも必要です。情報銀行は、提供するサービスや運営母体のバックボーンなどの特徴によって、いくつかのカテゴリーに分類することが可能です。金融機関が母体となり、口座情報や信用情報、資産情報等のデータを預託する「金融系」、ヘルスケア、観光、エンターテインメントなどの分野に特化した「専門店型」、プラットフォームとして幅広いサービスを提供する「百貨店型」などの分類があります。今後、情報銀行の増加が予想される中で、どんなタイプの情報銀行からどのようなデータを提供されることができれば自社にとって有益かを考えておくことで、情報銀行のサービスを有効に活用することができるはずです。

 デジタルマーケティングに影響を及ぼす「情報銀行」ですが、その普及前にデータ提供を受ける第三者としての体制を整え、新たに獲得し得るデータを想定したマーケティング施策を想定しておくことが、情報銀行のサービスを活用するだめの第一歩だと言えるでしょう。

 

【参考】

月刊国民生活「ビッグデータの活用と個人情報保護」

ソフトバンク「【初心者向け】情報銀行とは?パーソナルデータを預けると何が起こるか」

総務省「令和2年度版情報通信白書」

パーソルテクノロジースタッフ「情報銀行とは?私達のパーソナルデータはどのようにビジネスに活用されるのか」

ITmedia2020年は2515万人分の個人情報が流出 原因の多くは「ウイルス感染・不正アクセス」

Geekly Media「情報銀行とは?役割や仕組みを解説!情報銀行で社会はどう変わる?転職先でデータ活用技術を活かして働こう」

Biz/Zine「情報銀行で社会とビジネスはどう変わるのか?生活者自身が個人用法を管理する時代へ」

弁護士法人三宅法律事務所「Q&A情報銀行」

田嶋美由紀

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト