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2024.05.10

デジタルマーケティングに効果的なオフライン施策

<はじめに>

  • 現代では、世の中におけるあらゆるモノがIoTによって、スマートフォンやPC等を通じて、誰もがデジタルに触れることが出来るようになりました。そのため、マーケティングの方法も従来のオフライン施策よりもオンライン施策に注目が集まっています。
  • そうした変化の裏では、オンライン施策の有用性にのみ着目し、オフラインマーケティングをおろそかにしてしまっている企業も存在しており、マーケティングの効果低下を招いているケースが発生しています。
  • 本ブログでは、改めてオフラインマーケティングの意義および限界を振り返った後に、オフラインとオンラインを組み合わせることの重要性にまで踏み込むことで、マーケティングの完成度を高める方法についてご紹介します。

 

<オフラインマーケティングとは>

  • マーケティングの概念は1900年以降に始まり、マーケティング1.0からマーケティング4.0まで時代の変化に伴って進化してきています。例えば、マーケティング時にも使用される4Pのフレームワークは19001960年代にマッカーシーによって提唱されています。その後、マッカーシーの時代の製品中心の考え方から顧客中心に主軸が変化したタイミングでコトラーによってSTP分析が提唱されました。
  • 次にマーケティングの定義に目を向けると、定義も同様に移り変わっており、アメリカマーケティング協会は時代ごとに定義を更新しています。
    • 1948年:「生産者から消費者等への財貨及びサービスの流れの方向を定める企業活動の遂行である」
    • 1985年:「個人および組織の目標を満足させる交換を創造するために、アイデア、商品、サービスのコンセプト形成、価格設定、プロモーションおよび流通を計画し実行する過程である」
  • 日本マーケティング協会では「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」とマーケティングを定義しています。

 

  • オフライン施策とは

    • オフライン施策とは、マーケティングを3つに分解したうちの1つでオンラインおよびオフライン&オンラインのマーケティング以外が該当します。
      • オンライン施策:オウンドメディア運用とSEO対策、オンライン広告運用、SNSアカウントの運用、メールマーケティング 等
      • オフライン&オンライン施策: OMOO2O、オムニチャンネルとも表現され、デジタルとアナログ空間をシームレスにつなぐための各種施策 等
    • 具体的には実店舗での接客、実演販売、ダイレクトメール、電話営業、プライベートセミナー等が存在します。各施策はファネルと併せて整理することが多く、例えばダイレクトメールや電話営業等は認知ステージの顧客に有効であることが多くなっています。他方、一定すでに興味をもっており各社を比較しているステージではプライベートセミナー等の顕在化している顧客ニーズを解決することに優れた施策が多用されます。 
    • 現在はコンサル業界以外にも広がったものの、コンサル業界から始まった「アルムナイ」の仕組みもオフライン施策の1つです。アルムナイとは退職者を対象としたコミュニティのことで、コンサル業界ではアルムナイネットワークを活用した協業や案件創出が実施されています。今日では、コンサル業界以外にも広く浸透し、退職者を再度企業に呼び寄せたり協業したりすることを目的とした専用のサービスも市場に存在しています。

     

    <オフライン施策の重要性>

    • オンライン施策の課題

      • オンライン施策は、オフライン施策と比較して優れている点は多々ありますが、万能ではなく限界も存在しており、本ブログでは2つご紹介します。
        • 高いコスト効率:デジタルメッセージは、印刷物よりも低コストかつ効率的に作成できる
        • 追跡可能:クリック数、開封率、購買率等をデータとして蓄積することで精度の高い分析ができる
        • ターゲティング:特定の顧客にターゲットを絞り、メッセージを送ることができる
        • カスタマイズ:顧客行動に合わせて自動化した情報の提供ができる
        • カバレッジ:立地や地域性にしばられない
      • 1つ目は、オンライン施策だけではデジタルとアナログを行き来している顧客行動を正確にトラッキングすることが出来ない点です。
      • 2つ目は、オンラインだけでは商品の良さを伝えきれないのに加えて、購買体験の観点において競合と差別化することが出来ない点です。実際に、アメリカのコーネル大学の研究によって、メールでのコミュニケーションよりも直接会話して伝えたほうが34倍効果的であることが明らかになっています。また、同じくアメリカで実施された調査によると、イベント開催が購買意欲を高めることもわかっています。

     

    • オフライン施策の直近のトレンド

      • 2024年はコロナがもたらした外出規制から脱却し、リモートワークから出社へと舵を切る企業が増加することが予想されています。そうした時代の変化を受けて、人々が例えば駅前の広告や地下鉄の掲示広告を見る機会が増加し、オフライン施策の果たす役割が元に戻っています。
      • ソラジマ:オリジナルWebtoonの制作・配信事業を展開
        • 渋谷を代表する広告枠に掲示した、青地の背景に「漫画編集者求む。」とゴシック体で力強く書かれたテキストは話題になりました。
        • 同社CEOSNSにおいて「リッチなデザインにしても天下の大企業にはクオリティ勝負では勝てないだろうなと思い、印象に残るようにプライドを捨ててあえてシンプルかつストレートなデザインで出してみました!」と後に投稿しています。
      • すみだ水族館
        • B0サイズ20枚相当の広告がポスター貼り出来る新宿駅のスーパープレミアム広告枠に、ポスターではなく立て看板を設置したことで話題になりました。
        • また、水族館スタッフが描いたものもあるなど、懐かしさを感じるデザインを取り入れたことで、”宣伝感を消して親しみを持たせることに成功しました。
      • 次に代表的なオフライン施策であるテレビCMに目を向けてみると、「若者のテレビ離れ」が叫ばれる世の中においてテレビの影響力低下が如実に表れていることは確かです。一方で、例えばラクスルは「チラシ印刷ならラクスル」のシンプルなメッセージを武器にテレビCMを活用して売上を急拡大することに成功するなど、依然としてテレビCMというオフライン施策の効果は顕在しています。
        • 網羅性:テレビは多くの人にとってアクセスが容易なメディアの1つで、デジタル広告ではリーチできない層にも訴求することが可能
        • ニーズ発掘:テレビCMはデジタル広告と比較してターゲットの絞り込みがルーズなため、顕在化していない層にもリーチすることが可能
        • ブランド/安心感:テレビCMには審査基準があり倫理観点をクリアしたコンテンツしか放映されない仕組み故、顧客に不信感を与えることなく情報を伝達可能
      • 総務省の調査報告においてテレビとインターネットの”ながら見=併用が増加していることが分かっており、テレビでオンエアされた番組等がSNSで話題になっていることからも、テレビCMの影響力を肌で感じることが出来ます。

    • 特徴的なオフライン施策

      • istyle
        • 「@cosme」を運営するistyleはオフラインでの顧客接点の創出を目的に、リアル店舗を出店しています。同店舗では、気軽にデパートコスメを試しに使うことが出来るため、百貨店の化粧品売り場はハードルが高くメルカリ等で使いかけのコスメを買って試している顧客等に利便性を提供しています。
        • @cosmeのオンラインサイトで掲載しているランキングに沿って、都度ディスプレイを変更する棚を設けたり、アプリユーザーのみが利用できるラウンジを用意するなど従来はオンライン施策が大半だった同社のマーケティングにオフライン施策を組み合わせる取り組みを行っています。
      • そごう西武
        • そごう西武は、実店舗出店の実績が少ないD2C(消費者への直接販売)ブランドや地方商品等を扱う「CHOOSEBASE SHIBUYA」を立ち上げ、オフラインで顧客接点を有している強みを活用しています。
        • ECでの販売がメインだったD2Cブランド等にとってのメリットは大きく、出店を通じて得たデータを活用して商品企画やオンライン施策の参考にできます。
          • 「見る⇒触る⇒買う」体験を顧客に提供することができる
          • AI(人工知能)カメラを活用することで、顧客の行動ログデータをオフラインとオンラインの垣根を越えて取得できる
      • Liva:試食専門店「試食屋」
        • 試食屋とは全国各地から集めた「味とこだわり」に自信を持つ食品/飲料の商品を店舗において無料で好きなだけ試せる体験型ショップのことで、従来食料品を購入する顧客が抱えていた課題を解決するものになっています。
          • スーパーや百貨店等に足を運んでも最終的な比較基準は見た目のデザインと内容量や価格、企業ブランド等にならざるを得ない
          • 新しい商品の購入にチャレンジするためには「良いかわからない」状況で購入しなければならない
        • これまでは立地的な観点から東京への出店や試食会の実施等が出来なかった出店者にとっても、オフラインで顧客の生の声を収集できる点が大きな利点になっています。
          • 試食した商品ごとにアンケートを回収できる
          • 例えば、カレーの製品であれば試食提供時にライスを盛り付けてカレーライスとして提供する等 出店者が希望する食べ方で提供できる
        • 同社では、消費者へのスタッフからの商品提案スキルの水準を高くするための教育制度を導入しており、試食/試飲からの購入確率は全商品平均で22%を超えており、店舗での代理販売における月間売上高120万円/月(20232月実績)を実現しています。

     

    <今後のオフライン施策の展望>

    • フィリップ・コトラーは新時代の顧客の行動モデルを、「5A」という新たなカスタマージャーニーとして、認知(aware)、訴求(appeal)、調査(ask)、行動(act)、推奨(advocate)で整理し、「オンラインの世界とオフラインの世界は、ゆくゆくは共存し融合するだろう。技術はオンラインの世界にもオフラインの物理的空間にも影響を及ぼし、オンラインとオフラインの究極の融合を可能にする。近距離無線通信(NFC)や位置情報にもとづくiBeaconなどのセンサー技術はこれまでよりはるかに魅力的な顧客経験を提供する。」と述べています。
    • また、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をV字回復させたことで知られる森岡毅も「マーケティングというのは、そもそもマーケティング部だけがやるべきことではありません。研究・開発部門の人も、営業部も、マーケティング部と一緒になって「市場における価値創造」について徹底的に考え、行動する。逆に言えば、マーケティング部だけがマーケティングをしている会社が一番弱いのです。」とインタビューにおいて語っています。
    • ところが、特に国内企業におけるマーケティング活動はチャネルや媒体別で部門を分けていたり、部門は一緒でも協働せずに独自のDBを構築していたりと必ずしもオンラインとオフラインを組み合わせることが出来ていないのが現状です。そうした会社様については、マーケティングの全体管理を行う役割/機能を実装することを当社からはご提案しています。
    • 当社には自社ジュエリーブランドの成長を後押ししたマーケティング実績があり、多数の企業様をご支援させ頂いた経験があります。そのため、このブログをお読みいただきオフライン施策の位置づけを再構築する必要性を感じた方はぜひ一度当社にお問い合わせください。

     

    【参考】

     

    中里大帆

    アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/コンサルタント
    外資系企業の日本参入支援や新規事業策定支援等の経営戦略コンサルティング案件の実績を多数保有