AC社長ブログ「ともに、つくる」vol.31

ウィリアム・モリス

当社の社名はウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動から名付けました。社名にするくらいですからモリスへの思い入れは相当強い訳ですが、彼の多方面に及ぶ活動を漏れなく紹介する自信が私にはまだありません。ですので、今回は偏りを覚悟で少し変わった私的モリス論を披露させてください。

 

この私的モリス論では、ウィリアム・モリスを「資本主義の預言者」というアプローチで考えてみます。

彼は三つの預言を残しました。二つは20世紀の人々へ向けて。最後の一つは21世紀の私たちの為に。

 

まずは彼の生きた時代。モリスは1834年に生まれ1896年に亡くなった19世紀人。ちょうど産業革命により大英帝国が最も繁栄したヴィクトリア朝の期間にすっぽり収まる人生です。

ダーウィンの進化論やマルクスの資本論が世界の新たな見方を提示し、万国博覧会が華やかに開催される裏では、工場で16時間労働のブラック環境が蔓延し、耽美的、退廃的なロンドンの夜をオスカー・ワイルドが闊歩する時代でした。

当時は人類がこれから世界を支配していく幕開け。私たちがこのままでは世界を破壊してしまうのではと気づき始めた現代とちょうど対照的です。

 

次に彼という人物を考えてみましょう。モリスはとても複雑な人物です。

シティのブローカーで巨万の富を得た父(今風に言えば、ビットコインで大儲けした父)を持ち、オックスフォードで学びラスキンに師事したアートシーンの大物(分かり易く今で例えると村上隆とかのイメージかな)であり、自らもデザイナーとしてベンチャーを経営するアントレプレナー(佐藤可士和とか)であり、小説など創作を出せば必ず売れるヒットメーカー(村上春樹、秋元康かも)であり、そしてソーシャルアクティビスト(フォロワー何百万人のインスタグラマーとかユーチューバー)として影響力を発揮した。これらが全てモリス一人のことなのだから驚きです。

あの髭面からは想像つきませんが、現代的に考え直すと、当時最も影響力のある”イケてる”有名人だったというのも納得がいくでしょう。

 

モリスの時代と現代をつないで理解する為に、人類が資本主義で世界を変えていく流れをストーリーに見立てて起承転結をつけてみました。

起)産業革命から第二次世界大戦までの古典的な資本主義の時代。モリスの時代です。

承)大戦後から冷戦終了までのアメリカが世界へ広めた現代資本主義の時代。

転)冷戦後のグローバリズム資本主義の時代。私たちの生きる現代ですね。

結)これから。

起の時代に生きたモリスの預言は、承の時代を導き、転の時代で行き詰る私たちに結びの示唆となっています。

 

そんなモリスの三つの預言。まずは二つを紹介します。

1)事業活動にデザインを取り入れよう。

モリスはデザインの父と言われています。このデザインという概念こそ実は古典的な資本主義の限界を突破し現代資本主義へ至らしめた両輪の片方です。

デザインにより、私たちの消費行動はニーズ(必要)からウォンツ(欲しい!)へと変わりました。

モリスの時代(古典的な資本主義)は、企業は機能的に必要なモノを作って売ってました。例をあげると戦前のフォードが黒いT型フォードだけを生産していたようなことですね。人は「モノを一度手に入れたら壊れるまで買い換えない。」そんな時代です。

なので、この古典的な資本主義の時代は、ほぼ10年ごとに供給が需要を上回り恐慌が発生してました。ようはモノを作り過ぎると人に行き渡ってしまい売れなくなる=不況になる。更に最悪なことに、それを繰り返す毎に事態はどんどん悪くなり結果的に二度の世界大戦へ突き進んでしまった。

モリスの預言したデザインは二つの分野に影響を与えました。まずはプロダクトデザイン。これにより「既に買った車が陳腐に感じるので、新しいデザインのに買い直したい」というウォンツ(欲しい!)が生まれることになりました。また、人のウォンツを巨大化する広告という分野でもデザインは重要な役割を果たしています。

ウォンツ(欲しい!)という人間の欲望が動き出したことにより、10年毎の供給が需要を上回る構造が解消され、無限に続く消費ループが生まれました。これが戦後にアメリカが世界へ広めた現代資本主義です。

 

2)労働に自己表現を加えよう。

しかし企業がどれだけ素敵なデザインの商品を発売し、どれだけ魅力的なデザインの広告で煽っても、買うことが出来る人がいなければ売れません。現代資本主義のスタートには、大衆消費者の誕生が不可欠となります。

そしてモリスの二つ目の預言が示すのは、労働者の地位向上による消費者化です。これが古典的な資本主義を突破し現代資本主義へ至らしめた両輪のもう一方となります。

当時は大量生産に従事する工場労働者がほとんどでした。機械のように16時間働き、日曜は狭い部屋でぐっすり眠るだけの生活では、買い物なんかする余裕も、お金もありません。

モリスが訴えたのは、労働の改善です。働くことに意味を与えたい。日々の仕事に自分らしい表現を加えよう。彼は、仕事を自己表現として捉えていましたし、それこそが仕事をする上での醍醐味、自分の満足こそが最も大切な仕事の報酬だと考えていました。もちろんエリートで金持ちで才能ある表現者の彼は特別だと思いますよね。しかし、彼はこれを自分だけに留めることなく、世界へ広めるためにソーシャルアクティビスト(社会主義者)として真剣に活動しました。彼自身はこの活動を最も大切にしていたと言っても過言はありません。

その後の世界は彼の預言通りとなりました。労働者たちの仕事が改善し人間らしいものに変化していくに従って、彼らの収入も増えました。そこに金融サイドが目をつけクレジットのシステムを構築することで、デザインに溢れた魅力的な商品をいつでも買いたい大量の大衆消費者が誕生したのです。

 

以上の二つが古典的な資本主義(起)を現代資本主義(承)へ導く預言ならば、最後の預言はグローバリズムの行き詰まり(転)から未来(結)へとつながる、現代の私たちへ向けたものです。

3)地球環境を大切にしよう。

あまり知られてませんが、モリスは環境保護を訴えるアクティビストでもありました。イギリスの美しい田園の保護を訴え、小説では自然豊かなユートピアを描き、古い建物を保全する協会を立ち上げたりもしています。

このところ、風の時代、人新世、高原社会など、様々な表現で今の時代が語られています。共通するのは人類がモリスの頃から信じて突き進んできた社会システムが転期に差し掛かっているということだと思います。そして、モリスの第三の預言は、そんな今を見越していたかのようです。資本主義ストーリーの転から結へ、私たちはモリスの預言を心にサステナブルな世界をつくっていかなければなりません。

 

多方面で活躍したモリスにとって本人が最も力を注いだのはソーシャルアクティビスト(社会主義者)としての活動でした。ですが、実は当時の社会主義者の中では彼は空想社会主義者として亜流とされ、本流(科学的社会主義者)からはどちらかと言えば有名人の余技のようにみられていたようです。

確かに、モリスはマルクスのように資本主義というシステムを完全に理解していなかったかもしれません。ただ、彼は様々なことへ挑戦し、全力で走ることで時代の本質を感じ、未来についての示唆を残しました。私が最も共感するのも、このモリスの行動力と時代感覚です。

彼の時代とちょうど対を成すような現在において、私も一人のビジネスマンとして日々全力で走りながら今の世の中の違和感や未来へのヒントを感じ、自分がやれることを通じて社会へ貢献したい。それが、アーツアンドクラフツという社名を選んだ際に込めた思いです。

宮﨑

「ともに、つくる」は主にインナーコミュニケーションを目的とした社長ブログです。

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宮﨑晋之介

アーツアンドクラフツ代表取締役社長。考えるよりも動く現場主義。創業以来一貫して事業の最前線に立ち様々なパートナーと価値をつくりあげる。