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営業資料作成における本質的な検討方法・重要な視点

 

営業資料は、営業活動において非常に重要な役割を果たします。営業担当者が顧客に対して提案する内容を、顧客に分かりやすく、且つ納得感を持って伝えるためのツールとして、営業資料の質が成約率を左右することは言うまでもありません。特に、競争の激しい市場では、どれだけ顧客にアピールできるかが鍵となります。このため、営業資料を作成する際には、単なる情報提供にとどまらず、顧客の関心を引き、信頼を得るための戦略的な思考が必要です。

本稿では、営業資料作成における重要な視点と、営業資料の本質的な検討方法について解説します。

 

営業資料が重要な理由

クオリティの高い営業資料は提案の標準化と底上げにつながる

営業活動においては、営業担当者の個々のスキルや経験に頼る場面が多く、どうしても提案内容にばらつきが生じます。営業の進行方法や提案内容が営業担当者によって異なるため、顧客の反応にも差が出てしまうのは避けられません。しかし、質の高い営業資料を作成することによって、営業活動の内容を標準化し、全体の提案の質を向上させることが可能になります。

営業資料がしっかりと整備されていれば、どの担当者でも同じ質の提案をすることができ、結果として営業活動全体のパフォーマンスが向上します。また、営業資料が成功事例やノウハウを反映したものであれば、トップ営業担当者の経験を他の担当者と共有することができ、全体のレベルアップが期待できます。

営業資料は顧客社内で展開される可能性がある

営業資料は、顧客との商談の場で使用されるだけでなく、顧客社内で関係者間の情報共有のためにも活用されることが多いです。特に、営業担当者が直接会えない決裁者や関係者に対しても、営業資料を通じて提案内容を伝えることができます。これにより、顧客の意思決定に影響を与えることができ、商談を前進させる強力なツールとなります。

資料が適切に整理され、分かりやすく記載されていれば、顧客社内でその情報がスムーズに共有され、迅速に判断が下される可能性が高まります。一方で、資料のクオリティが低い場合や、構成が不明瞭である場合、商談が滞る原因となりかねません。営業資料の重要性は、単なる商談時のツールにとどまらず、顧客の意思決定を後押しする重要な役割を担っていることを認識する必要があります。

オンライン営業では資料に集中しやすい

近年、オンライン営業の機会が増加しており、商談の際には資料が画面上に表示され、顧客がその内容に集中しやすくなります。対面での商談に比べて、オンラインでは資料を直接目にする時間が長くなるため、資料の内容がいかに分かりやすく魅力的であるかが、商談の成否に大きく影響します。オンライン商談では、営業担当者の口頭説明だけでなく、資料が顧客の印象に大きな影響を与えるため、資料作成においてはさらに細かな工夫が求められます。

 

受注率が低い営業資料の特徴

営業資料が受注率に大きな影響を与えることは言うまでもありませんが、逆に受注率が低い営業資料にはいくつかの共通する特徴があります。これらの特徴を知り、改善点を洗い出すことで、より効果的な営業資料を作成することができます。

文章のみでダラダラと記載・説明をしている

営業資料においてよく見られる問題の一つは、文章だけで説明が続き、ダラダラと記載されていることです。こうした資料は、視覚的に疲れやすく、内容が整理されていないため、読み手の関心を引きにくいという問題があります。特に受注や成約を目指す営業資料では、情報をスムーズに伝えることが求められますが、文章が一方向に長く続くだけでは、相手にとっては非常にわかりづらくなります。

改善策としては、箇条書きや表、図などを使い、情報を視覚的に整理することが効果的です。例えば、複雑なプロセスや流れを図示することで、相手は一目で理解しやすくなります。また、ポイントを絞り込んで簡潔にまとめることで、相手の理解を深めることができます。図やグラフなどの視覚的な要素は、言葉だけでは伝えきれない情報を効率的に伝えるために欠かせません。

顧客が「自分ゴト化」できていない

営業資料が受注につながらない大きな要因として、「自分ゴト化」ができていないことが挙げられます。つまり、資料を見た顧客が自分自身の課題やニーズにどのように関係しているのかを感じることができない場合です。顧客にとって関心がない、または自社にとって必要ではない情報ばかりが並んでいる営業資料は、受け入れられにくいのです。

顧客は自分の課題を解決する方法を求めており、営業資料がそのニーズに答えるものでなければ意味がありません。営業資料を作成する際には、顧客が抱える問題や悩みに焦点を当て、それに対する解決策を提示することが重要です。たとえば、顧客が抱えている具体的な課題を挙げ、それをどのように自社のサービスや商品が解決できるのかを示すことが効果的です。

「自分ゴト化」するためには、顧客の視点に立ち、資料の内容がその顧客にとっていかに有益であるかを伝える必要があります。顧客が「これなら自分にも必要だ」と感じることで、営業資料が単なる情報提供にとどまらず、行動を促す動機づけとなります。

社内稟議に必要な情報が不足している

営業資料が社内稟議に回された場合、その資料が社内でどのように使われるかを考慮しなければなりません。多くの場合、担当者が提案内容を社内の決裁者に伝える際には、その情報が不足していたり、伝わりにくい場合があります。このような営業資料では、商談自体が順調に進んでも、社内の承認を得ることができず、最終的に成約に至らないことがあります。

営業資料を作成する際には、決裁者が必要とする情報をしっかりと盛り込むことが求められます。たとえば、商品の詳細情報やサービスのメリット、具体的な数字(コスト削減効果、ROIなど)、過去の実績、導入事例などを含めることが重要です。特に決裁者は、意思決定をするために必要な情報を一目で把握できる資料を求めています。そこで重要なのは、資料の内容を整理し、誰がどのように活用するのかを意識して作成することです。

営業資料に社内稟議に必要な情報を盛り込むことで、商談が進んだ後の社内承認を得やすくし、最終的に成約に結びつけることが可能になります。

 

営業資料作成における実践的なステップ

営業資料を効果的に作成するための具体的なステップについて解説します。これらのステップを踏むことで、より戦略的で実践的な営業資料を作成することができます。

資料の目的を明確にする

営業資料を作成する最初のステップは、その資料の目的を明確に定めることです。目的が曖昧だと、資料作成に時間がかかり、内容が散漫になってしまう可能性があります。目的を設定する際には、以下の点を考慮しましょう。

  • 顧客に何を伝えたいのか(製品の魅力、ソリューション、導入事例など)
  • 資料を提供するタイミング(初回商談、契約後、フォローアップなど)
  • 目標(新規顧客の獲得、既存顧客へのクロスセル、問題解決など)

この目的をもとに、資料の構成や必要な情報を決定します。

顧客のニーズと課題を把握する

営業資料の作成は、顧客のニーズと課題を理解した上で行うことが重要です。顧客が直面している問題に対して、どのような解決策を提供できるかを明確に伝えるために、まずは顧客の状況を把握しましょう。具体的には、次の情報を収集します。

  • 顧客の業界や市場動向
  • 顧客の現在の課題や目標
  • 競合環境や他社の取り組み
  • 顧客が求める価値や成果

これらの情報をもとに、顧客にとって最適な提案ができる営業資料を作成します。

資料の構成を設計する

営業資料の構成は、顧客にとってわかりやすく、魅力的でなければなりません。以下のような基本的な構成を参考にして、資料を設計します。

  • 表紙:会社名や資料のタイトル、商談の目的を明記
  • アジェンダ:資料の内容や進行を簡潔に示す
  • 課題提起:顧客の課題やニーズを明確にし、その重要性を説明
  • 解決策の提案:自社製品やサービスがどのように顧客の課題を解決するかを具体的に示す
  • 導入事例や成功事例:過去の実績や他社での成功事例を紹介
  • ROI(投資対効果):自社の提案がどれだけの価値を提供するかを数値で示す
  • 次のステップ:商談の後のアクションを示す(例:デモ依頼、追加商談の設定)

このような構成にすることで、顧客がどこに焦点を当てればよいかが一目でわかりやすくなります。

内容を具体化し、データを盛り込む

営業資料の内容は、具体的かつ説得力のあるデータや事実に基づくものにする必要があります。顧客が納得できるように、以下の情報を資料に盛り込みましょう。

  • 定量的なデータ:売上実績、ROI、コスト削減の効果など
  • 成功事例:自社製品やサービスが実際にどのように役立ったかを示す事例
  • 顧客の声:過去の顧客からの推薦状やフィードバック
  • 競合分析:他社製品やサービスとの比較(自社の強みを示す)

これらの情報をわかりやすくグラフや図にして、視覚的にも訴求力を持たせると、より効果的です。

視覚デザインに注意を払う

営業資料は、視覚的な印象も非常に重要です。資料が見やすく、洗練されたデザインであれば、顧客の注意を引き、印象に残ります。デザインの際には以下のポイントを守りましょう。

  • フォントの選定:読みやすいフォントを使用し、文字サイズや行間を調整する
  • カラーの選定:企業のブランディングに沿ったカラーを使用し、過度に派手にならないようにする
  • レイアウト:余白を適度に取り、情報が詰め込みすぎないようにする
  • 視覚的な強調:重要な情報や数字はグラフや色で強調し、目を引くようにする

これらのデザイン要素が、資料の伝達力を高め、顧客に与える印象を大きく改善します。

資料の見直しと修正

資料を完成させたら、必ず見直しを行いましょう。見直しを行うことで、誤字や不明瞭な部分を修正でき、資料全体がより洗練されたものになります。見直しの際には以下の点に注意します。

  • 情報の正確性:数値や事実に間違いがないか確認する
  • 論理の整合性:資料の構成が論理的で、一貫性があるか確認する
  • 簡潔さ:冗長な部分を削除し、要点を絞って伝える
  • 視覚のバランス:グラフや図表の配置が整っているか確認する

他のメンバーや上司にレビューをお願いすることも効果的です。第三者の目でチェックしてもらうことで、さらに資料が改善されることがあります。

提供方法を決定する

営業資料が完成したら、どのように顧客に提供するかを決定します。提供方法によって、資料の印象や活用度が変わるため、以下の点を考慮して提供方法を決めましょう。

  • 対面商談:印刷した資料を持参し、対面で説明する場合
  • オンライン商談PDFやスライド形式の資料を送付し、オンラインで説明する場合
  • フォローアップ:商談後に資料を送付し、後から再確認できるようにする

資料を提供した後は、必ず顧客にフォローアップを行い、追加の質問に対応するようにしましょう。

 

営業資料の改善と見直し

営業資料を作成した後、その効果を最大化するためには、定期的な改善と見直しが欠かせません。市場の変化や顧客のフィードバックに応じて資料を調整することで、営業活動の成果を向上させることができます。このセクションでは、営業資料の改善と見直しの方法について解説します。

顧客のフィードバックを活用

顧客からのフィードバックは営業資料を改善するための貴重な情報源です。顧客が営業資料に対してどう感じているのか、どの部分が役に立ったのか、または理解しにくかったのかを把握することが重要です。

  • アンケート調査:顧客が資料を使用した後に簡単なアンケートを行い、資料に対する評価や改善点を聞きます。このデータを基に資料を改善します。
  • 営業チームからの意見:営業担当者が実際に顧客とやり取りを行っているため、彼らのフィードバックを集めることも重要です。営業担当者がどの部分で困ったか、どの資料が効果的だったかを共有してもらいます。
  • 顧客の反応の記録:顧客が商談中に資料に対してどのような反応を示したかを記録し、その情報を改善に生かします。例えば、特定の資料が理解されにくかった場合、その部分を再構成するなどの対応が可能です。

