KNOWLEDGE & INSIGHTS

2020.12.14

世界を豊かにするものづくりvol.02 /足し算と引き算の仕事(1/2)

「つくる」の力で世界をもっと豊かに

アーツアンドクラフツでは、モノとものづくりの中に、社会をより良くし人生を豊かにしていく可能性があることを信じ様々な取り組みを行なっています。ジュエリーや家具などの本業に関わるものづくりはもちろんのこと、自社の販促物や店舗などをつくる際のものづくりやその中に秘められた思いや価値についてもご紹介していきます。

今回は、新たなにオープンしましたithの新宿アトリエ梅田アトリエの施工に関連したものづくりをご紹介していきます。

造形の足し算と引き算

立体的な造形を行う際に、よく「足し算の仕事」と「引き算の仕事」というような表現が使われます。

ものづくりに馴染みの薄い方にはピンと来ないかもしれませんが、粘土細工を思い浮かべてみると多少イメージができるかとおもいます。

何らかのかたちをつくるときに、粘土を足していって盛り付けしながら形をつくるのが「足し算」の仕事。逆に、粘土の塊を削っていってかたちを作っていくのが「引き算」の仕事です。

造形には様々な分野がありますが、すべてのものづくりがプラスかマイナス、どちらかの作業によって出来上がっているとも言えます。

建築・インテリアの分野でも同じ原理で様々な技術や工法がありますが、まずはith(イズ)の新宿アトリエの壁面や躯体の造作を通じて、「足し算」の仕事についてお話をしようと思います。

左官職人の手仕事

私たちのアトリエは、吉祥寺のスタート時から店舗内装工事やリノベーションを一手に受け持ってもらっているStudio Pathofeu の比賀さんと相談しながらつくっています。

相談といっても詳細まで喧々諤々に詰めてということではなく、座席数や事業上必要な機能要件をざっと伝えたうえで、物件の特性や表情などを比賀さんに感じてもらい、その環境のなかでアーツアンドクラフツやithの世界観が生かせるであろう設計や装飾をほぼお任せでやってもらう、というラフなものです。

新宿アトリエでは私たちアーツアンドクラフツの仕事の中心的価値でもある「手仕事」や「環境や社会との共生」という概念をフィーチャーし、日本の伝統的な職人技でもある左官仕事を盛り込んだ内装を施すことになりました。

左官とは建築物を作る際に様々な材料を用いて壁や床面などを塗り上げる仕事ですが、建造物として必要な強度や品質を保ち、かつ美しく仕上げをしていくためには非常に高度な技能が要求される仕事でもあり、大昔より日本はもとより世界中で重宝され、各地域ごとに様々な発展を遂げてきました。

壁紙やパネルなどの工業製品の普及により一旦需要が減少する状況にありましたが、近年は環境面や装飾としての芸術性などの観点から再び見直されつつあります。

左官職人の仕事にも様々なものがあると思いますが、粘土のような材料を捏ね、塗り重ねながら壁などの造形をこしらえていくやり方は、「足し算」の仕事の範疇に入るかと思います。

土壁が生み出す表情

調湿性など機能面での特性もさることながら、土壁の魅力は何と言っても自然の材料から生み出される多彩なテクスチャーにあると思います。用いる材料の種類や配合、職人の技術やそれぞれが持つイメージの違いによって様々な表情をもたらします。

ith新宿の一階中央のメインの接客スペースの壁は、和の要素を感じさせるざらついた土壁で仕上げていますが、最奥の壁面に彩るクラインブルーの壁とあいまって、光の陰影によって様々な表情を醸し出す独特な世界観を生み出す仕上げになっています。

足し算と引き算のコントラスト(2階の床面)

2階の床面にもみっちりと左官仕事が施されています。凹凸を保ちながら職人の手によって塗り重ねされた部分と躯体のコンクリートをびっちりと磨き上げた部分、足し算の仕事と引き算の仕事(※引き算の仕事/研磨については次回ご紹介します)のコントラストを楽しめる仕上げに。

遊び心の版築壁

版築(はんちく)とは、土を建材に用い強く突き固める方法で、堅固な土壁や建築の基礎部分を徐々に高く構築する工法を指す。 もともと石灰分を多量に含んだ微粒子から成りこの工法に著しく適した黄土が広く堆積した黄河流域で古代から用いられ、特に発展を見せた工法である。(wikiより)

一階の部屋のバックヤードへとつながる通路の一番奥には”版築”という原始的な工法でつくられた壁面があります。穴を掘り進んだような奥まった壁面にチラリと見える地層模様は、デザイナーとしての比賀さんと職人の遊び心でもあります。

自由な表現の楽しさ

素材の特性などによって一概には言えないところもあると思いますが、塗り重ねていくような足し算の仕事は、その人が持つイメージを自由に投影しやすいような気がしています。

冒頭に申し上げた粘土細工しかり。ジュエリーメイキングでいえばソフトワックスしかり。盛りつけたり(+)削ったり(-)を繰り返しながら自分のイメージするところへと近づいていく。

引き算の仕事にある失敗を許さないストイックな緊張感とは対照的に、足し算の仕事には気の赴くままにイメージを表現する自由さとその楽しさがあるように感じます。

この自由さや楽しさは、ものづくりやアートのシンプルな楽しさに通ずると思っています。飛躍が過ぎるかもしれませんが、上手下手や目的・意図の以前に、とにかく誰もが参加していいよ、好きに表現していいよと許容してもらっているような感覚です。

新宿アトリエの内装や装飾には徹頭徹尾の目的や経済合理性はないかもしれません。ですが比賀さんや職人たちが「ちょっと面白そうな作業だね」「面倒だけど普通の現場だとあんまりやらない仕事だよね」と、単なる請負の仕事の領域をちょっとだけ超えて楽しみながら取り組んでいるその空気感は、ithのアトリエとそこでの指輪づくりの空気感の相似形でもあるのです。

プロフェッショナルの中にあるアマチュアの精神

アーツアンドクラフツは、ものづくりやコンサルティングといった事業の性質上、プロフェッショナルであるということを大事にしている会社でありますが、それと同時にその魂の真ん中にアマチュアであることを忘れない会社でもありたいと考えています。

最近はプロであるということが賞賛されがちな時代の風潮もあって、アマチュアという言葉には「ゆるい」とか「低レベル」とか、どこかネガティブな響きがあるように思います。

けれども、アマチュアという言葉の語源がラテン語の「愛する人/amator(アマートル)」にあるように、アマチュアの精神には、その対象に対する「愛」が必要です。

愛があるからこそ、損得や合理性を別として、それそのものを楽しむという豊かな気持ちが生まれるように思うのです。そしてそんな感性が、これからの時代にもっと重宝されるようになるように感じています。

アーツアンドクラフツは、プロフェッショナリズムの真ん中に一筋の豊かなアマチュア精神を宿す、そんなホモ・ファーブル(作る人)たちの集団でありたいと思っています。

吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。