日本国内でもサブスクリプションサービスの展開が進んでいます。矢野経済研究所によると2021年度のサブスクリプションサービス国内市場規模のエンドユーザー(消費者)支払額は2020年度ベースで13.8%増の約1兆円と予測されています。
その中でファッション・アパレル業界でも大丸松坂屋百貨店がサブスクへ進出するなど注目を集めています。しかし一方では、ZOZOやAOKIなどの同業の大手企業がサブスクから撤退している事実にも目を背けてはいけません。成功している企業と撤退した企業の差はどこから生じているのでしょうか。
下記に記載した企業はアパレルサブスクに参入し、撤退した企業の一例です。ご覧いただくと一目瞭然ですが、ほとんどの企業が1年程度で撤退していることがわかります。
企業名 |
サブスク名 |
料金体系 |
参入日 |
撤退日 |
ZOZO |
おまかせ定期便 |
選択制*1 |
2018年2月 |
2019年4月 |
AOKI |
suitsbox |
月額制*2 |
2018年4月 |
2018年12月 |
レナウン |
着ルダケ |
選択制 |
2018年7月 |
2020年7月 |
VOYAGE GROUP |
MYLISH |
月額制 |
2018年7月 |
2018年10月 |
GAP(米国) |
babyGap Outfit Box |
月額制 |
2017年5月 |
2018年7月 |
Under Armour(米国) |
ArmourBox |
選択制 |
2017年10月 |
2020年2月 |
表1:撤退した企業一例
*1:カスタマー自身が購入したい時に購入できる。
*2:毎月・隔月など決まった周期で定期的に購入する。
撤退した理由をZOZOとAOKIは以下のように述べています。
ZOZO:「新規ユーザーは購入率も高く好評だったが、既存会員の購入率が低かった。人に 洋服を選んでもらうことを必要としないユーザーの利用が多かった。現サービスモデルでの継続は困難と判断した」
AOKI:「運用費用がかさみ黒字化が見込めなかったほか、20~30代の獲得を予定したが狙い通りにいかなかった」
どの企業も流行に乗ってサブスクに飛びついたものの、思ったようなターゲットの集客ができなかったことが主な撤退原因のようです。
ここでは株式会社エアークローゼットとStitch Fixの2社をご紹介していきます。2社はそれぞれ日本・米国で知名度が高いアパレルサブスクのリーディングカンパニーです。
表2:成功事例企業概要
両企業とも一定期間利用することができる権利に対して料金を請求するサブスクリプションのビジネスモデルであり、且つ、いずれの企業もターゲットを「時間がない人」としています。と、ここまではZOZOやAOKIとそう大差はありません。では、どの要素が違いを生み出すのでしょうか。
それはAIアルゴリズムを服の選定(スタイリング)データと調達・在庫管理データの2つのデータ収集と利用手法、そしてそこから生まれる膨大なデータ量を活かしたデジタルマーケティングにあります。
両企業ともカスタマーに代わってAIがスタイリングを行ってくれるという特徴があります。しかしながらあくまで補助的な存在として扱われます。AIの精度は十分に高いのですが、主としておこなうのはスタイリストなのです。エアークローゼットでは300名、Stitch Fixでは6,000名を超えるスタイリストがおり、AIのスタイリングを修正しています。人間がAIのスタイリングに加筆・修正を加えることで、AIは学習をし、精度がさらに向上します。また、利用したカスタマーからもフィードバックをもらいます。この段階でもAIは学習をするため、企業が提示したスタイリングとカスタマーのマッチング率がどんどん研ぎ澄まされていきます。Stitch Fixにいたってはリピート率がなんと80%以上にもなるそうです。
AIの及ぶ範囲は服を選定するだけではなく、衣類調達・在庫管理といったロジスティクスにも及びます。在庫管理もアパレル業界では重要な点で、在庫が過多になると売れ残り赤字になりますし、逆に在庫不足となると営業ができなくなり運営に大きな影響を与えてしまいます。その問題を解決してくれるのがAIです。ユーザーがユーザー登録をした際に、「住所」も入力されます。この住所からユーザーの最寄り倉庫が割り当てられ、運輸の最適化が図られます。また倉庫内ではAIが倉庫の製品配置を導き出すと同時に、需要モデリングが行われ、何を適正な量で調達し、どこに配置するか、どうピックアップして配送するかが計算され、衣類調達・在庫管理全体の最適化が行われます。このように徹底的に無駄を出さないようにできているのです。
図1:Stitch Fixのデータ収集とアルゴリズム
そして上記2つを支えているのが膨大なデータ量です。例えば、スタイリングデータはエアークローゼットでは2,000万以上が蓄積されています。Stitch Fixのスタイリングデータ数は不明ですが、会員数がエアークローゼットの約10倍であることから考えると2億以上のデータを有していると推測できます。
これを可能にしたのは第一にユーザーと接する初期段階で多くのデータを収集しているからです。ユーザー登録の時点でユーザーから収集するデータの種類は身長・服のサイズなど一般的なものから、色の好みやフィット感などにも及びます。エアークローゼットは写真も収集しており、Stitch Fixに至っては収集データ数が90にもなります。
第二に、収集したデータを元に、図1のようにデータ収集→スタイリング利用→修正→フィードバック→学習というサイクルを繰り返していくことで更にデータを収集して膨大なデータが蓄積され、スタイリングと衣類調達・在庫管理の精度が向上します。これらの膨大なデータを収集できたのは、特にこのデータ収集と利用のサイクルをしっかりと回すことができたからだと言えます。
ご覧いただいたように、アパレルサブスクで成功したエアークローゼットとStitch Fix の2社はデータの収集と活用のサイクルを回し続けることでスタイリング・在庫管理の攻めと守りの精度を磨き上げ成功しています。つまり、2社はアパレル企業ではなく、突出したデータサイエンス企業だと言えます。
これは両企業とも自負しているところがあり、どちらの企業もAIアルゴリズムについてのホームページを作成し、公開しています。
URL: https://corp.air-closet.com/data-science-collection/
URL: https://algorithms-tour.stitchfix.com/
データの収集・活用は一般的ですが、回転率を高めていくことでより有益なマーケティングが可能となります。本記事が皆様の参考に少しでもなれば幸いです。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト