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コロナ禍の投資環境の変化から投資の基本を押さえる

 はじめに

 新型コロナウイルスの影響で、企業が大きな打撃を受けています。観光業や飲食業、小売業などが顕著に減益しており、企業が倒産をしたというニュースを耳にすることも少なくなくなりました。関連する業界も減益などの影響を受けており、経済全体にマイナスイメージが付いています。一方で、巣ごもり需要を満たすサービスやテレワークに関するサービスを提供している企業は増益しており、業界ごとに明暗が分かれている状況です。

 このことから、投資市場にもコロナ禍特有の動きが見られるようになりました。そのため、今回はコロナ禍での投資市場について動向を整理し、分析していきます。

 

リーマンショック時との比較から見る投資市場の変化

 まずは、日経平均株価の値動きから見ていきます。2020225日は22,605.41円、半年後の825日は23,296.77円となっており、3月末の下落を踏まえても上昇傾向にあることが分かります。また、20207月までのマザーズ上場数は28件となっており、日本でのコロナ禍が本格化した後の6月で5件、7月で6件ありました。そのため、コロナによる一時的な投資市場の停滞はあったものの、すぐに経済活動が再開されていることが読み取れます。 

 

 今回と同じように経済状況が悪化したリーマンショック時の日経平均株価は2008915日時点ではおよそ12,000円、半年後の2009315日時点ではおよそ8,000円です。また、2008年のマザーズ上場数は12件、2009年は4社にとどまっています。ここから、リーマンショックでは投資市場がほとんど停滞しており、長期にわたって経済活動を慎重視する必要が出ていたことが読み取れます。 

 

 このように同じ半年間で区切ってみると、今回のコロナ禍の景気悪化は、株価の推移やマザーズ上場数などのデータから、経済界における景気悪化とは性質が違うことが伺えます。では、なぜこのような差が出てきたのか、それぞれの景気悪化の原因を整理していきましょう。

 

 現在発生しているコロナウイルスによる景気悪化は、2月下旬に新種のウイルスのヒト感染が確認されたことが始まりです。その後の日本は、パンデミックを回避するために感染が広がる前に緊急事態宣言などの感染防止措置を実施しました。具体的には、飲食店の営業自粛/時間短縮や、長距離移動の自粛など様々な措置が実行されました。結果的に、直接的/間接的に打撃を受ける業界が多かったため、景気悪化へと陥りました。一方で、緊急事態宣言は1ヶ月半程度で解除されたため、経済活動を再開させようとする動きが見られました。

 一方リーマンショックは、地価の下落を発端としたサブプライムローン問題が起こり、アメリカの大手投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻したことによって発生しました。その結果、世界中の経済に影響を及ぼす経済危機に発展し、日本もその影響を受けました。また、その後の日本経済は4年ほど低迷期が続いており、深刻な打撃を受けていることが見て取れます。

 以上の流れを踏まえて、それぞれの景気悪化についての特徴は以下の通りに整理されます。

<コロナ>

  • 原因がウイルスのため、経済界が間接的な影響を受けている
  • ウイルスへの対策が整い次第、経済活動が再開できる
  • 経済への影響が短期的

<リーマンショック>

  • 原因が土地価格の下落のため、関連する市場が直接的な打撃を受けた
  • 投資銀行が破綻したため、経済活動を慎重視するようになった
  • 経済への影響が長期的

 

 このことから、コロナによる景気悪化は外部要因によるものであるため、経済の直接的な損失がなく、すぐに経済活動を再開しても大丈夫だと判断できる、と考えられていると予測出来ます。

 

株価が上がったセクター・下がったセクター

 もう一つの特徴づけとして、今回のコロナで値動きを見せた具体的な業種を挙げ、コロナ禍で発生している事実と照らし合わせながら、なぜそのように推移したのかを分析していきます。

 半年間の間でプラスの値動きが見られた業種は陸運、輸送用機器、サービス、小売業で、マイナスの値動きが見られた業種は造船、鉱業、空運、証券になります。

 プラスの値動きを見せた業種のうち、陸運と輸送用機器は外出自粛に伴った宅配の需要の高まりが理由で値動きがあったと考えられます。サービスは主に巣ごもり需要があったゲームやインターネット上でのサービス、リモートワークに向けた様々なサービスなどが業種全体の値動きを引っ張っていると見られます。小売業は外出自粛の影響を大きく受け、コロナをきっかけにブランド休止を行う企業が見られたり、アメリカのブルックスブラザーズが破産申請を行ったりと特に強い影響を受けている業界の一つと言えるでしょう。しかし、業界内でもドラッグストア、生活必需品の販売を行っている企業に対しては需要が集中しました。そのため、現在では値動きがプラスになっていると考えられます。

 反対にマイナスの値動きを見せた業種のうち、造船、空運に関しては、国内外での人や物の行き来が減ったため航空便や旅客船への搭乗ニーズが減り、株価を下げたと考えられます。なお、造船については、執筆時点においてモーリシャス沖で大型貨物船が座礁したため、それも含めた値動きであるとも考えられますので、コロナの影響がどこまで大きいかを測ることは出来ないことに留意いただきたいです。加えて、鉱業に関しては移動自粛によるガソリン等の燃料ニーズの減少に伴い株価が下がっていると考えることが出来ます。また、証券に関しては対面営業を基本としている企業の値動きが見られるため、感染防止に対する意識の高まりから客足が遠のく動きを見越して、株価が下がっていると考えらえます。

 

 

バリュエーションが上下する要素

 以上を踏まえて、コロナのような自然災害の際の値動きの特徴や対策を考えていきます。値動きを見せた業種を分類すると、生活の安全性を確保する際に必要な食料やそれを運ぶ機能などを持った業種、安全が確保できた際にその場でできる何かしらのサービスを提供する業種の二つに分けることが出来ます。

 前者の中でも、特にトイレットペーパーなどの生活に欠かせない消耗品は、生産が不足するなどの情報が出回ることがあるため、売上が人の動きに大きく左右されてしまいます。そのため、株価が堅調に伸びていく企業は多くないと考えられます。株価を安定させるための企業側の対策としては、SNSなどの消費者に近い媒体を用いた情報発信をすることが挙げられます。情報発信をすることで供給量のブレを減らし、一時的な株価の上下も抑制できると考えられます。投資家としては、短期的な損失を抑えるために株を売却するか、長期的な需要を見込んで株価が上がっていくことを想定して株を保持するかのどちらかで損失を抑えることが出来ると考えられます。

 他方、後者のサービス業に関しては、災害直後はサービスを楽しめる状況ではないため一時的な株価の下落が起こると考えられます。しかし、その後はサービスを楽しめなかった反動によって需要が一気に増加することが考えられるため、自然災害のしばらく後には利益を伸ばしやすいと予測できます。そのため、結果的に株価が上昇しやすいと言えるでしょう。企業が株価を安定させるための対策として、復興支援を含めた生活基盤の安定化を図る動きを取ることが良いと考えられます。需要を生み出すための初期投資や、企業イメージの醸成という意味合いを込めて、被災地のためにできることを行うことで最終的な利益につながると考えられるからです。その後は、増えると見られる需要を満たすために消費者接点を増やすための広告やキャンペーンなどを行うことで、より企業活動が円滑になると考えられます。また、投資家は一時的に株を売りに出し、株価が底を打ったと感じたときに買いなおすことが有効だと考えられます。そうすることで、短期的にはリスクを抑えて、長期的には株価の上昇の恩恵を受けられると予測できます。

 今回の自然災害はウイルスでしたが、その他の自然災害時を想定すると、先述したような消費者を助けるための行動を取ると、より一層安定した企業活動を行えると言えるでしょう。投資家においても、消費者の心理状態を考えることで投資活動に利益が出ると考えられます。そのため、バリュエーションが上下する要素は、消費者の心理状態にあるとまとめることが出来ます。

 

終わりに

 今回の記事では、コロナ時における投資市場の動きを取り上げました。記事のまとめとして、自然災害の時は株価が比較的戻りやすく経済活動を妨げる影響はないが、経済界の中で起きる問題に関しては金の動きなどを不安視する傾向があるため影響が大きくなりやすい、ということが言えます。

 また、自然災害時について、生活基盤となる業種は災害直後の需要が高まるため、株価が伸びていくという予測が立てられます。そのため、消費者への状況説明や購入制限といった対策が必要になると言えるでしょう。並びに、生活基盤を取り戻した後はサービス業のニーズが高まるため、被災地への支援による生活基盤の安定化や消費者接点を増やすための活動が重要となってくるでしょう。

 これらの動きは消費者の行動の結果から見えるものになりますので、自然災害時の消費者が求めるサービスに焦点を絞ってイメージを膨らませることで、今後伸びていくと考えられる株を見つけることが出来るのではないでしょうか。

 

【参考】

伊藤悠真

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。