
あなたは髪の悩みを抱えていますか。
近年、薄毛や脱毛症についての話題を耳にする機会が増えたように感じます。実際に、薄毛や脱毛症に悩む人は増えていると言われており、それに伴って毛髪関連市場への関心も高まっています。以前は男性向けのイメージが強かった業界ですが、近年では女性向けウィッグや医療用ウィッグの需要も拡大しており、市場は大きく変化しています。
また、インターネットやSNSの普及により、商品やサービスを利用する前に口コミやレビューを確認することが当たり前になりました。特に高額な商品や長期間利用するサービスでは、企業が発信する情報だけでなく、実際の利用者の声が購入の判断に大きな影響を与えています。
そんな中、毛髪関連サービス大手として長年事業を展開しているのがアデランスです。テレビCMなどでその名前を知っている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、アデランスを取り上げ、市場や競合の状況、顧客が求めていることを整理しながら、同社の現状や課題について考えていきます。また、口コミや顧客体験にも注目し、今後どのような改善の余地が考えられるかを見ていきたいと思います。
そもそもアデランスとはどのような会社なのでしょうか?
■会社概要・事業内容
アデランスは1968年創業の毛髪関連サービス企業です。
ウィッグや増毛サービス、育毛サービスを展開しており、国内外で事業を展開しています。
主力事業はオーダーメイドウィッグと増毛サービスです。近年は女性向け市場や医療用ウィッグにも注力し、多様な髪の悩みに対応しています。
■アデランスの特徴
アデランスというと、ウィッグを販売している会社というイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし実際には、同社が提供しているのは単なるウィッグだけではありません。例えば、加齢による薄毛、脱毛症、抗がん剤治療による脱毛など、髪に関する悩みは人によって異なります。
アデランスはこうした悩みに対し、ウィッグや増毛、育毛など複数の選択肢を提供しています。つまり同社は「ウィッグを売る会社」というよりも、「髪の悩みを解決する会社」と捉えた方が実態に近いと言えるでしょう。
アデランスは長年にわたり業界を代表する企業として事業を展開してきました。その背景の一つとして考えられるのが、オーダーメイドを中心とした事業モデルです。
髪の悩みは人によって異なります。
アデランスはオーダーメイドを中心に、一人ひとりに合わせた提案を行うことで支持を獲得してきました。また、男性向けだけでなく女性向けや医療向け、海外市場にも展開し、顧客層を拡大しています。
こうした取り組みが、同社が長年支持されてきた理由の一つであると考えられます。しかし一方で、市場環境は大きく変化しています。近年は低価格帯の商品やECを活用したサービスも増えており、顧客の選択肢は以前よりも大幅に広がっています。
そのような中で、現在の顧客はウィッグや毛髪関連サービスに対して何を求めているのでしょうか。また、アデランスがこれまで築いてきた強みは、今後も競争優位として機能し続けるのでしょうか。
次章では、市場・顧客・自社・競合の観点から業界を分析し、アデランスを取り巻く環境の変化について見ていきます。
■ 市場・顧客
近年、毛髪関連市場は拡大傾向にあります。
その背景には、高齢化による薄毛人口の増加に加え、美容意識の高まりや女性市場の拡大があります。また医療技術の発展に伴い、抗がん剤治療などによる脱毛への対応として医療用ウィッグへの需要も高まっています。
さらに近年では、従来の薄毛対策だけでなく、ファッション用途や白髪隠し、ボリュームアップなどウィッグの活用シーンも広がっています。実際に、日本のヘアウィッグ市場は今後も成長が続くと予測されており、日本能率協会総合研究所によると、女性用ウィッグ市場は2028年に850億円規模へ拡大すると見込まれています。

このように市場そのものは拡大している一方で、顧客の選択肢も増加しています。では、そのような市場環境の中で、顧客は何を重視してサービスを選んでいるのでしょうか。
次に顧客分析を通じて顧客ニーズの変化を見ていきます。
アデランスの主力商品であるオーダーメイドウィッグは、数十万円規模になるものもあります。また、ウィッグは見た目やコンプレックスにも関わる商材であるため、顧客は価格だけでなく品質や自然さ、継続利用のしやすさなどを総合的に比較検討すると考えられます。
近年ではインターネットやSNSの普及により、企業が発信する情報だけでなく、実際の利用者による口コミや体験談も容易に確認できるようになりました。特に高額な商品ほど購入後の失敗を避けたいという心理が働くため、顧客は複数の情報源を参考にしながら意思決定を行うことが想定されます。
そこで、アデランスの顧客がどのようなプロセスでサービスを検討し、契約に至るのかを整理するため、カスタマージャーニーを作成しました。

※アデランス公式サイトの利用フローや参考資料をもとに筆者作成
カスタマージャーニーを見ると、特に重要なのは「比較検討」と「カウンセリング」の2つのフェーズであると考えられます。
比較検討段階では、顧客は各社のサービス内容だけでなく、実際の利用者による口コミや体験談も参考にしながら判断を行います。オーダーメイドウィッグは高額な買い物であるため、「失敗したくない」という心理が強く働くためです。
また、来店後のカウンセリングでは、商品の品質だけでなく、スタッフの説明や提案内容、対応の丁寧さなども企業への信頼形成に影響すると考えられます。つまり、アデランスのような高価格帯サービスにおいては、商品そのものだけでなく、購入前後を通じた顧客体験も重要な競争要因になっていると言えるでしょう。
■ 自社
これまでの分析から、オーダーメイドウィッグ市場では商品そのものだけでなく、比較検討時の口コミや来店後の顧客体験も重要な意思決定要因になっていることが分かりました。
そこで本章では、Googleレビューや口コミサイトに投稿された利用者の声をもとに、アデランスが顧客からどのように評価されているのかを整理します。
口コミを確認すると、以下のような評価が多く見られました。
特に「自然な仕上がり」と「スタッフ対応」に関する評価が目立ちました。
一方で、以下のような不満の声も確認できました。
複数の店舗で類似した内容が見られることから、一部の顧客は接客や提案プロセスに不満を感じている可能性があります。
特にアデランスの商品は高価格帯であるため、顧客は価格以上に安心感や納得感を求める傾向があると考えられます。そのため、商品への不満以上に、接客や説明内容への不満が企業イメージへ影響している可能性があります。
口コミ分析の結果、アデランスは理美容師の高い技術力、アフターサービスに強みを持つ一方、接客や提案プロセスに改善余地があることが分かりました
次項目では、これまでの分析結果を整理し、また競合と比較した上で、アデランスが取り組むべき課題を明確にしていきます。
■ 競合
これまで毛髪関連市場では、アデランスやアートネイチャーのような対面型サービスが中心でした。
しかし、近年ではECを活用した既製品ウィッグやオンライン販売が拡大しており、顧客の選択肢は広がっています
※各社公開情報をもとに筆者作成

従来の競争軸は、自然な見た目・アフターサービスなどが中心でした。
しかし近年は、オンラインで購入できるか・気軽に試せるか・価格が分かりやすいかといった利便性も重視されるようになっています。特にインターネットを活用した比較検討が一般化したことで、顧客は複数のサービスを容易に比較できるようになりました。
その結果、企業には品質だけでなく、購入までの手軽さや情報の分かりやすさも求められるようになっています。
市場分析では、毛髪関連市場が今後も成長していく可能性が確認できました。一方で競合分析からは、低価格帯商品やEC販売の拡大によって、顧客の選択肢が増加していることも分かりました。
また、顧客分析ではオーダーメイドウィッグが高額かつ慎重に比較検討される商材であること、自社分析では商品品質や技術力への評価が見られる一方で、接客や提案プロセスに対する不満も一定数存在することが確認されました。
これらの分析結果を踏まえると、アデランスが今後も選ばれ続けるためには、価格競争に参入するのではなく、オーダーメイドならではの価値をより強く訴求していくことが重要だと考えられます。
特にアデランスの主力商品は数十万円規模になるケースも多く、顧客は商品そのものだけでなく、相談から購入、アフターサービスに至るまでの体験全体を評価しています。そのため、接客や提案の質は競争力を支える重要な要素であると言えるでしょう。
加えて、競合分析では価格の安さや購入の手軽さを強みとするプレイヤーも存在しています。近年は顧客がオンラインで情報収集や比較検討を行うことが一般的になっており、購入までのハードルを下げる取り組みも重要性を増しています。
つまりアデランスには、
の両方が求められていると考えられます。
そこで次章では、「接客品質の向上」と「手軽さへの対応」という2つの観点から改善施策を検討します。
■ 施策1 顧客体験の向上に向けた、組織文化の醸成

