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コンサルティングファームが案件を受注するための要諦

顧客理解こそコンサルティング案件獲得の鍵

本稿では、コンサルティングファームがクライアント獲得に向けて営業する際に、押さえておくべきポイントを解説しています。コンサルティングファームにおける営業は、単にサービスを販売するだけでなく、クライアントの抱える問題を深く理解し、共に解決策を考えるパートナーになることが大切です。本稿では、コンサルティング営業で必要な情報、特に「クライアントを深く知ること」がいかに大切か、そのために何をすべきかについて解説します。

クライアントをよく知ることは、コンサルティング営業の成功に欠かせないことです。提案の質、クライアントとの関係づくり、最終的な契約につながるかどうかまで、すべてはクライアントをどれだけ理解しているかで決まります。事前に情報を集めて分析することで、クライアントがまだ気づいていないニーズや課題を見つけ出し、的確な提案ができるようになるのです。

 

顧客理解のためのフレームワーク

では、コンサルティング営業を行うにあたり、顧客理解を深めておくために予め知っておくべきポイントを紹介します。

会社概要

会社の基本的な情報を把握しましょう。会社の始まり、理念、どんな事業をしているか、どんな製品やサービスがあるか、市場でどんな位置にいるかなどを確認します。具体的には、以下に挙げる情報が、会社全体の状況を把握し、提案の方向性を検討する上で役立ちます。

  • 企業沿革:企業の文化や価値観、意思決定の背景を理解する上で重要です
  • 経営理念・ビジョン:企業の長期的な目標や、社会における存在意義を示します
  • 事業内容・主要な製品/サービス:企業の強みや弱み、市場での競争力を把握するために不可欠です
  • 市場におけるポジショニング:企業の成長戦略や、コンサルティングニーズを予測する上で役立ちます

これらを確認するうえで、以下のフレームワークは参考になるため使うと良いでしょう

  • バリューチェーン分析:企業の事業活動を機能ごとに分解し、どこで価値が生み出されているかを分析します
  • SWOT分析: 企業の強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) を分析します
  • 5フォース分析: 5つの力(競合他社との競争力、新規参入者の脅威、 代替商品/サービスの脅威、顧客の交渉力、販売者の交渉力)から、業界の競争環境を分析します

 

経営戦略

会社の経営戦略を理解することは、コンサルティングの提案内容を具体化するために大切です。戦略の理解を通じて、クライアント会社がどんな目標を持っていて、どんな新しいことをしようとしているのか、どんな分野に力を入れているのかなどを把握します。以下の情報は、会社がどんな問題を抱えていて、これからどう成長しようとしているのかを理解し、提案に反映させるために必要です。

  • 中期経営計画:企業の短期的な目標や具体的なアクションプランなどの情報を得ることができます
  • 新規事業戦略:企業の成長ドライバーや、新たなコンサルティングニーズを読み取ることができます
  • 既存事業の強化戦略:企業の収益基盤や、効率化・改善の余地が示されています
  • M&A戦略:企業の成長戦略や、組織統合・PMIPost Merger Integration)のニーズを示唆します
  • 海外展開戦略:企業のグローバル戦略や、異文化マネジメントのニーズを示唆します
  • ESGへの取り組み動向:企業の社会的責任や、持続可能性に関するコンサルティングニーズを示唆します

財務分析

会社の財務状況を把握することは、提案が実現可能かどうか、コンサルティングにどれくらいの費用対効果があるかを考える上で大切です。以下に挙げる基本的な財務指標を用いて競合他社と比較することにより、業界の中で会社がどんな位置にいて、何が得意で何が苦手なのかを知ることで、より価値のある提案ができます。

  • 売上高:企業の規模や成長の大枠を把握することができ、前年同期比(YoY)や業界平均と比較して伸び率を評価することが有効です
  • 営業利益率:本業によってどれだけ効率的に利益を上げているかを示しており、価格競争力、原価管理、販管費効率の良否を評価することができます
  • ROE:株主による出資資本に対してどれだけ利益を生んでいるかを示しており、株主にとってのリターンの指標であり資本効率の良さを測ることができます
  • ROIC:事業活動に使われている資本に対する利益率を示しており、資本構成(借入 or 自己資本)に左右されず、事業の真の収益力を測ることができます
  • 自己資本比率:企業がどれだけ自己資本で資産を保有しているかを示しており、財務の健全性・倒産リスクの目安になります
  • 有利子負債比率:企業が借金体質かどうかを示しています

組織・人事

会社の組織や人事制度を理解することも、コンサルティング営業では重要です。会社でどのように意思決定が行われるのか、誰が重要な役割を担っているのか、どんな組織文化があるのかなどを把握することで、スムーズなコミュニケーションや提案活動につながります。特に、人事制度の変化は、組織改革や人材育成に関するコンサルティングのニーズを知る上で重要です。これらを踏まえて、以下に示す内容を押さえておくと良いでしょう。

  • 組織体制:企業の意思決定プロセスや、各部門の役割分担を示します
  • キーパーソン:企業の意思決定に影響を与える人物や、提案の窓口となる人物を特定することは重要です
  • 組織文化:企業の価値観や行動規範を示し、コミュニケーション戦略や提案内容を検討する上で考慮すべき要素です
  • 人事制度改革の動向:企業の組織課題や、人材育成・組織開発に関するコンサルティングニーズを示唆します

また、これらを把握するためには、以下のフレームワーク・ツールを使用することができます。

  • 組織構造分析:組織形態、部門構成、指揮命令系統などを分析します
  • 職務分析:各職務の役割、責任、必要なスキルなどを分析します
  • 組織文化診断:組織の価値観、行動規範、コミュニケーションスタイルなどを分析します

調査対象人物情報:攻略の鍵は「個」の理解

コンサルティング営業では、会社のトップや意思決定をする人である調査対象人物を理解することがとても重要です。ここでは、その重要性と具体的な分析方法を解説します。

調査対象人物の選定

会社の調査対象人物として、次の3つの立場の人を選んで分析します。

  • 経営トップ(社長、会長など):企業の長期的なビジョンや戦略を決定する重要な役割を担います
  • 主要な事業部門の責任者:事業戦略の実行や、現場の課題を把握しています
  • 経営戦略や重要な部門の担当役員(例:DXESGなど):特定の分野に関する専門知識や、改革に対する強い意志を持っていることが多いです

経歴分析

    調査対象人物がこれまでどんな仕事をしてきたかは、その人の考え方や意思決定の傾向を知る上で重要な情報です。以下に示す情報を確認することで、調査対象人物の強み、関心事、得意分野などを把握できます。

    • 過去の役職や担当業務:調査対象人物の専門知識やスキル、経験を示します
    • 業界での経験:調査対象人物の業界知識やネットワーク、業界に対する考え方を示唆しており、知識レベルや、思考の枠組みを理解する上で参考になります
        • 技術部門出身の場合、技術革新や研究開発に強い関心を持っている可能性があります
        • 営業部門出身の場合、顧客との関係構築や、市場開拓に重点を置く可能性があります
        • 海外経験が豊富な場合、グローバルな視点や、異文化理解を持っていると考えられます

    パーソナリティ分析

    調査対象人物の性格を把握することは、効果的なコミュニケーション戦略を立てる上で役立ちます。性格を把握するために、DISC診断などのツールを使うことで、行動の特徴や考え方のパターンを分析できます。DISC診断とは、人の行動特性を「Dominance(主導)」「Influence(影響)」「Steadiness(安定)」「Conscientiousness(慎重)」の4つの要素で分析するツールであり、調査対象人物のDISCタイプを把握することで、その人の強みや弱み、コミュニケーションスタイル、意思決定の傾向などを理解することができます。 

    コミュニケーション戦略

    調査対象人物の性格に合わせて、コミュニケーションのやり方を工夫することが大切です。先述したDISC診断をもとにアプローチ方法を考えることで、提案効果を高めることが可能です

    • Dominance」が高い場合、結論を明確に伝え、具体的な提案を示すことが効果的です
    • Influence」が高い場合、共感を示し、熱意を持って語りかけることが効果的です
    • Steadiness」が高い場合、じっくりと時間をかけて説明し、安心感を与えることが効果的です
    • Conscientiousness」が高い場合、正確な情報を提供し、論理的な根拠を示すことが効果的です

    また、調査対象人物の価値観や関心事を把握し、共通の話題を見つけることも、良好な関係構築につながります。そのため、調査対象人物の発言や行動を注意深く観察し、その場の状況に合わせて柔軟に対応することも重要です。

     

    インタビュー記事分析:言葉の奥にある真意を探る

    インタビュー記事は、その人の考えや価値観を知るための貴重な情報源です。記事を分析することで、調査対象人物が何を大切にしているのか、どんな問題を抱えているのか、将来をどう考えているのかなどを把握できます。

    記事選定

    分析するインタビュー記事は、調査対象人物の考えや価値観がよく表れているものを選びます。

    • 例えば、会社の長期的な目標や経営戦略について語っている記事、新しい事業やM&Aに関する考えを述べている記事、社会貢献やESGに関する発言などが挙げられます。
        • 長期的な目標や経営戦略に関する記事は、調査対象人物のビジョンや、企業の将来の方向性を理解するために重要です
        • 新しい事業やM&Aに関する記事は、調査対象人物の成長戦略や、事業に対する考え方を把握するために役立ちます
        • 社会貢献やESGに関する発言は、調査対象人物の社会的責任や、企業文化を理解するために参考になります

    テーマ抽出

    選んだ記事から、調査対象人物が特に強調しているテーマや、繰り返し述べているキーワードを抽出します。これらのテーマやキーワードは、調査対象人物の関心事や、会社が抱える課題を示している可能性があります。抽出するテーマ・キーワードは、記事全体を通して頻繁に出てくる言葉や、特に強い口調で語られている内容、独自に定義している言葉などが挙げられます。例えば、調査対象人物が「イノベーション」という言葉を頻繁に使っている場合、その企業は技術革新や新しい価値の創造に力を入れていると考えられます。また、調査対象人物が「顧客中心」という言葉を強調している場合、その企業は顧客満足度向上や、顧客との長期的な関係構築を重視していると考えられます

    営業への示唆

    インタビュー記事から得られた情報は、提案の内容や営業戦略に具体的に落とし込むことが大切です。例えば、調査対象人物が新しい事業に強い関心を示している場合、新規事業に関するコンサルティング提案を行うことが考えられます。また、ESGを重視する発言からは、ESGコンサルティングのニーズを読み取ることができます。インタビュー記事から情報を抽出する際には、以下のポイントを押さえておくと良いでしょう。

    • 調査対象人物が強調しているテーマやキーワードは、提案の切り口や、提案内容の重点とすべきポイントを示唆します
    • 調査対象人物が抱える課題や関心事は、コンサルティングによって解決できる企業のニーズを示します

    また、インタビュー記事から得られた情報は、提案書やプレゼンテーション資料に盛り込むことで、提案の説得力を高めるために活用することができます。

     

    事例研究:顧客企業への具体的な提案

    これまでの分析を踏まえ、クライアントの会社への具体的なコンサルティング提案を検討します。

    提案のポイント

    提案をする際には、クライアントの課題、ニーズ、期待を的確に捉えることが重要です。会社の経営戦略、財務状況、組織の問題などを総合的に考え、クライアントにとって最も価値のある提案を検討します。提案の際には、定量的なデータと定性的な情報を組み合わせ、客観的かつ論理的に説明することが重要です。また、提案内容だけでなく、提案の進め方や、コンサルタントの専門性、実績なども、提案の成否を左右する重要な要素です。さらに、提案後も、継続的なコミュニケーションを通じて、クライアントとの信頼関係を構築し、長期的なパートナーシップを目指すことが大切です

    提案内容の具体例

    クライアントの会社への提案内容としては、以下のようなものが考えられます。

    • 新規事業戦略の策定支援:
        • 市場調査、競合分析、自社の強み・弱みの分析を通じて、新規事業の方向性を明確にします
        • ビジネスモデルの構築、収益計画の策定、実行計画の作成など、新規事業の立ち上げに必要な支援を行います
        • 外部パートナーとの連携支援や、資金調達支援など、新規事業の成功を総合的にサポートします
    • DX戦略の策定支援:
        • 現状のデジタル化状況を分析し、企業のDXビジョンを策定します
        • デジタル技術の導入計画、組織体制の構築、人材育成計画など、DX戦略の実行に必要な支援を行います
        • DX推進のためのKPI設定、効果測定、継続的な改善など、DX戦略の定着化をサポートします
    • サプライチェーンの最適化:
        • サプライチェーン全体の現状を分析し、課題を特定します
        • 調達、生産、物流、販売などの各プロセスにおける改善策を提案します
        • サプライチェーンマネジメントシステムの導入支援や、サプライチェーンリスク管理体制の構築など、最適化されたサプライチェーンを実現するための支援を行います

    おわりに

    本稿では、コンサルティングファームがクライアント獲得に向けて営業・提案を行う際に、事前に把握しておくべき情報を整理しました。これらを押さえておくことで企業の担当者の信頼獲得が期待され、ひいては案件の受注にも結びつく可能性があります。とはいえ、本稿で挙げた項目すべてを営業する企業ごとに収集・分析するのは容易ではありません。そのため、情報収集・分析を担う専任担当を配置したり、使用する情報源やツールを決めておき標準化するなど、仕組みとして整備・効率化することが望まれます。

    また、これらの情報はあくまで事前の分析に過ぎません。提案活動においては、これらに過度に依存するのではなく、実際の商談での対話を通じて、企業担当者の真のニーズを丁寧に引き出すことが最も重要です。これらを営業活動において実践していくにはノウハウも必要ですが、弊社はコンサルティング案件の獲得のための戦略立案支援、および伴走による実行支援の両方のノウハウを保有しております。コンサルティング案件の獲得にお困りの際は、ぜひお声がけください。

    【参考】

    松田 拓也

    アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/コンサルタント