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ここ最近、企業が上場する方法の1つとしてSPACが注目されており、実際この言葉をテレビや新聞等のメディアでもよく見聞きすると思います。日本ではまだ承認されていないSPAC制度ですが、将来SPAC制度が認可された場合には、上場する際の選択肢としてSPACを視野に入れて検討しやすいように、事業会社目線からSPACとは実際にどういったスキームなのか、どういった点が他の上場方法と異なるのか等を今回の記事を通じて、紹介していきます。
SPACとは”Special Purpose Acquisition Company”の略であり、日本語で「特別買収目的会社」と呼ばれています。その名から想像しやすいと思いますが、SPACという買収目的のために設立された企業が先に上場し、企業を買収することで、上場を果たすスキームです。IPOに用いられている手法の1つとして、近年注目を浴びています。
SPACによる上場の場合は、以下の図①流れに沿って上場プロセスが進んでいきます。
図①:SPACによる上場のプロセスの図
SPACという言葉は、近年ニュース等で見聞きすることが多くなったと思いますが、実は、1980年代から存在しています。しかしながら、このSPAC特有のスキームに乗じて、SPAC設立者が市場から調達した資金を私的に利用し、不正を働いていたために、敬遠されてしまっていました。そして、米国証券取引委員会(SEC)は、この状況を見かねて1990年代にSPACのルールを厳格化しました。ただし、2000年代以降はITバブル等によって従来のIPOが活発だったため、それに伴ってSPACの流行りも落ち着いていきました。
それでも、近年SPACが流行している背景には、コロナ禍で業績予測が困難になり、従来のIPOによる上場では、上場審査にコストや時間が余計にかかってしまうため、SPACによって短期間で上場したいといった理由も存在します。
では、SPACと従来のIPOや直接上場はどのような点で異なるのかを次章で見ていきます。
図②:SPAC、従来のIPO、直接上場を様々な観点から比較した図
メリット
デメリット
米国におけるSPACは2020年時点において、件数ベースで221件成立しており、金額ベースでは754億ドルに達しています。
図③から見て取れると思いますが、SPACは件数ベースでも、金額ベースでも右肩上がりで向上しています。
図③:米国におけるSPACの件数及び金額の推移の図
図④から日本でのSPACはまだ認可されていないことが分かると思います。他方、SPACが認可されている国もたくさん存在します。
日本の現状は、SPAC制度の導入に向けた検討議論が進んでいる段階です。日本での上場の審査基準として「継続的な事業活動」等が定められているため、上場時に具体的な事業を営んでいないSPACの上場は厳しいかもしれません。しかしながら、諸外国のSPACに対する動向を鑑みて、「SPAC設立者の企業の目利き力の実効性」や「上場基準の変更」等の観点から、制度を整備してからSPAC制度を導入する可能性はあると思われます。
図④:日本及び諸外国の取引所及びSPAC上場の可否一覧図
日本でのSPAC制度の現状は検討議論段階であり、認可されていませんが、諸外国の動向に合わせて今後認可される可能性も十分にあります。今後のSPAC制度に関する動向に注視しながら、導入された際には、企業は資金調達の手段の1つとしてSPACも考えてみると良いかもしれません。しかしながら、上記で見てきたように、SPACについてはメリット・デメリットの双方が存在しますので、従来のIPOや直接上場等との違いを鑑み、上場時のみではなく、上場後も含めた企業の長期的な将来を見据えたうえで、重要な資金調達政策を考えることが大切になると思います。
【参考】
アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/アナリスト