資料の定期的なアップデート

    営業資料は一度作成して終わりではなく、時々見直して更新する必要があります。業界のトレンドや自社の新しい取り組み、製品の進化に合わせて資料を最新の状態に保つことが大切です。

    • 定期的な見直しスケジュール:営業資料の更新頻度を決めて定期的に見直しを行うことが効果的です。例えば、四半期ごとに見直しを行い、最新の情報を反映させることができます。
    • 新しい製品やサービスの追加:新しい製品やサービスが追加された際には、それに関する資料を即座に反映させ、営業資料に組み込みます。これにより、商談時に顧客に最新情報を提供できます。
    • 市場調査結果の反映:市場調査や競合分析を基にした資料の改善も重要です。競合他社との比較を常に最新のデータで更新し、より説得力のある資料を作成します。

    視覚的要素の改善

      営業資料の視覚的要素が顧客の理解や印象に大きく影響します。視覚的に魅力的で理解しやすい資料を提供するために、定期的にデザインやレイアウトを見直すことが重要です。

      • デザインのトレンドを反映:デザインやフォーマットには時代のトレンドがあります。定期的にデザインを見直し、視覚的に魅力的で整理された資料に更新します。これにより、資料の信頼性やプロフェッショナリズムが高まります。
      • 一貫性の保持:資料全体にわたって一貫した色合いやフォント、レイアウトを使用することで、ブランドイメージを強化し、資料が統一感を持つようにします。
      • インフォグラフィックスの活用:情報を視覚的にわかりやすく伝えるために、インフォグラフィックスや図表を積極的に取り入れます。顧客が一目で情報を理解できるように工夫します。

      競合分析とベンチマーキング

      営業資料の改善には、競合の資料を分析することも有効です。競合がどのような資料を提供しているのかを調べ、それをベンチマークとして自社の資料を改善することができます。

      • 競合資料の分析:競合他社の営業資料を収集し、どのような情報やアプローチが使用されているかを分析します。特に顧客の関心を引くポイントや、説得力を持たせるための工夫を学びます。
      • 差別化ポイントの強調:競合との差別化が重要な場合、自社の強みやユニークな提案を際立たせるために、営業資料を見直します。競合が提供していない独自の価値を強調することで、競争優位性をアピールします。

      フィードバックサイクルの導入

      営業資料を改善するためには、継続的なフィードバックのサイクルを作ることが効果的です。営業チームや顧客からのフィードバックを定期的に収集し、その情報を基に資料を更新していくことが、資料の効果を最大化します。

      • フィードバック収集の体制を整える:営業チームから定期的にフィードバックを集める仕組みを作ります。また、顧客からのフィードバックも可能な限り収集し、営業資料を改善します。
      • フィードバックの優先順位をつける:収集したフィードバックの中から改善が必要な部分を選び、優先順位をつけて対応します。重要度の高いフィードバックから改善を行うことで、効率的に資料をアップデートできます。

      テストと効果測定

      営業資料の改善後、その効果を測定することが重要です。新しい資料がどれだけ商談に貢献したか、どの資料が顧客に最も響いたかを把握し、今後の資料改善に役立てます。

      • A/Bテストの実施:異なるバージョンの営業資料を用意し、実際の商談でどちらが効果的かをテストします。これにより、どのアプローチが最も効果的かを確認できます。
      • 成果の追跡:営業資料を使用した後の商談結果を追跡し、どの資料が契約に至る確率を高めたのかを分析します。このデータを基に、より効果的な資料を作成するための改善点を見つけます。

       

      まとめ

      効果的な営業資料を作成するためには、顧客のニーズに合わせた情報の提供、視覚的な魅力、そして明確なメッセージが不可欠です。資料は単なる情報提供のツールにとどまらず、顧客との関係を築き、商談を成功に導くための重要な要素です。定期的な改善とフィードバックを通じて、営業資料を常に進化させていくことが、営業成果の向上に繋がります。

       

      【参考】

       

      吉田暁壮

      アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/コンサルタント。