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ノーコード・ローコードシステム徹底解説:企業の内製化とDX推進の鍵とは

はじめに:ノーコード・ローコードの波が企業を変える

デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展が加速する一方で、日本企業は深刻なIT人材不足に直面しています。経済産業省の試算によれば、2030年には最大79万人のIT人材が不足するという予測もある中、限られたリソースで業務のデジタル化を推進する手段として注目されているのが、「ノーコード・ローコードシステム」です。

このブログでは、ノーコード・ローコードとは何かから始まり、システムの活用ポイント・注意ポイント、システム選定のポイントに至るまで解説します。

 

1. ノーコード・ローコードとは何か?

1-1. 基本概念

ノーコードローコードとは、アプリケーションや業務システムを「プログラミング知識なし」または「最小限のコード記述」で開発できるシステム群を指します。

  • ノーコード:完全にプログラミング不要。GUIベースの操作で、誰でもアプリが作れる。
  • ローコード:基本はGUIだが、細かなロジックやデータ処理などに最小限のコード記述が必要。

近年は特に、業務部門(非エンジニア)が主体となって業務アプリを内製する「シチズン・デベロッパー(市民開発者)」の育成と併せて導入が進んでいます。

1-2. なぜ今、必要とされるのか?

  • IT人材の不足:社内開発リソースが限られており、外注コストも増加傾向。
  • DX推進の加速:業務部門主導のスピーディーな改善が求められる。
  • 内製化ニーズの高まり:属人化防止とナレッジ蓄積のため、内製開発へのシフトが進行。

 

2. ノーコード・ローコードの活用ポイント・注意ポイント

ノーコード・ローコード開発は、多くの企業にとって業務効率化やIT内製化の強力な手段となりますが、導入にあたってはその活用ポイントと注意ポイントを正しく理解しておくことが重要です。

2-1. 活用ポイント

  • 開発スピードの向上:コーディング不要のため、アプリを迅速に作成可能。
  • 内製化促進:業務に詳しい現場担当者が直接アプリを開発可能、外注開発を減らすことで、トータルコストを抑制。
  • 柔軟な改善:改修や変更が容易で、アジャイルに対応できる。

例えば、稟議申請や顧客管理といった日常業務アプリなら、テンプレート活用で数時間での立ち上げも可能です。

2-2. 注意ポイント

  • 複雑な要件に対応しにくい:カスタマイズが過剰になると、パフォーマンス低下の場合がある。
  • 学習コストが必要:ノーコードといえども、システム固有の操作学習が必要。
  • セキュリティ・ガバナンスの懸念:開発はシンプルの故に、現場担当者が無断開発する可能性がある。

たとえば、この後で紹介するSmartDBForguncyのようなシステムでも、複雑なワークフローや外部システムとの連携では、開発経験者の介入が必要になるケースもあります。 

 

3. 用途別のニーズと選択ポイント

ノーコード・ローコードシステムは万能ではありません。業務内容によって、求められる要件が大きく異なるため、導入時には「自社の業務に合ったシステム選び」が肝になります。

3-1. 業務に使えるノーコード・ローコードシステムの比較と選び方

近年、企業における業務改善や内製化の流れを背景に、ノーコード・ローコードシステムの導入が進んでいます。しかし、単に「開発が簡単」という理由だけで選んでしまうと、実業務への適合性や拡張性の面で問題が生じるケースも少なくありません。そこで本記事では、国内で利用されている代表的なノーコード・ローコードシステムを対象に、機能特性・業務領域・開発体制の観点から整理・比較し、導入時に押さえるべきポイントを解説します。

 

3-2. 各ノーコード・ローコードシステムの業務領域と主な機能解説

ノーコード・ローコードシステムは、「開発しやすさ」や「操作性」といった面だけでなく、業務領域への適合性も選定において極めて重要です。ここでは、主要な国内向けシステムがどの業務に強みを持つのか、実務ベースで解説します。

AppSuitedesknets NEO中堅企業の定型業務に最適

AppSuiteは、グループウェアである「desknets  NEO」と統合されており、稟議書や出張申請といった社内手続きをノーコードでシステム化できます。営業報告書や案件ステータス管理など、定型化された業務を中心に対応しており、特に中堅企業にとってコストパフォーマンスが高い選択肢です。

Forguncy – データベース連携と複雑なロジックに対応

Forguncyは、ExcelライクなUIとデータベース連携の強みを兼ね備え、案件管理や在庫管理、実績報告など、データを扱う業務に非常に適しています。また、関数や式を用いた会計処理・見積自動化などにも柔軟に対応できるため、業務ロジックが複雑な領域にも対応可能です。顧客管理・営業管理といった基本業務にも対応しますが、設計思想としては定型業務の効率化に寄っています。

CELF – Excel資産をそのままアプリ化

CELFは、Excelで管理されていた数値入力・計算・集計処理をそのままアプリ化できる点が大きな特長です。特に、会計処理、売上集計、予算管理などの領域で力を発揮します。営業・顧客管理にも対応可能ですが、自由度はやや制限されるため、あくまでExcel主導の業務改善を軸に考える企業に適しています。

SmartDB – ワークフローに特化した大企業向け基盤

SmartDBは、特にワークフローや申請業務のデジタル化に強く、社内稟議・申請処理を可視化・自動化するのに適しています。大規模組織における組織階層・権限設計がしやすく、セキュリティや承認履歴の管理も標準で装備。営業管理や案件管理にも対応可能ですが、顧客管理や計算処理機能にはややカスタマイズを要する場合があります。

プリザンター(Pleasanterオープンソースで高い自由度

プリザンターは、営業管理、顧客管理、案件進捗といった一覧管理系の業務に適しており、表計算スタイルのUIで現場ユーザーが直感的に操作できます。ワークフローや権限管理も備えており、柔軟な業務設計が可能。会計や複雑な分析には制限がありますが、軽量な内製化には最適です。

kintone(キントーン)幅広い業務アプリに対応できる汎用型

kintoneは、営業管理・顧客管理・案件管理といった業務アプリの構築に高い汎用性を持ち、テンプレートが豊富に用意されています。営業日報、商談管理、問い合わせ対応などのアプリをドラッグ&ドロップで容易に作成できるほか、承認フローの設定も可能です。一方で、会計計算や財務処理といった複雑なロジックが必要な領域には、外部サービスとの連携が前提となるケースが多く見られます。

Claris FileMaker – 柔軟なカスタムアプリが得意

Claris FileMakerは、Apple傘下で展開されているFileMakerをベースとしたシステムで、営業・顧客・案件・在庫・会計と幅広い業務領域に対応可能です。ドラッグ&ドロップでの設計だけでなく、スクリプトや条件分岐なども活用でき、開発者と業務担当者の協業によって、非常に柔軟なシステムが構築できます。

楽々Framework3 – 業務ロジックの再利用が可能

楽々Framework3は、パーツ(部品)を組み合わせてアプリを作るという独自の思想を持ち、営業管理・案件管理・稟議などの定型業務に加えて、会計や見積処理といった複雑業務にも対応できる拡張性があります。ノンプログラミングであっても設計要素が多いため、一定のITリテラシーは必要です。

Wagby – 自動コード生成で高度な業務設計に対応

Wagbyは、設計情報からJavaベースのシステムを自動生成する特徴があり、案件管理、実績報告、予算処理など複雑な業務アプリの構築に向いています。また、クラウド・オンプレミス両対応でセキュリティポリシーの厳しい業界にもフィット。営業・顧客管理などの基本業務もカバーしますが、導入と学習に一定のリソースを要します。

 

3-3. システム選定の観点とまとめ

このように、各システムには得意な業務領域が明確に存在します。システムの選定においては、自社の業務ニーズとのマッチングが最も重要であり、「誰が開発するのか(IT部門/業務部門)」「どんな業務を対象にするのか(定型/非定型)」といった観点から整理すると、選定の精度が格段に上がります。

加えて、将来的な拡張性や既存システムとの連携、操作性、ユーザーのリテラシーも重要な評価ポイントです。単なるシステム比較にとどまらず、自社の業務プロセス全体を俯瞰したうえでの設計・導入が、内製化・業務改革の成功に直結します。

4. システム選定時のアドバイス

4-1. 自社のニーズを可視化せよ

「システムありき」で選ぶのではなく、まずは現場の業務要件をしっかりヒアリングし、以下の観点で整理します:

  • 対象業務の種類(申請系、データ管理、BI連携など)
  • 想定ユーザー数と同時アクセス数
  • セキュリティ要件
  • 他システムとの連携可否
  • 内製できる人的リソースの有無

4-2. トライアル活用とベンダー比較を怠らない

多くのシステムにはトライアル期間やデモ環境が用意されています。UI/UXや実装難易度を体感しながら、以下のような観点で比較すると良いでしょう:

  • UIの直感性(現場ユーザーが使えるか?)
  • カスタマイズの自由度
  • 管理者向けのガバナンス機能(アクセス管理、ログなど)
  • ベンダーのサポート体制・更新頻度

 

5. 結論:成功の鍵は目的と適合性にあり

ノーコード・ローコードシステムは、確かに業務効率化やコスト削減の強力な武器になりますが、「導入して終わり」ではありません。真の効果を引き出すには、以下のステップを踏むことが重要です。

5-1. 明確な導入目的の設定

  • 業務改善か、スピード重視か、内製体制構築か

5-2. 適切なシステム選定

  • 業務規模、業種、社内スキルセットに合ったものを選定

5-3. 内製開発人材の育成

5-4. IT部門との協業体制の構築

  • シャドーIT化を防ぎ、全社的なITガバナンスと整合を取る

 

ノーコード・ローコードシステムの導入において最も重要なのは、「このシステムで何を解決したいのか」という導入目的の明確化と、それに対するシステムの適合性です。どれほど多機能なシステムであっても、実際の業務課題に合っていなければ、現場には浸透せず、逆に負担となる恐れがあります。

 システムを選定する際には、まず自社の課題と改善目標を整理し、それに対して各システムがどこまでフィットするかを見極めることが肝要です。そのうえで、現場での使いやすさや開発体制、拡張性といった要素も含めて総合的に判断することが、内製化・DX推進を成功に導く最短ルートです。

 

おわりに:ノーコードの未来をどう捉えるか?

今後もノーコード・ローコードシステムは進化を続け、より複雑な業務にも対応可能になっていくでしょう。しかし、システムはあくまで手段です。業務の本質や社内体制と向き合いながら、自社にとって最適な活用方法を見出すことが、DX時代を生き抜くための最良の選択です。

DX推進において、「どこから手を付けるべきか分からない」とお悩みであれば、ぜひご相談ください。現場視点と経営視点の両方から、最適なソリューションをご提案いたします。

 

【参考】

陳 チョ

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト