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未来の消費者行動を予測する方法

消費者行動の複雑化

21世紀に入り、ECサイトの普及やスマートフォンの台頭など、デジタル技術の発達に伴い、消費者の商品やサービス購買における行動が多様化してきました。

時間軸で消費者行動を追っていくと、従来の「製品やサービスのもつ機能的価値の消費行動」である「モノ消費」から「商品やサービスの購入によって時間や体験への消費行動」である「コト消費」、「ある商品を消費することで生まれる、社会貢献的側面を重視する行動」である「イミ消費」などと表現されています。 

「マーケティング5.0」時代の到来

また、消費者行動を理解し、商品やサービスを提供する戦略を立てるマーケティングにおいても時代と共に変遷を遂げているのです。
マーケティングの父ともよばれている、フィリップ・コトラーは、これまでのマーケティングの流れを「マーケティング1.0~4.0」にて表現していましたが、2022年には「マーケティング5.0」として新しい概念が台頭したのです。

  • 「マーケティング1.0」(1900~1960年代)
    • 概念: 製品中心のマーケティング
    • 戦略: 大量生産によりコストを抑える
  • 「マーケティング2.0」(1970~1980年代)
    • 概念: 顧客志向のマーケティング
    • 戦略安く売るのではなく、競合との差別化によって顧客のニーズを満足させる
  • 「マーケティング3.0」(1990~2000年代)
    • 概念: 人間中心のマーケティング
    • 戦略: 顧客とともに社会への価値を共創していくことこそが最終的に製品の売りにつながると考えられるようする
  • 「マーケティング4.0」(2010~2020年代)
    • 概念: 自己実現のマーケティング
    • 戦略: ただ製品を購入してもらうだけでなく、オンライン・オフラインの両方で顧客エンゲージメントを向上させ、製品やブランドのファンになってもらうこと、そして周りに推奨してもらう
  • 「マーケティング5.0」(2022~
    • 概念: ビッグデータやAIIoTなどの最新テクノロジーを駆使して顧客体験価値を高める時代
    • 定義: 人間を模倣した技術を使用して、カスタマージャーニーの全工程で価値を生み出し、伝え、提供し、高めること

 

マーケティング4.0にて顧客体験の向上が重要視されていましたが、2022年以降は、テクノロジーの進展に伴い、最新技術を応用した新たな価値を消費者に提供する必要が出てきたのです。

このように、時代と共に消費者の嗜好やマーケティングの変化、加えてIT技術の急速な進歩を捉え、利益を生み出すために、未来の消費者行動を予測する必要があるのです。

 

カスタマージャーニー

カスタマージャーニーとは?

消費者の行動を予測するために、カスタマージャーニーを活用します。

 

カスタマージャーニーとは一言でいうと、顧客の軌跡です。

消費者が商品やサービスを購入する際に、「どのような道筋をたどって購入までに至るのか?」を、時系列を追って可視化していく手法です。

 

例えば、以下の図では、ホテルへ宿泊する顧客を参考に、旅行計画から宿泊までの流れを表しています。

 

「旅行計画」フェーズでは、目的地をどこにするのかを選定
「宿泊施設検索」フェーズでは、目的地周辺から自身の希望とマッチする宿泊施設を見つけます。

希望に合ったら「宿泊予約」を行い、旅行当日チェックインを行い宿泊します。

それぞれの行動を洗い出した後、行動から消費者がどのような感情を抱く(ニーズ)のかを考えます。

このように、顧客の一つの体験をはじめから終わりまで流れるように示した図をカスタマージャーニーといいます。

カスタマージャーニーを作る必要性

カスタマージャーニーを作ることで、大きく2つのメリットがあります。

  1. 消費者のニーズを把握することができる
    • 消費者のニーズを把握することで、どこで消費者は満足 or 不満を抱いているのかが分かり、今後の商品やサービスの改善を図ることができます。
  2. 、消費者の行動を理解・予測することができる
    • 昨今は、不確実性が高く未来の予測が困難な時代といわれており、「VUCA(「Volatility」「Uncertainty」「Complexity」「Ambiguity」)時代」とも言われています。そのため、消費者行動を理解し、未来を予測するためにカスタマージャーニーを作成するメリットがあります。

 

カスタマーエクスペリエンスとの違い

カスタマージャーニーと類似する言葉として、カスタマーエクスペリエンスがあります。

カスタマーエクスペリエンス(Customer ExperienceCX)とは、商品の認知~購入までの各プロセスで消費者に感じてもらいたい企業価値やブランドを意味しています。

 

カスタマージャーニーは、消費者の購買行動全体のプロセスを俯瞰しているのに対し、カスタマーエクスペリエンスは、顧客体験を1シーンずつ切り取っているのです。

 

未来のカスタマージャーニーの作り方

では、未来のカスタマージャーニーを作成してみましょう。

作成に当たっては、大きく4つのステップに分けることができます。

カスタマージャーニー作成

未来のカスタマージャーニーを作成するために、まずは、現在のカスタマージャーニーを作成する必要があります。作成するにあたっては、どの消費者をターゲットにするのかを選定するためにペルソナを設計します。このペルソナの情報を基にカスタマージャーニーを作成します。

 環境要因分析の実施

自社を取り巻く環境要因を分析します。環境要因を洗い出す方法としては、PEST分析が一般的です。(後ほど詳細を記載)

シナリオ作成

環境要因分析結果をマトリクスにマッピングし、未来を想定したシナリオを作成します。

未来のカスタマージャーニー作成

作成した未来のシナリオを基に、①のカスタマージャーニーに落とし込みます。

 

 では詳しく見ていきましょう。

①カスタマージャーニーの作り方

まずは、カスタマージャーニーを作成してみましょう。

カスタマージャーニーを作成するには前述したように大きく2つのステップがあります。

 

  • ペルソナの設定

最初のステップとして、ペルソナの設定を行います。

ペルソナとは、自社商品・サービスを利用する架空の人物像のことです。

元々、ユングの提唱した心理学用語であり、仮面を意味する「Persona」から派生し、人間の「外的側面」「内側に潜む自分」がペルソナだと定義しています。

ペルソナの属性の一例を以下に示します。

具体的に、必要な情報としては、氏名、性別、年齢、職業、年収、家族、住居などを記載します。

また、そのペルソナがどのような性格で、何に関心があるのか、どのようなライフスタイルを送っているのかまで設定できるとより確度の高いペルソナが設計できます。

その結果、設計したペルソナが何を望んでいるのかを具体的に考えることによって、消費者が何を求めていて、商品・サービスを購入するまでにどのような感情を抱くのかを把握することができます。

 

実際に、ペルソナを設計する際には、営業担当者や消費者に対してアンケートやインタビューの実施、市場データなどを活用することで、より詳細に消費者の属性情報を捉えることできます。

このペルソナを設定しないと、自社の提供する製品やサービスを誰に対して訴求し販売していくのかが明確にならず、結果市場から必要とされない(or されていない)商品を開発してしまう可能性があります。

 

また、カスタマージャーニーを描く際には、特定の像(既存の消費者など)を基に作成するので、ペルソナを設定しないとカスタマージャーニー自体を描くことはできないのです。

なので、ペルソナを設計するのは、カスタマージャーニーを描く上でとても重要なステップなのです。

  • プロセス・ニーズの設定

ペルソナ設計後、それを基に消費者がどのようなプロセスを得て商品・サービスを購入するのかを一連の流れとして作成します。

以下は、ホテル業界の消費行動を表したカスタマージャーニーです。
(カスタマージャーニーの流れは、前述したため省略)

各プロセスの行動を記載したら、次は各プロセスでどのような感情を抱き、ニーズは何なのか記載していきます。カスタマージャーニーの中には、消費者の感情を上下の曲線で示す場合もあります。

②環境要因分析の実施

次に、自社を取り巻く環境を理解するために、PEST分析を行います。

PEST分析とは、特定の業界や会社(自社やクライアントなど)の事業などに影響を与える外部環境(マクロ/ミクロ環境分析)のうちマクロ環境分析を行うために使用されるフレームワークです。

 

マクロ環境は、会社が属する業界を取り巻く外部環境であり、企業にとってコントロールが不可能です。

一方、ミクロ環境とは、会社に直接影響を与える業界なの環境のことで、企業の努力により、一定程度コントロールが可能です。具体的には、市場・競合・顧客動向などを言います。

また、外部環境分析の代表的なフレームワークとしては、PEST以外に、3C分析、ファイブフォース分析、SWOT分析などがあります。

PEST分析は、上記のように4つの観点から分析していきます。

  • 政治的要因: Politics

    • 法律や政権交代、税制の改正や規制の変化などが該当
    • ) 自動運転(Lv.4)の解禁

 

  • 経済的要因: Economy
    • 景気や消費者動向の変化、経済成長率などもが該当
    • ) 円高、消費者物価指数の低下

 

  • 社会的要因: Society
    • 人口動態、流行などが該当
    • ) 少子高齢化

 

  • 技術的要因: Technology
    • ITの技術革新やデジタルテクノロジーなどが該当
    • ) メタバース、生成AI、自動運転技術

 

③シナリオ作成

PEST分析にて洗い出した外部環境要因が将来、業界や企業にどのような影響を与えるのかを分析します。

  •  インパクト・不確実性マトリクスへマッピング

具体的には、インパクト・不確実性マトリクスにマッピングしていきます。

軸として、縦軸にインパクトの大小(売上高など)、横軸に、不確実性の大小(実現性の有無)の観点で整理します。

例えば、上図では、インパクト大と不確実性が大の右上に、PEST分析で洗い出した、「生成AI技術」と「自動運転」をマッピングしています。

  • シナリオ分岐の軸設定
    マッピング後は、各象限の要因を1~2つ抽出し、その要因の実現度合いから縦・横軸に設定し、各要因が発生した際のシナリオ(計4シナリオ)を作成します。

例えば、先ほどマッピングした、「生成AI技術」と「自動運転技術」をシナリオの軸として設定します。それぞれの実現度合いについて、シナリオを作成するのです。

図の黄色枠(シナリオA)では、生成AI技術による対話の技術が進歩しており、日常的に自動運転が普及している場合を想定します。

④未来のカスタマージャーニー作成

フェーズ1で作成した、ホテル業界でのカスタマージャーニーを基に検討していきましょう。
例えば、「生成AIによる旅程作成」or「完全自動運転による無人送迎」が普及しているシナリオを考えたとします。

その二つのシナリオをカスタマージャーニーに当てはめてみます。

上記黄色枠では、生成AIのコンシェルジュが観光地候補を入力すると、最適な旅程をレコメンドしてくれて、決済もそのままオンライン上で終わらせることが可能となる未来が考えられます。
 その場合、従来宿泊施設検索や宿泊予約が別々のプロセスとして消費者が行動していましたが、1つのプロセスとして行動するようになるのです。

また、チェックイン/チェックアウトも従来では、ホテル到着後にフロントにて行っていましたが、無人の自動運転タクシーにより、駅から宿泊施設まで送迎が行われ、その車内でチェックイン/アウトが可能となります。

さらに、宿泊/観光では、自動運転タクシーと案内コンシェルジュの旅程と連動し、スケジュール通りに案内および送迎があり、電車などの公共機関を使った乗り換えは不要ですし、当日リアルタイムで混雑を予測し、最適なルートで目的地まで向かうことができるのです。これにより、旅行の煩わしさを感じず、観光地を余すことなく快適に楽しむことができるのです。

このように、シナリオプランニングにて検討した内容を現在のカスタマージャーニーに照らし合わせることで、将来の消費者の動きを予測することができます。

終わりに

外部環境を踏まえ、未来の消費者行動を予測することは可能ですが、将来は不確実であり、それゆえに将来のカスタマージャーニーを複数作成することができると思います。その中から、どのような未来に向けてどのように取り組んでいくのかは、社内のリソースや市場動向などを鑑み検討していくのが良いかと思います。

また、将来を予測することで、社内のバリューチェーンを見直すなど内部の変革も検討する必要があるのです。

 

【参考】

 Cross Marketing (2023) 「トキ消費・イミ消費とは?消費行動の変化とZ世代にささるポイントを解説」

NTTコムウェア (2017) 「モノ消費から、コト消費。そしてトキ消費へ ~コト消費では満たされなくなった消費者たち~」

Members (2022) 「マーケティング概念の変遷とマーケティング5.0」

VOICE  (2022) 「カスタマージャーニーとはをわかりやすく!マーケティング担当者必見|トラムシステム」

LiB CONSULTING (2023) 「PEST分析とは」

Freeasy (2023) 「ミクロ環境とは リサーチ マーケティング用語集」

Freeasy (2023) 「マクロ環境とは リサーチ マーケティング用語集」

 

篠原 亘

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト