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「受託型営業→提案型営業」移行におけるコンサルタント支援の実際

1. 受託型営業から提案型営業への移行

これまで多くのSIerは、顧客が提示した要件や仕様を正確に実現する「受託型営業」を主軸として成長してきた。一方近年では、クラウドの普及やDXの加速、顧客の競争環境変化に伴い、システム開発そのものよりも、「事業課題の解決」や「事業価値の創出」のニーズが高まっている。
これを受け、SIerの営業形態は単なるRFP(提案依頼書)への対応や仕様通りのシステム構築ではなく、顧客の業界動向を深く理解し、事業成長や業務改善を支援する「提案型営業」へ転換が図られている。この転換に際しては、営業組織のスキルアップのみならず、提案の仕組み化やプロセス設計、顧客に刺さる「課題仮説」の構築に取り組む必要がある。
本ブログでは筆者の経験をもとに、金融業界(特に銀行業界)を題材として、SIerが提案型営業を実践するためのプロセス、およびコンサルタントが支援する具体的内容と提供価値を解説する。

 

2. 提案型営業に至るまでのプロセス(例:SIerが銀行へ提案する場合)

ここからは、提案型営業における実際のプロセスと、コンサルタントによる支援の具体的内容を記載する。今回は例として、次世代テクノロジーの台頭や異業種参入の加速により、サービスの高付加価値化・業務効率化ニーズが高まりをみせる銀行業界が顧客のケースを示す。

本ケースでは、コンサルタントの顧客がSIerSIerの顧客が銀行という関係での支援となる

 

SIerが顧客銀行へ提案型営業を行う際のフローは、「情報収集→分析→提案」の3段階から構成される(すべての提案がこの過程を経るわけではないことに留意されたい)。

情報収

情報収集段階では、「市場環境」と「顧客銀行およびその競合の戦略/注力事業領域」の2点を理解することで、営業時の提案内容案(銀行の今後の方向性と具体的な施策)を導出する。

分析

分析段階では、情報収集段階で導出した提案内容案を土台に、追加の観点・情報を加え、採択確率を高める目的でのアップデートを実施する。この過程において、実際に提案で使用する提案内容が生み出される。
追加の観点・情報の例としては、「銀行-SIerの実際の商談情報」や「SIerが有する内部アセット情報」等が該当する。これら以外にも有益な情報があれば活用し、提案内容案を随時アップデートする。

提案

提案段階では、分析段階にてアップデートした内容を踏まえ、顧客銀行に対して提案活動を実施する。

 

 

3. 「情報収集」におけるコンサルタント支援の実際

ここでは、先述した提案型営業における3段階のうち「情報収集」について詳細に解説する。情報収集は、提案活動全体における最初の段階であり、提案内容案を構築する、いわば基礎固めの過程である。後述の3ステップを通して、SIerが顧客銀行へ提案する際の提案内容案構築をコンサルタントが支援する。
※今回は銀行が対象だが、他業界でも同様の思考法で提案内容案構築が可能である

 

ステップ①外部要因の特定

情報収集におけるステップ①は、SIerの顧客銀行を含む、銀行業界全体に影響を与える外部要因の特定過程が該当し、実務的には「PEST分析」を手法として用いる。
以下、PEST分析の概要を確認しながら、銀行業界に影響を与える外部要因特定の具体的な手順をみていく。

 

PEST分析

PEST分析は、銀行業界を取り巻く外部環境の因子(トレンド)を整理・分析する手法であり、銀行業界に影響を与える因子を体系的に整理し、戦略判断に活用できる形式に落とし込むことを目的とする。
具体的には、Politics(政治的要因)、Economy(経済的要因)、Society(社会的要因)、Technology(技術的要因)の4つの要素に分けて整理・分析を行う。

Politics:銀行業界に影響を与える政治的要因は何か?
国内の政策や規制強化・緩和、市民団体の動向、税制改正、外交関係等におけるトレンドが該当し、政府・行政がどのようにビジネス環境に影響を与えるのかを検討する。
例えば、新しい法律や規制の導入は企業経営や企業成長に大きな影響を与える。また、国際関係や政治情勢の変化も貿易や市場動向に影響を及ぼす。

Economy:銀行業界に影響を与える経済的要因は何か?
景気や為替相場、金利の変動、日銀短観、経済成長、失業率等におけるトレンドが該当し、経済全体の状況がビジネス環境に与える影響を検討する。
例えば、金利が上昇すると企業の借入れコストが増加し、設備投資に対する意欲が低下する可能性を有する。また、インフレ率(消費者の購買力に影響)の変動は、商品の価格設定や需要に直結する。

Society:銀行業界に影響を与える社会的要因は何か?
人口動態や環境問題、暮らしの変化、健康問題、教育問題、文化、世論等におけるトレンドが該当し、社会の変化がビジネス環境に与える影響を検討する。
例えば、健康志向の高まりによるオーガニック製品や低糖質商品の需要増加が考えられる。また、高齢化社会の進展により、医療・介護サービスの需要増加や、若者向け製品市場の縮小が予想される。

Technology:銀行業界に影響を与える技術的要因は何か?
AI、クラウド、データ分析基盤、IoT、ロボティクス、5G/6G等の通信、サイバーセキュリティ、ブロックチェーン等に代表される技術トレンドが該当し、技術の進展・普及、標準化がビジネス環境に与える影響を検討する。
例えば、生成AIの普及により、問い合わせ対応や文書作成、分析業務などの知的作業の自動化による、生産性向上・提供価値高度化が考えられる。また、サイバー攻撃の高度化や依存技術の増加によって、コスト増加や業務制約が生じる懸念がある。

 

PEST分析を用いた外部要因の特定手順

①PEST分析における目的を明らかにする
今回は、SIerの顧客銀行に対する提案支援をコンサルタントが担うことから、銀行業界へ影響を与えうる因子特定が目的となる。

②信頼できる情報源より、情報収集を行う
以下の様な信頼できる情報源より、情報収集・調査を行う。この時、トレンドの変化を必ず捉えるように、注意を払う。
〈信頼できる情報源と収集する情報の一例〉
 ・政治:政府の公式ウェブサイト、報告書・レポート、首相や各大臣等の発言、国際機関の公式ウェブサイト 等
 ・経済:中央銀行や金融機関のレポート、国際的な経済ニュース(ReutersBloomberg)等
 ・社会:国勢調査、人口統計データ、民間企業やシンクタンク・調査会社の調査結果やレポート 等
 ・技術:特許技術情報、大学等の研究機関の公開資料、業界誌 等
 ※必要に応じて、生成AIの補助的な使用も有益な場合がある

今回は、銀行業界に影響を与えうるトレンド特定が目的のため、次の様なアプローチが有効である。
例)政治的要因の調査では、金融庁・中小企業庁・経済産業省・デジタル庁・財務省が管轄するワーキンググループのうち、202511日以降に活動開始した内容に限定して調査し、整理する。

 

③収集した情報をPEST分析の4要素に分類
②で収集・調査した結果に対して、表のように配置して記載することで、銀行業界に影響を与える因子の整理を行う。

 

④銀行業界に影響を与える因子の機会/脅威の分類
で整理した銀行業界に影響を与える因子各々を以下の観点で機会/脅威に分類する。この結果は、後述のSWOT分析において、外部要因(機会/脅威)として活用する。
〈分類時の観点〉
 ・その因子が銀行業界に与える影響のインパクトは大きいか?
 ・その因子が銀行業界に与える影響は、プラス(機会)/マイナス(脅威)のどちらであるか?

ステップ②内部要因の特定

情報収集におけるステップ②は、顧客銀行の内部要因(強み/弱み)の特定である。
内部要因特定にあたっては、以下の手順に従い具体的に進行する。

 

顧客銀行の内部要因の特定手順

①顧客銀行、およびその競合企業に対する個社ごとの情報収集
比較軸を設定し、顧客銀行と、その競合企業(主に銀行)について情報収集・調査を実施する。情報源は、各企業のIR情報(中期経営計画、統合報告書、投資家向け説明会資料、有価証券報告書、決算短信 等)や、プレスリリース、関係者のインタビュー記事が適切である。この時、参照する時期も併せて設定することが好ましい。
例えば今回のケースでは、顧客と競合で差異があると想定される項目を比較軸に設定する。
(比較軸の例:財務情報、業務提携情報、DXの取り組み状況、人材組織関連の取り組み状況 等)
併せて、競合他社をカテゴリ分け(今回は都市銀行、地方銀行、ネット銀行の3つに分類)し、比較軸ごとに情報収集・調査することで、顧客銀行と競合の差分が明確になる。

 

②収集した各社の情報整理
①で収集した各社の情報を、表形式で整理する。

 

③比較軸ごとに、顧客銀行と競合の事実を比較。顧客銀行の強み/弱み(内部要因)を特定する
②で整理した内容に基づき、比較軸ごとに顧客銀行と競合企業の比較を実施する。
この時、両者の差異を明らかにし、その差異が顧客銀行において強み/弱み/どちらでもない(特徴に該当)のどれにあたるかを判断する。この結果は、ステップ③のSWOT分析において、内部要因(強み/弱み)として活用する。

 

 

ステップ③提案内容案の構築

ステップ③は、情報収集における最後のステップであり、実際に提案内容案を構築する過程である。
具体的には、ステップ①で特定した「外部要因(銀行業界全体に影響を与える 機会/脅威)」と、ステップ②で特定した「内部要因(顧客銀行の 強み/弱み)」を活用し、SWOT分析を用いて提案内容案を構築する。

 

SWOT分析

SWOT分析は、分析対象となる企業状況を外部要因と内部要因に分けて整理し、両者の掛け合わせによって施策案を導く分析手法であり、今後実行しうる施策案の導出が目的である。
具体的には、ステップ②で特定した「強み:Strength/弱み:Weakness」を内部要因、ステップ①で特定した「機会:Opportunity/脅威:Threat」を外部要因として活用する。

Strength(強み):内部要因のうち、対象企業の競合に対する強みは何か?
顧客銀行の有する特徴のうち、競合他社に対して同一の比較軸で比較した際に、優れていると判断される特徴が該当する。今回のケースでは、ステップ②で特定した「強み」が該当する。

Weakness(弱み):内部要因のうち、対象企業の競合に対する弱みは何か?
顧客銀行の有する特徴のうち、競合他社に対して同一の比較軸で比較した際に、劣っていると判断される特徴が該当する。今回のケースでは、ステップ②で特定した「弱み」が該当する。

Opportunity(機会):外部要因のうち、対象企業に対してプラスの影響を与える因子は何か?
顧客銀行を含む、銀行業界全体に対して影響を及ぼす因子のうち、特に銀行業界にとってプラスな影響を与える因子が該当する。今回のケースでは、ステップ①で特定した「機会」が該当する。

Threat(脅威):外部要因のうち、対象企業に対してマイナスの影響を与える因子は何か?
顧客銀行を含む、銀行業界全体に対して影響を及ぼす因子のうち、特に銀行業界にとってマイナスな影響を与える因子が該当する。今回のケースでは、ステップ①で特定した「脅威」が該当する。

 

クロス分析

SWOT分析で用いる4要素のうち、外部要因と内部要因をそれぞれ一つずつ掛け合わせ、具体的な戦略の方向性を定める方法を「クロス分析」と呼ぶ。クロス分析は、掛け合わせるSWOTの要素によって、4パターンに分類できる。

O×S(機会×強み):積極戦略
今後のチャンスに自社の強みを掛け合わせた戦略が該当する。

O×W(機会×弱み):改善戦略
今後のチャンスに対して、自社の弱みがネックになっている状態を改善し、チャンスをモノにする戦略が該当する。

T×S(脅威×強み):差別化戦略
今後の脅威に対して、自社の強みを活かし、徹底した差別化やNo.1を獲得するための戦略が該当する。

T×W(脅威×弱み):致命傷回避・撤退縮小戦略
今後の脅威やリスクに対して、自社の弱みが重なる部分を打開する戦略が該当する。

 

SWOT分析・クロス分析による提案内容案構築の手順

①顧客銀行の内部要因・外部要因の整理
ステップ①②で特定した外部要因・内部要因をSWOT分析として表形式で整理

 

②クロス分析の実践
SWOTで整理した外部要因・内部要因を用い、前述のクロス分析を行うことで、顧客銀行が今後行うべき施策の方向性案を導出する。
内部要因・外部要因の掛け合わせパターン(「S×O」、「S×T」、「W×O」、「W×T」)によって、顧客銀行としての方向性が4パターン明らかになる。

ここまでで記載したステップ①~③を通じ、提案型営業における情報収集段階が完遂する。
この後は、分析過程においてアップデートを加え、実際に顧客銀行へSIerが提案する流れとなる。本記事では「情報収集」までを扱い、分析・提案以降の記載は割愛する

 

 

4. 提案型営業の支援においてコンサルタントが生み出す価値

提案型営業の本質は、単なる製品やサービスの販売ではなく、顧客企業の戦略課題を深く理解し、解決に向けた伴走を行う点にある。これに対し、業界や市場動向に関する広範な知識を背景に、課題を構造化して分析し、有益な方向性案をデザインすることがコンサルタント支援の本質である。一貫したステップから構成される提案活動は、営業担当者個人の経験や感覚に依存せず、再現性を持った仕組みとして組織全体へ展開することが可能である。
今回の例とした銀行業界のように、規制や市場環境の変化が激しい分野においては、外部の専門家視点を取り入れることが、営業の質を高める鍵となる。
この情報が、コンサル業界志望者や、金融業界に関わる事業会社において、社内コンサルロールを目指す方々の参考になれば幸いである。

 

【参考】

中山 拓功

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/コンサルタント