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M&Aに着目した市場分析 -鉄道機器市場における動向-

M&Aにおける市場分析

MAを企図する企業において、その目的を明確化する必要性があるのは、これまで述べてきた通りですが、その検証や買収後の「シナリオ」づくりとして、自社・対象業界の外部環境を把握することは、初期的な分析の代表格です。これはM&Aのみならず、自社の事業計画を行ううえでも重要なステップになります。

本ブログでは、外部環境分析を進め、M&Aの目的を明確化するために、基本的な3つの観点「バリューチェーン」・「垂直型M&A」・「水平型M&A」について、弊社で調査支援実績を有する鉄道機器市場を例に述べたいと思います。

 

鉄道機器の市場規模/動向

M&Aを検討している場合、まず初めに対象業界の市場規模を把握することがファーストステップになります。市場規模を把握する際、市場規模の絶対値とCAGR(複合年間成長率)については明確化しましょう。市場規模を定量的に算出するためには、プロダクトの価格×販売数で推測する場合や、市場レポートを参考に算出する方法が一般的です。ただし、市場レポートを使用する場合は無条件に市場レポートを信じるのではなく、業界の学識者にインタビュー等を通じて再確認を行うことをお勧めします。

鉄道機器市場の場合、2020年の市場規模は約18兆円と推測されており、CAGR5.5%で急成長していることがわかります(市場レポートをもとに、外部インタビューで精査)。2011年に14.4兆円だった市場規模は2021年には18兆円になることが予想されており、製品別セグメント間で成長率の差はないことがわかります。前述したように、市場の成長予測はCAGRに基づいて行うことが一般的ですが、「Politics」・「Economy」・「Society」・「Technology」の観点から調査するPEST分析等の別観点から市場の成長性を確認する場合もあります。例えば、鉄道機器市場は世界的な人口増加や環境問題に対する注目の高まり、自動運転等の技術力向上により今後も継続して市場が成長することが推測されます。一方で、仮に政府からの規制等のネガティブ要素が存在すると、市場縮小リスクを正確に把握することが必要になります。例えば、欧州では環境問題に対する規制・インセンティブが頻繁に更新されることから、政府およびEU(欧州連合)の動向を注視することが必要になることは容易に想像できるのではないでしょうか?実際に、私が欧州への参入支援を行った案件では欧州主要各国における現行の規制・インセンティブに加えて、ニュースリリースや外部インタビューに基づいて参入リスクの算出と有望国評価を実施しました。

 

鉄道機器市場におけるバリューチェーン(Value chain

次に、M&Aを検討している業界のバリューチェーンについて正確に把握しましょう。バリューチェーンという単語は、ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーター氏が1985年に出版した「競争優位の戦略(Competitive Advantage)」で用いられて以降、広くビジネスシーンで使用されている言葉です。また、矢羽根は左から右に流れることが一般的で、バリューチェーンの左側を「上流(川上)」、右側を「下流(川下)」と呼称します。

鉄道機器市場は、鉄道の需要に連動するため鉄道機器市場のバリューチェーンである「設計」→「調達」→「製造」→「O&M」のさらに上流に、「計画」→「設計」→「ファイナンス」のフローが存在します。鉄道機器市場のバリューチェーンは自動車メーカと類似しており、各部品メーカから集めた部品をもとに自動車メーカの工場ラインで組み立てるフローをイメージしていただくのがいいかもしれません。

 

鉄道機器市場における主要プレイヤ

M&A対象業界のバリューチェーンを正確に把握した後は、同業界の主要プレイヤをプロットし、他社のカバー範囲や自社の将来的な競合やベンチマークを確認しましょう。特に、垂直型M&Aを行う場合は、競合する企業が変化することが多いため注意が必要です。

鉄道機器市場の場合、日本をはじめとするアジア市場では各フローで個別のプレイヤが散在しています。一方で、欧米には上流にコンサルティング会社が存在しており上流から下流まで一気通貫でカバーしている企業が複数存在することがわかります。今回のブログでは、なぜ国内と海外市場ではプレイヤのカバー範囲が異なるかについて述べることは控えますが、例えば海外で鉄道事業を受託する際には一括請負が条件として提示されるのか?等の視点をもって調査していただくと市場の背景が見えてくるのではないかと思います。

 

水平型M&Aと垂直型M&A

対象業界のM&A動向を把握する分析軸は複数存在しますが、水平型M&Aと垂直型M&Aに分類して分析する方法が広く使用されています。水平型M&Aとは同業種・同業態の事業を買収することによる本業のシナジー効果を目的としたM&Aです。一方で、垂直型M&Aとは同業種の中でも業態の異なる川上・川下の事業を買収することによって、一気通貫でサービス提供することによるシェアの拡大や技術力の向上を目的としたM&Aです。例えば、先ほどバリューチェーンの項において比較対象として挙げた自動車メーカの場合、従来のように自動車を製造するだけではなくAIによる自動運転システム等の「組立」よりも上流フローへのカバー範囲拡大(M&Aのみならず資本投入を含む)がトレンドになっています。

 

鉄道機器市場におけるM&Aの特徴

国内の鉄道機器市場は、自社のバリューチェーン拡張ではなく、自社のカバー範囲に存在している海外企業を買収する水平型M&Aが実施されていることを特徴として挙げることができます。つまり、国内企業は海外進出の足掛かりとしてM&Aを活用していることになります。例えば、九州のみに本社がある企業が、関東に進出するために同業種・同業態の企業を買収することで、参入のスピードアップを図るケースは同一目的になります。一方で、近畿車両は自社のカバー範囲外に存在しているRTCを買収する垂直型M&Aを実施しており、今後近畿車両が「信号通信機器製造」のバリューチェーンまで事業を拡張するか否かを注視すると面白いかもしれません。

次に海外の鉄道機器市場に注目すると、国内と同様に水平型M&Aが多数実施されていることが特徴として挙げられるものの、国内企業が一部分のバリューチェーンのみをカバーしている企業を買収しているのに対して、海外企業は一気通貫でサービスを提供している企業を買収している点が大きく異なります。例えば、シーメンスとアルストムは自社と同様に一気通貫でサービス提供している中国中軍が欧州で影響力を強めているのに対抗して、M&Aによる自社機能の強化を狙っていることがわかります。一方で、ワブテックはファンダスタン等の車両機器製造のフロー上に存在している企業の水平型M&Aのみならず、GEトランスポーテーション買収による「システム製造」へのバリューチェーン拡張を実施しています。

 

最後に

次回以降のブログでは、内容をタスクレベルまで分解し、ニッチな産業で市場レポートが存在しない場合にどうやって市場規模を算出するのか等について述べる予定です。

コロナは世界中で多大な影響を与え、企業はビジネスモデルの見直しを余儀なくされています。そのため、この機会を前向きに捉えて自社のビジネスモデルについて再検討し、必要に応じてM&Aを実施することで、「アフターコロナ」において急激な成長を実現することが出来るのではないでしょうか?

 

 【引用元】

 

中里大帆

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/コンサルタント
2019年に入社しC&S事業部に参画。外資系企業の日本参入支援や新規事業策定支援等の経営戦略コンサルティング案件の実績を多数保有。