口コミ分析では、商品の品質や仕上がりに対する評価が見られる一方で、接客対応や提案方法に関する不満も一定数確認されました。
アデランスの主力商品であるオーダーメイドウィッグは数十万円規模になるケースも多く、顧客は商品そのものだけでなく、カウンセリングや提案内容を含めた顧客体験全体を評価していると考えられます。
そのため、店舗や担当者ごとの接客品質のばらつきを改善し、全社的に顧客体験を重視する文化を浸透させることが重要です。
① 顧客体験を重視したKPIの導入
従来の売上や契約件数に加え、
などを評価指標として設定し、短期的な売上だけでなく、顧客との長期的な関係構築を重視する行動を促進します。顧客体験を重視する企業では、顧客の声を経営に反映する仕組みづくりが競争力の源泉になっている事例も見られます。
② 接客マニュアルの整備
高評価を獲得しているスタッフの接客プロセスを分析し、カウンセリングから契約までの対応を標準化します。
特に、
について全店舗で共通の基準を設けます。
③ 研修・ロールプレイングの強化
接客マニュアルを定着させるため、定期的な研修やロールプレイングを実施します。また、新人教育だけでなく既存スタッフも対象とすることで、継続的なスキル向上を図ります。
④ 成功事例の共有
顧客満足度や口コミ評価の高い店舗・スタッフの取り組みを全社で共有し、成功事例を横展開することで、店舗間の品質差の縮小を目指します。
期待効果
高価格帯サービスであるアデランスにとって、商品品質だけでなく顧客体験そのものが競争力となり、顧客体験を重視する組織文化を醸成することで、競合との差別化を図り、長期的な顧客獲得につなげることが期待されます。
■ 施策2 ウィッグ利用の心理的ハードルを下げる体験設計

顧客分析を踏まえると、多くの人にとってウィッグは日常的な選択肢ではなく、
といった心理的ハードルが存在すると考えられます。
つまりアデランスにとって重要なのは、来店者を増やす前に、ウィッグそのものへの認識を変えることです。
① 利用者コミュニティプラットフォームの構築
アデランスが主体となり、利用者同士が体験談や悩みを共有できるプラットフォームを運営します。
例えば、
などを投稿できる仕組みを整備します。
企業からの情報発信だけでなく、実際の利用者の声を蓄積することで、検討者がリアルな情報を得られる環境を構築します。
② 「みんなの声(=口コミ)」による認知変革
近年は企業広告よりも、実際の利用者による情報発信が購買行動へ大きな影響を与えています。
そのため、利用者の体験談を可視化することで、ウィッグ利用への心理的ハードルを下げ、新たな顧客層との接点創出につなげます。
③ 検討者向けコンテンツの充実
コミュニティ内で蓄積された情報を活用し、
などをコンテンツ化します。
これにより、企業発信だけでは得られないリアルな情報を提供できるようになります。
期待効果
本記事では、アデランスを取り巻く市場環境や顧客ニーズ、競合状況を分析し、今後求められる方向性について考察しました。
市場が成長を続ける一方で、顧客の選択肢は広がり、競争軸も「品質」だけでなく「手軽さ」や「顧客体験」へと変化しています。
そのような環境下において、アデランスが今後も選ばれ続けるためには、オーダーメイドならではの価値をさらに磨くとともに、顧客との新たな接点を創出し、購入前後を通じた顧客体験を向上させていくことが重要になると考えられます。
今回提案した「顧客体験の向上に向けた、組織文化の醸成」と「ウィッグ利用の心理的ハードルを下げる体験設計」は、こうした変化への対応策の一例です。顧客の声を起点にサービスを見直し、時代に合わせて価値提供のあり方を進化させていくことが、今後の持続的な成長につながるのではないでしょうか。
また、このような課題はアデランスだけに限ったものではありません。高価格帯商材を扱う企業や、顧客体験を競争力としている企業においても、顧客ニーズの変化や競争環境の変化への対応は共通の経営テーマになっています。
アーツアンドクラフツでは、市場・顧客分析による課題の特定から、成長戦略の立案、顧客体験の設計、施策の実行支援まで一気通貫でご支援しています。
「自社の強みをどのように再定義すべきか」
「顧客体験を競争力につなげたい」
「新たな顧客接点を構築したい」
このようなお悩みをお持ちの企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト