
AIやデジタル技術の進化により、新しいビジネスモデルが次々と立ち上がっています。特に生成AIの登場は、既存のビジネスモデルの在り方を大きく変え、従来の業界構造にも変革をもたらすこととなりました。
こうした環境の中で、多くの海外企業は世界でも有数の経済大国である日本を次なる進出先として検討しています。単に営業・販売・マーケティング等の販売拠点としてだけではなく、研究開発拠点や地域統括拠点、金融拠点としても検討されているようです。
一方で、日本市場参入を検討する企業からは、次のような声をよく聞きます。
平たく言えば日本市場参入を志向するものの、実際に参入するにあたってどう進めていけばいいのか、法律・規制の観点で注意するべきことは何かを知りたい、という企業が存在しているということです。
そこで今回は、新たな市場に参入するにあたって、何を検討するべきか、どのような調査を行うべきかを事例を用いてご説明していきます。
今回ご紹介するのは、海外の画像解析ソフトウェア企業(A社)に対し、日本市場進出を見据えたご支援を行った事例です。
A社は、生成AIによるコンテンツ活用が進む日本市場において、IPコンテンツのリスク管理という領域での事業展開を検討していました。A社は、画像解析技術を用いて「IPコンテンツ*がAIによって生成されたかどうか」を検出する独自技術を有しています。この技術により、不正利用や著作権侵害のリスクがあるイラスト・アイコン・テキストなどを特定し、コンテンツ公開前にリスク管理を行うことが可能です。生成AIの急速な普及に伴い、エンタメ企業やメディア企業の間では、「意図せずAI生成のIPコンテンツ*を利用し、著作権侵害リスクを負ってしまう」という懸念が現実的な課題となってきました。A社はこうした市場ニーズを背景に、日本を次の成長市場と位置づけ、本格的な進出を検討していました。
一方で、海外企業として日本市場特有の商習慣や導入プロセス、事業展開の進め方に課題を抱えており、戦略的な支援を必要としていました。そのような課題に対し、具体的にどのようなアプローチを取ったのかを次章でご紹介していきます。
A社から課題のご相談を受け、弊社は以下のアプローチでご支援を進めました。
目的
業界構造とニーズの把握の目的は、日本のコンテンツ(エンタメ・メディア)業界を対象に、市場規模や成長性、業界構造を整理したうえで、今後の市場見通しを定量・定性の両面から把握することです。
これにより、当該企業の画像解析ソリューションが想定する顧客となるコンテンツ業界の全体像を把握するとともに、今後どの領域で需要が拡大していく可能性が高いのか、また競合との関係性の中でどのような立ち位置が取り得るのかを見極めることを目的としています。
方法
①まず、日本のコンテンツ業界を「エンタメ(映画・アニメ)」「ゲーム(ゲーム機・ソフト・オンラインゲーム)」「メディア(放送・出版・広告)」などの主要セグメントに分解し、それぞれについて市場データや公開資料を基に調査・整理を行いました。具体的には、セグメントごとに将来の市場規模や成長率の見通しを整理するとともに、生成AIの活用状況や導入が進んでいる業務領域を把握しました。
②あわせて、著作権侵害や不正利用といったリスクに対する業界内の認識や対応状況を整理し、AI活用の進展とリスク管理の成熟度の関係性を確認しました。これらの分析を通じて、「AI活用が進んでいる一方で、管理・検証の仕組みが十分に整っていないセグメント」や、「今後、市場拡大とともにガバナンスニーズが高まると想定される領域」を特定しました。
③次に、外部環境の整理としてPEST分析を実施しました。政策・法規制(著作権法、AIに関する政府の議論やガイドライン)、経済環境(コンテンツ市場の成長性、制作コスト構造の変化)、社会的要因(生成AIに対する社会的受容やクリエイターの意識変化)、技術動向(生成AI・画像解析技術の進化)といった観点から、日本市場特有の環境要因を整理し、今後の市場成長や競争環境に与える影響を分析しました。
④さらに、競合分析として、日本市場において類似の機能を提供する国内プレイヤーや、周辺領域(セキュリティ、コンテンツ管理、AIガバナンス等)で競合し得る企業を洗い出し、提供機能、対象顧客、価格帯、強み・弱みといった観点で整理しました。これにより、当該企業のソリューションが差別化し得るポイントや、競合との競争が激化しやすい領域を明確化しました。
⑤その上で、コンテンツ業界全体のバリューチェーンを作成しました。制作(企画・編集・コンテンツ化)、精査、リリース、二次利用といった各工程を可視化し、どの工程で生成AIが活用されやすいのか、また各工程にどのようなプレイヤー(競合・連携候補)が存在するのかを整理しました。これらの市場分析、PEST分析、競合分析、バリューチェーン分析を統合することで、「優先的に狙うべき顧客領域」や「競合と正面から競うのではなく、パートナーと連携すべき領域」を整理し、日本市場参入時の現実的な立ち位置や進出シナリオを具体化しました。
アウトプット

目的
法規制調査の目的は、日本市場参入における「見えにくいリスク」を事前に洗い出し、市場参入における戦略に織り込むことです。特にAI生成コンテンツに関しては、明確に白黒が分かれていないグレーゾーンが多く、「知らなかった」「海外では問題なかった」では済まされないケースも想定されます。そのため、本調査では遵守すべきルールの整理と同時に、将来的な制度変更の方向性を踏まえた情報整理を行うことを目的としました。
方法
具体的には、以下の観点を調査しました。
加えて、法改正やガイドライン策定など、政府・有識者会議の動向も追跡し、
今は問題にならなくても、将来的にリスクとなり得る論点から展望も検討しました。
アウトプット

目的
顧客候補リストアップの目的は、市場参入を「調査段階」で終わらせず、実際の営業・事業展開につなげることです。日本市場参入において、単独での参入よりも既存プレイヤーとの連携が成功確率を高めるケースが少なくありません。ただし、A社は顧客に直接営業を検討していたため、「誰に最初に売るのか」を具体的に決定することを目的としました。
方法
市場分析で作成したコンテンツ業界のバリューチェーンを基に、各工程に関与するプレイヤーを洗い出しました。その上で、当該企業の画像解析ソリューションと親和性の高い工程や、顧客となり得る企業を整理しました。
今回の事例ではエンタメ・メディア業界の企業を中心に、「売上規模」「本社所在地」「事業内容」「最新の取り組み・方向性」といった観点から候補企業を抽出し、導入可能性を踏まえて優先順位付けを行い、日本市場参入後すぐにアクションを起こせる実務的な顧客候補リストを作成しました。
アウトプット

弊社の提供価値は、調査レポートを提出して終わることではありません。重要なのは「クライアントが自走して次の一手を打てる状態に至るまで支援すること」です。本事例における我々コンサルティング会社の提供価値として主に3つ取り上げます。
〇意思決定に直結する分析
市場規模や競合動向といった一般的なデータは、参入可否の判断材料にはなっても「行動の指針」にはなりません。
私たちが重視するのは、
といった具体的な意思決定につながる情報を提供することです。
〇実務に直結するアウトプット
最終的には「調査結果を読む」段階から「次の行動を取れる」段階へ進めることを目指します。
例えば今回の案件では、単なる業界レポートではなく、実務で即活用できる成果物を提供しました。
これによりクライアントは社内の意思決定をスムーズに進め、営業活動を早期に開始することが可能でした。
〇顧客・パートナーのバイネームのリスト化
市場参入を目指す企業にとって最大の関心事は、「誰にどうアプローチすればよいか」です。
私たちは業界ネットワークや独自調査を駆使し、潜在顧客やパートナー候補を具体的なリストにして提示します。
単なる「市場は大きい」「ニーズはありそう」といった抽象的な情報ではなく、
優先順位をつけることができる軸を設けて調査・分析することによって、「最初に接触すべき10社」「提携の可能性が高い企業群」といった形で営業・開発プロセスを明確化することです。
新たな市場に参入する際に直面するのは、単なる「市場規模の把握」や「競合調査」では解決できない実務的な課題です。特に日本市場のように独自の商習慣や複雑な法制度が存在する環境では、進出企業は「誰にどうアプローチするのか」「どのリスクを優先して管理するのか」といった、行動レベルの指針を持つことが欠かせません。
そのため、市場参入の成功に向けては、①業界構造とニーズの把握、②法規制調査、③顧客候補リストアップ、という3点が特に重要な要素となります。これらを押さえることで、参入可否を判断するだけでなく、実際に最初の一歩を踏み出すための土台を築くことができます。実際に、今回の事例で弊社は、調査や分析の域にとどまらず、具体的な候補企業や優先度づけされたセグメントなどを提示しました。
市場参入を「検討」から「実行」に移すには、こうした実務に直結するアウトプットが不可欠です。今後も、企業が新しい市場に挑戦する際のパートナーとして、参入の一歩目を共に描き、ご支援してまいります。
本記事では、海外の某画像解析ソフトウェア企業の日本市場参入を題材に、市場参入にあたって検討すべき観点と、その具体的な分析アプローチについて実例を交えながら解説してきました。
日本市場への進出を検討している海外企業の経営層や、日本市場での事業立ち上げを担う事業責任者・経営企画の方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。
また、弊社は、日本市場参入を検討する企業様に対し、市場分析、法規制調査、パートナー候補の整理といった検討段階から、実際に次のアクションにつなげるための支援を提供しています。
「日本市場に本当にニーズがあるのかを見極めたい」「法制度や商習慣を踏まえた参入戦略を整理したい」「最初にアプローチすべき顧客・パートナーを明確にしたい」といった課題・ご要望をお持ちでしたら、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。
*:IPコンテンツとは、キャラクターや物語、世界観などの「知的財産」を活用して、映像・音楽・ゲーム・商品化など幅広く展開できるコンテンツ
【参考】
特許庁「商標制度の概要」(2022)
文化庁「著作権テキスト」(2024)
経済産業省「不正競争防止法」(2024)
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト