KNOWLEDGE & INSIGHTS

ごみ処理の業務と公共施設・商業施設のごみ箱に対するIoT活用事例

ごみ処理の業務

皆さんは自宅やオフィスで日常的に発生するごみ箱に捨て、所定の収集場に廃棄するというところまでは日ごろから行われているかと思います。ただごみ箱といっても自宅やオフィスだけでなく、デパートや公園、駅などの公共施設や歩道などに設置されているものもあります。捨てられるごみの収集や処理について、どのような業務があるかを皆さんは考えたことがあるでしょうか。
ごみ処理(一般廃棄物)にあたっては、以下のような業務が存在します。

  • ごみ箱の設置・監視
    • 公園や駅、ショッピングモールなどの施設では、ごみ箱を設置します。
      来場者がどのような場所でごみ箱を利用するか、どの種類のごみを出すのか、あるいはそれらの数がどの程度必要なのかといったことを踏まえて検討する必要があります。
  • ごみの収集
    • 設置したごみ箱に対して、ごみの収集を行います。
    • 家庭ごみなどの一般廃棄物を収集業者が回収する時は、ごみ収集車のドライバー1名、ごみを車両に積み込む助手1~2名でシフトを決めて定期的に回収を行います。
      ドライバーはルートを完璧に覚える必要があるため、ベテランの作業員が担当するようです。
    • 最近の公共施設ではIoTを利用したごみ箱でごみの量を監視して、シフトを調整することもあります。こちらについては別途で詳しく取り上げます。
  • ごみの中間処理
    • 収集したごみを、焼却などにより処理します。
      一般的には専門の処理施設で処理しますが、一部の可燃ごみなどはセメントを製造する工場が受け入れて工程の中で処理することもあります。
      可燃ごみを焼却する熱は、発電に利用されることもあります。
  • 最終処分
    • 処理したごみを埋立地などに利用します。
      リサイクルなどを行うごみの場合は、製品の原料として再利用されます。
      アルミ缶の場合は、リサイクルされたアルミの原料の方が安価なようです。

公共施設へのごみ箱設置における課題

 ごみの処理は主に自治体や施設の責任者が管理しており、それぞれ様々な課題が存在します。ここでは課題の一部を取り上げてみましょう。

  • ごみ箱を置いていない場所で、路上などにごみを放置されてしまう
    • 観光地などでは、海外からの観光客がごみを置いていくケースが目立ちます。
      ごみを捨てるための場所としていなくても、ごみが置かれている場所であれば観光客がごみを捨てていってしまうケースが見られます。 
  • ごみ箱を設置してもごみがあふれかえってしまい景観を損ねてしまう
    • ではごみ箱を設置するとどうなるのか?ということですが、今度は収集の業務が追い付かず、ごみ箱があふれかえって景観を損ねてしまうという問題が発生するケースがあります。
      コンビニなどの店舗に設置するごみ箱と違って、広い施設にごみ箱を設置する場合は監視するための運用方法を検討する必要がありますが、例えば大規模なイベントなどで瞬間的に大勢の観客が訪れる場合は、平常時の運用ではごみの収集が追い付かなくなってしまう恐れがあります。
  • 人員の確保が必要である
    • 当然のことながらごみ処理にあたっては、ごみ箱を管理する人や処理をする要員を確保する必要があります。
      先ほども説明したように平常時に運用するための人員の確保と、イベントなどの瞬間的に大勢の観光客が訪れる時間や繁忙期に運用するためには人員を柔軟に確保することが出来る体制づくりも課題です。
      ごみ収集という業務の性質上3K(きつい・汚い・危険)という印象を持たれ、敬遠される傾向にあるようです。
  • ごみ箱に危険物を設置される可能性がある
    • 人の流れが多い場所であるからごみ箱の設置が望ましいと考えられる場所であっても、テロ対策の観点から、ごみ箱を設置しないという選択が取られる場合も少なくありません。地下鉄サリン事件やアメリカ同時多発テロ事件などの影響からごみ箱を撤去されたことがありますが、それ以降もごみ箱の設置を再開していない場所もあります。

公共施設などにおけるIoTを利用したごみ箱の事例

上記の課題に関しては様々な取り組みがなされていますが、近年ではIoTを駆使して課題を解決しようとする動きがみられます。ここでは自治体や公共施設などにおいて、IoTを利用したごみ箱の事例について紹介します。

  • 表参道
    • NSWとアートファクトリー玄は2017年5月、スマートゴミ箱「BigBelly Solar(ビッグベリーソーラー)」を商店街振興組合原宿表参道欅会へ提供する実証実験を開始しました。
      こちらのごみ箱は太陽光発電機能があり、そのエネルギーにより通信する機能を搭載しております。ごみの蓄積状況に応じて、自動的に圧縮する機能も搭載しています。
      情報の通信には3G回線を利用しており、ごみの蓄積状況を監視することで収集頻度や人員配置、ごみ箱設置の最適化などの収集作業によるコスト削減が期待できます。
      実証実験が開始された当初は2か所設置されていただけでしたが、現在は「スマゴ」という呼び名で34台(2020年10月現在)設置され本格的に運用が始められています。
      また、ごみ箱に広告を設置することで、自治体が発生するコストを低減できるようにしているようです。(※ここでは森永製菓が協賛し、キョロちゃんのイラストが設置されました。)
    • 余談ですが、商店街振興組合原宿表参道欅(けやき)会の松井誠一理事長はスマゴの設置あたって、以下のようにコメントしております。
      「ごみ箱以外に捨てられるごみが減り、街がきれいになることを期待している。また以前はごみ箱が破損することもあったので、きれいに使って頂きたい。」
      利用される方は、「スマゴ」の設置に関係した方々に感謝して利用しましょう。

表参道に設置されている「スマゴ」(左:全面 右:背面)

「スマゴ」に設置されているソーラーパネル

「スマゴ」(ペダルを踏んでフタが開く様子)

  • 凸版印刷
    • 凸版印刷では2021年2月より、企業のブランド訴求とマナー向上を促すごみ箱「PoyPort」の販売を開始しました。ごみの投入に反応して付属のサイネージに映像を表示する機能があり、クーポン発行やイベント情報、環境への取り組みなどさまざまな情報を発信することができます。
      また多言語にも対応しており、訪日外国人向けにコンテンツを発信することも可能です。

PoyPortイメージ図

https://www.toppan.co.jp/news/2020/02/newsrelease200205.html

  • 積水マテリアルソリューションズ
    • 積水マテリアルソリューションズは2020年9月、ごみ容器に取り付けることでごみの量を遠隔監視できるセンサー「Smart LEVEL」の販売を開始しました。
      このセンサーはごみ容器の内側と天面に設置することで、ごみ容器の天面からごみまでの距離を測定し、ネットワーク通信を利用して、管理者のスマートフォンとPCの専用アプリにごみの量を送信します。
      同センサーを設置する際には電気工事を行う必要がなく、既設の容器に後付けできます。

Smart LEVELを設置したごみ箱とごみ箱に設置した機器
https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/2101/06/news008.html

  • 沖縄県(KDDI×沖縄セルラー)
    • KDDIと沖縄セルラーは2017年9月、沖縄県那覇市でLTE-Mを利用したごみ箱を遠隔監視する実証実験を行いました。
      このごみ箱は取り付けられたセンサーでごみの蓄積状況を取得し、通信回線を利用して情報を通知することができます。

ごみ箱蓄積状況を表示する画面
https://iot.kddi.com/cases/okinawa_trash/

  • GMOクラウド×ハウステンボス×ハピロボ
    • GMOクラウドとハウステンボスとハピロボは2017年11月から2018年1月、テーマパーク、ハウステンボス内のアムステルダムシティ(約4万2000平方メートル)全域にスマートごみ箱(仮称)を設置し、有用性を検証する実証実験を行いました。
      内蔵センサーがごみの量を計測することでPCやスマートフォンからごみの滞留を遠隔から把握でき、ごみの量が一定量を超えた際にはスタッフが装着している無線イヤホン付きデバイスへメールを自動送信し、読み上げることで通知を行います。
      これにより、PCやスマートフォンを使用できないスタッフでも、ごみ箱を開けずにごみを回収するタイミングを確認することができます。
      ちなみにこのごみ箱は「ごみ箱の内側にさらにごみ箱を実装するタイプ」、「ごみ箱の内側に袋をぶら下げるタイプ」いずれのものにも対応しているようです。

ハウステンボスの「スマートゴミ箱(仮称)」
https://iotnews.jp/archives/78442

まとめ

公共空間におけるごみ収集に関する業務は、ごみを集めて処理するだけでなく、特に設置・管理に関して様々な工夫が必要であることがわかります。
また、IoTを利用したごみ箱ではネットワークを利用して蓄積状況をデータとして管理するだけでなく、最近では広告としても活用するといった事例もあります。ごみ箱の設置や管理によるコストを軽減するためにも、今後は広告などを設置したごみ箱を活用することが期待されます。
ただしどれだけテクノロジーが発達したとしても、ビジネス・観光・移動中などでごみが出た場合は持ち帰ることが一番であると思われます。
外出先でごみ箱を利用する際には、ごみ箱を設置するにあたって裏で様々な人が関わっているということを忘れないよう感謝して利用するようにしましょう。

 

 

【参考】
環境産業市場規模検討会(2020)平成30年度環境産業の市場規模推計等委託業務 環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書
キャリアピックス(2020)「ゴミ収集の仕事はきつい?転職するなら知っておきたい給料や仕事内容」
シブヤ経済新聞(2020)「表参道にIoTゴミ箱「スマゴ」国内初正式運用 ゴミ問題の一助に、自動圧縮機能も」
凸版印刷HP(2020)「凸版印刷、インタラクティブごみ箱でマナー向上 ごみの投入に反応して付属のサイネージにクーポン発行やイベント情報などを表示し企業のブランド訴求とマナー向上を促すごみ箱「PoyPort™」を開発」
KDDI「設置する人も、街を歩く人も、観光地の人々が笑顔になる。ごみの量が通知される”あふれない”ごみ箱」
IOTNEWS(2017)「ゴミの量をIoTで見える化、GMOクラウド・ハウステンボス・ハピロボの3社、「スマートゴミ箱」の実証実験を開始」

 

藤本光佑

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。得意分野は決済事業、IoT、エネルギーなどの事業戦略の提案や、それに伴う調査